トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー 作:ウホホ・ウホホイ
だから彼女に注意したの「それ以上はケガに繋がるから休みなさい」と。
そしたら彼女は自分の脚を指さして「疲労具合を確かめてもらってもよろしいですか」
と言ってきた。
驚いたわ...触った瞬間彼女の脚が『足りない、走らせろ』と訴えかけてきたの。
トレセン学園中等部に入学してから半年が経った。
今でも夢に出てくるあの入学式レースから約6ヶ月が経過していた。
気付いたら今年度の皐月賞、日本ダービー、菊花賞が無事終了し
クラシック戦線も終わりを迎えた。
日々の生活は授業に出席しトレーニングをし、寝るの繰り返しだ。
中等部1年が故に模擬レース、選抜レースや
夏合宿といったトレーニング漬けになれる素敵イベントが無いため
同じような日々を過ごしているせいか、時間が早く流れている気がする。
突然だが私は今、トレセン学園の理事長室の前にいる。
中等部1年生は入学してから半年後に理事長や理事長秘書
そしてトレーナー側から希望があった場合、そのトレーナーと面談するイベントがある。
前者は経過観察の側面が強い面談と考えられるが
後者、トレーナー側は若干意味合いが異なるだろう。
所謂、青田買いの品定めだとされている。
噂では中等部1年でもチームに仮スカウトされる例があるらしい。
チームへの所属は原則中等部3年になってからではあるので
ここでは仮という形で所属する。
しかしこの面談でスカウトされるウマ娘は滅多にいなく
もしスカウトされたとなれば将来を確約されたと言えるだろう。
面談前、私のクラスでは他の子達が
「万が一スカウトされたらどうしよう...!」的な会話で盛り上がっていたが
私は自身がスカウトの対象になるとは微塵も思っていないので冷めている。
むしろ、門限を超えてトレーニングをして注意されてきた半年間だったので
逆にこの面談で怒られるだろうなぁ、と思っているところだ。
表情には出ないが内心びくびくである。
理事長と理事長秘書の面談をさっさと済まして
日課のトレーニングに励みたいところだ。
そんなことを思っていると、理事長室の扉がゆっくり開かれ
緑のスーツを着た理事長秘書から声をかけられた。
「それではシルバーメモリーさん
半年経過面談を始めますのでお入りください」
入室すると豪華絢爛で品のある応接間に案内された。
私はウマ娘にありがちな名門出身のお嬢様属性は微塵もないので
このような部屋は落ち着かない。
「歓迎ッ!!それでは面談を開始する!!」
「にゃーん」
「ではシルバーメモリーさん、よろしくお願いいたします。」
彼女がトレセン学園の理事長『秋川やよい』
そして隣の緑のスーツの人が理事長秘書『駿川たづな』である。
多忙であろうトレセン学園のトップとナンバー2が
態々時間を作って新入生全員と面談をするのだというのだから
ウマ娘思いの素敵な方たちなのだろうと素直に感じる。
「本日は貴重なお時間を作って頂きありがとうございます。
中等部1年シルバーメモリーです、こちらこそよろしくお願いいたします。」
慣れない敬語でなんとか挨拶を済ます。
「率直に聞くッ!シルバーメモリー!
あの"面接"から今迄どのように過ごしていたか聞かせて貰いたい!」
私は他のウマ娘の子たちと違って、正々堂々と入試を突破したわけではない。
故に最終確認として面接の場が設けられた。
「その節は誠にありがとうございました。
皆さんのお力添えがあってこそ私はこの場にいることが出来ます。
また、面接から今迄の生活ですが特段変わったことはありません。
その日できる精一杯を繰り返しているだけです」
「...それは安心ッ!体調も良さそうだし元気でなによりだ!」
理事長は扇子を広げて大きな笑顔を見せる。
相変わらず快活な方だ。
「唯一変わったことをあげるとしたら...そうですね...
クラスメイトのシンボリルドルフさんや、学年が1個上のミスターシービー先輩を
はじめとした素晴らしいウマ娘と練習できている点でしょうか
小学生の時と比べ物にもならない方たちとトレーニングできる環境に
身を置けることは幸せだなと感じています」
「...そうですか、それはこちらとしても嬉しい限りです」
理事長秘書は何か安心したかのように呟いた。
「質問ッ!身の回りで何か困ってることなどは無いか!」
扇子をパタンと閉じながら理事長が問いかける。
困ってることか...
そういえば最近あったな...
