トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー   作:ウホホ・ウホホイ

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Chapter.24 選抜レース④

(やったああああああああああああああ!!!!!!勝った!!!勝利!!!大勝利!!!!!)

 

(2連勝!!!???これ現実ですか!!!???くぁwせdrftgyふじこlp)

 

決して、気がおかしくなったわけではない。むしろ正常な反応と言えるのかもしれない。

私、シルバーメモリーは本日ウマ娘人生で初めて勝利を味わったのだから。

 

1200mに続いて1600mのレースを先頭で駆け抜けた。その事実をしっかりと認識できたのはマイルレースのインタビューを受け終わってからだ。

 

口角が勝手に天に向かって上昇する、心臓の鼓動が人生最高のラップタイムを刻み続ける。指先の震えが止まらない。一切落ち着くことはできず、飲み切ったペットボトルに何度も口をつける。

 

勝利という美酒によって、私の脳は完全に機能不全に陥っていた。神経系も勿論イカれている。視界は安定しない、聴覚も普段の数倍鋭くなったような錯覚を覚える。

 

(いいかシルバーメモリー!まだレースは残っている!!落ち着け...ッ!!冷静に...ッ!!クールになれ...!)

 

圧倒的に、そして爆発的に無駄な自己暗示であった。

脳内麻薬のせいなのか何なのか知る由もないが、この感情の発露はもう誰にも止められない。

 

発汗は止まらず体温は上がりっぱなし、練習によって鍛え上げた肉体が熱した刀身のようになっていた。

 

(ぐうううう....!!!はぁ、はぁ...いやほんと、違うから!嬉しいとかじゃな...い...うッ!!!)

 

全身の穴という穴からガッツポーズの拳が飛び出てきそうな気持ちである。

 

とても冷静でいられないので、無理矢理自分を客観視することで落ち着きを取り戻すテクニックを使う。ウマホのカメラを使って自分の顔を確認するという非常に簡単なものだ。受験などでもよく用いられる有名な手法である。

 

(中距離のレースが一番大事だから...!一回クールダウンしないと絶対勝てない!!!誰か助けろ!!)

 

そして藁にも縋る勢いでウマホのカメラモードをONにすると、

 

ビームが出るんじゃないかってぐらい、バキバキのギラギラのバリバリの銀眼をしたウマ娘がそこにいた。ちなみに口角はズコズコのアゲアゲで上昇している。そろそろ大気圏に突入する勢いだ。

文字で表すと"ニヘァヤァ"といった感じである。

 

(あああああああああああああああッッ!!!ガッデムッ!!!!!!!!)

 

あまりの自分の顔のみっともなさに虚を突かれたおかげで、表情だけは通常運転のシルバーメモリーに戻すことを成し遂げた。

 

この醜態に関して、誰にも見られていないことを神に祈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「さて、次は2000m...私の本命のレース...」

 

あれから60分後、私は芝2000mのレース場に足を運んでいた。

常に冷静沈着な私は、たとえ2連勝してようが一切合切油断はしない。

細工は流流仕上げを御覧じろ...そのスタンスが泰然自若ないつもの私なのだ。

 

3連続出走によって確かに筋肉の疲労は生じ始めているが、パフォーマンス的には全く問題ない。

それに私は限度はあるが、走れば走るほどパフォーマンスが上がっていくタイプのウマ娘である。

 

むしろ、2000mという短くも長くもない絶妙な距離を走るには絶好のコンディションに感じる。

四肢の調子は最高潮、関節および筋肉はイメージと完璧に同調している。

 

動きを確認するように細かいステップを刻みながらターフに姿を見せると、

突然大きな歓声による衝撃が全身に伝播した。

 

シャッター音が辺り一面に響き渡り、テレビ局の巨大なカメラが一斉に私の方角に向けられる。

その中には、普段のウマ娘のレースを取り扱っている番組に出演している芸能人等も見受けられる。

 

一般の方こそは本日学園内に入れないためこの場にはいないのだが、ターフの外は多くの観客で埋まっている。

 

トレセン学園在籍のウマ娘達、トレセン学園職員、テレビでよく見る芸能人、そして日本最高峰の中央屈指のトレーナー達だ。

 

そうか、そうなんだ。

王道路線を走るということはそういうことなんだ。

 

決してスプリントやマイルレースが不人気というわけではない。

芝中距離があまりにも人気すぎるのだ。

 

日本中、いや世界中の老若男女がテレビや新聞、SNSでこの選抜レースを注目している。

今年の優駿はどうなのか、かのシンザンやマルゼンスキー級の怪物が鳴りを潜めているのか、それを確認する一種の儀式なのだ。

 

この盛大な歓声は、これからその儀式に参加する私に向けて期待を込めたものなのだろう。

 

人生で初めて勝利を手にしたことで、今度は人生で初めて勝利を期待をされている。

 

お前は今度はどんな走りをするんだ?どういう風に先頭を駆け抜けるんだ?2000mは持つのか?

