本の召喚士(僕のヒーローアカデミア×超多重クロスオーバー) 作:アママサ二次創作
合格通知から10日ほど。教科書の用意やコスチュームの申請など必要な時間を最低限に短くしたことで、短期間での顕の編入は可能となった。本来であれば夏休み終了後、二学期初めからの編入が望ましいのだが、そこは雄英のヒーロー科である。学校で学ぶ時間は一日でも多いほうが良いし、時間が空けばそれだけついていけなくなる。だから、最短での編入が指示されたのだ。
雄英までは最寄りの駅から電車で40分ほど。教科書類や体操服などは学校で手渡されることになっているので、持っていく荷物は数冊のノートと筆記用具、それに常に携帯しているメモ帳や小説などだけである。
「あ、あら兄行ってらっしゃい!」
「あんたもそろそろご飯食べないと遅刻するわよ」
「うわやばっ! あら兄、帰ったらどんなだったか感想聞かせてね!」
顕が玄関で靴を履いていると、後ろから光のそんな声が聞こえてくる。顕が振り返って答えようとする頃には母に急かされてリビングへと走っていってしまった。聞く相手のいない玄関で、顕はポツリと言葉を漏らす。
「……いって、きます」
自分を見送る者がいる。そんな生活は、半年前までは想像もしなかったのだ。だが、今は存在する。そして更に。雄英という新しい環境もある。ヒーローを目指す場所。その場所への一歩を、顕は踏み出した。
******
雄英に到着後、顕は職員室を訪れる。まだ始業には早い時間であるが、各授業を担当してくれる教師との顔合わせということで始業前に時間を作ってもらうことになっていた。最初に既に数度電話越しに話したことのある相澤を探す。まだ教師相澤と顔をあわせたことはなかったが、編入試験の際の担当職員の声と電話の声が一致していたので、黒くて細長い方という認識はあった。
だが。職員室内を見渡してもその真っ黒な姿は見当たらない。代わりに雅人と親しげに話していた大柄な方の職員の姿は見つかった。
「すいません」
「ん、ああ本道か。今日から編入だったな。ようこそ雄英へ。それで、何か用か? お前はA組だぞ?」
「相澤先生はどこにいますか?」
「ん、相澤か? あいつなら―――」
そう言って立ち上がったブラドキングは、室内のある方向を向いた後ため息を吐く。
「ついてこい」
そのまま歩いていくブラドキングに顕がついていくと、トサカのような金髪の教師の隣の、黄色の芋虫のような塊の前で足を止める。
「YEAHHHH! そいつが編入生か!?」
「ああ。それとマイク。あまり大声を出すな」
「んじゃあイレイザーに用事ってことだな!」
そう言ったマイクは、更にすぅっと息を吸い込んだ。それを見たブラドキングが耳を塞ぐので、何が起きるのか理解した顕も耳を塞ぐ。
直後。手を貫くような声量でプレゼントマイクが隣の芋虫に顔を近づけて叫んだ。
『イレイザァァァッ!! 編入生が来たぜ!!』
その大声に、もぞもぞと芋虫が動いた後プレゼントマイクの方へと振り返る。
「うるさいぞマイク」
「なんだよお前の新しいリスナーだぜ? 寝袋で出迎えちゃだめだろ」
マイクの言葉に、ブラドキングと顕の方を振り向いた相澤は、寝袋から身体を引き抜いて立ち上がる。
「早かったな」
「……はい」
そこでイレイザーは、マイクの肩をぽんと叩く。
「マイク、全員注目」
『YEAHHH! 全員ちゅうもーく!!』
プレゼントマイクの大声に、職員室内にいた全ての教師と、ついでに数名の生徒が顕達の方に注目する。
「こいつが編入生の本道顕です。今日から1-Aに加わるので各自把握しておいてください。以上」
なんとも短い、というか。合理的といえば合理的な紹介である。後は顕と教師連中が勝手にすればいいし、教師や顕の側にそのつもりが無ければ必要ではない。相澤の役目はそれで終わりなのだ。
「それだけかよ!?」
「教師と生徒の自己紹介なんて他の生徒もしてないだろ。本道、朝のHRには俺が連れて行く。それまでは職員室か、隣の応接室を使え」