「心当たりが2つ程あるのですがよろしいでしょうか」
「遠慮せずにいくつでも構わないぞ!」
「それでは遠慮なく1つ目から...学園から無償で提供して頂いている
練習用のシューズと蹄鉄なのですが、先日の練習で全て使い切ってしまったので
大変申し訳ないのですが新しいものを追加で頂くのは可能でしょうか」
「...はい?」
「...申し訳ない。使い切ってしまったというのはどういう...」
何故か理事長と理事長秘書の表情が真剣な面持ちになる。
変な事を言ってしまったのだろうか。
「入学式に頂いた練習用シューズ10足と蹄鉄20セットをそれぞれ
使えないレベルまで消耗させてしまいました。
大切に使わせて頂いたつもりだったのですが...申し訳ございません」
「あ、あぁ納得ッ!あい分かった!シューズと蹄鉄については新しく手配しよう!」
「...かしこまりました。すぐに用意させて頂きます」
良かった...明日練習に履いていくシューズと蹄鉄は何とかなりそうだ。
「して、2つ目の困っていることとは?」
思わず門限の時間を1時間伸ばしてくれ!と言いそうになるが何とか抑える。
ルールを破っている身で、そんなことは口が裂けても言えない。
それとは別の最近特に気になっていることを正直に話そう。
「2つ目は個人的な事ではないのですが...最近私のクラスだけではなく
中等部1年生全体が元気ないように感じます」
「...」
「...続けてくれ」
「はい、主観的なものが混じっているかもしれませんが
体力疲れというより精神的な疲れと言ったほうが良いかもしれません。
明らかに気力が落ち込んでいるウマ娘が増えました。
それに練習中に上の空だったり集中力にかける子や
そもそも練習に来ない子が以前と比べて多くなりました」
「...承知した。入学から半年経って悪い意味で気持ちが落ち着く時期でもある。
今後は新入生のメンタルケアを行う機会を増やしていこうと思う」
「ありがとうございます。
ウマ娘がトレーニングや練習に集中できないなんて
よっぽどのことがあったのだと思いますので」
気のせいだろうか、空気が若干重くなった気がする。
「...そろそろお時間ですね。
面談はこれで終了します。ありがとうございました。」
「こちらこそお願いを叶えて頂きありがとうございました。
それでは失礼いたします。」
席を立ち、退室しようと思った矢先に緑のスーツの方に声をかけられた。
「あ、申し訳ございませんシルバーメモリーさん
シルバーメモリーさんとの対談を強く希望したトレーナーさんがいましたので
この後そちらのご対応をして頂けますか?」
「...あっはい...承知いたしました」
「理事長室を出て左側のお部屋で対談しますので、ご移動お願いします」
一礼して理事長から退出する。
――――――――――――――――
「...たづな、彼女をどう見る」
「はい、半年前の彼女とは明らかに雰囲気が変わったと思います
レースでもないのに闘志が見えるぐらい漲っている...そんな印象です」
「そうだ...彼女は入学式で配布するジュニア期3年分のシューズと蹄鉄を使い切るぐらい
精神...高いモチベーションで練習に取り組んでいる。
一方で今年の新入生は彼女以外、皆精神的に危うい状態であることも確かだ」
「シンボリルドルフさん...ですよね」
「憂慮...彼女の大きな才を浴びたウマ娘達は心が折れてしまっている。
特にクラシック戦線でレースをすることを夢見ていた生徒はそれが顕著だ」
「先月からマイルやスプリント...ダートを希望する子がとても多くなったと報告が出ています。
しかしなぜ彼女は平然としていられるのでしょうか...彼女は地方からスカウトという形で入学してきましたが、当時は入試は受けていないものの全国ウマ娘模試でトップの成績、そしてレースで見せる卓越したスタミナを評価されたと記憶しております。
他の子たちと変わらない才能の持ち主では...」
「私もそれが気になってはいた。優秀な彼にスカウトされたのだから特別才能に恵まれたウマ娘なのだろうと思っていた。しかし蓋を開けてみれば競走能力は素晴らしく器用ではあるが、総合的に見ると並み以下であった...」
「教官たちがあげてくる半年間の練習報告でも、彼女のことは特段評価されておりません。一つ気になると言えば『あのようなウマ娘は見たことが無い』と口を揃えて記載されている点でしょうか」
「そうだ、その報告がきっかけで私は彼女のことを調べた...これを見て欲しい」
理事長は1枚のぺラ紙とタブレットを渡した。
「この紙は...シルバーメモリーさんの小学校時代の戦績...?」
「そしてこのタブレットに映っているのは彼女が学園のポータルに記録している
