トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー   作:ウホホ・ウホホイ

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Chapter.26 スカウト①

芝2000mを先頭で駆け抜けたとき、不思議と喜びの感情は薄かった。

勝利に慣れてしまったというわけではない。勝つことが理解っていたというわけでもない。

 

スタミナ勝負の泥沼耐久戦を制し、ゴール板を通り過ぎたとき...私の目の前に二筋の陽炎が見えた。一つは頭にシルクハットを載せた黒鹿毛のウマ娘、そしてもう一つは煌めく三日月の流星が特徴の鹿毛のウマ娘であった。

 

誰よりも早くゴールしたはずなのに、私の眼前ではウマ娘の幻影が漂い余裕の表情でこちらを見ている。このウマ娘達が仮にレースに参加していたとしたら、私は一着で勝利を収めることが出来たのだろうか。

 

答えは誰にも分からない。ただ、幻影の表情を見る限りは未だ私は彼女たちの背中を捕まえることは叶わないのだろうと直感で感じた。

 

『恐らくトレセン史上初の出来事でしょう!!!シルバーメモリー!!選抜レースの短距離、マイル、中距離の芝のレースを完ッ全ッ制覇しました!!!!』

 

実況の大きな声に幻影達は搔き消され消散していき、私の意識は現実に戻された。

周りを見渡すと、ターフの外から盛大な拍手や賞賛の声が聞こえてくる。

 

『ウマ娘の皆様、レース大変お疲れ様でした。それでは芝の整備後にターフを開放いたしますので、スカウトされる予定のトレーナー様は1時間後に足を運んでいただければ幸いです。またその他レースに参加してましたウマ娘の皆様におかれましては、このままターフに残っていただくようお願い申し上げます』

 

選抜レースは無事終了し、たづなさんより簡素な閉会のお知らせが伝えられた。

 

私は私でこの後インタビュー等やることが満載である。芝中距離は全国民が注目するレースであるため、短距離マイルと比べて比べ物にならない記者が駆けつける。その様子はもはやただの記者会見であり、G1レースと勘違いするレベルである。

 

改めて芝中距離が歴史と伝統によって"格"が圧倒的に高いことを痛感する。ミスターシービー先輩より私はインタビューが絶望的に下手、とお墨付きをもらうほどであるため、はっきり言ってレース後のこのイベントは不得手である。正式なレースになると、これに加えてウイニングライブをするのだから本当にすごいと思う。

 

そしてインタビュー(記者会見)が終了次第、選抜レースの結果を受けてトレーナーによるスカウトが始まる。ここでスカウトを受けたウマ娘は正式にトゥインクルシリーズでレースをすることが許される。

 

最高評価を受けたウマ娘は、基本的に中央屈指のトレーナーの証である"チームトレーナー"にスカウトされる。勿論ウマ娘の意思が最重要視されるので、チームトレーナーにスカウトされても断って専属トレーナーと契約を結ぶことは可能である。ただし、チームに所属するメリットは計り知れないので断る理由はそうそうない。

 

なのでチームトレーナーは専属トレーナーに比べてスカウト成功率が圧倒的に高く、ある意味不平等なシステムになっている。新人トレーナーや中途採用のトレーナーにとっては非常に厳しいハンデにはなる。

 

ちなみに5月中旬の選抜レースはあくまで催し物であり、全国に宣伝するための一種の興行の側面が強い。6月以降も選抜レースは定期的に開催され、今回スカウトされることが叶わなかったウマ娘達はそこでチャンスを掴むのだ。

 

12月までにトレーナーの慧眼に止まらなかったウマ娘は...悲しいが大半はトレセン学園を自主的に退学していく。中にはジュニア期のケガが原因で走れなくなった子達も勿論いる。そのような場合はクラシック期間に専用の選抜レースでトレーナー達にアピールする場が設けられるため、そこで挽回のチャンスを与えられるのだ。

 

