トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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第58話

今日も今日とて仕事を行っているヒビキ、ヒビキが入る前までは日によっては施設のメンテナンスの為にグラウンドなどの進入禁止が出されたりしていたらしいが、ヒビキが来てからは基本的にそれが出される事はなくなった。何故ならばヒビキが修繕するから。良くも悪くもヒビキ頼みになってしまいがちになっているので理事長は用務員募集にも力を入れているのだが……充実にはまだ時間が掛かりそうである。

 

「はい、これで終わりっと。練習できるよ~」

 

今日も芝の手入れを手早く済ませておく、最も消耗するのが芝コース。ダートに比べてもその消耗率は圧倒的、それだけウマ娘のレースの主流は芝という事になる。ヒビキとしてはダートのレースも好きなのだが……というか、アスムもダートの方の方に出ていた比率の方が高かった。

 

「悪いわねヒビキ君、緊急で出しちゃって」

「いいのいいの、そういう時の為に用務員がいんだから」

「それで助けられてるのは事実なのよ、だから受け取りなさい」

「ハナちゃんってばシリアスだよねぇ~もっとフランクで良いのに」

 

緊急の修繕要請を出したのはリギルのハナであった。教職員としても勤務する彼女としては出来る限り万全な状態で走らせて調整や向上を図りたいというのがある、勿論無ければ許容は当然するのだが……流石にそれを越えていたので出したらしい。

 

「んっ~……いやぁさすがにちょっと本気出したから肩が凝ったな」

「珍しいわね、貴方がそんな事言うなんて」

「昨日本気出してアキラを追いかけたからねぇ、あいつパルクールで攻めるからちょっと昔を思い出してね」

 

先日の話はトレーナー全員の耳に届いている、ヒビキが期待の新星のライデンアキラがガチ逃げしたのにそれを確保したと。しかも、相手の行動を読むとかじゃなくて純粋な走力で追いついて確保したと聞いた時には流石に誇張させているだろうと思ったのだが……

 

「先日のあれは正しく驚天動地、ヒビキさんの力とは日々の切磋琢磨によって紡がれた力なのだと分かりました。ですが、流石にウマ娘の全力に追いつくというのは驚きましたけど」

「そりゃ鍛えてますからっシュッ」

「いや、その一言で済ませるのは絶対に可笑しいわよ貴方」

 

パルクールなのだから様々な障害を越えながら、故に全速力で常に逃げられた訳ではないと思うが……それでも時速60キロを超えるウマ娘に追いつく時点で常識外れ。ルドルフから事実だと言われた時、思わず手にしていたペンを落してしまう程の衝撃だった。

 

「やっぱりそんだけ凄いんだよ、アタシとタイマンしようぜヒビキさん」

「おいおいこれでもこっちは今少し草臥れてるんだけどねぇ?」

「その位に疲れる奴には思えないけどな」

「いうねぇナリちゃん」

 

リギルのヒシアマゾン、そして三冠ウマ娘の一角でもあるナリタブライアンに軽く煽られる。好戦的というか、強い相手と走る事に対してかなり情熱を燃やす二人としては自分の存在というのは一応それなりに気持ちが昂ると言う事なのだろうか。それはそれで光栄のような気もしなくはないが……。

 

「というかこっちはまだ仕事残ってるんだけどねぇ……」

「アンタなら走った後でも十分終わらせられるだろ」

「ええっ~……んじゃ今度、並走トレーニングに付き合ってあげるって事で如何だい」

「よっしゃそれで手を打ってやるよ」

「最初からそれが目的だったなぁ?」

 

僅かに笑いながらもひらひらと手を振って去っていく二人を見送るが、如何にも嵌められた感がしなくもないが……まあこの位ならばいいだろうと思う隣で溜息をつくハナ。

 

「悪いわね、話を聞いて走ってみたいって聞かないのよ」

「あの二人ならば当然だろう。当然至極、私も走ってみたいがね」

「皇帝のシンちゃんにまでそう言われるなんて俺もまだまだ捨てたもんじゃないね。肩が凝ったなんておじさんムーブしてる場合でもないか……」

 

少々疲れがたまっているような気もしなくもないが、病は気からという言葉もあるのだから気持ちを強く保てばそんな物は消え去っていくのが世の理。実際問題この程度自分にとって疲れには入らない、というか入ってたら鍛錬を毎日やってられない。

 

「あんまり無理はしない事ね、こっちの都合であなたが故障でもしたらトレセンのヘイトが一斉にリギルに向くわ」

「既に向いてるようなもんでしょ。客観的に見てもこのチームの面子可笑しいからね、何この面子ってレベル」

「褒め言葉として受け取って置くよ、それにそんな事を言うならばヒビキさんがリギルを越えるチームを作ってしまえばいいのでは?」

「おっと藪蛇だったかな」

 

ルドルフに言葉におどけつつも反応する彼に対して、ハナも続く。

 

「まあ実際問題、貴方がチームを起こしたら入るって子は多いと思うわよ。ウチからも付いて行くっていう子も出るかもしれないからトレーナーの個人的な意見としてはやめて欲しいって感じかしら」

「そんな子いんの」

「1番人気はブライアン、2番人気はヒシアマゾンと言った所かしら」

「ああ……何だろう、超分かる」

 

その選出には何とも言えない言葉を出すしかない、マジでありそうだから困るという人気予想に溜息しか出ない。

 

「私も誘いをかけて貰ったら千思万考すると思うよヒビキさん。今の内から勧誘してみるかい?」

「おいおいおい勘弁してくれよシンちゃん、ンな事したらハナちゃんに恨まれるってレベルじゃないよ」

「そうね、少なくとも叩き潰そうとはするわね」

「ほら」

 

実際そんな事になる事は無いし、ヒビキもチームを起こすなんて気はさらさらない。だが理事長の悩みでもあるトレーナー不足問題に関わらないというのも少々不義理のような気もしない事もないので何か考えて置かなければならない。

 

「取り敢えず―――並走トレーニングに向けてちょっと本気で鍛え直すかな」

「いや上げるなら分かるけど直すってどういう事」




雷電 響鬼。

アキラを追いかけた一件が思った以上に波紋していて吃驚してるおじさん。現状チームを作る気は皆無。

並走トレーニングに向けて新しいメニューを考案しようとしたら、京介に罵倒されて解せなかった。
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