トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー 作:ウホホ・ウホホイ
__シルバーメモリーさん、最後にお聞きしたいことがございます。
ズバリ、その美しい銀毛を保つ秘訣は?
__良質な鉄を食べることです
__えっ
__絶対にマネしないでくださいね
「どうぞ」
眼鏡を着用している如何にも仕事が出来そうな端麗な女性に着席を促された。
理事長とその秘書との入学半年経過面談を終え、日課のトレーニングに戻ろうとした時
"トレーナー面談"なるものに案内された。
思い返してみれば、私は中央のトレーナーに関しては知識以上のことはよく分かっていない。
小学校時代にスカウトして頂いたあの男性のトレーナーと話したぐらいしか、直接コンタクトを取った機会はない。
勿論トレーニングの傍ら、現在のトゥインクルシリーズで競っているウマ娘達の練習を
見かけるので、チームトレーナーの顔ぐらいは把握しているが...
しかも4月初頭に件のトレーナーに改めて御礼と挨拶しようと思ったら、既に退職してしまったという。携帯番号に連絡してもトレセン学園社用携帯だったらしく連絡もつかない。
無理は承知で退職理由を聞こうとしたが、個人情報ということで叶わなかった。
故に中等部1年ということもあるが、現在顔見知りのトレーナーはいない。
そんな折、将来有望なウマ娘だけが招待されるこの"トレーナー面談"に案内された。
チームを取り纏めているトレーナーから、あのウマ娘と直接話してみたいという要望があった場合に限り急遽セッティングされるらしいのだが...私と話したいなんて物好きなトレーナーもいたものだと思う。
自己評価としては中等部1年の中で下の下。
周りは私より才能に溢れているウマ娘ばかり。
教官や先生などウマ娘に関する知見に溢れている人達も、才能に恵まれる他の子達を重点的に指導やコーチングをしているのは確かだ。
トレセン学園そのものが期待しているのは間違いなく彼女達だろう。
特に三日月の流星を持つウマ娘、シンボリルドルフ。
彼女の周りには様々なトレセン学園の教育的人材が集結している。
それだけじゃない、外部の研究員、専門医、スポーツメーカー、勝負服ブランドその他諸々。
将来、彼女の活躍を確信している"大人"達が、必死な顔をしながら三日月の彼女に何とか気に入って貰おうと努力している様を、夏頃からよく見かけるようになった。
中等部1年でこれだけ期待されているウマ娘はトレセン史上初だという。
こういうウマ娘こそがトレーナー面談に案内されるのだろうと思っていた節がある。
だからこそ、今回の呼び出しに関しては何か別の意図を感じざるを得ない。
それか、逆に才能が無いからトレセン学園からご退去願いますとか言われるのだろうか。
それだけは本当に勘弁願いたい。
かといってトレーナーに嫌われるメリットはハナ差も存在しない為
せめてファーストコンタクトで嫌われない程度の愛嬌は見せておこうか...
いや、無理だな。バ鹿バ鹿しい。
シルバーメモリーに愛嬌は存在しないのだ。
「失礼いたします」
形式程度の一礼を済ませ頭をあげ、眼の焦点を合わすと5人のトレーナーを確認できた。
最初に抱いた感想は「いや多すぎでしょ」だが、それ以外に気付いたことがある。
まず全体的に若い...のもあるが全員私が知っているぐらいの著名なトレーナーであることだ。
突然だがトレセン学園には"チーム"というものがある。
これはトレーナーを監督兼コーチとしたウマ娘の活動母体の総称であり、ここには重賞で結果を出したウマ娘や将来を期待されているウマ娘などが所属している。
また、チームをまとめるトレーナーも結果を残し、トレセン学園に評されたものだけが務めることが出来る。
何が言いたいかというと、この場にいるトレーナーの大半が"チーム"を持っている。
一番左の特徴のない男性トレーナー、彼は「チームシリウス」のトレーナーだ。
チームシリウスは新進気鋭の若いチームで実績こそはないが、トレーナー自体の実績は十二分のため噂にはよく聞く。トレーナーの実力が評価される事は余り無いが、この男性は逆。奇抜な発想と抜群の知識量を育成に生かし、伸び悩んでいるウマ娘を重賞勝利に導くことも少なくない。偶に練習場から『~に生かせるかもしれない!!』という大声が聞こえてきたら100%彼だ。
ちなみに狂人という噂もあるのだが...まぁデマであろう。
左から二番目の派手な格好をした何かを咥えている...?男性トレーナー、彼は「チームスピカ」のトレーナーだ。
チームスピカは特段実績があるわけでもない。しかしトレーナーの方針が放任主義というのは有名だ。基本的にウマ娘の気持ちや判断を尊重しているらしいのだが、正直どうなのか。才に溢れる天才型のウマ娘にとっては良いチームなのかもしれない。そしてチームなのにチームメンバーが揃っていないという訳分からない状況になっているが、一体どういうことなのだろうか。いずれにしても私には縁のないチームであることは確かだ。
中央に座っている眼鏡を着用している女性トレーナー、彼女は「チームリギル」を担当している。
チームリギルは最近怒涛の勢いで結果を出しているチームである。彼女が着任したと同時にチーム成績が上昇したという点から、トレーナーとしての実力は折り紙付きだろう。チームメンバーを採用する際には、模擬レースを開催し1着を取ったウマ娘にスカウトをかける方式を取っている為、現状2着が精一杯の自分では少々厳しいと感じる。所属ウマ娘の質も非常に高く、今年G1勝利したウマ娘のうち半分ぐらいはリギルに在籍している。トレセン学園最強チームという呼び声も高い。
その右側に座っているサングラスを着用しラフな格好している男性トレーナー、彼はこの場で唯一チームを持っていない。