シンボリルドルフとミスターシービーとの並走戦績だ」
「...!?理事長ッ!これは...!」
「驚愕...ッ。新入生の中で、彼女が何故こうも高いモチベーションを
維持できているか...このデータが教えてくれた」
A4の紙には彼女のレース戦績が並んでいるが、一番上にはこう記載されている。
――――――――――――――――
八美小学校所属 シルバーメモリー
模擬レース及びリトルレース
戦績:40戦 0勝 連対率80% 入着率100%
――――――――――――――――
そしてタブレットには並走記録が映っていた。
――――――――――――――――
81年4月5日~81年10月末
記録者:シルバーメモリー
以下の者で並走
ミスターシービー
シンボリルドルフ
シルバーメモリー
計118回
ミスターシービー 1着89回
シンボリルドルフ 1着29回
シルバーメモリー 1着0 回
備考:今日も負けました。明日も頑張ります。
――――――――――――――――
「これはつまり...」
「あぁ...彼女は小学校時代から1着を取ったことが恐らく無い。
本年度から開催している入学式レースでもシンボリルドルフに次ぐ2着だ」
「まさか...そんな...」
「そのまさかだ、彼女はあまりにも負け慣れているのだ...誰よりもな。
負け続けてるがゆえにシンボリルドルフ、ミスターシービーという
2つの才能の暴風にも耐えることが現状できている」
あまりにも衝撃的な事実を知ってしまい思考がショートする。
その時、半年程前の面接のことを唐突に思い出した。
それは面接最後のこと
『それではシルバーメモリーさん、最後の質問です
トレセン学園で叶えたい夢がありましたら教えてください』
『夢ですか...そうですね...
誰よりも沢山重賞レースで走りたいですし
誰よりもいっぱい勝利の景色を見てみたいですね』
まるで悪夢を見ているようだった。
「一人の生徒を贔屓にするなど、本来あってはならない...
あってはならないが...彼女という精神的支柱、模範となる大木を倒してはならん
彼女が折れてしまったらシンボリルドルフ世代は全員...」
「理事長...」
「守護らねばならぬ、我々はウマ娘を守護らねばならぬのだ」
決意を固めた彼女は扇子を力強く広げた。
「決断ッ!そのためにはあの男に帰ってきてもらう必要があるな!!」
トレセン学園が動き出す。
――――――――――――――――
まさか、巷で噂のトレーナー面談が始まってしまった。
同世代で私の競走能力は常に下から数えたほうが早いと自負しているのだが
何故か小学生の時と言い、中央のトレーナーに過大評価される傾向がある。
普段の練習でも教官は私の走りについては特段注文を付けることはない。
他の子たちには鬼のように激烈なコーチングをするのだが...
先日も鬼軍曹ことタケダ教官からは
『...その調子でスピードとパワーの向上を意識してトレーニングに励みなさい』
たったそれだけのことを言われただけだった。
これからのトレーナー面談も同じようなことを言われるのだろうか。
まさかチームへの勧誘なんてことはあるまい。
そんな気持ちでトレーナー面談が実施される部屋に移動し、3回ほどノックする。
「失礼いたします。中等部1年、シルバーメモリーです」
どうぞ、と中から声が聞こえたので入室する。
そうすると1...2...いや...5人
栄えある中央のトレーナーバッヂを着用した
若いトレーナー5名が座っていた。
威圧感はあるが特徴のない男性トレーナー
何かを咥えてだらしなさそうにしている男性トレーナー
キリっとした端麗な顔立ちで姿勢よく座っている女性トレーナー
サングラスを着用してラフな格好をしている男性トレーナー
穏やかそうな笑顔を見せている髪の毛が明るく染まっている男性トレーナー
見るからに新進気鋭の若いトレーナーたちが私を品定めするような視線を送っている。
手元をちらりと確認すると、タブレットやメモ、その他多くの資料が確認できる。
明らかに談笑するための場ではないことは一瞬で把握できた。
「どうぞ」
綺麗な女性トレーナーが私に着席を促す。
これからいったい何が始まるんだ。
圧迫面接される銀髪の子かわいそう
当二次創作ではトレセン学園には既にスピカ、リギル、カノープスをはじめとした
主要チームは設立されています。ご了承ください。
また、トレーナーに関してはアプリやシングレ、アニメ1期2期の人物が登場します。
ベースはウイニングポスト84年スタートなのでその辺りは目を瞑って頂けたら幸いです。
また明日以降は週2~3投稿ペースになります。
よろしくお願いいたします。