トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー   作:ウホホ・ウホホイ

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Chapter.16 誓と宣誓①

83年 3月

 

今年の春は比較的暖かみを帯びており、トレセン名物のソメイヨシノは例年より早く咲き誇っていた。

 

私はトレセン学園の桜並木の下で物思いに更けていた。

 

あと2週間も経てば中等部3年に進学する。クラシック戦線手前の最終年であるため、当然トレーニングや競争意識は苛烈になっていく時期だ。

 

にも拘らず、最近の私はどこか魂が抜けたような顔をしている気がする。

自分のことながら、非常に情けない。

 

半年ほど前は坂路が凹むほど走り、器具が破損するほどトレーニングルームの設備を使用していたのだが...

 

最近はプールや将棋、映像鑑賞、瓦割などの身体ダメージが少ない練習を中心に行っている。

 

訳あってこのようなトレーニングメニューをこなしているわけだが、はっきり言って歯ごたえがなさすぎる。体の疲労感を練習後感じない日々は、とにかく違和感がバリバリである。

 

「兎に角、来月までの辛抱だし...我慢するしかないか...」

 

空に消えてゆくような小言を漏らしていると、後ろから声をかけられた。

 

「な~にしてんのメモリーちゃん、瞑想?」

 

「ミスターシービー先輩...」

 

瞑想は確かに効果的なトレーニングの一種で...じゃなく

最近なにかと構ってくるミスターシービー先輩がいた。

 

「いいねぇ、八分咲きの桜の下でお昼ご飯なんて...満開じゃないところがなお良しってトコかな」

 

「お昼休みに外にいるの珍しいですね。いつもリギルの部室に籠ってるのに」

 

「...ん~、ヒントはもうすぐ"クラシック開幕"かなぁ」

 

「...なるほど」

 

ミスターシービー先輩は四月を迎えればクラシック世代として本格的にデビューする。リギルはクラシック戦線に挑む優秀なウマ娘が多く在籍しているため、同じ部屋の空気を吸うことも中々憚られるのだろう。

 

「そういえば共同通信杯と弥生賞、おめでとうございます。さすがの走りでした」

 

「おっ見ててくれたんだ、ありがとうね。勝ちはしたけど流石に重賞クラスになるとレースも別次元だったよ」

 

ミスターシービー先輩はここまで5戦4勝、そのうち重賞で2勝を挙げており、クラシック世代の大本命とされている。来月開催される皐月賞にも当然出走登録を済ませており、現在のウマ娘Netの人気ウマ娘投票では一番人気に推されている。

 

今日発行された新聞には、表紙一面にミスターシービー先輩の姿が載っており

「ミスターシービー、クラシック世代では頭一抜けか!?」と評されている。

 

「もうすぐクラシックも開幕なんですから、私なんかに時間使ってる場合じゃないですよ。新聞やネット記事ではミスターシービー先輩が推されてますけど、はっきり言って今年のクラシック世代のレベルは近年まれに見るものです」

 

「流石メモリーちゃん、良くわかってる。そうだね、レース関係者も口を揃えて私が世代で一番傑出しているって言ってくれるけど、見当違いかな」

 

「じゃぁ...」

 

「でもね、今ここにいるのは時間の無駄遣いじゃ決して無い。なんなら私のレース人生を左右することでもあるんだよ」

 

先程から、会話の熱量がどうにも食い違っている気がする。

ミスターシービー先輩の言いたいことがイマイチ伝わってこない。

 

「私はこれからクラシック世代として、胸を張ってG1という大舞台に挑戦する。結果は全て、これまでやってきたことの集大成として着順という形になっていく。そしてその集大成の中の大半は、ルドルフとシルバーメモリーちゃんとの練習の思い出なんだよ」

 

雲を掴むような性格をしている彼女とは思えない真剣な表情で続ける。

 

「緊張には強いと思ってたけど、最近は寝付けないほど精神が張り詰めているし、食事も結構細くなってきてる。そんな時は君たちとのお出かけや、トレーニングの情景を思い出すと体から力が抜けるんだ」

 

「意外ですね...てっきり"G1レースなんて絶対面白くなるよ!ワクワクする!"とか思っているかと」

 

「あはは...メイクデビューを勝ったあたりはそう思ってたかも。だけど先日共同通信杯や弥生賞を勝ったあたりからかな...私は多くのものを背負っている実感が湧いたんだ、色々とね」

 

重賞を制覇したウマ娘は顔つきが変わるという。

念願の重賞を制したこと、挑戦者から挑戦を受ける側になること、チームの期待を受けること、様々なことが起因して勝負師の顔つきになる。

 

