トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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第54話

「ああ沖君、親しい所じゃねえから。これアスムの兄貴だから」

「―――これ、っておいこれって何だこれって!?」

「えっマジで!?ああこりゃ失礼した」

「別に気にしちゃいない……」

 

そっぽを向く様にする京介に沖野も流石に不味かったかなぁ……と思う、だがその辺りは上手くヒビキが受け止める。

 

「……沖野さん、とか言ったな。此処で研修する事になった桐矢 京介だ、世話になります」

「ああ、此方こそ。なんていうか、気易くて悪かった。とっつぁんの事はあんまり知らないもんでさ、このとっつぁんの奴あんまりにも自分の事語らねぇから」

「いい大人は自分の過去を安売りしないものさ」

 

その言葉でいくらか京介は察する事が出来た、何処までを話しているのかを。本来話すべき物ではないそれは話していない……アスムが大怪我をした位だろうと察する事が出来た。恐らく、以前スズカが怪我をしたという時に話したのだろう。

 

「……ああそうだよ、そのアスムの兄貴だったく……響鬼さん、アンタもいい加減にしろ。お前はあいつ専属だろうがってんだ」

「(おやっ……成程、そう来たか)そういう約束もあるんでねぇ~俺は待つだけだよ」

「おい沖野さん、このおっさん人誑しだからウマ娘の人気も高いだろ」

「まあとっつぁんだから滅茶苦茶高いな、とっつぁんがトレーナー資格あるって話が出回ったら担当してください!!って殺到する位には」

「だと思ったぜったく……」

 

あきれ顔で溜息を吐く京介に響鬼はある種の成長を見て感激した、沖野からの話を聞きつつも自分の怒りを巧みに抑えながらもそれを別の方向性に向けて自分を誘導させようとしている。ある種の外堀埋め、アスムの担当トレーナーだと言う事を広めさせるつもりなのだろう。執着してくれる……とため息が出る。

 

「そもそもこの人はあいつ以外のトレーナーには向かねぇ、何せ誰にもでも外面は良いからな」

「誰にでも外面が悪い君に言われると猶更深いね」

「ハハハッまあ年頃のウマ娘にはとっつぁんの方が好まれるだろうな」

 

ほらね、と冗談めいた目線をやると誰かに好かれたいわけじゃない、とそっぽを向く京介のやり取りに沖野はヒビキの自分の知らない一面を見たような気がした。言葉がというよりも態度が柔らかい気がする、数年の付き合いはある筈だが矢張り昔馴染みという領域には遠く及ばないという事だろう。

 

「ちょっと待っててくれるか、丁度良いから他の連中にも挨拶させよう」

 

そう言いながらコースを走っている皆へと声を掛ける為に歩いて行く沖野を見送りながらも、ヒビキは軽く京介を睨みつける。

 

「早まった行動だけはしないでくれるかな、せめてその拳を俺に向けるのは許すけど」

「俺程度が殴ってもアンタは何ともならんだろ」

「まあね―――手を出そうとしたら俺は君を止めるから」

 

其方がそう出るのならば此方だってそうすると前置きしておく。

 

「……いるって事だな、アンタに復帰させるきっかけを作った奴が」

「ああいるよ、その子に手を出そうとするなら―――潰すよ」

 

一瞬だけ見せた怒りの姿に鬼を垣間見るが、それにも強い違和感を持つ。鬼とは怒りを鎮める為の猛き戦士、猛士の事だ。だが何故それが怒りによって鬼となるのか、矢張り鍛え続けた末の結果なのかと舌打ちをしてしまう―――尚の事、響鬼を此処に居続けさせる訳にはいかない。

 

「桐矢さん、此奴らが俺ととっつぁんで面倒見てるチームスピカだ。テイオーとはもう会ってるんだよな」

「ああ、さっきは悪かったなガキ」

「ムゥッ!!だからガキじゃないってば!!僕はトウカイテイオーだ!!」

「ヘイヘイ分かったよ、ガキっこテイオー」

 

悪かったと言いつつも謝る気が全然ない京介は改めて抗議するが、全く受け入れられないのでヒビキを盾にする戦法に切り替えるのであった。

 

