トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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第52話

春。出会いの季節、トレセン学園にも新しい生徒などもやってくる。そしてそれは教員職員やトレーナーも同じなのである。また今年も辞めていく職員もいればやって来るトレーナーもいる。

 

「ヒビキさんおはようございま~す!!」

「はいおはよう」

 

用務員ヒビキは今日もとて自らの仕事に励んでいた。最近ではトレーナーとしての役職に従事している感が出てしまっているが、それでも自分の本業は用務員のは何も変わっていない。というか用務員を辞める事は出来ないという実情である。

 

「ヒビキお兄さんおっは~!!」

「おはよう~でもお兄さんじゃなくていいからね~」

「若い癖に~」

「そんな俺により若い子が何言ってんの~」

 

何の躊躇もなく声を掛けたり、頭を撫でたりするヒビキ。それ位に信頼され切っていると言ってもいい、新入生辺りはまだ慣れないだろうが、それもトレセンで過ごしていく内に慣れていく事だろうと思っている中―――一仕事終えたように立ちあがって身体を伸ばしていると背後から迫ってくる影が見えた。

 

「やぁっ来たかい」

「来たけどよ、普通こういう時は仕事はしないもんだろ」

「甘いね、俺がこの学園の何%の仕事を請け負ってると思ってるんだい?」

「……やっぱり此処ってそんなブラックなのか」

 

やって来たのはスーツに身を包んだ桐矢 京介。今日から彼はこの中央トレセンにて研修生として過ごす事になる、アスムと同じ光を瞳を宿すウマ娘と共に夢を見たいと思ったから。

 

「まあブラックというかね、良くも悪くも本当に此処の仕事はきついから。その分保証やらお給金は良いから安心していいさ」

「それは知ってるけど……アンタはアンタで身体休めてんだろうなぁ」

「ちゃんと休んでるよ。休日出勤要請には確実に出てるだけで」

「それを休んでると言わねぇだろ!!」

 

思わず大声でツッコミを入れてしまうが、これについては京介の方が正しい。確りとした休日もあるが、それ以上に対応しきれないヘルプが起きたら確実に自分にお鉢が回ってくる。しかもそれらはウマ娘のトレーニングスケジュールなどを乱す物なので、トレセンとしては素早い復旧が望まれる。故にヒビキが選出される。

 

「先代にアンタの事を報告しろとか言われてんのに、なんて言えばいいんだよ……」

「そのままでいいんじゃない?先代だって仕事があろうと鬼である限り、鍛錬を怠る事は許されないって言ってたし。仕事がそのまま鍛錬になるなら」

「それならそれで、アンタはアンタで何で更に鍛えてんだよ」

「習慣。後いうじゃない、備えあれば患いなし。鍛えておけば患いなし」

「……もう呆れて、言葉が出ねぇ」

 

そんなこんなで始まったトレセンの案内、アスムの兄としても響鬼の様子を見に来たのだが……矢張り異常としか言いようがない。

 

「おやっヒビキさんじゃないか。珍しいなこんな所で会うとは」

「やっほシンちゃん、そっちこそどったのよ」

「皇帝……!?」

 

廊下で偶然出くわしたルドルフに思わず京介は戸惑う。ウマ娘に関わる者として相応の知識はあるし、彼だってレースは見ている。何なら彼はスズカのファンである位には嗜んでいる。そして無敗の三冠の皇帝、シンボリルドルフが目の前にいると思えば自然と緊張するのも当然。

 

「私は書類の提出をしてきて所さ、ヒビキさんに言われたように最近は休みを確りと取るようにしているよ」

「そりゃ結構。いい仕事の秘訣は徹夜をしない事だからね、後美容にも良くない」

「フフフッ確かに私にとっては重要だな」

「んで何で固まってるん?」

「いやおまっ……!?」

「ああっシンちゃん、こっちはトレーナー研修に来てる桐矢 京介。俺の昔馴染み」

「シンちゃん!?」

 

あの皇帝をちゃん付け、加えてニックネームである。スズカファンではあるが、流石にあの三冠が居たら流石に緊張する。

 

「改めまして初めましてだね。生徒会長のシンボリルドルフだ、と言っても君の反応からして私の事は良く知ってくれているようだがね」

「そ、そりゃ当然……!!寧ろアンタを知らない奴なんてありえないだろ……っつうか響鬼さんなんで皇帝をちゃん付けで呼んでんだよ、如何言う神経してんだ!!」

「そこまで言うかい?だって俺からしたら10個も年下の年頃の乙女ちゃんだよ、それに畏まられるのが慣れてるんだから、こういう時ぐらい年相応に扱ってあげないとシンちゃんだって参っちゃうよ」

 

良くも悪くも顔と名前、そして名声が知られ過ぎているルドルフはトレセンの外に出れば張り込みをしているカメラマンや告げ口要因のバイトによって直ぐに追跡される。そうでなくても大スターなのだから直ぐにサインやらを強請られる、だからこそ、こういった場所位は年頃の女の子扱いしてあげるのが優しさなのだと語ると、ルドルフも微笑みながら頷いた。

 

「素直に言わせて貰うと、ヒビキさんには助かっているんだよ私も。この人の前だと肩が凝らずに済む処か気が頗る楽になる」

「そういうもん、いや確かにそうか……この人の気質はトレセンで役に立つんだな」

「なんか随分と棘があるね」

 

ローカルシリーズで活躍していたアスムも地方ではそれなりに有名だったが、そこまで騒がれるという事は無かった。商店街のアイドルの延長線……といった印象を強く受ける。だがトゥインクルシリーズは文字通り桁が違う、スター女優クラスの扱いを受ける。そのように騒がれるからこそ、何事もなく平然と接してくれるヒビキのような存在は有難いのだろう。

 

「桐矢 京介、これから今日から此処で研修する準トレーナーだ。まあ俺がなんかする事はないだろうが、なんかあったら宜しく」

「此方こそ頼むよトレーナー君。一気に砕けてくれたようで助けるよ」

「響鬼さんのやり取りを見て、素の俺でよさそうと思ったからな」

「素は素でキッツいからある程度は繕いな、君は青酢並にきついから」

「いや青酢ってなんだ、黒じゃなくて青て」

 

ジト目をしながらもツッコミを入れる京介をルドルフは少しばかり愉快そうな目で見た、基本的に包容力があって頼れる大人という印象のあるヒビキのこういう姿を見れるのは個人的に嬉しいと思ったらしい。

 

「んじゃ次行くかい、というかどこを案内すれば良いんだろうね」

「考えろよ案内役」

「えっ~じゃあコースでも見に行くかい、そこにスピカの皆もいるだろうし」

「―――ああそれがいい」

 

そのままヒビキと京介と分かれる事になるのだが……僅かな不安というか疑念のような物を感じた。

 

「何故、彼は今怒りを感じたんだろうか……いや、何に対してだ……?」




雷電 響鬼。

京介の案内役をする事になったおじさん。皇帝をちゃん付け呼びしたら、京介から凄い目で見られた。
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