とにかくトレーナーからスカウトされないことには話が始まらない。ウマ娘の運命を決める戦いが1時間後に開催されると思うと、なかなかどうして気持ちが落ち着かない。

 

スカウトを受けることが出来るのか心配しつつ、インタビュー会場に向かっていくのであった。

 

 

 

 

----

 

「どうだい、シービー?彼女の走りは君の御眼鏡には適ったかい?」

 

「...本ッ当に最高だね。まるで恐ろしい化け物を見ているようだったよ」

 

ターフの一画ではチームリギルの面々が集まっており、所属ウマ娘達がシルバーメモリーというウマ娘についての評価を各々下している最中であった。勿論、シルクハットの彼女と三日月の彼女も例外ではない。

 

「神出鬼没、そして奇々怪々...今回の彼女の走りを理解できるものが学園内にいるかどうかも怪しいだろう。スプリント、マイル、そしてミドルディスタンスを制覇したという事実の衝撃が強すぎて、彼女の本質が雲隠れしているようだ」

 

「そうだね、メモリーちゃんの凄さはこれまでの常識では絶対に測ることが出来ない。特にスプリントでの逃げ殺しは本当にすごかったよ」

 

他のリギル所属ウマ娘達は、彼女のことを評価をしつつもどこか「そうは言っても実際にレースで戦ったら負ける道理はない」という話しぶりである。実際ここに集っているウマ娘達はG1レースで結果を残している歴戦の猛者であるため、そのような感想を覚えても仕方がないかもしれない。

 

「1200mでの逃げ殺し走法、1600mでの末脚自慢のウマ娘を完封するワンマーク...そして2000mでの逆ラップ走法...どれもこれもウマ娘を磨り潰すための戦略だ」

 

「メモリーちゃんの勝利へのアプローチが、これまでの常識と全く正反対なんだよね。逃げを後ろから潰したり...末脚自慢のウマ娘のスパートそのものを潰したり...正確なラップを刻むのではなく、わざとペースを上げたり」

 

「そうだ...シルバーメモリーは純粋に相手の実力を上回って勝つのではなく、相手の急所を的確に捉えて自分の世界に引きずり込み勝利することが出来るウマ娘だ」

 

スピードで上回れないのであればスタミナを削ればいい、末脚が武器なら壁になって圧殺すればいい、出走ウマ娘の調子が良くないのであればシンプルに逃げで勝負すればいい。状況に合わせて最適且つ最高の手札を相手に突き付けることが出来るのだ。

 

「まるで銀の弾丸(シルバーバレット)、ね」

 

「おハナさん...」

 

シルバーメモリーというウマ娘について語っていると、チームリギル筆頭トレーナーである東条トレーナーが現れた。

 

「あ、おハナさんお疲れさま~。どうだったメモリーちゃんの走りは」

 

「はぁ...その顔止めて頂戴。もうお手上げよ、彼女がここまで化け物じみたウマ娘なんて思わなかったわ。まるで銃口を相手に突き付けた状態で走るウマ娘よ。彼女に狙われたウマ娘は対策無しでは完膚なきまでに潰されるわ」

 

「さすがだね。一発でメモリーちゃんの凄さを看破するなんて。スカウトしちゃう?皐月賞ウマ娘のお墨付きではあるけど」

 

「それは無理ね。一人のトレーナーとしては彼女の可能性には興味しか湧かないけど、チームリギルのノウハウで彼女を育てることは現状不可能よ」

 

チームリギルの強みとは、過去に蓄積されたノウハウを生かして距離、脚質毎に最高効率の練習をできるところにある。

 

「あの子のような突然変異によって生まれた常識の外の生き物をリギルに入れたら、飼い殺しもいいところよ」

 

「えぇ~、それは残念だなぁ」

 

「...白々しい、あなたなら最初から理解ってたでしょシービー。あの子はリギルのような効率を突き詰めたような環境に置くべきではない。そしてスピカのような、ウマ娘の才能を信じて自由に育てるチームにも向いてはいないわ」

