トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー 作:ウホホ・ウホホイ
最近の日課になっている瓦割からのプールからの将棋練習を終え、寮に帰ろうとするや否やシンボリルドルフとばったり会ったので一緒に夕飯を済ませることにした。
時刻は20時前ということもあって、食堂はウマ娘やトレーナーで賑わっている。
特に本日のシェフのおすすめは特性人参ハンバーグ+好きなスイーツ一点という当たり日でもあるので、大食いウマ娘が散見される。ところで新メニューにビタージュースという怪しい飲み物があるのだが、どうも人気は無さそうだ。
「私は人参グラタンとビタージュースにしようかな、シンボリルドルフは?」
「そうだな...私はこの新作の人参パスタのアラビアータにしよう。最近少し刺激のある食べ物がトレンドでね」
「へぇ...そうなんだ。じゃぁこの新作ジュースも頼みなよ。トレンドにマッチングするんじゃない」
「私は今、刺激という言葉を使ったことを非常に後悔している」
そんなやり取りをしながら、空いている席に座る。
この時期の食堂は、色々な思いを胸に食事をしているウマ娘が多くいる。
例えばジュニア期のウマ娘は来月末のチーム選抜レースに向けて、一旦体重を増やしてトレーニング期間に備えるためにこれでもかというぐらい口に食事を運んでいる。
一方でクラシック期のウマ娘は多種多様だ。
緊張のせいで体重が減っているウマ娘は、手を震わせながら胃に食事を詰め込むかの如く流し込んでいる。
太り気味のウマ娘は涙を流しながら、いつもの数分の1の量の食事をチビチビと食べている。
シニア級になると経験値の差なのか、直前にレースを控えているウマ娘の体つきは痩せても太ってもいない。
完璧なプロポーションである。たまにスイーツを食べ過ぎて見事に肥えてしまうシニア級もいるらしいが、都市伝説か何かだろう。
伊達にシニア級まで生き残り、重賞レースで走るウマ娘だ。体の調整技術がまるで違う。
「そう言えばあなたは体重管理とか結構シビアにするタイプ?」
「中等部の期間はさほど気にしないことにしているよ。身長と筋肉が増えれば、当然最適な体重も変わるだろう。本格化を迎えるまではある程度は余裕をもって食事をするつもりではある」
「右に同じ」
シンボリルドルフは身長こそ本格化ウマ娘と変わらないが、実のところ筋肉系統の本格化は迎えていない。
本格化の時期については早ければ早いほど良い、わけではなく中等部の夏を終えるまでに迎えていれば特段問題はない。
偶に中等部3年の3~5月に本格化を迎えるウマ娘がいる。
しかし選抜レース前より早い段階で本格化を迎えても、変化した体格や筋肉に完璧に適応はできないため、大して有利でもない。
ましてや、選抜レースというのは"将来性"を測るレースでもあるので、本格化ウマ娘が着外に沈むなんてことがあれば逆に印象が悪い。
一着が絶対的に評価されるわけでもない特殊なレースなのだ。
「そう言えばチームリギルに所属したんだってね、おめでとう」
「ありがとう、本当はサプライズで伝えたかったのだがな...失敗だったようだ」
シンボリルドルフはこの度ミスターシービー先輩と同じチームである"チームリギル"に早期所属することになった。
忘れてはいけないが、デビュー前ではあるが、彼女はシンボリ家の令嬢であり、新入生代表を務めあげた功績から彼女は既に全国区のウマ娘である。
彼女の周辺には高頻度でトレセン学園公認の記者的な人達がいるため、今回のチームリギルの所属は一瞬でネットニュースになってしまったのだ。
「リギルを選んだ理由って、やっぱりミスターシービー先輩?」
「...それも勿論あるが、やはり自己を鍛える環境が揃っている点が魅力的だったな。トレセン学園には強豪と呼ばれるチームはいくつかあるが、所属するウマ娘、トレーニング環境、トレーナーとサブトレーナーの質についてはリギルが特段優れていると感じた。スピカやシリウスなど色があって魅力的なチームもあるが、私には恐らく合わないだろう」
正直なところシンボリルドルフはチームリギルに所属すると予想はついていた。
