本の召喚士(僕のヒーローアカデミア×超多重クロスオーバー) 作:アママサ二次創作
編入試験当日。朝早くに起き出した顕は、改めて荷物の中身を確認する。筆記用具と受験票、それに暇つぶし用の本と、大小それぞれのメモ帳。それらをまとめ、中学生の頃の学生服とその中に着るパーカーなどを用意しておく。
1階に降りると、既に母が朝食を用意してくれていた。
「あら、おはよう顕。随分早いわね」
「ん。母さんも」
「雅人が朝食はこっちで食べたいって言ってるから。そろそろ来るはずだと思うんだけど」
母の言葉に重ねるようにチャイムがなる。料理から手が離せない母の代わりに顕が応対に出ると、今まさに話題に上がっていた叔父の雅人であった。
「おう、おはよう顕」
「ん」
短く答えた顕は、身振りで雅人を家へと招く。
「顕ー誰だった?」
「おはよう姉さん」
「あら、雅人だったのね。座ってて、もうちょっとで出来るから」
口数の少ない顕を間に挟むことも無いだろうと姉弟が言葉を交わしているのを尻目に、洗面所で顔を洗ってきた顕は皿を用意しておく。母が作っている料理が2人分であるのは見てわかったので、自分と雅人の分の皿だけだ。
「顕、ちゃんと準備はしてるか?」
「ん」
「そか。まあお前の個性で落ちることも無いだろうけどな。お前はその上で自分を鍛えてるみたいだし」
雅人、ヒーロー『アンペア』とも半年ほどの交流で顕はそれなりに仲良くなっていた。どちらかと言えば一方的にアンペアが気遣ってくれているのだが、気遣ってくれる相手を積極的に排除するほど顕も対人が苦手なわけではない。
「あ、でもあれだぞ。いくらいろんな考えを知ってるからって、あんまり喧嘩売るようなことはするなよ」
「……自分の考えは、説明する」
顕の考えを雑談の中である程度知り、それを出しすぎないようにと言う雅人に対して、珍しく饒舌に顕はそれを否定する。
「それでも良いが、ちゃんとヒーローになってヒーローとしての活動をちゃんとする気はあるっていうのは説明しろよ?」
「ん」
お前そういうとこ心配だわ、と雅人は漏らす。
顕がヒーローになろうとしているのは、何も本気でヒーローとして人を救いたいと考えているからではない。もちろん不幸になる人間が少なければ良いなとは考えている。だがその対象は、今のヒーローが守っているような無力な一般人ではない。
ただ、どんな形にしろ世界を変える事において最も都合の良い立場というのがヒーローだからヒーローになろうとしているのだ。雄英を通う高校として選んだのも、雅人の進めもあるが最高峰の場所に立つことで見えるもの、あるいは出来るつながりなどが利用できると考えてのことだ。
それは雅人にも伝えているし、顕の事情を知っている雅人も困難なことであるとは考えながらも積極的に否定はしていない。ただそれをド正直にヒーロー科の面接で話そうとするのが顕らしいと言えば顕らしいがやめたほうが良いのではないかと考えていた。結局、ヒーローになろうなんて人間も100%善意、ヒーローへの憧れでなろうとしているものは少数だ。殆どは、仕事としてのヒーローだったりのメリット・デメリットを考えてヒーローになることを選んでいる。顕もそんな形で、取り敢えず建前でヒーローになってからその立場を使えば良い。そう雅人は考えていた。
もちろん、ヒーローと言う職業の精神的肉体的な辛さや危険さなんてのは、15年はヒーローをやっているアンペアにもよくわかっている。だが、その点顕の個性であれば顕が油断さえしなければ死の可能性は限りなく低い。だからあまりそこは気にしていないのだ。
「顕、お皿取って」
「ん」
「あ、準備してくれてたのね。ありがとう」
用意していた皿を母に渡すと、そこに簡単な炒めものと目玉焼き、サラダなどをのせていく。その間に顕がご飯をよそって、2人分の料理を卓上に並べた。
「いただきます」
雅人と2人で揃って手を合わせ、朝食を食べ始める。
雅人がこうして神代家に食事をたかりに、もとい食べにくるのは割とあることだ。雅人と顕の義理の父の仲はかなり良好で、むしろ趣味などの話になると母をおいて2人で盛り上がっていたりすることもあるぐらいだ。そんな関係性の影響か、力と光も雅人にはよくなついている。2人のなりたい職業であるヒーローをやっているというのも大きいだろう。
そして、雅人は現在独身であり、ヒーローは仕事が忙しく自分で食事を作ったりする余裕はほとんどない。そのため、雅人がその分の食費をきっちり払うことで食事を神代家と一緒にするというのはよくあることなのだ。
「そだ。今日は試験の後良かったら授業見学してかないかって言われてるんだけど、どうする?」
「んー……」
