トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー   作:ウホホ・ウホホイ

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Chapter.21 選抜レース③

「絶対ダイジョブだって!!自信もってけ!!!」

 

「そうよ!そうよ!これまで誰よりも練習してきたじゃない!いつも通りのあなたの走りをすればいけるわよ!」

 

「う、うん、私頑張るよ」

 

私は今から選抜レースの芝1600mに出走するウマ娘。

非常に緊張しやすい性格で、レース前はこういう風にガチガチになってしまう。

 

今は午前中のダートのレースで結果を出した友人達に励ましてもらっている。

私達は仲良しグループで、中等部の入学式以降意気投合し、いつも一緒にいる仲だ。

 

ダートの適正があれば私も彼女らと走ることができたのだが...

私は、芝且つ1400~1600mの距離でしか本領を発揮できない可能性が高いため

将来はマイラーとして頑張りたい所存だ。

 

夢は国内マイルのG1完全制覇!...って言ってみたいけど、自信はあんまりないかも...えへへっ

 

お母さんが昔トゥインクルシリーズのマイルのG1を2つ取っているから、きっと私にもマイラーの素質があるのだと思う。

 

お母さんが制覇したG1のトロフィーを眺めることが小さいころから大好きで、

一人で寝るのが怖くなった時や、トレセンの受験の前日などはトロフィーを抱っこして寝てたこともある。

 

だから...これからマイラーとしての第一歩を踏むことになる選抜レースは、いっぱい緊張してはいるけど誰よりも気合が入っている...と思う。

 

「ところで、さっきあんたの出走するレースの出走表見たけど、あの銀髪の子には気をつけなさいよ。あの子、このレースの前に1200mの方で一着取ってたわ」

 

「うん、凄いよね...。普段中距離の練習しているのに短距離で優勝なんて...」

 

「感心している場合じゃないわよ!あの銀髪変人にあんた舐められてんのよ!ボッコボコにしてやりなさい!!」

 

「そ、そうかなぁ...」

 

彼女の言いたいこともわかる。普段から中距離の練習をしているウマ娘が2時間前に1200mのレースに出走、その後間髪入れずに1600mのレースに出るのだ。

 

勝てるから出る、そういう理屈の下に出走を登録しているのは間違いない...かもしれない。

 

「でもシルバーメモリーさん、普段から凄い練習してるし...もしかしたらマイルも問題なく走れるんじゃないかな...?」

 

「...たしかにあの子の練習量は凄いよね~。とてもじゃないけど真似できないや」

 

話したことは無いけど、私はシルバーメモリーさんを尊敬している。

 

周りの同級生はシンボリルドルフさんを避けて別路線での活躍を目指しているけど、彼女はシンボリルドルフさんと向き合ってクラシック3冠路線を目標にしていると聞く。

 

私はマイルしか走れない。

 

だから、シンボリルドルフさんの凄さは話で聞くこと以上のことは知らない。

彼女が中距離のレース場で、どういう思いでシンボリルドルフさんに食らいついているか理解らない。

 

でも、歯を食いしばって食らいついていく彼女の様を見て勇気をもらった数は計り知れない。

雨風の中でも坂路を走る姿や、食堂で苦手そうな人参を頑張って食べる姿、一心不乱に瓦に拳を振り下ろし続ける姿を端から見て、もう一踏ん張りする元気を何回も貰った。

 

「うん、でも大丈夫。私はマイルでは負けないよ...マイル以外は勝てないけど...」

 

「あんたは本当にネガティブ思考ね!いいじゃないマイルしか走れなくたって!何が王道路線よ、あんたの末脚で銀髪の子含めた全員ぶち抜いてやりなさい!!」

 

「そうだそうだ~、全員やっちまえ~!」

 

自分は本当に友人に恵まれていると再認識した。

応援してくれる家族や友人のためにも、このレースは絶対に負けられない。

 

「二人ともありがとう...少し緊張するけど、私頑張るね!」

 

入学時は不安一杯で中央でやっていける自信がなかったが、今ではこうして胸を持ってレースに臨める。

 

シルバーメモリーさんも気になるけど、他の子達も優駿であることには間違いない。

マイルには絶対的な自信はあるけれど、今日は挑戦者の気持ちで走るんだ。

 