相澤の指示に、顕はコクリと頷いて返す。それを見咎めた相澤は、1つ目の教師としての指導をした。
「返答は音を出せる状況なら音にして返せ。相手に視覚で確認する手間を取らせるな。何よりその小さい首の動きでは伝達が不正確になる」
「……了解」
初めから仲良くするつもりはないと言いたげな相澤の指導に顕も短く返す。顕にとっては特に厳しい言い方とも感じなかったのだが、周りで見ていたプレゼントマイクやブラドキング、ミッドナイトにとっては違ったようだ。
「ちょっとイレイザー、もう少し優しくしなさいよ。はじめまして本道君。私はミッドナイト。ヒーロー美術史を担当しているわ」
「俺はプレゼントマイク! 英語の授業をやってるぜ! 楽しみにしとけよリスナー!」
「なら俺も。B組の担任をしているブラドキングだ。体育を担当している」
その3人の言葉に、顕は最低限の言葉で返す。
「よろしくおねがいします」
一応会話するつもりでこの場に来ているので答えることはするのだが、そもそも初対面の相手と話すという行為自体が得意ではない。結果としてこんな短い答えになっているのだ。
顕の編入がこんな時期になった理由については懸案事項ということで教師陣に周知されているため、その容姿含めて特に誰も突っ込むこと無く、時間が来るまで無口な顕に手の空いた教師がちょっとした話を振っては短い返答を受けていた。ちなみに相澤はまた芋虫になっていた。
******
朝のHR中。教室の外で待っておくようにと言われていた顕は、フードを被って教室の外でぼうっと待機していた。先程職員室に行ったときには会話をするつもりがあったのでフードを外していたが、今はそのつもりはない。ただ授業中はフードを被ってはならないと指導を受けていたので、教室に入るときには脱いでおいたほうが良いのだろう。
そんなことを考えていると、教室の扉越しに『入ってこい』という相澤の声が響く。それに反応した顕は、フードを取って教室へと入った。
「編入生だ。特別な事情でこの時期になった。本道、自己紹介」
「……
ペコリと顕が頭を下げると、クラス内からまばらに拍手が起こる。
「本道の席は八百万の後ろだ。八百万起立」
「はい」
八百万、と呼ばれた女子生徒が立ち上がったので、その後ろが自分の席だと指示された顕はそこに向かい、席に座った。途中フードのない顔に視線が集中しているのがわかったが、自分から反応することも出来ず黙って席につく。
正直言って、こういう伺うような視線にはよくなれていた。小中とずっと晒されてきた視線だ。
「飯田と八百万。慣れるまで移動教室や演習の際は面倒を見てやれ。HRは以上」
「わかりました」
「はい! よろしく頼む! 本道君!」
1つ前の席の八百万が振り返ってペコリと頭を下げ、教室の反対側にいる飯田が手を上げて大きな声で挨拶してくる。大きな声で自分も返事を返すという選択肢は顕にはないので、目の前の八百万にだけ頭を下げておいて、雅人に用意してもらった小さなパネルを机の上に立てておいた。
そこには、『人と会話するのも仲良くなるのも苦手です。反応が薄かったり会話が途切れても不快に思わないでください』、と、顕の対人コミュニケーション能力を端的に示した文章が書かれていた。
顕はそんなものはいらないと言ったのだが、雅人が一応持っていっとけと渡してきたのだ。そもそも顕は、話す必要が無い、あるいは仲良くする必要がないと判断した相手には、よほどの場合を除いて会話を続けることもないし、そもそも返事すらしない。双子やその両親、雅人と話せるのは、家族になるということを強調され、仲良くしようと相手から伝えてきたのを理解できたからであって、それ以外の場合ではコミュニケーションを取る気がそもそも薄いのである。もちろん学校の友人という概念は理解しているのだが、それに対する慣れは一切ない。そのため、顕が慣れていくのにも時間がかかるのである。
ともあれ。こうして、本道顕の雄英生徒としての生活は始まった。