トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー 作:ウホホ・ウホホイ
Chapter.1 はじめまして
ガタンゴトンと揺れながら桜並木の中を進んでいく。
ウマ娘である私にとって、電車の大きな音は少し苦手だけどそれでも心地よさは感じていた。
電車の行き先は日本ウマ娘トレーニングセンター、通称トレセン。
トレセンと言ってもただのトレセンではない。
東京都府中市のトレセン学園、すなわち中央。
国民的スポーツ・エンターテイメントとして位置付けられている「トゥインクル・シリーズ」が開催されるすべてのウマ娘にとってあこがれの地である。
レースでの活躍を目指すウマ娘の学生が集まる全寮制の中高一貫校で、日本の有名なウマ娘のほとんどが東京のトレセンに所属していると言っても過言ではないほどだ。
そんな異次元の猛者が集う学校に何故向かっているかというと
何を隠そう、私も本日付で所属するからだ。
先月小学校の卒業式を終え、トレセン学園中等部に入ることになった。
私の名前はシルバーメモリー、銀毛銀眼のウマ娘。
身長は同年代と比べ高め、耳は少し長いかな...?
ここ一ヶ月で身長が5cm伸びた、所謂本格化の前兆で珍しいことではない。
昨日計ったら167cmだった。トレセンの制服も急遽新調した。
目の色は金属のような銀色、小学校2年生の時にアイアンマンってよくからかわれていた。
髪の毛はストレートで光沢のある銀色をしている。
たまに電車の窓から差し込む光が反射して、前の人に向かってビームを放ってしまうことがある。
小学校の先生から綺麗な髪の毛をよく褒められたことは今でも嬉しい。
性格は...あんまり明るくはないかも。一方でレースになると変に熱くなっちゃうこともあって、気性が変な子なんてよく言われた。
趣味は練習とレース 好きな事は練習とレース 休みの日は練習とレース
何故か他の事に興味がわかない。
ウマ娘の本能とか何とか言われているが、度が過ぎてると自分でも思う。
だから同年代の友達はかなり少ない。少しばかり悲しい。
好きなウマ娘は■■■■■■■■、彼女の様々な距離で自由に走る姿は夢を見させてくれるから。
好む走法は後方からのストライドスパート、前目でのピッチが苦手なだけだけど...
私のいた小学校は所謂ウマ娘進学校であり、有望な子は中央、地方問わず色々の所からスカウトされるようなところだった。
中央にスカウトされるのは2年に1人でるかどうかってレベルらしいのだけれど、なぜか私が中央の人に学園に来ないかと誘われた。
未だに実感がわかない。
なぜなら私は小学校の中でも真ん中ぐらいの実力だったからだ。
中央のスカウトが視察という形で来た際に600mの模擬レースがあったのだが、8人中私は2位だった。
私はスカウトなんてされると微塵も思ってないわけだから、緊張はなかったわけだけど他の子は震えていた。結果を出さなきゃ、勝たなきゃという思いがあったのだろうか。
小学校では珍しく緊張がはしる中、レースは始まった。
だけど結果は2位、震えていた子に差し切られてしまった。
万全な状態で全力を出してこの結果だ。
これが私の実力、レースは好きだし練習もサボったことない。勝てる環境が整っても勝ちきれないそんな小学校生活だった。
レース後、汗を拭き息を整えいつものトレーニングルームに向かおうとしていたら、私の髪の毛をよく褒めてくれる先生に声をかけられた。
「あの、シルバーメモリーさん!」
妙に嬉しそうな顔をしているね先生、どうしたの。
「中央のトレーナーさんがお話ししたいって!」
えっなにそれは...怖っ
ってか先生興奮しすぎ!手を引っ張んないで!
先生に教務室の近くの応接間に連行...案内をされ、恐る恐る扉を開けた。
そしたら年齢は20代後半...いや30代前半ぐらいの男性が立っていた。
流石中央のトレーナーといったところか、スタイルは良いしスーツも高価なものっぽい。
匂いのケアをしっかりしているのだろうか、お酒や煙草の残り香や昼過ぎなのに食べ物の匂いはしない。
ウマ娘の管理を生業にしていることがこの数秒で感じ取れた。中央トレーナーって凄い。
「レース直後に申し訳ない。私は府中にある日本ウマ娘トレーニングセンターのトレーナーです。君がシルバーメモリーさんであってるかな?」
「はい...八美小学校6年、シルバーメモリーです」
府中...中央...
