トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー   作:ウホホ・ウホホイ

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進路希望報告書 中等部1年:シルバーメモリー

【バ場】    芝

【距離】    1200~3600m 

【目標レース】 クラシック主要3レース

【備考】    特になし


Chapter.13 進級

トレセン学園に入学してから1年が経った。

 

本日より私は中等部2年に進級する。

トレセン学園での最初の1年は、戸惑う事も多かったが実りのあるものになったとは思う。

特に小学生時代とは比べ物にならないほどの猛者との出会い、そして練習環境、その2つが私を大きく成長させた。

今年1年も初心を忘れずに日々研鑽を積み上げていこう。

 

先ほど入学式が終了し、あの入学式レースが去年と同様に開催され大いに盛り上がっていた。

昨年度の入学式レースは大変好評だったらしく、去年以上のマスコミ関係者が押し寄せてカメラで客席が埋まっていた。ついでとばかりに、三日月の彼女とシルクハットの彼女にもマスコミが押し寄せていたのを木陰に隠れながら見ていた。

 

最近何故だか記者やカメラマンに声を掛けられる機会が急増してしまったため、質疑応答が苦手な私は気配を察知したら隠れるようにしている。最近足音や音の間隔で誰が歩いているか、走っているかを察知できるようになった、というか練習して身に着けた。マスコミとの遭遇を避けたい場面で非常に役立つのでオススメの技術である。

 

今年は新入生代表挨拶が無い式進行だったので、入学レースがピリピリしていた。普段の力を出せば十分に勝てるレースのはずなのに、かかってしまいメチャクチャになってしまってる子が散見されたらしい。やはり代表無し宣告はウマ娘に対しては強烈であり、周りが見えなくなってしまうほどの発破効果があるのだろう。

 

私はずっとトレーニング施設に籠っていたのでレースの詳細は追えてはいないのだが。

 

 

ちなみに進級に伴いクラス替えが実施されたのだが、三日月の彼女とはまた同じクラスになった。流石に席は隣同士ではなかったが、現在進行形で私の目の前にいる。

 

およそ1バ身差といったところだろうか。

 

クラスを見渡してみると、身長や体型が大きく変わった"本格化"を迎えたウマ娘が少しいる。本格化の時期はウマ娘によってバラバラであり、中にはクラシック直前になるまで迎えない子もいる。大きく変化する身長や体型に慣れていく期間が必要なので、基本的に本格化は早ければ早い程良いとされている。

 

私の身の周りでは、ミスターシービー先輩が先日"本格化"を迎えた。元々身長が高めという事もあって見た目はあまり変化はないが、かなり大人の女性らしいプロポーションになった。並走での雰囲気や威圧感など以前より段違いで高まっており、これから彼女はクラシック戦線に向かっていくんだなという気持ちになった。6月にメイクデビュー戦があるので、最近彼女の気合の入り方は目を見張るものがある。

 

中等部2年に進級すると練習の内容が大きく変化する。

具体的には模擬レースが開催されたり、坂路やその他の1年時には使用できなかった施設の使用許可が下りたりする。

トレーニングはクラシック級の芝ダートのレースを意識したものになり、こちらもある意味本格化する。

 

個人的に坂路の使用許可が下りるようになった点はかなり嬉しい。坂路練習はケガのリスクを抑えつつ、効果的な高負荷運動が可能な夢のトレーニングメニューであるからだ。そんな夢のトレーニングなのだが、何故だかウマ娘にはあまり人気が無く、学期末まで坂路の使用予約が取れてしまった。

 

「えっ...学期末まで予約されるのですか?」

 

「はい、問題がないようでしたら19時から21時までの2時間を7月末まで予約お願いします」

 

「アッハイ」

「ヤベェヨヤベェヨ」

「ギンパツノコダァ」

 

ざっとこんなもんだ。夢の坂路生活のスタートである。

 

とは言っても中等部1年の頃のように、授業に出て合同練習に参加し自主トレーニングをして寝る生活リズムは変わらないのだが。

 

唯一違うとしたら中等部2年の3月、春に差し掛かる時期に同学年による「模擬レース」が開催されるところだろうか。

 

トレセン学園に所属するウマ娘達にとって、この模擬レースは今後の未来を決定付けるほどの重要なレースであることは言うまでもない。

 