彼の育成スタンス自体がマンツーマンで育成することを信条としているためチーム設立を断ったという。基本的にトレセン学園はウマ娘の数に対して、圧倒的にトレーナーが少ないので実績をあげたトレーナーたちは極力チームを持つようにしているが、彼は例外である。半強制のチーム設立を断るだけあって、育成手腕は申し分ない。鬼のタケダ教官の弟子らしく、時代を逆行するような不合理的な超スパルタ育成のため彼に見てもらいたいというウマ娘は極々少数である。スパルタは好きだが、個人的にケガを度外視したスパルタは疑問を感じてしまう。
一番右に座っている爽やかな笑顔を見せている男性トレーナー、彼は「チームカノープス」のトレーナーだ。
カノープスはスピカの後に設立されたチームで、重賞の勝利数こそは恵まれないが獲得賞金総額や、連対率、入着率に優れている上位チームである。彼のチームの特徴として、練習中のウマ娘のコンディションが軒並み良好という点が挙げられる。彼はコンディション管理やメンタルケアを重んじており、彼のチームから大きなケガで引退したという事例がないことは学園内で有名である。余談だが、朗らかで笑顔の多いアットホームなチームという印象を個人的に受けた。
そんな今をときめく著名なトレーナー達が何用なのか。
純粋な疑問を思い浮かべている中、トレーナー面談は開始された。
「中等部1年、シルバーメモリーです。よろしくお願いいたします」
気分はまるでオークションにかけられた動物のようだ。
彼らの視線が私の四肢に向けられる。
恐らく今頃脳内で私の値段が決められているのだろう。
トレーナー全員はノートやタブレットにメモを書き残し始めた。
すると突如、最右端の優男が話しかけてきた。
「申し訳ございません、シルバーメモリーさんのトレーニングスケジュールを教えて頂けますか」
あぁ、面談といっても談笑するわけじゃないのか。
ウマ娘の能力や佇まい、意識や目標などを直接トレーナーが確認する場なのだ。
この確認の場でトレーナーの慧眼に見合ったウマ娘はスカウトされる、そういうことか。
アイスブレイクのために、三日月の彼女にバ鹿受けした小粋なジョークを準備しておいたけど、ここで使う必要はないらしい。
頭のスイッチを一瞬で切り替えて淡々と解答することにした。
「はい、トレーニングスケジュールといっても他の子とあまり変わりません。
平日は早朝5時より、授業開始まで学内のジムで軽いストレッチを行った後、練習場で軽めの調整を行っています。
そのあと放課後15時より2時間ほどトレセンのジムで荷重トレーニングを行います。
17時からはご存じの通り、教官のご指導の下グループで練習をします。
20時から1時間ほど角バ場で軽めの追い込みをした後、食堂で食事を済ませます。
22時から1時間ほどレースのイメージトレーニングをしたあと就寝します。
平日に関しましては、このスケジュールを4月半ばより続けています」
「...ちなみに休日はどのように過ごされていますか」
「はい、休日は授業時間の全てが、それぞれのトレーニング時間に置き換わる以外に変わったことはありません。芝の整備のために練習場が使用禁止になる日については、トレセン学園の書庫でウマ娘の人体力学等のレースや、トレーニングに係る文献を読んでいます」
「...そうですか、素晴らしい過ごし方だと思います」
何回も試行して緻密に組んだスケジューリングを中央のトレーナーに褒められて嬉しい。
しかし目の前のトレーナーは困った顔をしている様子であった。
次に、サングラスを着用したトレーナーから質問が飛んできた。
「すまねぇな嬢ちゃん、一つ聞かせてくれ。今迄に何か大きな怪我をした経験はあるか?」
ケガの経験...トレーナーからすると気になるところだろう。
過去に大きなケガをしたウマ娘は、イップスなどの精神的な要素から上手く走れなくなるケースがあるから質問してきたと考えられる。
「大きなケガですか...。私は小学1年生からレース、トレーニングに励んでおりますが心当たりはないです」
「...爪割れや亜脱臼もか?」
「レース中のフィジカルコンタクトで打撲や軽い捻挫をしたことはありますが、それ以上のことは特に」
要はケガしたことはない、と答えると彼の額から汗が滲み出す。
「そうか...わかった」
そう言うと彼はため息をつきながらノートに何かを書き残した。
このような感じで順々に質問を受ける感じだろうか、と思った矢先に眼鏡をかけた女性トレーナーが口を開いた。
「シルバーメモリー...今現在あなたがベストだと思っている走り方、脚質と適正距離を教えて頂戴」
これは所謂、ウマ娘自身が己の事をどれだけ知っているか確認するための質問だろう。
偉大なウマ娘曰く『彼を知り己を知れば百レース殆からず』
私もこの言葉は好きだ。
「最高のパフォーマンスを発揮できる走り方は、周りより身長と脚長が大きく関節可動域が広めのためストライドが適切だと考えます。
脚質に関しては特に何が得意、という事はありません。
私はその日の気温、天候、バ場状態、枠番、出走ウマ娘の面子と調子と脚質構成からレース戦略を組み立てますので...。
強いて言えばレース中の状況変化に対応し辛い追い込みはあまり好みません。
適正距離も特にないと思ってます。中等部という事であまり長い距離は走ってませんが、1200m~3200まで特に違和感なく全力で走破できましたので。」
「...色々突っ込みたいことが山積みなんだけど...取り合えず3000mまでパフォーマンスが変わらないってどういうこと?中等部は2000m以上の模擬レースは練習中にしないわよね」
「えぇと、お恥ずかしい話なんですが...ミスターシービー先輩と並走した時に熱くなって思わず3200mまで走り込んでしまいまして。普段は2000m以上は走らないようにしてるので、サンプルとしてはその1回だけですが、ハロン当たりのペースに異常はありませんでした」
「...わかったわ。ついでに一つ聞かせて。脚質についてはレースの状況に合わせて、その場で変えてるって認識であってるかしら」
「はい、レース中に逃げから追い込みに変えるという極端な事はあまりしませんが...
