トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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第70話

仕事を普段通り順調に片づける事が出来たヒビキ、トレーナー業務に入る前に一時の休息を楽しもうとお茶を淹れようとしていた。今までなら直ぐにトレーナー業務に入るか、別の事をして過ごしているのだが……最近は確りと休みを淹れるように心掛けている。こんな風に穏やかな時間の中で過ごすのも悪くはないと最近は少しずつ思えるようになっている辺り、自分は変わってきていると思える。

 

「少しはいい顔する、いやしないかな……」

 

今まで自分の鍛錬のし過ぎを注意してきた京介もこれなら多少はいい顔をするのではないかと思うが、まああの京介だから絶対にしないだろうなという自信がある。

 

「まあいいか」

 

ぶっちゃけ京介が何というか何であまり関係はない、一先ず自分を貫き通そうと思った頃にお湯が沸いた。一先ず火を止めた時に用務員室の扉を規則正しいリズムでノックする音と共に鈴のような清らかで綺麗且つ気品のある声で語り掛けて来た。

 

「あのヒビキさん、御在宅でしょうか?」

「んっこの声……うんいるよ~今開ける」

 

在宅している、というのもおかしな話だが基本的に此処で寝泊まりしているからか家には滅多に帰らない。なので此処が家と言えば家だから間違っていないな、と一人で笑いながらも来てくれた子を出迎える。

 

「こんにちわヒビキさん、突然の御訪問申し訳ございません」

「いやいや気にしなくていいよ、別に知らないって訳じゃないし」

「フフフッそうですわね、ヒビキさんは私にとってはとても頼りになってお優しいおじさまです」

 

美しさと可憐さが見事に同居しながらもそこに気品がある、こう言ってはマックイーンには悪いと思うがこういう所は誰もが認める御令嬢といった姿だろう。メジロアルダン。儚く、優しく、思慮深く、そして高貴な深窓の令嬢。メジロ家とは何かと交流が深いヒビキとしては知り合いのお嬢さんという認識が強い。

 

「折角だから入っていきなよ、丁度お茶を淹れる所だったから」

「はい、それで失礼いたします」

 

丁寧に頭を下げながらも用務員室へと入っていくアルダン、所作の一つ一つが美しく気品がある。矢張りマックイーンよりも遥かに御令嬢という言葉が似合うお嬢様だと言わざるを得ない。

 

「はい、前のお茶会の時にアサマさんから貰った茶葉。お茶うけにこっちのケーキもどうぞ」

「有難う御座います、ヒビキさんの御作りになるお菓子は私共も大好きです。もちろんお婆様もお好きなようで……この前のお茶会はヒビキさんのケーキで行ったのですが、その時にお婆様はとても表情を柔らかくなさってました」

「そりゃ嬉しいね、また作って持って行かないとね」

 

口元を隠しながら静かに笑うアルダンに少しばかりの笑みを浮かべる。そんな笑みを見つめながらもお茶を啜る、矢張り高級な茶葉だけあって味が全く違うなと思いつつもこんな物を貰っていいのだろうかという思いも出て来た。

 

「それでアルちゃんは今回は如何したんだい?」

「はい、お婆様から此方をお預かりしましたのでお届けに参りました」

 

懐から一枚の封筒を取り出して手渡してきた、中を覗いてみるとそこにあったのはお茶会のお誘いだった。

 

「お茶会のお誘いか、態々アルちゃんに渡させなくても電話一本くれたらいいのに」

「このようなお誘いも趣があって宜しいと思いますよ」

「それもそっか、これって御返事書いた方が良い感じ?」

「それこそご自由で宜しいかと」

「んじゃ後日御返事出すよ」

 

アルダンもニコやかに了承する、彼女としてもヒビキが誘いを断るとは一切思っていないのだろう。実際問題として断るつもりはない、ガッツリと参加させて貰う。

 

「行くのはいいんだけど、毎回毎回勧誘受けるのだけがネックなんだよな~……アルちゃんからもアサマさんに何とか言ってくれない?」

「きっと聞き入れて下さないと思いますよ、お婆様はヒビキさんの事を酷く気に入っておりますので。お婆様も受け入れてくださるまで続けると思いますよ」

「おいおいおい俺にトレセン辞めろって事かい?冗談キツいよ」

「フフフッこれは失礼を」

 

アルダンの言葉をやんわりと拒絶しておく、如何にも彼女には強く言えない。好い加減御当主様も諦めてくれればいいのに、というかトレセンの事もあるのでそう簡単にやめるわけにもいかないという切実な事もある。主に理事長が思っている事だが。

 

「アルちゃんは最近足の具合は如何だい」

「はい、最近は調子が良いんです。お時間が合いましたので他の方と一緒に走ったのですが、痛みもなく健康そのものでした」

「そりゃ良かったね」

 

はい、と機嫌良さそうに笑う彼女にひとまず胸を撫で下ろす。アルダンは幼い頃から身体が弱く、特に脚はガラスのように繊細とまで言われるまでにウマ娘としては不利な身体で生を受けた。当人はその事に関して悲観的に思ってはいない、そんな彼女に心打たれたのはヒビキもそうであり、可能な限り支援をする事を決めている。

 

「それではヒビキさん、私はそろそろ失礼させて頂きます。是非お茶会にいらっしゃってください、私も歓迎いたしますので」

「元々断るつもりなんて皆無だから気にしなくていいよアルちゃん、後メニューが欲しかったら何時でも良いな。身体に負担をかけすぎないようにトレーニング手段は幾らでもあるから」

「はいっまたお願いに参ります、それでは」

 

少し膝を曲げながらの礼をして静かに用務員室から出ていくアルダン。残った用務員室でお茶を啜りながら思わずある事を想う。

 

「俺ってもしかして、アスムを思い出すような子に弱いのかな……アルちゃん多分脚の事だろうし、スペちゃんとスズちゃんもそうだし……」

 

そうなのかもしれないと思いつつもお茶を喉の奥へと流し込むと、一先ず貰ってお誘いの返事を書く事を始める事にした。ペンを取るのではなく筆を取り、墨を含ませて返事を書き始めるのであった。

 

「マクちゃん、これアサマさんにこれ渡して貰ってもいいかな。お茶会のお誘い貰ったからこれお返事」

「はい、承りました。しかし、ヒビキさんにお手紙を出すと毎回筆でお書きになりますのは何故ですの?」

「なんか墨と筆で書くとなんか気持ちが引き締まるから」




雷電 響鬼。

メジロ家からのお茶会のお誘いが来たおじさん。お茶会に良く参加するが、その度に勧誘されるので困っている。しかも行く度にじっとりと勧誘が重くなっていく。


育成ウマ娘ガチャチケで回したら、アルダンをお迎え出来ちゃったので……つい、衝動的に。何なんなのパーフェクト清楚お嬢様、完璧すぎない?
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