トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー   作:ウホホ・ウホホイ

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Chapter.19 選抜レース①

本日は、トレセン学園中等部3年生を対象にしたとても重要なレースが開催される。

 

トレセン関係者のみならず、日本中が注目する「選抜レース」である。

 

選抜レースとは、例年5月中旬に開催される学園内の模擬レースのひとつであり

ここで結果を残したウマ娘は、有力なトレーナーにスカウトされるだけではなく、

チームに所属するきっかけを得ることができる。

 

翌日には全国区のニュースで報道され、ネット記事やSNSでは選抜レースの話題で持ちきりになる。そのため、新聞や速報性のある雑誌の表紙は結果を残したウマ娘で埋まる。

 

本日は雲一つ無い晴天、気温湿度ともに良好。

風は肌をなでる程度だ。

 

選抜レースには、ケガで出走を断念せざるを得ないウマ娘以外は基本参加するため

現在トレセン学園のレース場では、多くのウマ娘がウォーミングアップをしている様子が伺える。

 

私ことシルバーメモリーも当然参加する予定である。

今は出走登録をするために、受付に足を運んでいる。

 

受付に本日出走を希望するレースの参加表を渡している最中だ。

 

「シ、シルバーメモリーさん、参加するレースですがこちらで間違いないでしょうか...」

 

「はい、本日参加するレースはその表通りでお願いします。芝1200m、1600m、2000mの()3()()()()()()()を希望します」

 

選抜レースは一日中通しで開催され、午前中にダートのレース、午後に芝のレースが開かれる。

 

私は午後に開催される3つのレースに参加する予定だ。

 

一つ目は、将来スプリント路線を目指すウマ娘が参加する芝1200m。

 

二つ目は、短距離からマイル路線を主戦場にすることを目指すウマ娘が参加する芝1600m。

 

三つ目は、所謂王道路線...

クラシックディスタンスの制覇を目指すウマ娘が参加する芝2000m。

 

選抜レースに2500m以上があれば、そちらも参加を希望したのだが...

基本的に、本格化を迎えていないウマ娘に長距離を走らせることは、未成熟な肉体にダメージを与えることになりかねないためNGとされている。

 

私は以前、ミスターシービー先輩との並走でムキになって3200mを走ってしまったが...その件については反省はしている。

 

私は同学年に比べて少しスタミナに長けているらしく、1日3~4本までなら距離関係なく本気で走破することが可能であるため、本日は3種のレースに登録した。

 

また、距離別で登録したのには理由がある。

恥ずかしい話、私は自身の適性距離が未だ把握できていない。

 

短距離だろうがマイルだろうが中距離だろうが、はっきり言ってどれも苦手意識も得意意識もない。距離によって走り方を変える性質のせいだろうか。

 

とにかく自身の可能性を私が理解っていないため、本日は距離別に複数のレースに出ることを昨日の夜に決めた。

 

決して「レースいっぱいでたら、いっぱいみてもらえる!」という幼稚な考えではない。本当に。

 

話は変わるが、私は入学当初は距離バ場関係なく、強者とG1の舞台で何年も何年もレースをしていたい...という漠然とした夢を持っていた。

 

しかし、今は違う。

 

彼女らの幻影が脳裏に浮かぶ。

ミスターシービー先輩、そしてシンボリルドルフ。

 

彼女とG1の舞台でしのぎを削りたい。魂を削る戦いをしたいという強い思いが胸に宿っている。

 

そして彼女らはスプリンターでもマイラーでもない。

彼女らと戦うには2000~3200mの中長距離路線しかない。

 

だから、今日の本命は芝2000mの最終レース。

そこで中央トレセンのトレーナーのご慧眼に認められる必要があるのだ。

 

「13時に1200m...15時に1600m...17時に2000mか...。徐々に距離が伸びていくのは非常にありがたいな。これが逆だと筋肉の調整が面倒くさいし、感覚もぶれる」

 

現在は午前8時、あと5時間ほど入念な調整をしなくては...

