トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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第53話

桐矢 京介がまず思った事、それはヒビキの慕われ具合の凄さだった。

 

「ヒビキさんどうも~この前はハンモックありがとね~」

「セイちゃん、寝る子は育つけど頭の中も育てた方が良いんじゃない?」

「あ~その辺りはセイちゃんのペースで行きますんで~」

 

少々眠そうにしていた娘には気軽に声を掛けられ、何時でも用務員裏のハンモックを使っていいと返し

 

「おじちゃんこれお土産!!」

「これはっ……鰹!?」

「また高知で走ってきたきに!」

「ああ成程」

 

体操服を着て大きな荷物を背負っていた少女からはお土産としてが荒々しい波から飛び出すような人形を渡され

 

「おっちゃんこの前は紅茶豚有難うな~。今度はウチがうんまいたこ焼き作ったるわ」

「タマちゃんの粉もんは美味いからな~楽しみにさせて貰うよ」

「おう任せとき!!」

 

関西出身と思われるウマ娘とは今度たこ焼きパーティの約束をあっという間に取り付ける。他にも壁を壊してしまった事へのお詫びとして紅茶の葉を持って来る、一緒に筋トレをする約束を取り付ける、新薬の実験体になってくれと言われる―――案内をする間に様々なウマ娘達に接触され、話を持ち掛けれていく。そして特徴的だったのが、彼女らのほぼ全てが笑顔であった事。

 

「こっちでも相変わらず愛想、振りまいてるのか」

「人聞きが悪いな、君みたいに仏頂面が出来ないから真摯に対応しただけだよ」

「大きなお世話だ」

「それはこっちの台詞」

 

容姿が良い上に温和な性格と歳不相応な程に落ち着いた態度故に地元では響鬼は人気が高かった。それは男性も女性も問わず、男性からはあんな風になりたいと思わせるような尊敬を。女性からはその優しさと笑顔から好意を。二重の意味での人誑しとしか言いようがない。

 

「あっおじさ~ん!」

 

案内をしていると背後から走ってくる音がする、普通に走ってくるような音に聞こえる。振り向いてみるとそこにはジャージを身に纏っていたテイオーが此方へと走り込んできていた。

 

「やぁっテイちゃん」

「これからコースに行くの、それなら一緒に行こうよ!!」

「ああいいよ」

「それで、隣の人って誰?」

 

テイオーはヒビキを盾にするかのようにしながら身を隠し、見慣れない男を訝しげに見ていた。

 

「トレーナー研修に来た俺の昔馴染みだよ」

「えっ~おじさんの知り合いなの!?なんか、凄い悪そうだし凄いあれな感じなのに!?」

「悪そうな感じで悪かったなガキ。俺は桐矢 京介って名前がある、よく覚えとけ」

 

その言葉にムッとしたテイオーを見てヒビキはあ~あ……と言いたげな顔をする。

 

「ガキじゃないよ!!僕は無敗の三冠ウマ娘なるトウカイテイオーだ、そっちこそ覚えてよね!!」

「お前が無敗の三冠?皇帝の真似事なら身の程を弁えてからするんだな、皇帝のようになるなんて並大抵の事じゃねぇ」

「僕はカイチョーと約束したんだ、絶対になるって!!その為におじさんに色々鍛えて貰ってるんだから!!」

「―――そうか、じゃあお前が……」

 

その時、京介の眼の色が変わり雰囲気も変わって一気に鋭くなる。それを敏感に察したようにヒビキの後ろへと隠れてしまう。

 

「そう言う所だよ、だから誤解されるんだよ」

「―――……知らんな、先に俺を悪く言ったのはそっちだ」

「君ねぇ……全く変わらないんだから、ごめんねテイちゃん」

「う、ううん……でも僕、なんか苦手」

「先に行っててみんなに伝えて来て貰ってもいいかい?」

 

上手くテイオーをこの場から離すが、テイオーは京介に対して警戒心を抱いてしまったのか、それとも純粋に嫌ったのか僅かに嫌な顔をしながらもそのまま去っていく。それを追いかける京介の眼は何処か鋭く色が違っていた、故にヒビキが軽く殴ってそれを直す。

 

「ってぇ!!?なにすんだよ!!」

「こっちの台詞、それが大人の対応かい。少しは大人になってると思ったけど俺の勘違いだったみたいだわ、なんも変わってない」

 

自分の能力に自信があるが故に態度がでかく口を開けば嫌味を言う、昔っから損な性格ゆえに友人も少なかった。それがある程度解消されていると思ったが、如何やらあまり変わってないらしい。これで本当にトレーナーとしてやっていけるのだろうか……。

 

「トレーナーに必要なのは愛嬌や人付き合いの上手さじゃない、究極的に言えばどう相手を導いてやれるかだろ」

「ビジネスライク的にやっていくってのかい?それでよくもまあアスムと同じ光を持つ子と前に進むなんて目標を語ってくれるよね」

「……煩い、初対面であんな事を言うあのガキにも問題があるだろ」

「そこを上手く許容して上げるのが大人でしょう」

 

まあテイオーにも非はあるだろうがそれでも大人としてはその辺りは上手く対応するべきだろう、まあこの男にそれを要求するのは難易度が高い部類に入ってしまうだろうが……紛いなりにも自分と同じ三十路なのだから努力してほしい。

 

「ハァッ……スピカ連れてって良いのか不安になって来るよ」

「連れてけ、俺はそこに行かなきゃならない」

「……問題起こさないでよ」

 

若干無理だろうなぁという予感と共に歩きだすヒビキ、自分の中に確信的な予感がある。出来る事ならば当たらずにいてくれると有難いのだが……恐らく無理な願いだろうなぁと軽い諦めの境地にいるのであった。そして練習中のスピカの居るコースまで到着すると此方へと沖野が手を振る。

 

「よぉっとっつぁん、そっちがテイオーが言ってたもう一人さんか?」

「ああっそうだよ。こっちはスピカのメイントレーナーの沖野君」

「桐矢、桐矢 京介だ」

「おう宜しく、とっつぁんから聞いてるぜ。幼馴染だってっつう事はあれか、アスムさんとも親しかったりしたのか?」

 

その言葉を聞いた時、京介は思わず―――拳を握りしめていた。




雷電 響鬼。

トレセンを案内している最中、色んなウマ娘達から絡まれるおじさん。学園内のウマ娘達との親愛度の平均は6~7。基本的に何かあったらすぐに頼られる程度にはなつかれている。
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