「アスムと話した……って何言ってんだよアンタ」
「意外と考え付かないんだね、まだこの中央に慣れてない証拠かな?」
宝塚記念当日、相変わらず用務員として忙しそうにしているヒビキは直接応援に行けない事を酷く残念がりながらも今自分に出来る事に集中していた。そんな様子を眺めながら京介にある事を語ると彼は信じられないような物を見る目で此方を見てくる。
「マンハッタンカフェちゃんとマチカネフクキタルちゃんの力を借りたのさ、名前だけなら知ってるでしょ?」
「一応知ってるが……あの不思議系と占い狂いだろ」
「占い狂いってアンタね……仮にもフクちゃんのお陰であいつと話せたんだから悪くいう事は許さんよ。次言ったら全力で顔面ストレートね」
「死ぬわ!!」
半分本気の冗談はさておき……詳しく話す事にする。マチカネフクキタル占いの助言を頼りにしながら全力で瞑想を行って生物としての死に近づいた事でアスムとの対話が可能になった事、その為にマンハッタンカフェが仲介をしてくれた事や直接話す為に態々自分の身体を貸してくれた事も。それらを聞いて行く京介は信じられないと言いたげな表情でそれを聞き続けた。
「嘘だろ……じゃあ、マジでアスムと……」
「ああ、話した。本当に……夢みたいな時間だったよ」
作業の手を一切止める事もなく、話す表情は何処まで晴れやかだった。京介はあの日、アスムが亡くなって以来見る事が絶対にないと思っていた笑みがそこにあった事に愕然としながらも本当に話したんだという事を漸く受け入れる事が出来た。
「―――なんて言ってた」
「幸せだったってさ。俺がくれた幸せ全部が、だから今度は俺が幸せな所を自分に見せてくれだとさ」
「……あいつらしい言葉、だな……」
思わず涙を流した京介、口が悪く態度も悪い彼だがそれでも決して悪い人間ではない。妹は特に大切に思っていたし、支えようと必死になる位にはシスコンだった。だからこそその言葉が紛れもなく妹の言葉だと分かると本当に涙があふれてしまった。
「俺の幸せって奴がまだ正直わかんないけどさ、あいつがそれを望むならそれを探してみるさ。鍛える以外の時間の使い方、考えないとな~」
「アンタに出来んのかよ鍛錬狂い」
「何それ口癖にでもしたの、一先ずそうだな……休日は募集を募って山に行ってお弁当を食べるていうのは?」
「悪くないとは思うけど……手段は」
「そりゃ走りだよ、勿論山も登る」
「却下だバカ野郎!!」
えっ~駄目なの?と言葉を漏らす響鬼に別の意味で頭が痛くなってきた京介、いやまあ確かに数年間ずっと今まで鍛える事ばかりして来た響鬼が突然普通の事をしようとしても難しいのは確かだろう。別の意味で面倒な事になって来たかもしれない……。
「ハァッ……少しは鍛錬から切り離せよ、そこはせめて電車で行くとかロープウェイ使うとかあるだろ」
「え~山って自分の脚で登ってこそ楽しいんじゃん」
「いや否定しねぇけどよ、この脳筋如何したらいいんだよ」
「それ呼ばわりは酷くね?」
流石に脳筋は心外である。別に何事も力で解決しようなんて思っていない、単純に鍛える事がライフワークのような物であるだけである。
「ハァッ……勝手に自分で解決しやがって、俺が何の為に理事長に話通したと思ってやがんだ」
「やっぱり勝手に話してたのか、野暮ったいなぁお前は」
「喧しい。あの時のアンタはその位可笑しかったって事だ自覚しろ、先代だって下手すりゃアンタがアスムの所に行くだけだって言ってた位なんだぞ」
「実際はアスムが俺と一緒に居たんだから驚きだよねぇ」
笑っているがこちらは本気で心配したのに……まあ兎に角、立ち直ったようで安心した。時間こそかかったが、これでアスムも安らかに眠る事が出来るだろう。
「ンでチーム作りに積極的だって聞いたが、あれマジか?」
「割かし本気で取り組もうと思う程度にはね~、好い加減トレーナー連中の疲れた顔をスルーするのも悪い気がしてね」
「アンタ一人入った所で変わらねぇと思うが」
「共有しているのと見て見ぬふりをしている奴とは印象が違うもんさ」
言っている事は分からないでもないが……それでも響鬼がチームのトレーナーを務めるというのは良くも悪くも想像出来ない。それ程までにアスムとの関係は完璧すぎた。それが他のウマ娘を率いる……なんともイメージ出来ない。
「そのチームには是非入らせて貰いたいんだな、これが」
突然聞こえてきた声に顔を上げてみると、そこにはクセッ毛あるの赤髪と紫色の瞳のタレ目が特徴的で人懐っこい笑みを浮かべたウマ娘が此方を見据えていた。それを見て京介はあからさまに顔を歪めながら距離を取る。
「ちょっとちょっとその反応は酷いんじゃない、こんな見目麗しいウマ娘を前にして、ンもう失礼しちゃうわん」
マルゼンスキー辺りが使いそうな胸を強調するようなポーズを取りながらも京介に抗議の言葉を飛ばすウマ娘、彼女はソウルセイヴァー。ベーオウルフのライバルでもあり、負けず劣らずの実力を持ちレース中には冷徹な表情と口調になる―――のだが、平時は酷く楽天家で三枚目な性格なのが玉に瑕。
「ウマ娘は大抵見目麗しいんだよ、お前なんか下の下だ」
「酷いわっ!!あの日、雨の降る日に私の冷え切った身体を優しく自分の体温で温めてくれた貴方は偽りだったのね!!」
「ほほう?」
「人聞きの悪い事言ってんじゃねぇ!!俺のジャケット貸してやっただけじゃねえか!!」
「んもうノリが悪いわね~ヒビキさんだってそう思わなぁ~い?」
とよよよっ……とワザとらしく泣き崩れるフリをしながらも助けを求めてくる。
「何だ、そういう関係だったら面白いって思ったのに……ちょっとは乗りなさいよ」
「なんでだよ、俺はこいつに会う度にからかわれてんだぞ真っ平ご免だ」
「だって面白いんだも~ん」
「このくそ女……!!」
と怒りを露わにしようとするのだが、これを相手にそんな事をしても無駄だと思い留まりながらも深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「俺はもう行くぞ、お前に構ってる暇はない。やらなきゃ行けない事があるんでな」
「では一つ私が激励を込めた応援をば……ごほん、京介さんがんばってねぇん♡」
自分の魅力の引き出し方を知っているのか、角度、笑顔、手の位置、ポーズなどなどを尽くして最高の笑顔と言葉で京介にエールを送る。普通に魅力的且つ元気が出そうなものなのだが……
「気持ち悪い、地獄に落ちろ」
「ひでぇ」
生憎、ぶりっ子大嫌いな京介にそれは通じずに一蹴されてしまい普通に凹むのであった。
雷電 響鬼。
相変わらず普通に忙しい用務員のおじさん。京介にもアスムの事を話し、決着がついた事を告げる。
が、如何やって幸せを探すべきかとそういう意味で迷走中。