 

9時になると全レースの出走ウマ娘が告知される。

私は同学年の全ウマ娘の走り方、脚質、道中の癖、スパートタイミング等一通り頭には入っているため、どのウマ娘が相手になったとしても、十分な対応が可能である。

 

しかし、それは昨日までの彼女たちの情報でしかない。

 

今日私が戦うのは、あくまで今日の彼女たち。

 

レースまでの時間を最大限使い、戦略の土台になる彼女たちの情報を集める予定だ。

 

たとえレース人生で勝利したことが無くても、出来ることは全てする。一切の抜かりはない。

 

それがシルバーメモリーというウマ娘なのだから。

 

 

 

---------

 

 

「おハナさん、隣いいかい?天下のリギル様も選抜レースに毎回出席して偉いもんだ」

 

「あなたねぇ...ルドルフのライバルになる子達が都合よく集まってくれるのよ?そんな機会に足を運ばない訳ないじゃない」

 

「沖野Tは今年こそいい加減スカウトしましょうよ。今のスピカあまりにも少数精鋭すぎません?毎年G1を複数取るのは流石ですけど」

 

「それはシリウスだって同じようなもんだろ。それに俺はビビっと来たウマ娘しかスカウトしない主義だっての」

 

「七市君は知らないかもしれないけど、この男過去に色んなウマ娘に手を出したせいでトラウマを植え付けられたことがあるのよ。キザったらしいセリフで格好つけてはいるけど、単にビビってるだけね」

 

「ははは...カノープスは今年は2名ほどスカウトさせて頂く予定です。ちょうど短距離とマイルをメインに走っていた子達が卒業を迎えましたので」

 

「シリウスは今年は1人だけスカウトするっす。幸いリギルさんを押しのけて桜花賞と天皇賞を頂けましたし、今年はそっちの子達に付きっ切りになりそうなんで」

 

「あら、うちのシービーが皐月賞を取ったことはお忘れになったのかしら?」

 

「こらこらバトるなバトるな」

 

 

現在時刻はお昼休み、午後から芝のレースが始まるためトレセン学園の有力なトレーナー達がレース場に足を運び始めていた。

チームトレーナーも当然視察に訪れるため、ウォーミングアップしているウマ娘も聞き耳を立てて話を伺っている。

 

この場にいるのはチームリギルの東条トレーナー、チームスピカの沖野トレーナー、チームカノープスの南坂トレーナー

そしてチームシリウスの七市トレーナーである。

 

「先輩たちは気になる子います?僕は断然あの子ですけど」

 

「あの子ね...まぁ私も興味はあるわ。得体の知れなさという意味で」

 

「僕も右に同じですね。年末のオーバーワークにはヒヤリとさせられましたが、潜在能力は恐ろしいものを感じます」

 

「シルバーメモリーか...どういう走りを見せるか想像もつかんな」

 

トレセン学園上位4チームを有している彼らからしても、シルバーメモリーがどういう走りをするかは予測がつかない。

 

「そう言えば、以前彼女を担当している教官からお話を伺う機会があったのですが、やはり彼女の適性距離に関しては分からず仕舞いだったそうです」

 

「まじっすかぁ!短距離から長距離まで適性あるって可能性の獣じゃないですか」

 

「それと同時にトレーナー泣かせでもあるわね...。全適性が仮にあったとしても、短距離と長距離では使う筋肉が全く違う。どちらにせよ練習方針を偏らす必要があるわ」

 

「ある意味、トレーナーが試される側よな」

 

「じゃぁ、スピカがおすすめっすね。沖野Tも過去ではある意味全適性のタラシだったらしいですし」

 

「七市、今日の夕飯お前の奢りな。桜花と春天で懐潤ってんだろ」

 

「えぇ~!まだ振り込まれてないっすよ~!...あっシルバーメモリーちゃんで思い出したんですけど、彼女今日の午後のレース3つ出るっぽいですよ」

 

