トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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第57話

「はい理事長、ご所望のニンジン盛沢山のケーキ」

「おおっ感謝!!待っていたぞヒビキ用務員!!」

 

その日、理事長室へと姿を見せていたヒビキ。目的は当然、理事長への差し入れ。

 

「もう、理事長またヒビキさんに無理を言って……ヒビキさんだって暇どころかお忙しい立場なんですから無理を言っちゃ駄目ですって」

「いいっていいって。良い気晴らしにもなるし、それに心配しなくてもたづなちゃんの分もちゃんとあるよ?」

「まぁっ本当ですか!?ってんもう私が食いしん坊みたいな言い方しないでくださいってば!!」

「ごめんごめん、でも毎回俺のが差し入れ持って行くとき、自分の分あるかな、あるかなって顔してるから」

 

アキラが目指す大人の女性、たづなは何処か少女のように頬を膨らませて抗議するがそんな物なんてヒビキにとっては幼い子供の癇癪も同然。あっさりと受け流しながらもカウンターを叩きこむと赤面しながら言葉を失うのであった。

 

「良きかな良きかな。提案、折角だヒビキ用務員も一緒に食べていくというのは如何だろうか!!此方としては多くの仕事を押し付けてしまっている、故に理事長権限で休息を命ずる!!」

「あれま、そういう言い方されちゃったら従業員の俺は逆らえませんねぇ~たづなちゃんも一緒に食べよう」

「……はい、ヒビキさんが私をどんな目で見てるのか少しわかった気がします」

「可愛くて綺麗な美人ちゃん」

「そういう事をハッキリ言わないでください!!」

 

そんなやり取りをしながらも行われる事になったお茶会。理事長としても少々疲れているので休みを入れたかったらしく、丁度良いタイミングでニンジンケーキがやって来て嬉しい限り。

 

「美味っ!!矢張りヒビキ用務員の作るケーキは絶品!!」

「本当に美味しいです、生地に練り込まれたニンジンとホイップに混ぜられてるニンジンの味が全然喧嘩してませんし、これ味も微妙に変えてます?」

「勿論。同じ味だと飽きるでしょ、生地には甘みが少し弱いけど味が強いのを、クリームには甘みが強いのを使ってる」

「なんと、実に手が込んでいる!!」

 

来客用のソファに腰掛けながらも紅茶をお供にしながらもケーキに舌鼓する理事長とたづな、今回ばかりは何時も理事長の帽子の上に居る猫も降りてきており、ヒビキの膝の上で作って来たチュールを舐めている。

 

「ヒビキ用務員、仕事は如何かな。此方としては有難い限りだが、既に忙しい身である筈なのに新たなに仕事を押し付けてしまったが故に負い目しかない」

「今まではヘルプ待ちの待機時間持て余してたから、俺としては良いかなって思ってますよ」

 

今までだって基本的に用務員としての仕事は直ぐに終わらせてしまって、その後は基本的に待機し続けていた身。鍛錬をするか、偶にご飯を食べに来るウマ娘達の為の仕込みをしておくか、晩酌用のおつまみを用意する位しかなかったのである種充実している。

 

「まあなんというか、声を掛けられる事は増えたねぇ。担当やって下さい!って子が多い、ツインちゃんとか毎回毎回言ってきますし」

「ああツインターボさんですね、何だか挨拶みたいになってますもんね」

「そのつもりなんだと思うよ、なんというかああいう邪気が無いとちょっと気が緩んじゃうだよねぇ~」

 

この前だってテイオーとその同室であるマヤノトップガンに絡まれてヒビキ号遊びをしたりしていた、存外自分は子供の相手の方が得意なのだろうかと思ったが、そりゃ10も年下のウマ娘達を相手にしているのだから当然だろうと思ったりもした。

 

「提案、ヒビキ用務員、サブトレーナーを務めて半年以上は経過しているが如何かね。メイントレーナーとして誰か一人を担当にしてみる気はないかな?」

「あ~……やっぱ来ますよね、そういう話……」

 

紅茶を啜っていた時にやってきた話に思わず困ったような顔をする。復帰する時に分かっていたが、如何にもしっくりこない……というか、素直にどうしたらいいのか分からない。

 