3連続出走なんて無謀じゃないのか?そのような期待と疑念が織り交ぜられた視線がしっかりと伝わってくる。

 

あぁ...これがレース、これが勝つことなんだ。

勝利の本質を真に理解した瞬間、ふっ...と全身の力が抜ける。

 

ターフの中をゆっくりと歩いてゆく。

歓声が大きすぎて上手く聞き取ることはできないけど、多くの人達、ウマ娘から激励されている。

大半は中等部3年に向けた保護者感覚のものではあるだろうが、関係なく気持ちが高ぶっていく。

 

同時に、先程まで針のように鋭くなっていた体の感覚は徐々に落ち着きを取り戻し、全身には脱力感が帯び始めている。

一歩一歩...歩みを進めていく中で私の視界は広がり、今から競い合うウマ娘達の様子を捉え始める。周囲の音以外に意識を割くことを止め、耳に入ってくる歓声は徐々に小さくなっていく。

 

そしてレースに出走するウマ娘達と目が合う。

 

トウカイマロン...キョウワファイア...スズフェスティバル...ダイアナガロン...

 

彼女たちの調子はハッキリ言って良くはないと言えるだろう。

レース直前にも拘らず、落ち着きが全くない。

 

緊張をごまかしているようだが、彼女たちの様子はどうも不自然極まりない。目線が安定せず、視線を頻りに観客側に定期的に向けている。何度も何度も靴の紐を締めなおし、体操着の着付けを無駄に整える。深呼吸による処置を試みているウマ娘もいるが、その深呼吸が正しく行えていない。

 

世間からこれだけ注目され、トレセン学園からも熱い視線を向けられている。

そしてなにより、トレーナー達ほぼ全員がスカウトの品定めをするためにレース場に来ているのだ。

 

選抜レースの目的は文字通りトレーナー達からの選抜を達成することである。

 

この走りによってその運命が決定づけられる。

そんなレースを直前に控えて、冷静でいることが可能なウマ娘はこの場に存在しない。

 

たった一人を除いて

 

そしてこの瞬間、戦略という名の積み木は完成した。

 

 

 

 

 

 

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『さぁ、本日大注目の選抜レース最終戦!!!芝2000mの出走の時間が近づいてまいりました!!!』

 

『流石に中距離の選抜レースとなると、ターフの外は多くの観客で埋まっております!中にはG1ウマ娘や、チームの重賞稼ぎ頭のウマ娘、そして著名なトレーナー達などが確認できます!!』

 

『そして...これからクラシックディスタンスに羽ばたいていく優駿がゲートの前に集まってきました!!』

 

『最注目は世にも珍しい銀髪銀眼のウマ娘、シルバーメモリーでしょう!!彼女は本日だけで1200mと1600mのレースに出走しただけではなく、なんと両方のレースで1着を手にしております!!そして現在2000mのレースにも姿を現しております!まさしく前代未聞、これだけ勝利を手にしても満足できないのか!!』

 

『彼女の名前はウマッターをはじめとしたSNSトレンドで1位を独占!正真正銘、間違いなく"最注目"ウマ娘でしょう!!』

 

『さらに彼女の走り方にも注目したいところです。1200mでは先行、1600mでは差し位置からの勝負を仕掛けております。今回はどのようなレース運びを見せてくれるのか気になる所です』

 

『そして次に注目を集めていますのは、トリプルティアラ路線に進むことをすでに表明しており、関係各所から期待されているダイアナガロンでしょうか。彼女は....の名門出身で...さらに...』

 

 

 

 

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『選手紹介が終わったところで、ちょうどゲートインが完了いたしました!』

 

『さぁ、ウマ娘18人が一斉にスタートしました!!』

 

『先頭争いを制するウマ娘は誰になるのか...いや、なんと先陣を駆け抜けていくのはシルバーメモリーだ!!シルバーメモリーがハナを取った!!』

 

『先行、差しときて最終レースで逃げを選択!これには他のウマ娘も驚愕している様子、周りの視線が一気にシルバーメモリーに集中している!』

 

『シルバーメモリーに引っ張られるように後続も続いて行く!先頭は依然シルバーメモリー、2番手にトウカイマロン、そこから一バ身ほど離してダイアナガロン、スズフェスティバル、ビゼンイッシキが追走!クインハイセイコーとキョウワファイアは後方で良いポジションをキープしている!』

 