(頑張るぞ...えいっえいっお~)

 

心の中で特別なおまじないを唱えてターフに向かう。

 

 

----

 

 

「あ、あのっシルバーメモリーさん、本日はよろしくお願いいたしますっ」

 

ウォーミングアップを終え、ゲートインまで10分程時間があったので勇気を振り絞ってシルバーメモリーさんに話しかけてみた。

 

「あなたは...これは一筋縄ではいかなそうですね。練習中に何回か見かけたことはあるのですが、失礼ながらお名前が分からなかったもので...出走表を見てもあなたが登録していることに気付けませんでした。大変失礼いたしました」

 

「いえいえっ!こちらこそ練習中に不躾な視線を飛ばしてしまって失礼いたしましたっ!」

 

あれ?噂で聞くより全然優しい人...

私の声に気付いた彼女はこちらを向くや否や、ビックリするほど丁寧に接してくれた。

 

「あなたの本気の走りはこれまで見たことがないので、一緒に走ることができて非常に光栄です。お互い悔いの無い良いレースにしましょう」

 

「はいっ!胸を借りる気持ちで挑ませていただきます!よろしくお願いいたします!」

 

個人的に尊敬しているシルバーメモリーさんとお話しできてとても嬉しい。

真摯に練習に取り組む方だから、レース前に話しかけたら迷惑かな...と思ったけど勇気を出してよかったかも。

 

とはいえ、レースになれば本気の戦いになる。

彼女を実力で捻じ伏せなければ先着することは叶わない。

 

マイルは私の世界ということを彼女に思い知らせる...!ことができたらいいなぁ...えへへっ。

 

 

 

 

---

 

 

『さぁ、そろそろ選抜レース"芝・右回り1600m"の戦いが始まろうとしています!最後にゲートインしますのは、先程芝1200mのレースで一着を勝ち取ったシルバーメモリー!なんと1600mのレースにも姿を現しました!!』

 

最後にシルバーメモリーさんがゲートインし、辺りが静寂に包まれている。

 

友人曰く、シルバーメモリーさんは逃げウマの背後にぴったりとつける戦略を取っていたと聞く。

したがって、彼女の脚質は先行から逃げであることは間違いないだろう。

 

一方的な情報アドバンテージを持っているのは少々気が引けるが...これは決して遊びではなく命の取り合いに相当する真剣な戦いなのだ。

 

情報の収集は立派な戦術の一つ。レースは戦う前から始まっているのだ。

 

さぁ、出走だ。

 

 

 

---

 

 

『スタートしました!!さぁ、苛烈な先行争い!どのウマ娘が前につくのか!』

 

私は基本的に序盤は前に行かない。

 

最終直線に全てをかけるタイプのウマ娘であり、最後の2ハロンの加速は誰よりも自信がある。

大外から前方のウマ娘をごぼう抜きするスタイルが持ち味である。

 

そのため、スタート直後は中団下位のポジションで様子を伺うことが自分の中で定石になりつつある。

 

(序盤はとにかく体力を温存...!仕掛けどころはバ群が縦長になって大外から攻めやすくなった瞬間!)

 

恐らく序盤はシルバーメモリーさん中心にレースが展開されるはず...!

 

...だけど何かおかしい...バ群は確かに縦長気味にはなっているけど、思ったより中団が団子になっている。

 

違和感を覚えた次の瞬間、とあるウマ娘が前から私の左前にススっと下がってきた。

そのウマ娘の顔を確認して私は驚愕する。

 

(シルバーメモリーさんッ!?)

 

彼女は逃げ、又は先行位置にいるものだと完全に油断していた。

私の現在位置は所謂差しのポジションであり、彼女のポジションは大外回りの進行方向に対して壁になる所となる。

 

思考を回していると、シルバーメモリーさんはちらりと私の方を確認して何やら納得している様子だった。

 

(狙い通りのマーク、ということですか...受けて立ちますっ!)

 

レース前半を終え、後半に突入する。

 

前を塞がれたとはいえ、依然私のポジションは末脚勝負では有利に働く位置であることには間違いない。

彼女が壁になろうが、大外から捲って勝負を決めてみせる!

