本の召喚士(僕のヒーローアカデミア×超多重クロスオーバー) 作:アママサ二次創作
夕食後の休憩を挟んで午後8時前。屋上へと上がった顕は、個性を使うためにいつも携帯している大型のメモ帳を開く。そこには細かい文字でびっしりと、様々な物語の登場人物、様々な物語のキャラクターに関する情報が書き記されている。そのうちの1ページを開き、顕は目を閉じる。
直後。ページに書かれた文字が浮き上がるように紙から剥がれ、光を放ちながら空中で集まっていく。そして少しの後、その文字の塊が消滅し、代わりにそこには一人の男が立っていた。
「今日もよろしく。カカシ先生」
「んー、良いよ。どうせこの世界じゃ俺に出来ることなんてないしね」
メモ帳をしまって挨拶する顕にそう軽く返すのは、顕が個性によって呼び出した教官とも呼べる相手である。
「あ、それと今日は力ともうひとり――」
「光、でしょ。見てるよちゃんと」
「初心者だからお手柔らかに」
「はいはい。ほんとはそんなの俺が面倒みることは無いんだけどね」
はたけカカシ。コピー忍者のカカシ、あるいは写輪眼のカカシなどとも呼ばれる上忍。彼が存在していた作品においては、上級の忍者として主人公たちを導き、最初から最後まで重要な役割を果たした者。彼の描かれた物語の世界は忍者という存在が当たり前のように存在し争いあっていたうえに、その中を鍛えた技術で勝ち抜いてきただけに戦う技術に関しては相当に習熟しており、また教官としての経験もそれなりにあるので顕は力が来るようになってからよく彼を召喚して鍛錬を手伝ってもらっているのである。
「そ・れ・よ・り。そろそろまた本を読ませてくれても良いんじゃない?」
「わかった。じゃあ明後日か……とにかく編入試験が終わった後で」
「ま、いつでもいーんだけどね。さ、それじゃ始めよっか」
鍛錬などキャラクター達の力を借りるにあたり、彼らからの要望が答えられるものである場合には顕はこたえることにしている。カカシはもともと読書が好きらしく、特に、その、純愛系の官能小説のようなものが好きなのだ。顕の年齢だけに自由に入手するのは難しいのだが、古本屋などでは簡単に入手できるので時々それを鍛錬以外の時間に召喚したカカシが読める時間を作っているのである。
力と光が来ていないが、鍛錬を始めることにしたカカシと顕は組手を始める。組手、とは言うが、実際には本気の試合である。カカシの実力が顕と比べて圧倒的に高いので殺す恐れが無いので顕は本気を出し、カカシはそれを圧倒できる程度の力で加減して相手をしてくれているのだ。
顕の鍛錬は8歳の頃から始まった。強くなりたい、と。そう考えていた顕に当時呼び出していたキャラクターが手ほどきを教え。そこから様々なキャラクター達を呼び出しては顕は彼らから教えを受けつつ己を鍛えていた。
教えを受ける、といっても、キャラクター達はそれぞれ生きてきた世界が違う。故に戦闘技術の水準も方向性も全く違っている。例えば剣を使って正面から斬り結ぶ者もいれば、魔法で遠くから打ち合う者も、カカシの本来の戦い方のように体術と特殊な術を織り交ぜて戦う者もいる。そのそれぞれが顕に出来る形で教えているので、顕の持っている技術はごちゃごちゃに入り交ざっているのである。
それでも。7年ほどの鍛錬でも顕がカカシの足元に及ぶことはまったくない。そもそも彼の世界で忍となるものは、この世界の人間と比べて特殊なエネルギーと素の能力によってありえないような身体能力を発揮する。それに対して様々な技術を吸収していても顕自身はただの人間に過ぎず、経験どころか肉体のスペックでカカシには圧倒される。
その上カカシの本来の戦い方は多用な術、彼らの世界で言うところの忍術を使ってのトリッキーなものであり正面からの殴り合いなどではないのだ。
それでも、カカシは顕に合わせて正面からやりあってくれるのである。顕からすれば、感謝しかない。
幾度か地面に叩きつけられながらカカシの指導を受けていると、やがて力と光が屋上に上がってきた。
「あ、もう始めてる」
「ゔ、痛そう。あら兄大丈夫?」
何度も何度も、顕自身に自分を治療する手段があるのですっ転がされている顕を見て、慣れた力は何も言わないが初めて見る光は見ているだけで痛いと言いたげに顔を顰めている。
2人に構わず顕は何度も転がされては一つ一つの動きをカカシと確認し、鍛錬を続けていた。その姿を見ている2人の肩に、ぽん、と手がのせられる。振り返ると、顕と戦っているはずのカカシがニコリと笑って立っていた。
「じゃ、2人はこっちでやろうね」
「うわっ、びっくりした」
「こんばんはカカシさん」
「はいこんばんは」
力が挨拶すると、カカシは2人から少し距離を取る。
「え、っと、誰ですか?」