クラシック級に上がる直前に敢えて大々的にレースを開催する理由としては、クラシック前にウマ娘達に場慣れさせることは勿論、"選抜レース"や"メイクデビュー"に向けた情報戦の舞台を設けることにある。

 

"選抜レース"とは中等部3年の5月に開催されるレースであり、ここで結果を残したウマ娘達はトレーナーにスカウトされる。スカウトされるという事は、実質クラシック戦線への許可証を得ることを意味するため、選抜レースは一世一代イベントであることは言うまでもない。

 

また、ここで特別優れた成績を残したウマ娘はチームを持つ優秀なトレーナーにスカウトされる。そうなれば非常に整った練習環境+戦略やデータが揃っている環境を手に入れることが可能であるため、クラシック戦線のヴィクトリーロードの第一歩を踏む事に相当する。

 

一方で"模擬レース"とは中等部3年に上がる前に開催されるため、選抜レースの前哨戦という立ち位置である。しかし前哨戦ではあるが、時期的に模擬レース後に間髪入れず選抜レースが開催されるため、ここで結果を残せないウマ娘が挽回することはまずない。

 

しかし模擬レースで圧勝の1着を取ったウマ娘が選抜レースでは3、4着ということは多くある。それは前述したように模擬レースは選抜レースの前哨戦、模擬レースで1着を取ったウマ娘に対する警戒度は当然跳ね上がるからだ。そして走法や得意な戦略も研究されるため、1か月後のレースでは四方からマークされ、自分の走りが叶わなくなるのだ。

 

こう見ると模擬レースで手を抜けばいいじゃないかと思われるかもしれない。

 

しかし我々ウマ娘はどんなに知略に富み、狡猾な立ち回りが出来る性格だとしてもレースで手を抜くことは出来ない。ここは中央、全国最高峰のウマ娘育成機関トレセン学園。そこに集約するウマ娘の中にレースを適当に走れる子は滅多にいない。

 

もしいるとしたら、あの空の雲のように自由気ままな生き方をしている天才型のウマ娘か、徹底的なデータ主義で情報以外何も信じていないような超現実主義のウマ娘ぐらいだろう。

 

そして模擬レースにはトレセン学園中のトレーナーが観戦しに足を運ぶため、そこで手を抜くとなると相当のリスクがある。スカウトはあくまでトレーナーの主観によるものなので、その行為が好印象に結びつくかどうかと言われたらNoであろう。

 

中には走りっぷりから晩成型のウマ娘ということを推測したり伸びしろを感じた結果、5着や6着のウマ娘をスカウトするベテラントレーナーもいる。

 

以上の事から、基本的に全力で2つのレースを走るのがベターであることは間違いない。

 

また、私個人としても目の前のレースを適当に走るなんてありえない。

もし手を抜いてしまったら、私は自分の事を絶対に許せなくなる。

 

中等部2年は去年以上に気合を入れて過ごさないといけない。

少しでも油断すれば来年の2つのレースは絶対に勝てないだろう。

 

油断大敵、全身全霊。

 

三日月の彼女を思い浮かべながら、私は坂路練習に向かった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

5月 

 

 

私は坂路にいる。

 

4月の練習で、自分が一日に走れる坂路の限界を把握した。

大体3本/日ぐらいからパフォーマンスが落ち始める。

今はまだまだだが、繰り返していけば着実にこなせる回数は増えていくだろう。

そしてケガしにくいトレーニングとはいえ、無理をすれば当然負傷するので気を付けていこう。

 

あと、ミスターシービー先輩が「チームリギル」に所属した。

 

なんでもリギル恒例の選抜レースで5バ身差をつけて"圧勝"した。

学園が開催する選抜レースとは違い、リギルが独自にやっているもののため、中等部3年ではミスターシービー先輩が最速でトレーナー付きウマ娘になった。

本人自体はチームはどこでもよかったらしいが、眼鏡の女性トレーナーから強いラヴコールがあったらしい。トレーナーではなく、"チーム"はどこでもいいと言い切るあたり彼女の傑出度が伺える。

 

余談ではあるが、私はその圧勝劇を実際に見ていたのだが、彼女が勝った瞬間に何か頭の中に違和感が生じた。ブレインフォグのような頭にモヤがかかったぼんやりとした違和感...