「学園としてはこのままサブトレーナーのままでも構いはしない。だが、トレーナーの数が少ない現状をどうにか解決したいとも思っている」

「やっぱり資格が難しい上に、人格などに問題なしという制約がありますからね……ですけど、ヒビキさんには既に担当が居りますし、ねっ?」

 

何処か悪戯っ子っぽく微笑むたづなに苦笑すると理事長は自分の知らない話をしているのだ?と首を傾げつつも既に担当が居るというのはどういうことかと尋ねる。

 

「初耳、ヒビキトレーナーに既に担当が。誰かな?」

「担当っというのはヒビキさんの元カノさんらしいんです、アシタノユメという方なんですよ」

「ほほう、彼女か!!まさか彼女だったとは……驚愕」

「あれっ理事長ご存じ?」

 

まさか理事長が知っているのは予想外だったのか、素直に聞き返す。

 

「当然。ローカルシリーズで活躍していた彼女の事は良く知っているとも、彼女の走りは酷く頑強で崩す事が難しいと話題にも上がっていた。指導役として中央に招こうとも考えていた」

「あいつを……そうですか、喜びますよ」

 

アスムは自分が思っていた以上に評価されていた、トゥインクルシリーズに出る事は叶わなかったがそれでも懸命に走り続けた彼女の記録は誰かの記憶になっている。そう思うと如何しようもなく嬉しくなってしまった。

 

「しかし、アシタノユメとは驚き……いや、素晴らしい恋人!!話が無ければヒビキトレーナーのパートナーに立候補しようと思っていたのだが、これは入り込めそうにないな」

「ちょっと理事長そんな事考えていたんですか!?」

「無論!!今時、彼ほどにウマ娘達の幸せと笑顔を願い、力を尽くしてくれるような人格者はそうはいない!!」

「ハハッそう言って頂けて嬉しいねぇ」

「どうかね、今からでも」

「理事長!?」

「フフフッ冗談が過ぎますぜやよいちゃん」

 

軽く額を小突くと理事長はたははっと笑いだす、たづなは話を聞いているので少々焦ったがお互いに完全に冗談だと分かり切っていた故のやり取りだとホッと胸をなでおろす。だが目の前で堂々とこんな発言をされたら焦るのは自明の理だろう、そして紅茶を飲み切るとヒビキは膝の猫をやよいの膝の上へと移してやりながら立ち上がる。

 

「さてと、んじゃそろそろ仕事に戻りますわ。ウマ娘達の幸せと笑顔の為に」

「ウムッ!!」

「御馳走様でしたヒビキさん」

「お粗末様」

 

そう言って部屋から出ていくのを確認してからたづなはやよいへと抗議の声を向けるのであった。スズカの一件で過去を話しを聞いているが故に口を出さずにはいられなかったのだろう。

 

「理事長、流石に先程のは冗談でも不味いです。ヒビキさんは元カノって言ってましたけど復縁する気満々なんですから」

「たづなは話を聞いているのかアシタノユメ、アスムの事について」

「はい、以前サイレンススズカさんのお見舞いに行った時に」

「そうか……彼女は幸せ者だな」

「ええ、そうですね」

 

自分にもあんな素敵な人が出来たらいいんですけどね、と笑っているたづなを見つつもそれには同意しながらある事を告げた。

 

「たづな、彼女の推薦があったからこそ私は彼を雇ったのだ」

「えっそうなんですか!?」

「ウムッ。スカウトしに行った時に自分よりも彼の方が優れていると逆に推薦されてな、その時には既に彼女は怪我をしていたのだが……彼の話をするときは酷く明るくなっていた事はよく覚えている。まあ結局用務員としてならっという事になったが」

 

自分の知らなかった話に驚いた、ヒビキがこの中央にやって来たのにそんな経緯があったなんて……。

 

「酷く思い合っているのが良く分かった、その時は酷く恥ずかしがってどんな関係かは語ってくれなかったのだが……まさか恋人関係だったとは……」

「ウフフッお似合いの御二人なんですね」

 

 

―――もう、私の事なんて忘れて……響鬼さん、ごめんなさい。

 

「アスム、俺ってばどうしても忘れないみたいだわ」




雷電 響鬼。

理事長とたづなに定期的にケーキを差し入れているおじさん。ウマ娘として活躍したアスムを知ってくれている事に深い喜びを感じている。

―――実はトレセンにやって来たのはアスムが理事長に推薦したから。
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