『800mのタイムは、例年に比べかなりスローペースか。バ群は比較的まとまっており、最終直線の仕掛けあいの判断が難しそうな雰囲気を感じ取れます』

 

「出走選手全員がシルバーメモリーさんをマークしていますね。本日の短距離、マイルを制したウマ娘ですから仕方ないのかもしれませんが。このマークを躱して走ることはかなり難しいでしょう」

 

『1000mを通過、シルバーメモリーのペースは落ちることを知らず!2番手と約2バ身差を保ったまま!』

 

「おっと、後半に入った瞬間シルバーメモリーさんのペースが1段上がりましたね。まだ1000m過ぎたあたりですが、最後まで体力が持つでしょうか」

 

『後続のウマ娘達もペースを上げ始めました!シルバーメモリーに釣られたかのように食らいついていく!』

 

『ダイアナガロンがギアを上げたか!シルバーメモリーの背後を捉える!それに続いてスズフェスティバルも位置をあげてきました!』

 

『1200mを通過!!シルバーメモリー、背中を捉えられたか!?いや、また一段ペースを上げました!2バ身差が縮まらない!』

 

「前半はかなりのスローペースに思えましたが、後半に入るや否や急激にレーステンポがあがりましたね...!後方のウマ娘もペースを上げており、かなり珍しい展開になっております」

 

『さぁ、18人の優駿が最終コーナーに突入していきます!!一体どのウマ娘が勝利を手にするのか!!!!』

 

 

 

 

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最終コーナーに差し掛かった瞬間、私は脚のギアを0.25段階上げる。

今回の戦略は至極シンプル...普通に逃げる、ただそれだけ。

 

余計なことをする必要はない。

何も考えなくていい...レース開始時にハナを手中に収める、それだけでいい。

 

周りのウマ娘達は軒並みコンディションが十分に整っておらず、さらに精神的に不安定な状態。そしてレース前に完全に観衆に呑まれてしまっていた。大半のウマ娘が無意識に前搔きをしたり、視線をトレーナー達が集まっている一画にチラチラと向けていた。

 

間違いなく集中していない。

トレセン学園の有名なウマ娘、役員クラスの職員、そしてスカウト権利を持つトレーナー達に注視されることで頭の中が真っ白になったのだろう。

 

そんな吹けば倒れるようなウマ娘達に対して一番効果的な戦法はなんだろうか。それはレースを序盤から支配することが可能であり、レーステンポを決定付けることが出来る"逃げ"だ。

 

『シルバーメモリー先頭!!レース直後から一瞬たりとも先頭を譲らないまま最終直線に突入!!なんというスタミナ!なんという体力!3連続出走を全く感じさせない走りぃ!』

 

そして...冷静な判断が出来ないであろうあなた達を嵌めるための罠を一つだけ用意した。

 

それはラップタイムを意図的に徐々に上げていくチェンジオブペース。

 

恐らく前半のラップタイムは過去の選抜レースの中でも屈指のスローペースであったはずだ。しかし、最終直線手前の今は全く違う。空前絶後の瞬間的ハイペースになっており、完全にスタミナの磨り潰し合いの泥沼戦に突入する兆しを見せている。なぜなら私が意図的にラップタイプを1F毎に0.3秒あげていったからだ。

 

通常このような刻み方をすれば、中央に所属するウマ娘達には感づかれるだろう。しかし、この場においてはその限りではない。

"いつも通り"の走りができているウマ娘は誰一人としていないからだ。

走行フォーム、ポシジョン、息を入れるタイミング等々...冷静に普段の走りをしているウマ娘はどこにもいない。

 

だから誰もレースのペース転換のタイミングと自身の消耗具合に気づかないまま、破滅の最終直線に突入している。

 

さぁ、ここからが勝負だ。

根性と気合の泥沼耐久戦。

 

『おっとこれはどうしたことだ!誰も抜け出せない!!脚が進まない!!!完全にガス欠状態だ!!!』

 

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『誰もシルバーメモリーを差し切れない!!それどころか差はどんどん開いていく!!』

 

『なんというウマ娘!!なんという圧勝劇!!!』

 

そして最後に一息を入れ、無呼吸状態でゴール板を駆け抜ける。

 

『恐らくトレセン史上初の出来事でしょう!!!シルバーメモリー!!選抜レースの短距離、マイル、中距離の芝のレースを完ッ全ッ制覇しました!!!!』

 

 




うおおおおおお3連勝!!!銀髪銀行最高や!!!

いつも高評価、ご感想、誤字のご指摘、誠にありがとうございます。
また、お気に入り2000越え...誠に励みになります。

引き続き、銀髪の子をよろしくお願いいたします。
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