「うん、とても良い眼をしている。とても中等部前の子とは思えませんね。先生方のご指導の賜物でしょうか」
なんというか得も言われぬ威圧感があるなこの人、少し怖い。
「いえいえ、シルバーメモリーさんは誰よりも向上心がありまして、練習も真面目に取り組んでくれる良い子ですので逆に安心というか放任気味になってしまうんですよねぇ」
そんなことないよ先生。いつも練習に付き合ってくれてありがとうね。
だけど大人の会話は苦手だ、早く本題に入れって思ってしまう。こういうところが子供なのかな。
「あの、すみません...中央のトレーナーさんが私にどのような用件でしょうか、正直先程のレースでは良いところが無かったと思うのですが」
「いいところがない?」
「はい、スタート直後中段4番手をキープしたあとデュッセルちゃん...一位の子に後方につけられた時点でペースを上げる判断が出来ませんでした。そのまま300m付近までウッドパワーちゃん...3位の子が先頭で次が私、背後に1位の子がポジションキープしてしまった時点で勝負は決まっていました。私より、ペースキープが上手い子が先頭、後ろに私より優れた末脚を持つ子を控えさせるなんて最悪です。しかも今日は晴れの良バ場、芝も先週入れ替えたばかりでいつも通りの力が出やすい環境が整っている。勝つなら200mの標識が過ぎたあたりでペースを早めて、前の子とのバ身差を詰めたうえで、1位の子の内側に入るように位置取りすべきでした。そうすれば、最終直線で外目を走っていた前の子はスタミナ不足で垂れて前が空き、経済コースを走りながら1位の子と5分5分で差し合える状況に持って行けたのに...中央のトレーナーさんの前でお恥ずかしいレースをお見せしたと思っています」
「...ここの小学校はみんなこんなことを考えて走っているのですか?」
やってしまった。いつもの癖が出た。
「いやぁ流石に...シルバーメモリーさんだけですよ、この年齢でここまでレースを俯瞰して走っているのは...」
小さい頃からいっぱいレースを見てきた。クラシックディスタンスは勿論ダートや地方、古バや海外など時間が許す限りウマチューブで見るのが好きだった。
まわりの子は1着のウマ娘に対して目を輝かせ、羨望の眼差しを送っていたけど、私は2着だったり4着のウマ娘をよく見ていた。何故か引かれた。
だからだろうか、いつからか「このウマ娘はなぜ負けたか」についてよく考えるようになった。
才能で負けたのか、環境で負けたのか、準備で負けたのか、メンタルで負けたのか、負けにも色々あることを知った。
正直敗因を考えるのは面白い、負けに不思議の負けなしと有名なトレーナーさんが言っていたけど、その通りだと思う。考えに考えれば、確実に敗因は見つかる。負けるのはめちゃくちゃ嫌だけど「思考」することは得意だし好きだ。
一方で勝因は結論を出すには色々と残酷なケースが多い。勝負の世界だから。
「それを聞いて安心しました。今のレース論は中央でいったら中等部のレベルといってもいいレベルです。スピードが足りなかったとか、パワーが足りなかったとか肉体レベルの反省はすることはありますが、距離毎のレース感覚やレース当日環境を考えながら走る子は見たことありません」
そうなんだ。意外な話だ。
「あと一つ質問があるんだけど、いいかな?先生に君の1日のスケジュールを聞かせてもらったんだけど、睡眠と学業以外の時間をすべて練習やレース関係に使ってるのは本当?」
変なことを聞くね。
「はい、お父さんやお母さんにもよく心配されますが、とても楽しいので問題ないです」
「...ちなみにいつぐらいから?」
「小学校1年生からです」
「・・・!」
とても驚かれた気がする。
中央のトレーナーさんでも小学生のウマ娘の話で驚くことがあるんだ。
「...最後に変な質問していいかな?」
なんだ、最初から変な質問してるじゃない。
「君、模擬レースやリトルレースで1着取ったことある?」
シルバーメモリーは鋼のような銀色の目を輝かせ冷淡に口を開いた。
「1度もないですが」
即答する。恥ずかしい話だ。
それを聞いたトレーナーは急に慌ててお父さんの携帯番号を教えて欲しいと言ってきた。
知らない人に教えるのはダメと先生から教えられたけど、中央のトレーナーさんはもう知り合いだからいいのかな?
先生からお父さんの携帯番号を聞いた中央のトレーナーはすぐさまウマホを取り出し廊下に出た。
真面目なトーンでお父さんと話す中央のトレーナーを片目にさっきの質問の意図について考えていた。
(小学生でこんなことを考えて走っているのか?)
(小学校1年生でこの練習密度?)
(1着を取ったことはあるか?)