「うえ~んおじさんこの人酷いよ~!!」

「この位軽いジャブみたいなもんだろ……三冠になるって事はお前はバッシングとかも受ける事になるって事だ、だったらこの位軽くいなせるようになってこそだろ」

「ううっ……でも僕は嫌い!!僕を認めさせたいなら認めさせてみろ~!!」

「面倒せえな此奴……」

 

流石に京介も先程のそれは酷過ぎたと思っているが幾分か軟化させる、が、もうテイオーからは根本的に嫌われてしまっている。そんな所にアキラが間に入る。

 

「まあまあ……京さんお久です」

「よぉっアキラ」

「相変わらず口が悪そうで何よりです」

「相変わらずちっこいようで何よりだ」

「何をぉぉおお!!!??」

 

そんな中で一気に表情を軟化させる京介。此方を弄ろうとするアキラに同じく弄り返す、京介は全く反応しないがアキラは凄い勢いで反応して京介に向かって殴り掛かろうとする勢いで向かって行きそうなのをスカーレット、ウオッカの二人が掛かりで抑えつける。

 

「誰の胸が山肌でコケまくって抉れたですってぇぇぇ!!?」

「誰もそんな事言ってないでしょうが!?」

「ええいっボインちゃんなスカーレットちゃんには分かりませんよっというか貴方こそ何なんですかその男が好きになりそうな要素盛りまくりなスタイルと性格!!少しだけでも私に寄こしやがりませよコンチキショオオオオオオ!!!」

「うっさ!?取り敢えず大人しくしてくださいよって!!」

「離してくださいウオッカちゃん!貴方だってこのたわわが先にゴール通過したからこっちが1位だって言われたら腹立つでしょ!?」

「……俺が悪かった!!スカーレットお前が悪だ!!」

「なんで!!?」

 

「おい、スピカってのは何時もこんな調子なのか」

「まあ普段から賑やかなのは認める」

「っというかこれに至っては君のせいだから」

 

京介への怒りが何時の間にか自分を抑えてスカーレットへと向いたアキラと何時の間にかアキラ側へとなったウオッカ。彼女自身はそう言った恨みではなく、単純に腹が立つ的な意味だとは思うが……。

 

「こほん、改めましてメジロマックイーンと申しますわ」

「オッスッウマトラスーパースターのゴルシちゃんだ!!おっちゃんには錨直して貰ったり色々助かってんだよ」

「そうか―――何っ錨?」

「ああそう言えば結局あの錨ってどうしたの?」

 

予想外の言葉が飛び出してきたので一瞬頭がフリーズしてどういうことなのか困惑する中、それを他所にゴルシは錨を用いてのマックイーン収穫を自慢する。マックイーンはマックイーンで思い出したくないのか、あまり聞かないでくれと言ってきたので察してそれ以上聞かない事にした。取り敢えず何か大変な事があったという事だけは理解した。

 

「あ、あのぉ~……スピカは大体、ですけどこんな感じなので」

「……なんというか、随分と濃いチームに」

 

と正気を取り戻した京介は声を掛けて来た少女へと目を向けた、少女は笑顔を見せながら自分の名前を語る。

 

「私、スペシャルウィークです!!ヒビキさんには凄いお世話になってて、ヒビキさんにトレーナーさんになって欲しい位に尊敬してます!!」

「……」

「あ、あのどうかなさいました……?」

 

京介の中に何か生まれてしまった、そして同時に何かを理解してしまったと同時に感じた。彼女の目の中に自分が求めていた光があると言う事と―――彼女が響鬼を再びトレーナーへとした存在という事を直感した。似ているのだ、アスムと。

 

「―――いや、悪いがあの人はお前のトレーナーにはならない。アスムのトレーナーだからな」

「それは分かってます。でも私ヒビキさんの事をなんていうか、尊敬とかじゃなくてなんかお父ちゃんって思っちゃって、だからですかね―――一緒に居たいって気持ちがあって」

 

―――響鬼さんって不思議だよね、なんかもう一人にお父ちゃんみたいで。

 

それを聞いて一瞬頭が沸騰しそうになった、アスムも同じことを言っていた。まるでもう一人の父親のようだと言っていた……それが如何しても被る、だからなのかと思う中で思わず拳を握りしめて何かに耐えた。

 

「そうか」

 

そう、呟くのが精一杯だった。




雷電 響鬼。

スピカの皆に京介を紹介したおじさん。如何にも京介の態度が気になるが、自制してくれているようで少し安心中。
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