すぐに治まったが...なんだったのだろうか。

 

大変寂しいが、ミスターシービー先輩がチームに所属したことで一緒に練習できるのはここまでである。これから彼女はクラシックに向けて、一層本格的で専門的な練習に取り組まないといけないからだ。

 

残念だが、ミスターシービー先輩と練習していた時間は坂路練習することにしよう。

 

さっきから無性に坂路を走りたくてしょうがない。

 

 

 

 

 

 

 

6月

 

 

 

私は坂路にいる。

 

ここ一ヶ月で1日にこなせる坂路の本数が4~5本に伸びた。

今は梅雨時期でウッドチップも重くなりやすく、脚にはいいトレーニングになる。

ここ最近で"重バ場"がかなり得意になったような気がする。

 

そういえばミスターシービー先輩がメイクデビューで勝利した。

私も現地観戦に行ったが、目を見張るほどの圧勝。

最後方からごぼう抜きするように全員を差しきった。

 

出会った頃から思っていたことではあるが来年のクラシック戦線の主役、中心は彼女だろう。

 

そして先月感じた頭の違和感が、ミスターシービー先輩が勝利した瞬間にまた襲ってきた。

念のためトレセン学園に帰宅後、入念に診察をしたが特に問題は見つからなかった。

体調に問題が無いようであるなら、トレーニングに勤しめるので全然いいのだが...。

 

話は変わるが、最近チーム持ちのトレーナー達に坂路練習中に話しかけられることが増えた。雑談という感じではなく、基本的に体調の事をよく聞かれる。オーバーワークは"論外"なので練習量には非常に気を付けているため体調はいつも万全。しかしトレーナー達は毎回、私の体調を気遣うような婉曲な会話をしてくる。

 

心配してくれるのはありがたいけど、正直煩わしい。集中状態が途切れるからだ。

 

...しかし坂路は本当にいい。走れば走るほど成長を実感できる。

 

そしてこの高負荷に抵抗する筋繊維、焔が流れていると錯覚する血管、軋む関節、昂る神経...

 

この感覚は本当にたまらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

7月

 

 

私は坂路にいる。

 

何故だか坂路トレーニングを繰り返してしまう。

関節可動運動や柔軟、その他荷重運動も怠っているわけではないが

気付いたら坂路にきてしまう。

 

休日もゲートの中で坂路の事を考えてしまうようになってしまった。

 

生きてる時間の全てを練習に注ぐ感覚...。

 

どこか懐かしさを覚える...小学校の時の匂いを感じる...

 

意識が無くなってるわけではないけど、最近は気付いたら夜になってる。

 

帰らないと。

 

 

 

 

 

 

 

8月

 

 

私は坂路。

 

あなたが坂路を見ているとき、坂路はあなたを見ています。

坂路を愛してください、坂路は裏切りません。

 

 

今年は劇的な猛暑らしいのだが、何故かまったく熱さを感じない。

それどころか坂路にいる時は涼しくて気持ちがいい。

 

 

8月になってから私が坂路を走る時、教官やトレセンの専門医、チーム持ちのトレーナーがいつも遠巻きに私を見ており、妙な視線を送られるようになった。全員が全員心配そうな顔をしているのはよくわからない。

 

 

ミスターシービー先輩とシンボリルドルフももっと坂路をハシレバイイノニ。

 

ハンロ、タノシイヨ。もう1日に10本もハシレルようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

9月

 

ハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロハンロ

 

 

 

 

アッ、マタ蹄鉄がコワレチャッタ

 

 

ダイジニシナイト

 

 

物をタイセツに出来ないウマ娘はレースでカテナイカラ

 

 

 

 

 

 

 

10月

 

最近三日月の彼女だけじゃない、ミスターシービー先輩をはじめとした色んなウマ娘やトレセン学園の職員から心配される。

体調は大丈夫か?痛めてるところはないか?などだ。

 

理事長や理事長秘書にも声をかけられたが本当に何なんだろうか。

 

私としてはケガもしてなければ体調も万全、いつも最高のコンディションで練習できている。健康診断も全く問題はないのに。

 

 

正直鬱陶しい、オーバーワークでも何でもないだろ。

 

私の邪魔をするなよ。足りないんだよ。

 

パワーもスタミナもスピードも。

 

そして才能も。

 

私の1分1秒を奪うな。

 

クラシックまで時間が無いんだよ。

 

あと1年しかないんだぞ。

 

あと1年...