・・・・
要はこういうことかな。
小学生にも拘らず遊ぶこともせず、一歩間違えれば怪我をするほどの練習密度を6年続けているのに、1着を取ったことない才能なしのウマ娘に驚いているってこと?
それとも負け続けてるのに練習をすることに驚いたのかな?
話の流れから結論付けてはみたけど、何に驚いているか全く理解できない。
だって
敗因が分かっているなら当然練習するでしょ
私には才能が無いから
スピードがないから パワーがないから スタミナがないから
末脚が無いから 野性的な勝負勘がないから
あるのはレースに対する執着心、根性、思考力と
お父さんとお母さんから貰った自慢の頑丈な体
ないものをあるもので埋めなきゃ勝てない
何回負けてもいい、何回打ちのめされてもいい
私はレースが好きだから、レース以外に興味が無いから
満たしてくれるのはレースしかないから
勝ちたいという気持ちは何回負けても消えない、諦めるなんて言葉が頭に浮かんだことはない
勝つために練習する、磨き上げる、成長する
捧げることが出来るならすべてを捧げる
当然のことでしょ?中央のトレーナーさん
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電車の速度が緩んでいき、目的の駅に到着した。
荷物は忘れないようにしないとね、初日にバッグを電車に置いてきたなんて一瞬でネタキャラになってしまう。
電車から降り、トレセン行きのバスに乗り継ぐ...のだがバスターミナルはどこだろう。
あまり都会に馴染みがないものだから迷ってしまった。この場合の敗因は田舎出身?
しかし私は焦ることはない。
こういう時に備えて重要な催し物がある日は1時間前行動するようにしている。
これによって高度な柔軟性で臨機応変に対応できるのだ。
トレセン学園の面接日に遅刻しそうになったあの日を思い出す。
今日と別方向からトレセン学園に向かったのだが、見事に迷った。
あの時、緑色の服の綺麗な女の人が助けてくれなかったら今この場にはいないだろう。
ありがとう緑の天使。
過去の負けは無駄にならないのだ。こうやって次に生かせる。
なんてのんきなことを言ってる場合ではないことは確か。臨機応変に対応だ!
ウマホを開き地図アプリを開こうとしたが、突然後ろから凛々しい声で話しかけられた。
「すまない、君もトレセン学園行きのバスを探しているのかい?」
後ろを振り返ると、三日月に似た形の流星が特徴のウマ娘に声をかけられた。
「はい、今からトレセン行きのバスに乗り継いで入学式に向かう途中ですが...制服を見るにあなたも?新入生なものでバスターミナルの方向が分からなくなってしまって...」
「それはよかった...というのも変だが私もトレセン学園にいくつもりなんだ」
大人びたウマ娘だなぁと思ったのが正直な感想だ。
「安心してくれ、先輩でもなんでもないぞ。私も今日から入学するウマ娘だ、同学年ってことになるな」
「あっそうなんだ、同じクラスになれたらいいね。よろしく」
「あぁよろしく、君とは"知己朋友"の関係になれそうだ」
「FOR YOU」
「えっ」
微妙な空気が流れる
えっ説明しなきゃいけないのかな、今のは知己朋友の「朋友」とあなたのこと思ってますよ~という意味の「FOR YOU」をかけた激ウマギャグなんだけど、しかも返答速度もなかなかいい線言ってたと思うんだけど、芸術点も95点ぐらいあるよ絶対ひょっとしてこの三日月の流星の子、センスが悪...
「あっははははっ!これはやられたな!朋友とFOR YOU...くくっ
そういうのもあるのかっ!ふふふっ!あははっ!」
センス良いね、朋友になれるよ私たち
「あははっ...!っとすまないな、自己紹介もせずに大きな声で笑ってしまって。朋友...FOR YOU...ふふっ」
凄いツボってる
「変なこと言ってごめんね、私はシルバーメモリー。今日からトレセン学園に入学する新入生」
私は無難に名前だけの自己紹介をする。我ながらセンスのない自己紹介だ。
「ふふふっ...んんっ!」
咳払いをして呼吸を整えた三日月の彼女の雰囲気が急変した。
「すまない自己紹介が遅れた」
目に光が宿る。周りの空気が震えている。
錯覚ではない、間違いなく錯覚などではない。
私はこの感覚を知っている、知っているがそれは動画での話
ウマ娘の中でもトップオブトップが放つという"気"のようなもの
私のウマ娘としての闘争本能を刺激する
直接あてられるのは人生で初めての経験だ
「私の名前はシンボリルドルフ
これから君と覇を競えると思うと楽しみで仕方ない
よろしく頼む」
この時私は無意識に笑っていた
当作品では銀≒鉄≒鋼です。
許して。