リギルの立ち位置は、マルゼンスキーの時代から常にトレセン学園最強のチームである。
そのため基本的に世代の顔、名門出身とされているウマ娘は大体所属している。
シンボリルドルフなんて今や、世代の顔且つ名家のウマ娘であるので所属するチームはリギル以外にイメージできなかった。
「考えてみると、君とチームについて深く話すことは無かったな...興味のあるチームとかあるのかい?」
う~ん...いつかのトレーナー面談でリギル、スピカ、カノープス、そしてシリウスのトレーナーと話したことはあるが、チームについて考えたことは無かった。
そもそもチームへの所属は通常、選抜レースで将来を見込まれたウマ娘がチームにスカウトされる形で所属する。
よほど優秀じゃない限り、スカウトされるチーム数は片手で十分数えられる程度である。
なので、チーム〇〇に入りたい!という願いは大体叶わずに終わるのだ。
「一回リギル、スピカ、カノープス、シリウスのトレーナーと話したことあるけど、あまり興味を持たれなかったかな。私自身、特別入りたいチームはないから選抜レースを全力で走って選ばれたチームに所属するよ」
「ほぅ...随分と豪華なトレーナー達と話す機会があったのだな。その4つのチームは所謂4強と呼ばれているチームだったはずだが」
「私自身もよく理解ってないのだけど、節目に理事長と面談する機会があるじゃない?面談後にそのトレーナー達と面接みたいなことをしたんだよね」
「それは...興味深いな。ひょっとしてその4チームは君のことを狙っているんじゃないのかい?」
「流石にないと思うけどな...ほら、私ってあなたに並走ですら勝ったことないし」
そう言うとシンボリルドルフは、少し考え込むように俯いた。
(流石だな中央は...彼女のオーバーワーク小事件の前に接触しているとは)
中央の屈指のトレーナー達だ。シルバーメモリーというウマ娘の本質、異常性に一早く気づいたのだろう。
目の前でグラタンを頬張っている銀髪銀眼のウマ娘は、決してそこらに存在する凡ではないのだ。
「個人的には君にも是非リギルに入ってほしいが、こればっかりはどうしようもないか」
「私も2人と同じチームに入りたい気持ちはあるけど、こればっかりはね...」
シルバーメモリーにリギルに所属したいという気持ちがあることを確認できたからか、シンボリルドルフの尻尾が軽く揺れていたのは誰にも気づかれてはいない。
「にしてもこの新作のビタージュースっていう飲み物イケてるね...恒常メニューに追加してほしいかも」
「それは...少々厳しいかもしれないな...」
シンボリルドルフの尻尾の揺れがぴたっと止まった瞬間であった。
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「はぁ...はぁ...これは中々堪えるなッ...」
「付き合ってくれてありがとうね。あなた以外に声をかけても何故か断られるんだよね」
それはそうだろう、坂路の並走なんて地獄確定のトレーニングは流石のトレセン学園所属ウマ娘でも敬遠してしまうほどなのだ。
坂路は確かに効果的な練習ではあるのだ。しかし...しかしだ...坂路は兎に角キツイのだ!!!
「はぁ...ふぅ、本当に君の心肺機能は凄まじいな。普通坂路を全力で走ったら呼吸もフォームもバラバラになるものなのだが...」
「慣れだよ慣れ」
んなわけあるか
「そう言えば、あなたはその赤いミサンガを練習の時からつけているんだね。無くすと申し訳ないから私はレースの時だけにするつもりだったけど」
「シービー曰く、赤いミサンガには健康に関するご利益があるらしいから常に身に着けるつもりだ。私自身あまりご利益や神頼みは好まない方だが、かわいい先輩からの贈り物なのでな」
「可愛い"先輩"なんてワード初めて聞いた...私のミサンガは虹色だったけどご利益の内容聞きそびれたな...」
「君のミサンガは虹色だったのか、ふふっ...変幻自在の脚質と戦略を持つ君にふさわしいな。まさしく七色のウマ娘だ」
七色のウマ娘て
「絶望的にダサすぎる...!」
「な...っ!」
三日月の彼女はどこか古臭いセンスを時たま発揮するけど、シンボリ家の教育の賜物なのだろうか...
