「ほらほらもっと頑張る頑張る~!!特にスペちゃんは宝塚記念が近いんだからもっと頑張る~!!」
「は、はいっ~!!!」
「スズちゃんも今日は少しペースアップしていいからね~」
「はいっ!!」
スピカにとっては何時もの時間、ヒビキによる監修トレーニングの時間がやって来たのだが……如何やら普段とは少しばかり様子が異なっている。彼のメニューがキツいのは何時もの事なのだが……何やらそれらを取り纏めるヒビキ自身に何らかの変化が起きているのか、妙に気合が入っているように見えるのである。
「き、きつぃ~よぉ~……!!」
「ホラホラッテイちゃんも気合入れる~!!無敗の三冠ウマ娘になるならこの位でヘタれたら憧れの会長にがっかりされるぞ~」
「それはやだよぉ~!!でもきついのも本当だよぉ~!!」
「なんか、凄いヒビキさん生き生きしてない?」
「だよな……なんかあったのか?」
休憩中のスカーレットとウオッカは指導しているヒビキの態度の変化に目敏く気付く、何時もの優しさを帯びた笑顔なのは変わらないし言葉も変わらない。だが雰囲気というか何処か明るいような印象を受ける。特に見ている範囲がかなり広く、反対側を走っているスペとスズカの微細の変化にも気づいて口を出せている。
「も、もう無理ぃ~……」
「良し良し、よく頑張ったねテイちゃん。はいご褒美のニンジンはちみー」
「や、やったぁ~……」
何とか走り終わったテイオーは思わず倒れこんだ。下半身強化を目的とした走り込み、しかも普段よりも重い蹄鉄を付けた上で腿を普段よりも高く上げる事を意識しての物。何時もなら楽勝で走り切れるが、ヒビキが例として実演した高さまで脚が上がっていないと直ぐに注意が飛んできて強制的に上げさせられるのである。
「休憩の後はジャンピングスクワットね」
「えっ~あれぇ!?あれすっごい大変なのに!?」
「だからやる価値があるんだよ、シンちゃんだってこれは結構やってるんだよ」
「か、会長も!?じゃ、じゃあやるもん―――もうちょっと休憩してから……」
「だから休憩の後で言ってるじゃない」
やる気を見せた直後にへなへなになって座り込むテイオーの頭を優しく撫でる。そんな所に戻って来たアキラは全身で息しながらの帰還。
「ゼェゼェゼェ……お、おじ様戻りましたぁ……」
「お帰りアキラ、思ってたより遅かったね」
「む、無茶言わないでください……」
そう言いながら倒れこむアキラの背中からゴロンとリュックが地面へと落ちるのだが、それはドスン!!!という大きな音と共に軽く地面に沈み込んでしまった。一体何キロになるのだろうと思えるような重量の物を背負ったまま、ヒビキが良く鍛錬で使っている神社までランニングと参道をジャンプで往復して戻ってくるというメニュー。これも中々にきつく、体力根性おばけのアキラでも根を上げる程。
「おっちゃんアキラが音を上げるってどんだけの重り持たせたんだよ……」
「普通の重りじゃないわよね……」
「そりゃそうだよ、俺が今まで使ってた重りだからね」
よっ、そんな軽い声と共にリュックを持ち上げて危なくないように退かすヒビキだが、アキラの様子からとんでもない重さである事だけは伺えたが怖くて内容を聞く事は出来ない二人であった。
「ほれほれっダイちゃんとウオちゃんもそれ以上休むと毒だよ。君達は並走トレーニングだよ、但し勝ったら特製のドリンク」
「おっいいじゃん!おっちゃんのドリンク美味いもんな!!」
「あれ、でも負けたら?」
「これ」
そう言いながら出されたのは透明なコップに注がれる赤い液体、ニンジンジュースなどよりもかなり鮮やかな色で一瞬美味しそうに見える―――が、流れ込んでいく液体が異常に粘度が高く、餡かけのようにゆっくりと降りていきコップへと溜まっていく様はスライムを連想させる。しかも匂い自体はニンジンの強い旨味のそれなのが質が悪い。思わず二人はそれに引いてしまう。