 

(...去年の今頃って何してたっけ)

 

 

(...ミスターシービー先輩とシンボリルドルフとよく話していた気がする)

 

 

色んなところに連れて行ってもらったし、色んなことを教えてもらった。

 

 

あのパフェの味は一生忘れないだろうなぁ。

 

 

(...そういや最近は彼女達とお話して無いな)

 

 

なんでだっけ。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

7月初旬

 

「シービー...シルバーメモリーのことで相談がある」

 

「やぁルドルフ、アタシもメモリーちゃんのことで聞きたいことがあるんだよね」

 

「奇遇...ということではなさそうだな」

 

「そりゃね...最近どうしちゃったのメモリーちゃん。アタシがリギルの所属したあたりから様子が変だけど」

 

「...正直なところ分からない、元々ストイックな気質が持ち味なのはシービーも勿論知っているだろうが、彼女がケガのリスクを度外視して練習するようになったのは明らかに異様だ」

 

「誰よりも食生活に気を付けて、柔軟や最新機器を使った体づくりしてたもんね」

 

「シービーがリギルに入った翌日から坂路練習の時間が劇的に増えたので何か知っているかと思ったが...その様子じゃ知らないようだな」

 

「残念ながら」

 

シービーが何かシルバーメモリーに発破をかけたようではないようだ。

 

だとしたらきっかけが分からない。

最近のシルバーメモリーは何者かに操られているのかと思えてしまうぐらい、足取りがおぼつかなく感情が希薄になり口数も減った。

 

レース以外では元々感情は表に出さないタイプではあるが、彼女と練習や外出を繰り返していくうちにふざけ合ったり、軽口を言い合うようになった。

 

年末以降、彼女の笑顔を見かける回数も増えた。

 

しかしどうだ、今では彼女が最後に笑った時の事を思い出せない。

 

坂路に向かう彼女は猟奇的で何かが歪んでおり、体調の事を心配したり話しかけたりすると明らかに不機嫌な様子を見せる。

 

一方で練習中のシルバーメモリーは、ある意味"笑顔"で坂路を激走している。

瞳孔を完全に開き銀色に煌びやかせ、猛暑だろうが豪雨だろうが関係なく毎日走り込んでいる。

 

その様相はあまりにも常軌を逸しているため、私は理事長に掛け合って彼女の練習中は監視用の人員を割いてほしいと懇願した。理事長も異常事態には気づいていたため、その日の午後には監視態勢が整っていた。

 

最初はシルバーメモリーの練習自体を止めようとしたらしいのだが、健康診断をはじめ専門医による診察やレントゲン、筋繊維の検査をしたのだが全く疲労が確認できなかったため、止めようにも彼女の練習を止めることが出来なかった。

 

「きっかけ...じゃないかもしれないけど、メモリーちゃん私のリギルの選抜レースとメイクデビューにわざわざ来てくれたんだよね」

 

「...そうなのか?」

 

「ルドルフとメモリーちゃんの練習時間を奪うのは申し訳ないなぁ、と思って日時はあえて黙ってたんだけど、何故かメモリーちゃん会場にいたんだ」

 

「その時会話とかは?」

 

「それがまったく。レースが終わった瞬間帰っちゃったみたい。」

 

「...謎が深まるばかりだな」

 

「練習時間が長いのはこれまで通りだけど、ここ最近の"密度"は流石にヤバい」

 

「超集中状態を保ちつつトレーニングハイの状態で数時間坂路を走り続ける...そんなことできるか?」

 

「無理無理、シニア級でも坂路10本こなせるウマ娘いないって。...一つ気になったんだけど何で"坂路"だけなんだろうね。高負荷トレーニングは他にもあるのに」

 

考えれば考えるほど分からなくなっていく。

 

(シルバーメモリー、君は一体何を考えているんだ...)

 

そして季節は加速する。

 

 

 




やったね!メモリーちゃん!坂路(練習)が増えるよ!!!!!
次回、中等部1~2年の実況パートになります。

多くのご感想、高評価、誤字報告本当にありがとうございます。
そしてお気に入り数1000、感謝いたします。
引き続き、当二次創作をお楽しみいただけたら幸いです。
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