「俺もせっかく来るなら特別講師をやってくれってことで頼まれてるからすぐには帰れないし。先に帰っとくならそれでも良いけど」
「見る」
「オーケー。じゃあそういうことで返事しておくぞ」
雄英高校の教師は、有力なヒーロー科を持っているということもあってその全員がプロのヒーローである。そしてそれだけでは教えることの出来る技術が偏ってしまうということで、外部から講師を招くこともかなりある。今回はちょうど付添人として雄英を訪れるということで雅人もそれを頼まれていた。ちょうど雅人の個性、電気を扱う個性に似た個性を持つ生徒がいるということで、是非にと頼まれたのだ。
朝食をささっと食べ終え、顕は一度部屋に戻って中学生時代の制服に着替える。上着の下には白いパーカーを着込み、そのフードだけを首の後ろに垂らす。フード付きの服装を好むのは顕の趣味だ。フードを被ることで外界から切り離され、自分の世界に閉じこもる感覚が好きなので多用しているのである。
「行くぞー」
下から聞こえる雅人の声に呼ばれて、荷物を詰めたリュックを背負った顕は部屋を出る。そこで、ちょうど目が覚めたのか光が部屋から出てくるのと出くわした。
「あ、あら兄おはよ。もう行くの?」
「ん」
「そか。雄英ちょっと遠いもんね」
「雅人の仕事」
「ああ、そういうこと」
編入試験自体は午前9時から始まるので、雄英まで一時間かかる事を考えても余裕はあるのだが、その前に雅人が事務所に寄る用事があるので早くに出発することになったのである。雅人の雄英での仕事自体は昼食後の時間なのだが、十中八九早く着きすぎるのでその場合には雄英の施設を見学させてもらえることになっている。
「じゃ、頑張ってきてねあら兄。来年は先輩になってもらうからな」
「ん」
昨晩のカカシとの鍛錬を経験して、光の中では確かに雄英に行くという目標が立ったようだった。負けず嫌いな光のことだ。おそらくカカシに幻を見せられ、それが自分には出来ない、というのが嫌だったのだろう。
「力ー! あら兄出発するよー!」
「んぅ……後いち……じか、ん……」
「起きないや。行ってらっしゃいあら兄」
「……行ってきます」
寝起きの良い光に対して、力は基本的に寝起きがよろしくない。こんなのももう顕には見慣れた光景だ。
そのまま光は玄関まで見送りに来てくれて、雅人と挨拶を交わしていた。顕が着替えている間に、母が力と光が雄英を目標に据えたということを雅人に話したようで、その事についても言葉を交わしていた。
******
雅人の緊急の引き継ぎ作業とコスチュームの回収を済ませて、2人は雅人の運転する車で雄英へと向かった。車中、話は主に創作作品の中で電気を操るキャラクターの話になっていく。雅人はヒーローとしては非常に真面目な方であり、30代を超えた今でも自分の個性の鍛錬は怠っていない。その参考として、自分で考えるだけでなく顕の知っているキャラクターからアイデアをもらいたいと考えたのである。
そう言われた顕は、自分の頭の中の知識を漁る。……までもなく、電気を使うキャラクターというのは、人外の存在も含めて多数存在する。その中で、雅人でも使えそうなのいるかと思案する。
「通電……」
「そうそう。なんか参考になりそうなの無いか?」
「……ある」
「どんな感じ?」
「多い。書いて渡す」
「例えばよ例えば」
情報の精度を高めるために後でまとめて送るという顕に対して、雅人は会話のネタにするという意図もあるので話を続けようとする。それにしばらく考え込んだ顕は、ひとまずはっきりとわかりやすいものに関して伝える。。
「磁力が使える」
「磁力か……鉄を引き寄せられるとか?」
「電磁投射砲とか……砂鉄の鎧とか」
「電、なに?」
顕の行った物騒なアイデアに思わず雅人が聞き返すと、顕はことも無げに繰り返す。
「電磁投射砲。レールガンとも言う」
「レールガンて……危なくないか?」
「ビルぐらいなら貫通すると思う」
「そんなの使えるか!」
当然ながら、命を落とす可能性のある戦いが日常茶飯事な物語の世界とは違ってアンペアとしての雅人はヴィランを傷つけることはあっても殺すことがあってはならない。それに、一般人に被害が出るような危険なことも基本的には出来ない。だから、顕にアイデアを聞くというのはあまり良い選択ではないのだ。
「砂鉄の方は? 磁力で操るってことか?」
「そう。鉄の塊よりも自由に動く」
「なるほど……」
顕のアイデアを聞いた雅人は興味深そうに唸って黙る。確かにレールガンはともかくとして、砂鉄を完全に自由に扱えるとすれば、遠距離での救助や戦闘に利用できる。顕がひたすらに読み続け、見続けている物語の登場人物達というのは、時に素晴らしい発想を与えてくれるのだ。