「な、何よそれぇ!!?」
「匂いは美味そうだけど絶対に飲みたくねぇ!!?」
「ゲェッおじ様それってまさかぁ!!?」
「「知ってるの(か)アキラ!?」」
それを見て悲鳴染みた声を上げて後退ったアキラに思わず声を掛けた、解説はよ!!と言わんばかりにアキラは喜んで解説しよう!!と言いだしそうなものだが、今回ばかりは引き攣った表情のまま語り出した。
「あ、あれは雷電一家に伝わる鬼育成において出される栄養補給飲料、だがしかしその実は不甲斐無い鬼へと対して出され、栄養補給を済ませた後に更に厳しい修行を齎す最悪のお茶……名付けて―――ペナル
「「ペナルティー!?」」
簡単に言えば、駄目な弟子に対して出されるお茶である。そしてそのお茶を飲むのが嫌ならもっと励め、でないとあれを飲ませてもっとキツい修行だぞという警告を齎すと共に一番厳しい罰を意味するお茶。以前、伊吹と蔵王丸はこれを飲まされた上で先代に修行を付けさせられた。
「大丈夫、飲める味だし栄養は満点だから」
「そう言う問題じゃないわよぉぉ!!!??」
「絶対飲みたくねぇぇぇ!!!??」
「それじゃあ並走トレーニングスタート」
「「絶対に嫌だぁぁぁぁ!!!!」」
と降ろされた手に共に駆け出して行く二人を見送りながらヒビキはペナル茶を一気に飲み干した、それにアキラは信じられない……と言いたげな顔をした。
「うそでしょ……おじ様、何でそれ飲めるんですか」
「
「あっそう言えば……という事は普通に美味しい!?」
「試してみる?」
「お断りします」
何処かで見たAAのような変なポーズを取ったまま、距離を取るアキラ。そんなに嫌なのか、鬼になる時にこれには世話になったのだが……味については自分だって大嫌いだが、これは改良品なので大分マシである。
「ヒビキさん、アンタ……何があった」
「何よ、そんなに駄目かい
「いやそれもそうだけどよ……」
其処へやってきた京介はややげんなりした顔のまま物を尋ねて来た、内容は勿論―――響鬼の変わりようだ。ハッキリとわかる程に変化がある、パッと見は分からない、それ程までに外面を整えるのは上手いのが響鬼だが……今の彼は全く違う。雰囲気や纏っている物が和らいでいるように見える。
「張り詰めてた風船みてぇだったのに……何やった」
「別に……強いて言えばそうだね……」
「言えば何だよ」
「ちょっと余裕を持つ事にしたのさ」
余裕を持つ、それは結構な事だがそれだけでこれだけ変貌する物だろうか。唯只管に自分を虐めるという名の鍛錬の渦に居た男が、穏やかな川の中に立ったような変貌を如何やって遂げる。足を踏み外せば、少しでも流れに身体を持っていかれたら文字通りの魔性の存在となってしまう所だったのに……。
「アスムの事を考える事、それに余裕を持ったのさ」
「……俺には意味分からねぇぞ。あいつの事で余裕を持ったら何でそうなる」
「フフフッ誰かを愛して愛された事が無い君には分からない事かもね」
そう言いながら改めて声を出してトレーニングに精を入れるように言う姿を見ながらもグシャグシャと頭を掻く。
「わっけ分かんねぇな……」
「まあ京さんは見た目良いのにモテませんから、言動があれすぎて」
「うるせぇぞツルペタ幼女」
「カッチィィィィィィン!!!野郎ブッ殺してやるぅぅ!!!!」
雷電 響鬼。
なんだか何時もより明るくなったおじさん。因みにペナル茶はスカーレットが飲む事になって悲鳴を上げたという。
罰ゲームだと言われたらこれが真っ先に浮かんだ。私世代は共感してくれるかも。