 

と、レースの大局を見極めたと同時にシルバーメモリーさんが外側から接触ギリギリまで接近してきた。

 

(なんですかッ!?このマーク!?彼女との距離は一体何センチ...いや何ミリ...ッ!?)

 

肌と肌が触れ合うレベルのマークなんて聞いたことがない!一歩間違えたら事故ですよッ!?

 

シルバーメモリーさんと目が合う。

 

当の本人は汗一つかかずに、この超マークを成立させるために正確無比に脚をバ場に刻んでいる。

 

(この方は何という走りを...ッ!?)

 

そもそも私をワンマークしていることすら驚いている。

 

レース前に彼女と話した際に、彼女は私の名前すら把握できていなかった。

練習場ではお互い目にしていたかもしれないが、レース用の本気の走りを晒したことは一度たりとも無い。

 

それが...まるで...私が道中は中団下位に位置する差しウマ娘であることが分かっているみたいに...

 

(くッ...!このままではいけない!このマークを許してしまったら、最終直線で本領を発揮できない!)

 

(一回ポジションを下げて...だめ!そんなことをする余裕は後半には無い!)

 

(それなら外側からシルバーメモリーさんを一旦抜く...それもだめ!あまりにも体力を使いすぎる!)

 

残された選択肢は二つ

 

 

①このポジションのまま最終直線に入り、目の前のバ群の間を縫うように差し切る

 

②一回内側に寄り、リポジショニングを図る

 

 

今迄大外からの末脚をウイニングショットにしてきた私にとって、①は余りにも経験不足でリスキーだ。

この二つは余りにも苦渋の選択であった。

 

実質取るべき行動はリポジショニング一択である。

 

しかしリポジショニングを決断した瞬間、シルバーメモリーさんが()()()()()()()()()()

 

(これは...チャンス!!)

 

シルバーメモリーさんが一歩だけ内側に寄ったことで、外回りの作戦が現実的になった。

 

目の前に、千載一遇の光る蜘蛛の糸が垂れてきた。

彼女もきっとギリギリのところでマークをしていたのだ。その結果つけ入る隙が生じた。

 

そして私は彼女の外側を回ろうとした...その刹那、

 

彼女も息を合わせたかのように、コンマ数秒私より先に外側に膨らみ、スパートをかけるために大きく一歩踏み出した私と接触した。

 

軽く接触したその瞬間、私の片腕が後方に大きくぶっ飛んだ。

 

(なっ!?...なんて力!?)

 

シルバーメモリーさんは見た目はスレンダー系で、とてもフィジカルコンタクトが得意なウマ娘には見えない。しかし、軽く触れただけで腕が引きちぎれるんじゃないかと錯覚するほど弾き飛ばされた。

 

私はバランスを崩すまではいかなかったが、スパートの出鼻を挫かれてしまう。

 

一方でシルバーメモリーさんは接触するや否や、一切バランスを崩すことなくスパートを開始した。

一歩踏み込んだ瞬間、大地は軋み、芝は擦り切れ、爆発音と共に加速していく。

 

(....ッ!!!私もッ!!!!!)

 

彼女がスパートをかけたことで、目の前に聳え立っていた壁が消えた。

 

私も彼女に追いつくために全身全霊の末脚を爆発させ...

 

(あれ...?)

 

しない。

 

爆発しない。

 

思ったより力が入らない。

 

脳裏に浮かぶ原因、それはとある銀髪ウマ娘の強烈至極のワンマーク。

 

彼女が常に壁になり、私にプレッシャーをかけ続けたことによる精神的、肉体的疲労がここにきて表面化した。

 

結局、私は最終直線本領を発揮できず三着に終わった。

 

そしてシルバーメモリーさんは堂々の"一着"だった。

 

 

---

 

 

「ねぇ!!さっきの接触あの子の進路妨害でしょ!!審議申し立てなさいよ!!!」

 

「いやぁ、それはちょっと難しいかもねぇ」

 

「うん...どちらかと言うと私がシルバーメモリーさんを後ろから押しちゃったかも」

 

結果的に接触の衝撃を受ける形になったのは私の方だけど、彼女のスパートを後追いする形でぶつかったのは事実だ。

 

故に審議を申し立てても、私の接触として裁かれるだけであろう。

 

「だから後でシルバーメモリーさんに謝らないと...」

 