「……ま、そういう話は後で顕にでも聞いてよ。時間がもったいないからさ」
「は、はあ」
初対面である光の質問をさらっと流してカカシ、の影分身は力と光に向き合う。カカシが顕と力2人の教官としてよく選ばれていたのは、この影分身という術が使えるからでもある。文字通り分身をする忍術なのだが、通常の忍術と違って本体と同じ思考や身体を再現できる影分身によって、カカシは同時に複数人存在することが出来るのだ。
「さてと。光も個性は力と一緒かな?」
「あ、はい。そうですけど」
「それじゃあ一回これを見てみよっか。動かないで良いからな。これ、幻だから」
そう言ったカカシは、2人を幻術にかける。
見せるのは、自分が戦っている姿。と言っても血みどろの殺し合いではない。ただ、自分が今そこで顕と戦っている本体とは違って身体のスペックやチャクラによる強化を十全に使って戦った状態である。
力と光の個性は、顕のそれとは違って身体能力を強化することが出来る。そんな2人であれば、自分の本来の動きを目標とすることで体術の高みに登ることが出来るとカカシは考えているのだ。実際力は短い期間だが、既にその片鱗を見せ始めている。
一方の顕は、カカシから指摘を受けながらも、自分が既に持っている技術と、新しくカカシに見せられた動きを組み合わせて組み立てていく。顕はけして、戦いに関して天才などではない。むしろ、非常に才が薄いほうだと自分では思っている。
例えば、目の前のカカシなどは5歳の時点で既に忍びとしての任務に付き、6歳で昇格している。他にも、戦いを得意とするほとんどのキャラクター達というのは、短い期間で成長したり、若いうちからその実力を発揮している。それに対して顕は、無数の師を持ちそれなりの時間を鍛錬に費やしながらも、今もまだカカシに遥か及ばぬ実力でくすぶっているのだ。
実際は、カカシの生きた世界とこの世界では人間そのもののスペックが違うので顕が才が無い、と一概に言えるものではないのだが、想像力の豊かな顕は様々なキャラクター達と比較することで自分を過小評価する傾向にあった。だからこそ努力を積み重ねられるというのもあるのだが。
そんな思い込みもあって、顕は努力を怠らない。ただ、彼らの隣に並びたいから。
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一時間半ほどの訓練を終えると、やがて時間がやってくる。時間切れだ。顕の個性で呼び出したキャラクター達には、制限時間が存在する。それは代償としたものに合わせて変化するのだが、鍛錬は時間的に一時間半で終わるように調整しているのである。
「ま、良いんじゃない。明日からは俺じゃない方が良いかもね。そろそろ偏り始めてるから」
「わかった。ありがとうカカシ先生」
制限時間がやってきたカカシの身体は、昼間の空と白同様に淡い光を放ちながら薄れていく。
同時に、力と光の面倒を見ていた影分身の方のカカシも消え始める。
「あ、消えるの?」
「うん。あら兄が呼んだ人たちには制限時間があるから。でもまた呼べばまた会える」
「そうなんだ……」
「ま、次は俺じゃないだろうけどね。ちゃんと自分でも修行しなさいよ」
そう言葉を残した影分身も、本体と同時に光に溶けて消えた。顕が呼び出したキャラクター達は、本来の彼らとは別に記憶を保存しているらしく昔呼び出されたことなどもちゃんと覚えている。だから次あったときにはまた普通に話すことが出来る。
が。それは初めて見る光には少々ショッキングな光景であった。直前まで話していた相手が、消えてしまうのである。
「なんか、怖くない? 消えるの」
「また会えるってわかってるから怖くない。なんか、家に帰る感じらしんだよ」
「家に帰る?」
「そうそう。あら兄がそこから呼び出して一緒に話したり遊んだりして、時間が来たら家に帰ってく、っていう感じ」
そう言いながら力が顕に目を向けるので、光もそれに従って目を向ける。視線の先では、再びメモ帳を開いた顕が今度は淡い緑色の光の塊を呼び出していた。自分の傷を治療させるための、自作の精霊である。
顕の個性では、確かにキャラクター達を呼び出しその力を借りることが出来る。だが、キャラクター達は全体的に顕に協力的とはいえ、人格は存在する。だけでなく、顕は彼らが大好きである。
だから、そんな彼らを些細なことで呼び出して能力だけ使って帰らせる、という行為を顕は好まない。そこで、自分で能力を使うだけの精霊のような存在を作ることにしたのだ。
顕が今呼び出したのは、そんな存在のうち一体。傷を癒やす力を持った精霊である。
顕の個性は、『文字を媒体に架空の存在を呼び出す』というものである。それは言い換えれば、自分の手で文字として書いてしまえば、例え即興で作った存在だろうが存在させることが出来るのである。