トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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第6話

あくる日、とあるウマ娘のトレーナーから代理として食事を届けてあげてほしいとお願いを受けた為にお手製のお弁当を持ってそのウマ娘がいるトレセンの実験室へと入った。何故そこにウマ娘がいるのかと事情を知らないものからしたら疑問に思うだろうが、そのウマ娘がそういう子だからとしか言いようがないのである。ノックしてから扉を開けるとむせ返りそうになりほどに充満した薬品の臭いが鼻を衝く。

 

「相変わらずだねぇ……」

 

溜息交じりにヒビキは準備したお弁当を机の上に置くと実験室の大きな窓を掛けて換気を行う、此の位はしてもいいだろうにとは思うがそれすら億劫になる程度には自分のやりたい事に没頭している。らしいといえばらしいが、用務員としては体調が気になる。窓から頬を撫でる風が入ってきたのを感じたのか、実験室の奥でモゾモゾと蠢くものが声を上げた。

 

「やぁっ待っていたよ用務員君」

「お待たせタキちゃん、本当に相変わらずだねぇ君は」

 

この実験室の主といっても差し付けない程に此処に入り浸っているウマ娘、良くも悪くも研究者気質な所がありそれをトレーナーで実践するアグネスタキオン。マッドサイエンティストという評価も間違っていない、というか正解だろう。そのせいで彼女のトレーナーは発光したりしているのだから。そんなタキオンは自信有り気に緑色の液体が入った試験管を取り出してヒビキへと渡す。それを何よこれと言いたげな目で見つめるヒビキに向かってタキオンは言い放つ。

 

「早速だがそれを飲んでくれたまえ」

「はいダバァ~」

「あああああっなんて事をするんだもったいないじゃないかぁ!!!」

 

ほぼノータイムで近くにあったシンクへと中身を無造作にぶちまけた、それを見たタキオンは大慌てでシンクを覗き込むのだが更なる追い打ちとして水道を開けて薬を一気に流してしまう。覗き込みながらああっ~……と膝をついてへこたれてしまったタキオンはヒビキを見ながらポカポカと叩き始める。

 

「酷いじゃないか用務員君!!あれを作るのにどれだけ苦労したのか分かっているのかい!?」

「分からないけどまた変な薬なんでしょ、この前だって疲労回復薬だって言われておじさん喜んで飲んだらなんかアメコミヒーローみたいになったんだけど」

「それはそれでいいじゃないか人類の革新だよ更なる飛躍を君は体験出来たんだからさぁ!!」

「おじさんは普通のままでいいかなぁ……というか君のトレーナーが既に革新だと思うよ、流石にあそこまではなりたくないかな」

 

別名ゲーミングトレーナー、それが彼女のトレーナー。彼女の作る薬の実験やらを引き受けており、モルモット君とも呼ばれている。その結果、七色に輝くようになっており表情を読み取る事が出来なくなっている。が、最近になってバイザー型のサングラスを装着するようになった。タキオン曰くトレーナーの発光は感情やらで微妙な変化が起きるらしく、それを読み取るデバイスを制作したらしい。

 

そのバイザーは発光を読み取って絵文字やら文字を浮かべることが可能らしく、今回も頼まれた時にはバイザーには

オネガイm(_ _)mシマース
という文字が電光掲示板のように流れていた。まあそれ以前は表情がわからなかったので意思を読み取れるという意味ではかなり便利ではあるのだが……それを作るよりも発光しないようにした方が早いのでは……と思ったのはヒビキだけではなかった。

 

「兎も角ハイお弁当、ヒビキスペシャルだよ」

「有難う、トレーナー君のお弁当も大好物だが用務員君のお弁当も大好きだからね。時折食べたくなるんだ」

「そりゃどうも、お弁当頼む位だったら食堂行ったらいいのに。美味しいじゃん」

「行くまでが手間なんだ、そんな時間があるなら実験や研究に使いたいじゃないか、いただきます」

 

そう言いながらお手製のサンドイッチに齧り付いたタキオンはまるでピザのように伸びるチーズを巻き取るように食べながらも笑みを溢している、こんな笑みを見れば普通の年頃の娘なんだけどなぁ……と内心で苦笑いするヒビキは彼女に水筒に入れてきた紅茶を差し出す。