「...それは本当ですか?全距離に適性を持つとしても、立て続けに3レースは流石に...登録ミスか何かじゃないのですか」

 

「いや、あいつは走るぞ...間違いなく走る。あいつのスタミナというか体力そのものが異常すぎる。疲れってものを知らないようなウマ娘だ」

 

「走りかねないからトレーナー泣かせなのよ...全距離に適性があって、体力そのものがトップレベル...文字通り可能性の塊。あの子の練習メニューとレースローテーションを考えるだけで丸一日無くなるわ」

 

「いっそ4000mのゴールドカップを走らせてみたいっすけどね」

 

「そんなこと考えるのはお前だけだよ...」

 

「ははは...」

 

 

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一方、1200mのレース場ではシルバーメモリーがウォーミングアップを行っていた。

1200mという一瞬で終わる電撃戦では、スタートとポジショニングが非常にレースに影響があることは言うまでもない。

 

スタートについては世代の中でも優れている方という自負はあるが、出走ウマ娘を考えるとポジショニングについては悩ましいところがある。

 

というのも全体の傾向として逃げから先行を好むウマ娘が少ない。

短距離においては、先団から先頭にかけてが有利とされているのだが

本日の出走表を見るに、中団下位でのポジショニングを好むウマ娘が多い。

 

しかし、ここまで先団が空きそうな雰囲気が漂っているならば

敢えて臨機応変に先行作戦を取ってくるウマ娘もいるだろう。

 

という風にポジショニングについて頭を悩ませていると、後ろから声をかけられた。

 

「メモリーちゃん!応援しに来たよ!」

 

「ミスターシービー先輩、それにシンボリルドルフ...」

 

「君はいつも驚かせてくれるな。今日は短距離から中距離までの3レースに出走するそうじゃないか」

 

"チームリギル"のウマ娘がそこにはいた。

 

トレセン学園に身を置く者であれば、誰もが知っている知名度100%の彼女たちに話しかけられたせいで、周囲のウマ娘達の視線が一気に私に集中している。

 

「応援はありがたいですけど、天下の皐月賞ウマ娘とリギル早期所属ウマ娘に話しかけられるとマークがきつくなりそうなので、やめて欲しかったのが正直なところです」

 

「えぇ~つれないなぁ。むしろそういう()()()()()()するのが君じゃない」

 

「...まぁそうですけど」

 

「それに今日は皐月賞のお礼も兼ねて応援しに来てるからね。改めてありがとうね、レース前にメモリーちゃんとお話ししたおかげでレースに勝てたよ」

 

「私のお話がどう影響したか理解らないですけど...役に立てたようで良かったです」

 

「だから今日は私から言うね。シルバーメモリーちゃんのいつも通りを見せてよ」

 

シルクハットの彼女の眼が鋭く光る。

まるで、自分が大切に育んできたものを見るかのような視線だ。

威圧的でどこか優しさがある眼に惹かれそうになる。

 

「私もこの選抜レースは非常に楽しみにしていた。勿論君が出走するということもあるが、何より将来私と覇を競いあうウマ娘が一堂に集うのだからな。...シルバーメモリー、私は同世代のウマ娘の仲では君が群を抜いていると思っている。少々言い方は過激かもしれないが...今日のレースで失望させてくれるなよ」

 

「...2人とも随分と私の評価が高いよね。毎日並走でボコボコにしてきたくせに」

 

私の小言に2人は一切表情を変えない。何かを確信して笑みを零しているままである。

なんだよその眼は...。

 

「...まぁ2人はそこで見ててよ。あなた達が期待しているウマ娘の実力をさ」

 

そう言って私はゲートに向かう。

 

第一走目、芝左回り1200mのレースが始まる。

 

 




銀髪の子、選抜レースがんばえ〜まけるな〜

いつも高評価、ご感想、誤字のご指摘誠にありがとうございます。
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