「いいじゃないか!七色だぞ!七色!レインボーだぞ!!かっこいいだろ!!」
「頼むから壊れないで」
彼女が如何に虹色がイケてるかボディランゲージを使ってまで熱弁していると、腕に着けているミサンガに目が移った。
彼女のミサンガは深紅に近い上品な赤色でまとめられているものだった。
その圧倒的な存在感のある気品あふれる赤色は、まさしく現状世代の王者として君臨している彼女を表している。
「話は変わるけど、選抜レースの調整に付き合ってくれて本当に助かる。選抜レースとはいえ、事実上同世代は軒並みスカウトの競合相手になってしまうから情報の探り合いがね...」
「...なるほどな、チームリギルに所属が確定している私は都合の良い調整相手ってことか」
「言い方。まぁそうなんだけどさ」
「実のところ、この提案は非常に助かっている。同世代は皆各々選抜レースの調整に勤しんでいるから、私から練習の誘いが中々し辛くてな...。我々はWINWINの関係性だったりする」
選抜レースはウマ娘にとってはある種メイクデビューより大事なレースと言っても過言ではない。
目的はあくまで被スカウトを達成することであり、1着こそが全てでは無いにしても、勝利したウマ娘が一番目立つのは不変の事実だ。
目立つことはスカウトされ易くなることであり、有力なトレーナーからも声がかけられ易くなることと同義である。
今後のレース人生を大きく左右するレースが直近に控えてるこの時期に、同世代に自分の走り方の情報を与えることは余りにも不利益であるため、暗黙の了解に近い形で同学年のウマ娘たちは、教官がある程度管理している状態での自主トレーニングに励む。
しかし、私はチームに所属している極めて上質な優駿が身近にいるため、最大限に利用...じゃなくて活用...でもなくて...協力してもらっているのだ。
(にしても、本当にシンボリルドルフは強い...強すぎる)
三日月の彼女は確かに息は絶え絶えで、膝に手を置いてはいるが並走結果は全敗。
一回たりとも彼女を上回ってゴール地点を越えたことは無い。
シンボリルドルフと同世代であること、ダートではなく芝を主戦場にすること、そして中長距離の王道路線を選択すること。
その重みが日々重くなっていくことを痛感する。
(それでも...私は...)
絶対にクラシックディスタンスを選択する。
巷での噂では我々84年世代の当初芝の王道路線を目指していた子達が、続々と芝短距離やダート路線に進路変更していることを聞いた。
私はその選択を非難は絶対にしない、一着至上主義のレースに身を置いている以上、それが最善の選択肢であることは確実であろう。
しかし、私にとってそれは最善ではない。ただそれだけだ。
「ふぅ...今日の練習は充実した素晴らしいものになった。感謝する、シルバーメモリー」
「こちらこそありがとう。5月まで定期的に声をかけてもいいかな?迷惑でなければだけど」
「あぁ勿論歓迎する。君との練習は最早私の生活の一部になっているからね...それと...」
突如彼女の威圧感が爆発する。
この圧力、暴風と勘違いするほどの純粋な力を肌で感じる。
「...一足先で待っているよシルバーメモリー。君がどのチームに入ろうと、3冠路線を選ぶことを私は確信している。ジュニア期最強を決めるレースでも間違いなく相まみえるだろう。奮励努力、全てのレースで全力をもって君を上回ることをここに誓おう」
シンボリ家の最高傑作と謡われているウマ娘からの宣戦布告。
挑発的な舌戦には乗るのが礼儀であろう。
「...思い上がりも甚だしい。既に世代の頂点が自分とでも言いたげだね。トレセン学園最強のリギルに入れて天狗になってるんじゃない?レースには絶対は無いし、クラシック期のケガ一つで勝負の舞台から降りることも少なくない。精々ケガに気を付けてトレーニングに励むことをおすすめするよ。最近聞いたんだけど、どうやらオーバーワークは体に悪いらしいからね」
「....ふふっ、あはっはは!!!!」
「ふふっ...私達に似合わないね、こういうの。ミスターシービー先輩と一緒に先で待っていてよ。歩みは2人に比べて遅いけど絶対に追いついて見せるから」
「あぁ...期待して待っているよ...年末のG1、そこが私達最初の対決になることを心より願っている」
三日月の彼女からの発破とも受け取れる宣誓、宣戦布告。
再び燃え始めた闘志に更に薪がくべられる。
まずは来月の選抜レース、私はそこで絶対に結果を残す。
久方ぶりに鋼鉄の意思が再び胸に灯る。
「...そう言えばシービーから皐月賞の関係者席のチケットを貰ったのだが、シルバーメモリー、君も行くかい?」
「...相変わらずしまらないなぁ」
勿論行くことにした。
チームに所属出来てない銀髪の子かわいそう...
オーバーワーク事件を皮切りに銀髪の子の友人関係はルドルフとシービー以外は冷え込んでます。
お目々ガンギマリで坂路を駆ける姿はあまりにもアレだったので
癖ウマ娘ではありますが、シルバーメモリーと相性の良いウマ娘って実は多そうですよね。
次回83年世代、クラシック開幕