トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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第8話

「だって支えてくれるって言ってくれましたし、だからトレーナーさんだって思って……」

「あ~そりゃ悪かったけどね、でも用務員室の鍵持っててそこで調理とか布団迄敷いてあげたんだからそこで気付いてたと思ってたよ」

 

翌日、放課後に再び顔を合わせたスペシャルウィークから是非トレーナーになって欲しいと頭を下げられるヒビキ。如何やら用務員であった事に気付いていなかったらしい。

 

「純粋に親切にしてくれたと思ってたので……というか夜は如何してたんですか?」

「外で寝てたよ」

「それじゃあ私ヒビキさんの寝る場所取っちゃってたんですか!!?」

 

あわわわわっと震える彼女にヒビキは気にしない気にしないと笑いかける。

 

「年頃の娘さんと小さな屋根の下で一緒なんて親御さんが不安になるでしょ、その位の事は考えるよ」

「ううっ~……でも私がちょっと起きた時なんて用務員室にいたじゃないですか」

「ちょっと鍵を取りに入っただけだよ、早朝のトレーニングに必要だったからね」

「あの時って4時だったと思うんですけど……何時起きだったんですかヒビキさん」

 

それから一緒に歩きながら話をするスペシャルウィーク、彼女からしたらトレセンに来てから初めて頼りに出来ると断定できる大人故かどんどんトレセンの感想などを述べていく。北海道との違いやお昼が美味しかったなどなど微笑ましい話ばかりが出てくる。

 

「でも本当に残念……スズカさんのチーム選考に行けばよかったかなぁ……」

「あ~なんかごめんね……俺の方からお願いしてみようか、スズちゃんのチームリギルには顔利くから」

 

学園内のチームでも最強と名高いリギル。そこにスズちゃんこと、サイレンススズカは所属している。自分が原因で選考に行く道を選択しなかったのであれば話を通せば出来ない事はないだろう、だがそれに首を横に振った。

 

「それだと不公平だと思います、お昼の時にウララさんとかエルさんがリギルに入るって言ってましたし……」

 

肩を落としながらも誠実な言葉を口にするスペシャルウィーク、それを聞いてヒビキは益々申し訳なくなってきた。素直に申告しておけばよかったと心から思い、なのでお詫びにはならないかもしれないがある提案をする。

 

「それならさ、俺が走りを見ようか。これでも俺色んな子とトレーニングしてるから自信あるし」

「でもご迷惑に……」

「それにさ―――トレーナーの資格は一応持ってるから」

「えっ―――えええっ~!!!??」

 

その時上げた彼女の驚愕の声は周囲のウマ娘達からしても衝撃的な一言であったらしく、呆然とした顔でそれを見つめていた。

 

 

「さてとっやろうか」

「はっはいっ……あのやっぱりヒビキさんトレーナーさんじゃないんですか!!?」

「違うよ?俺はトレセン学園の用務員のおじさんです」

 

練習場に出て準備運動をしながらもヒビキへと非難のような声をぶつけているスペシャルウィークに対してしれっと用務員のおじさんという事を貫き通そうとしている。

 

「資格は一応取ったんだよ、あったらあったでウマ娘関連の就職で便利だし」

「そ、そういう物なんですか……なんかもっとこう……エリートっていうか、専門的な感じがあったんですけど」

「そ~いうもんなんです」

 

何だか釈然としないが、取り敢えず走りを見て貰える事になった事は嬉しい。勘違いしていた時から見て貰うならこの人が良いと思っていた、それ程までにヒビキには既に多大な信頼を寄せている。

 

「と言っても俺はスペちゃんの事全然知らないんだよな、なんか目標とかある?」

「はいっ私日本一のウマ娘になりたいです!!」

 

日本一とは随分と大きな物を掲げる、それを周囲でヒビキが教えるので興味が引かれたので見に来ていた子達は少々笑いを浮かべたりしている。三冠を掲げると言った目標を持つ子は多いが日本一という事を言うのは少ない。漠然としたものだからだろうか、それとも無謀な挑戦だと思っているからだろうか。気持ちは分からなくもない、がっ―――ヒビキは笑う。