 

「ふむっやはり美味しい……それに私に美味しいを教えてくれたのはトレーナー君と君なんだ、責任ぐらい取ってくれたまえよ……」

「はいはい頼まれれば作りますよ、ほらっ口周りがケチャップ塗れ。ほら拭くからじっとして」

「あんまり子ども扱いしないでくれないかな、ほら拭いてくれ」

「言動と行動が矛盾してるよ」

 

まるで雛鳥に餌をやる親鳥になったような気分だとタキオンに食事を届けるたびにそう思う。まあそこが可愛い所ではあるのだが。そんなヒビキへと再度試験管が見せられた。

 

「そんなおいしいご飯をくれる用務員君へ贈り物だよ、何とても良いものだから」

「一応聞いておくけど何これ」

「惚れ薬……って待って待って捨てるなら返してくれ!!」

 

無造作に再び流しへと突っ込まれそうになる薬を慌てて回収するタキオン、ヒビキも若干呆れながら見つめる。

 

「あのねぇ……如何して惚れ薬なんて渡そうと思うのかな」

「だって用務員君だっていい歳だろう、それなのに色恋沙汰は一切聞かない。ならば食事のお礼においしい思いをさせてあげようと思うのは可笑しくはないと思うけど」

「それならせめてタキちゃんの手料理で美味しい思いさせてよ、というか色恋沙汰を聞かないのは当然でしょ。トレセンの子達に手を出すような人間じゃないからねおじさん」

「本当かなぁ~?」

 

薬を捨てた仕返しと言わんばかりに何やら強気に攻めてくるタキオン、まあ毎回毎回薬を拒否したり捨てたりしていれば意地でも使わせてやる!!という気持ちにもなる……なるのだろうか。だがヒビキから帰ってきたのは驚きの返答だった。

 

「おじさんにだって恋人はいたからね、それでもういいやってなっちゃったかな」

「……えっ」

「いや何よその反応」

 

予想外すぎた答えにタキオンは硬直し、食べかけのサンドイッチを弁当へと落としてしまった。あのヒビキに恋人がいた……という事実に驚きすぎて言葉が出ない。

 

「ここここ恋人がいたのかい!!?あのウマ娘に抱き着かれたり肩車したりしても無反応で不能やらそっち系という噂すらある君に!!?」

「いや歳が10も下な子に手出す訳無いじゃん、何当たり前なこと言ってるの。というかそんな噂あるのか……なんかショック。誠実にウマ娘と接してるだけなのに……」

「どどどどどっどんな人だったんだ!?」

「知りたい?」

 

珍しく悪戯っ子のような笑みを浮かべたヒビキにタキオンは好奇心を刺激されているのか全力で頷いた、トレセンの中でも屈指の人気を誇る男性職員ヒビキ用務員の恋人、それがどんな人物なのか……聞きたいに決まっている!!という顔をする……が

 

「やっぱり教えてあ~げない」

「えっ~!!?なんでなんだい用務員君!!?」

「フフフッ大人って奴は自分の過去をそう簡単には明かさないのさ、聞きたかったら聞き出してごらん。じゃあね」

「ああっ待って!!」

 

と実験室から出ていくヒビキをタキオンは引き留めようとするのだが、それをあっさりと回避しながら立ち去っていく。それを見送りしかなかったタキオンは驚愕に顔を染め上げながらならばやってやると言わんばかりにあることを実行した。

 

後日―――

 

「あっあのヒビキさん!!ヒビキさんがバツイチだっていうのは本当なんですか!!?」

「誰から聞いたのよそれ、バツイチではないよ」

「結論!!ならばこっ恋人がいたというのは本当なのか!!?」

「マジですけど」

 

ヒビキに恋人がいた、もしくはバツイチだったという話がトレセン中に出回ったのであった。女性職員や女性トレーナー、そしてウマ娘達からその真相を確かめる為に詰め寄られる羽目になったのであった。




雷電 響鬼。

アグネスタキオンに時折お弁当を作ったりしている。その最中にまさかの元カノがいるという爆弾発言をし、翌日にはタキオンによってトレセン中に広まってしまった。

本人的には別に隠すつもりはなかったので暴露されても基本的にノーダメージ。寧ろそっち系だと思われないという意味ではプラス。
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