彼女も例外ではない。

かつての子供の戯れ感があり、飄々としていたミスターシービー先輩はどこかに封印されてしまったかのようである。

 

「だからクラシックに挑む前に、シルバーメモリーちゃんに話しておきたかったんだ。これからちょっとだけ愛想悪くなるかもしれないから」

 

「先輩...」

 

「というわけで...改めまして、これまで練習付き合ってくれてありがとうね。たぶんシルバーメモリーちゃんとルドルフがいなかったら、皐月賞直前にこんなに仕上がってなかったと思う。一足お先になっちゃうけど、大舞台に挑んでくるよ」

 

「ミスターシービー先輩なら大丈夫ですよ。皐月もダービーも菊花も天皇賞もジャパンカップも有も制覇できます」

 

「...あはは!菊花から天皇賞は流石の私もきついかな!」

 

「流石のミスターシービー先輩でもこのローテは考えてないそうで安心しました」

 

冗談半分で言ったつもりであったが、どこか常識や凝り固まった概念を敬遠する彼女ならもしかして...と思ったのは内緒である。

 

「あっそうだ、これあげる!」

 

「なんですかこれ」

 

ポイっと渡されたそれは、小さな虹色のミサンガであった。

 

「それはミスターシービー印のミサンガ!とってもご利益があるのでレースの時につけることをお勧めするよ。ルドルフにも渡してあるから」

 

渡されたミサンガはどうも普通のミサンガには見えなかった。

肌ざわりが非常によく色使いが妙に凝っている。

 

「いいんですか、結構お高かったりしません?」

 

「実はこれレース用のアクセサリーでさ、肌に擦れても違和感を覚えない素材で出来てるんだって。由緒ある神事とかしてる場所で買ったから、そう言えば結構お値段張ってたかも」

 

「ミスターシービー印とは一体...」

 

普段から小ボケをかますため忘れていたが、ミスターシービー先輩は歴としたお嬢様だった。

また、重賞も既に2勝を挙げているため懐は潤っていたのであった。

 

「ありがとうございます。大切にします」

 

「メモリーちゃんも頑張ってね。チーム選抜レースも夏前にあるし、メイクデビューって思ったよりすぐ来るよ。年末の中等部最強を決めるレースが過ぎたら、本格的にクラシックに突入するからね...。あっ、あと半年ぐらい前の超オーバーワークとかもうしないでよ?あの時は心配だったんだから」

 

「...留意します」

 

半年ほど前、私は周囲の心配を無視し超が付くほどのオーバーワークトレーニングをこなしていた。幸い怪我はしなかったのだが、主に私の練習の様子が周囲に悪影響を与えていたらしく、トレセン学園から強めに指導を受けた。

 

具体的には進級するまで、負荷のかからないトレーニングメニューを中心にすること。また、坂路は一日3本までにすることを義務付けられた。

 

その時はシンボリルドルフやミスターシービー先輩も心配していたらしく、迷惑をかけてしまった。当然たづなさんや理事長にも話は及んでおり、この件については頭が上がらない思いだ。

 

「それじゃ、お昼休みに失礼しました。じゃあねシルバーメモリー、()()()()()()()()()

 

「...!!はい、ご活躍を祈ってます」

 

そう言ってミスターシービー先輩は桜の木から走って練習場に戻っていく。

軽く走っているだけだが、その走りは以前とは比べ物にならない凄みを感じる。

 

彼女は世界が注目する大舞台に挑戦していくが、私も人の応援をしている余裕は全くない。5月後半になればチーム選抜レースが実施され、中等部3年の大半が所謂チーム所属ウマ娘になる。

 

そしてチーム、または専属トレーナーが付いたウマ娘からメイクデビューを果たしていく。

 

メイクデビューに勝利したウマ娘はOPクラスに昇格し、自身の距離適性とバ場適正と相談し、重賞に挑戦していくのだ。

 

練習に身が入らなく腑抜けた私を気遣ってくれたのか、激励を飛ばしてくれたミスターシービー先輩には感謝をしなければならない。

 

どこか小さくなっていた闘志の焔に薪をくべられた、そんな感じだ。

私もお昼ご飯を済ませてプール施設に向かわなければ。

 

銀色のお弁当箱をたたみ、手提げバッグにしまい立ち上がろうとしたその時、ふと思い出した。

 

「そういやさっき初めて呼び捨てされた気がする...」

 

そろそろ桜も満開になるだろう。

 

優駿の選抜は近い。

 

 




将棋やクイズばかり練習してる銀髪の子かわいそう...

新しいウマ娘さんが沢山実装されてびっくりしています。
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