 

「いいねぇっ日本一、夢はでっかく日ノ本一。うんうんっ夢はでっかい方が遣り甲斐あるもんな、それじゃあその第一歩としてまず一周走って貰ってもいいかな。流石にそれを見ないと俺も何とも言えないから」

「っ分かりましたぁ!!」

 

とヒビキの反応を見て益々目を輝かせるスペ、張り切ってやるぞ~!!と腕を振り上げながらコースへと入っていく。丁度まだ誰も走っていない、都合がいい。そして合図とともに走り出していく彼女を見つめるヒビキへと一人の影が近寄って声をかける。

 

「よっヒビキのとっつぁん」

「同年代なんだからとっつぁんはやめてくれないかな沖君」

「そっちこそ君付けやめてくれよ、お互い様だ」

 

やって来たのはトレセンのトレーナーである沖野。彼はチームスピカを率いる立場にあるトレーナー、そのチームにはヒビキ的には仲良しなゴールドシップやダイワスカーレットが名を連ねている。

 

「聞いたぜ実はトレーナーだったなんてな、何で言わないだよ水臭いな」

「別にいいかなぁ~って思っててさ、用務員で十分だよ俺は」

「そうかい、にしてもアンタが見てるのがスペシャルウィークとはな……」

「あらっ知ってるの?」

 

話を聞いてみると先日サイレンススズカが出たレースを観戦していた時に知り合ったと言っているのだが……沖野が言う知り合ったは余り信用ならない。何故ならば……この沖野トレーナーにはある種の悪癖がある。

 

「どうせまた勝手に腿触ったんでしょ。好い加減にしないと通報されるよ、というか今此処で俺がしても良いんだよ」

「やめてくれ、もうスペシャルウィークに蹴られてるんだ」

「それ位されて当然、理事長にチクって厳重注意でもされるかい?」

「善処する」

 

溜息混じりに改めてストップウォッチに目を落としながら走りを見るが、かなりいいタイムが出ている。スタートがもたついていた筈だがそれでこのタイム……中々の逸材だと思う。それは沖野も同意なのかその瞳は鋭い、こんな変質者だが観察眼などはかなり優れている。

 

「いや本当に良いな……うちに来てくれねぇかな、とっつぁんも一緒に如何よ。ゴルシも喜ぶぜ」

「まあスペちゃんの道をリギル入りを潰しちゃった責任もあるからねぇ……」

「なんだあいつリギルの申し込みしなかったのか?」

「俺がトレーナーだと思ってしなかったんだって、スズちゃんと一緒のチームに入りたかっただろうに……」

「スズカなら今はスピカに居るぞ」

「えっ何スズちゃんスピカに移籍したの?」

 

あのスズカが最強のリギルからスピカに移籍した、初耳だったので思わず聞き返してしまった。それを聞いてある事を考えながらゴールしたスペのタイムを沖野と共に見て、沖野は益々口角を持ち上げた。

 

「ヒビキさん如何でしたか!?」

「いやはや、これは中々に磨けば光るタイプだなスペちゃん。普通に凄いよ」

「えへへっ~有難う御座いますってあれ隣の人は……」

「よっ昨日振り」

 

と挨拶をする沖野に対してスペは思い出そうとする、眉間にしわを寄せながら考え込む。そして―――

 

「ああ~昨日の痴漢の人!!」

「ああいや違う違う違う勘違いだってば、トレーナーって言ってくれよ!!」

「何が勘違いよ常習犯じゃん……」




雷電 響鬼。

実はトレーナーの資格は資格で持ってて夜は寝袋で寝てキャンプ気分だったおじさん。尚、トレーナーをやる気はない。スペシャルウィークに対しては負い目もあるので出来る限りの支援をするつもりでいる。

後、同年代の沖野にとっつぁん呼びされている。不服というよりも疑問が強い。
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