 

「ははは...スピカのトレーナーには相変わらず厳しいですね。それではどこのチームに入るとお考えで?」

 

「これを見て頂戴」

 

そう言って東条トレーナーは、A4サイズの紙をミスターシービーとシンボリルドルフに手渡した。

 

「おハナさんなにこれ?...チーム設立届?」

「これは...新チームの設立...?」

 

「今朝がたチームトレーナー全員に配られたわ。本日付けで急遽トレセン学園に新チームが設立されたのよ...チーム名は"ポルックス"」

 

ポルックスとはふたご座で最も明るい恒星で全天21の1等星の1つであり、冬のダイヤモンドを形成する恒星の1つでもある。

 

「ポルックス...確かに新チーム設立はこの時期珍しくありませんが、まさかシルバーメモリーがこのチームに入ると?」

 

「入るかどうかは分からないわ。ただ理事長自らが『推薦ッ!シルバーメモリーはこのチームがふさわしい!』とおっしゃっていたのよ。チームトレーナーの集会で突然そんなこと言いだすのだもの、そう言われて図々しくスカウトできるチーム持ちトレーナーなんていないわよ」

 

「凄まじい職権乱用を感じる...」

 

「はぁ...理事長のパワフルムーブは今に始まったことではないけど、今回の突発的なチームの設立とシルバーメモリーはズブズブの関係とみて間違いないわ。シービーには悪いけど、スカウトは見送りね」

 

シルバーメモリーがリギルに入ることは無いと聞いてミスターシービーは少し残念そうな顔をした。

 

「同じチームになれなかったのは残念だけど、まぁいいかな。むしろ新設されたチームでどういう成長を遂げるか楽しみだよ」

 

「私は彼女と同室の仲だからな...これでチームも一緒となったら遂に四六時中彼女にマークされてしまうよ」

 

ウマ娘の弱点を的確に狙い打つことが出来るウマ娘に、日々の生活を晒すことの恐ろしさを感じ始めている。というか、冷静に考えるとシルバーメモリーと同室且つ、クラスの席は隣というのは少々よろしくないのでは...

 

シンボリルドルフが冷や汗をかいている中、東条トレーナーは何かを思い出したかのように話し始める。

 

「あっそうだわ...話は変わるけど、あなた達3人ともミサンガを着けているわよね?シルバーメモリーもレースの時に虹色のミサンガを着けていたのだけれど...誰かの発案かしら」

 

「私が2人にプレゼントしたんだ。御利益がすっごいミスターシービー印のミサンガ」

 

「ミスターシービー印とは言っているが、他所の神事関係の縁起物だろう。御利益がありそうなことには変わりはないが」

 

「へぇ、あなたも粋なことするじゃない。ちなみにどういう御利益があるのかしら」

 

思えばシービーから私のミサンガの御利益は聞いているが、本人とシルバーメモリーのミサンガについては何も知らなかった。

 

「えーと...ルドルフの紅いミサンガは"健康"の御利益があるやつで、私の緑白のミサンガは"縁結び"だね。ルドルフは真面目そうだけど、いざと言う時に体調を壊しそうな雰囲気があるから」

 

「...何故健康に関するご利益があるミサンガを渡されたか不思議だったが、そういうことだったのか」

 

「まぁ、真面目な子ほど体調を崩すときは盛大に崩すからね。ルドルフにはぴったりだよ」

 

「それで、虹色のミサンガは?」

 

「メモリーちゃんに渡した虹色のミサンガって、人気すぎて中々手に入らないんだよね。100回買いに行ったら1回買えるかどうかってぐらい」

 

「...余計に気になるな。そんな手に入らない色のミサンガと言われると」

 

「ん~とね、虹色のミサンガの御利益は"運勢"だよ。メモリーちゃん、結構()()()()()()あるじゃない?」

 

 




チームポルックス...一体何者なんだ...

多くの感想・高評価・お気に入り誠にありがとうございます。
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