「あんたは本当にお人よしねぇ...もっとがめつくなった方がいいわよ?」

 

「あはは...そうかも...」

 

「おっと、銀髪の子インタビューから戻ってきたみたいだよ。行ってくれば?」

 

「あっ、うん!ちょっと行ってくる!2人ともありがとう!」

 

 

 

---

 

 

「シルバーメモリーさん!」

 

「あっ...あなたは...先ほどはごめんなさい。最終コーナー手前でぶつかってしまい...」

 

「い、いいのいいの!こちらこそ後ろからぶつかってごめんなさい!お怪我はありませんでしたか!?」

 

「はい、全く問題ないです。幸いなことに擦り傷ひとつありませんでしたから」

 

それはそれで凄い気が...

 

「一着おめでとうございます。最後のスパートは本当に素晴らしかったです。...一つ気になったことがあるのですが、差し支えなければご教示願います。先団から、私の目の前まで脚を緩めてきたのは意図的なものなのでしょうか...!」

 

私の唐突な質問に、彼女は表情一つ変えることなく冷淡なトーンで答えた。

 

「...はい。このレース、あなたに好きなようにレースをされたら勝ち目はありませんでしたから。それにあなたの過去のレースを確認したところ差しを好んでいそうでしたし、今日の脚の筋肉も末脚が強烈そうなウマ娘のそれでしたので」

 

「えっと...シルバーメモリーさんの目の前で模擬レースを走ったことは無いと思いますが...。一体いつのレースを...」

 

中距離を主戦場にする彼女と、マイルを生業にする私とでは当然模擬レースで出会うことは無い。

それが理由で彼女の言っているレースというのがよく理解らない。

 

頭を悩ませていると、シルバーメモリーさんが口を開く。

 

「2年前」

 

「はい?」

 

「目の前で走ったじゃないですか。同じレースではありませんでしたが、()()()()2()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう答えられた瞬間、胸に何か衝撃が走った。

 

「...ではレース前に私の名前を知らなかったといっていたのは」

 

「そんなわけないじゃないですか。あなたほど才能に満ちているマイラーの名前は忘れるはずないでしょう。情報の収集は立派な戦術の一つです。レースは戦う前から始まっている...そうでしょ?」

 

あぁ...シルバーメモリーさん...そうか、この方はそこまで...!

 

前から中団に降りてきたことも、私の左前にポジショニングしたことも...

何なら、私がスパートしようとした瞬間に先にスパートを仕掛けたことも恐らく...!

内側に一歩ずれて大外の進行ルートを開けたことさえも!!

 

「今日は運が良かったです。あなたほどのマイラーを抑えて先着できたのですから」

 

「はいっ...はいっ...!!」

 

何でだろう、レースに負けたのに笑みが止まらない。

こんな気持ちになったのはウマ娘人生で初体験である。

 

「あっ、申し訳ございません。私はこれから2000mのために調整しないといけないので、お先に失礼いたします」

 

「2000mも出走するんですか!?今日はこれで3本目じゃ...!?」

 

「はい、それが何か」

 

何というウマ娘、何という同級生なのだろう。

 

「そ、そうですか...では2000mも頑張ってください!!陰ながら応援してます!!!」

 

「えっ...はい、応援ありがとうございます、それでは失礼します」

 

そう言って彼女はターフから出て行った。

 

何故だろう、目の前から彼女が消えていくことがとても寂しい。

胸が苦しくなる、シルバーメモリーさんともっと話していたいのに。

 

(中央はすごいです...シンボリルドルフさんだけじゃありません...恐らく彼女も...)

 

物寂しさを感じていると、ターフの外から私に向かって一直線に男の人がやってきた。

 

「レース後に申し訳ない、僕はとあるチームのトレーナーだ。君のレースを見て確信した。君は将来日本を代表するマイラーになることを。だからもしよければチームにスカウトさせて頂きたい」

 

今日はなんて素晴らしい日なのだろうか。

 

余りにも多くの出会いと感動に溢れている。

 

「はいっ!勿論です!!私でよければ!!」

 

いつか彼女と並べるぐらい強くなりたい。

 

 




うお~!!2連勝!!銀髪の子最強!!最後のレースもまけるな~がんばえ~!!

いつも高評価、ご感想、誤字のご指摘、誠にありがとうございます。

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