レース前に集めた情報を基に、戦法自体はその場で変えています」
「...把握したわ。ありがとう」
女性トレーナーはシャーペンの指で押すところをコメカミに当て眉間にしわを寄せている。
チームリギルのトレーナーの御慧眼にはあまり響かなかった様子だ。
「次は僕でいいかな?」
チームシリウスのトレーナーが手をあげる。
「きみが偶にやってるゲート練習なんだけど、アレはトレーニングってことでいいのかな?」
あぁゲート君のことか
「はい、1か月に2回ほどゲートの中でリフレッシュするということをしています。日々トレーニング漬けでは効率が悪くなりますから、ゲートを使って休息を取っています」
解答すると、チームシリウスのトレーナーは突然立ち上がって
「その時、ふと閃いた!!!このアイディアは、トレーニングに活かせるかもしれない!!!」
と叫んだ。
びっくりした。
これだけ大きな声を出せば、練習場の端から端に届くのは当然だろう。
狂人と噂されるトレーナーたる所以をリアルタイムで感じることが出来た。
「やめなさい...チームが崩壊するわよ」
「流石の俺もそりゃ無理だわ」
「僕も流石に...」
「スパルタを超えてるだろそりゃ」
と色々突っ込みが入ったが。
最初こそアレだったが、今では最高のリフレッシュ手段なのでオススメである。
「じゃ、最後は俺だな」
当初はだらしなさそうにしていたチームスピカのトレーナーだが
姿勢を伸ばし、凛としながらもどこか熱を感じる声で質問をしてきた。
「シルバーメモリー、お前さんの夢を教えてくれ」
夢...そういえば最近夢や将来の目標をよく聞かれるようになった。
入学志望届から面接、直近ではレースに関する進路希望届け。
何度も何度も紙に書いたその夢は、正直に言うと若干本心と違う。
少し脚色した"大人受け"用に作り上げた小さな嘘。
ここでもいつも通り、大人受けを狙って脚色された夢を暗唱しようとする。
「私の夢は誰よりも沢山重賞レースで走り...」
「正直に答えてくれ」
...少しだけ驚いた。
あの理事長や秘書もやり過ごした大人受け用に用意した"夢"に気付ける人がいるんだ。
チームスピカのトレーナー、あなたに見てもらえるウマ娘はきっと恵まれてるんだろうね。
目を瞑りため息を1回つき、色々考えてしまう脳みそを一瞬シャットダウンさせる。
そして瞼を開きチームスピカのトレーナーを銀眼で捉えて、真剣に質問に答える。
「...私の夢は走り続けて、走り続けて、走り続けたその先の景色を見ることです。
誰もが夢を見る日本一のウマ娘になりたいという気持ちも当然ありますが
それよりも...本心は誰よりも多くのレースを走り、少しずつ勝利を積み上げて
誰も見たことのない景色を見てみたいというのが私の"夢"です」
「...そうか」
そして夢のために
「そして...シンボリルドルフとミスターシービー先輩をG1の舞台で、叩きのめしたいです」
「「「...ッ」」」
夢はある、幼少期から抱き続けてきた大切な夢だ。
だけど
今この瞬間は
そんな"夢"などどうでもいい。
目の前に勝ちたい相手がいる、もう二度と負けたくないやつらがいる。
走り続けるためには、誰よりも長く走り続けその先の景色を見るためには
その時代の、その瞬間の最高最速のウマ娘達を全員倒していかなければならない。
トレーナー泣かせの銀髪の子かわいそう
彼女は一体どこのチームに入るんでしょう
そしてご感想、高評価、誤字報告いつも本当にありがとうございます