トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー   作:ウホホ・ウホホイ

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Chapter.27 スカウト②

中距離のレースを終え、簡易的なアイシングを施した後にインタビュー会場に向かっていた。

トレセン学園の中でも、かなり大きい部類の会議室を丸々押さえて行うらしいのだが、はっきり言って落ち着いていられるわけがない。

 

昨日までただの中等部3年でしかなかったのにどうして全国、いや世界中に顔を晒すことになったんだろうか。中央で勝利するということのインパクトの大きさを痛感する。個人的にはインタビューなんてとっとと終わらせて、トレーナーの慧眼に適ったかどうかを知りたいところだ。

 

しかし、分かり切ったことだが...このインタビューもスカウトの査定に影響がある。

 

というのも、過去に選抜レースに勝利したウマ娘がレースのままのテンションで同級に対して、宣戦布告というには遥かに遠い罵詈雑言をテレビカメラの前で吐き散らしたことがある。

 

結果として彼女をスカウトしたチームトレーナーは誰一人おらず、そのウマ娘はトゥインクルシリーズで結果を残すことはできなかった。

 

ただ強いだけではいけない...トレーナーにスカウトされるウマ娘は一部を除いて総じて品行方正なのだ。中にはそのような傍若無人キャラがウケて人気になるウマ娘もいるにはいるが、大抵そのようなウマ娘はG1で勝利し、結果が伴ってから受け入れられるものだ。

 

私、シルバーメモリーは笑わないし愛嬌がないと言われるほど感情の起伏に乏しく、何かに腹が立つことはあまりない...と言いたいが、恥ずかしながら1200mと1600mの時のインタビューは少々イラだっていた。

 

戦略や戦術は私の武器であり正直言って触れられたくはない。そして回答次第で共に走ったウマ娘を傷つけてしまうことになりかねない質問なんて言語道断だ、ありえない。

 

とはいえ、感情を表に出してしまったことは反省すべきである。

 

反省を次に生かすことにおいては非常に長けている自負がある。2000mの勝利者インタビューは絶対にうまくやろう...

 

と心に決めたとき、目の前に緑色の服を着た女性が現れた。

 

「シルバーメモリーさん、芝のレース3連覇大変おめでとうございます。選抜レースで距離別に連戦連勝なんてとても感服いたしました...!」

 

トレセン学園理事長秘書こと、たづなさんだ。

彼女は毎年、インタビュー(記者会見)の司会を務めていたので恐らく今年も司会進行を担当するのであろう。

 

「たづなさん、ありがとうございます。まさか3連勝できるなんて夢にも思いませんでした。運が良かったのは間違いないでしょうけど、これまでの自分の練習が実った形になったので本当に嬉しく思ってます」

 

「...そうですね。シルバーメモリーさんが選抜レースで結果を残してくれて、私も自分のことのように嬉しいです。シルバーメモリーさんの努力は2年前からずっと見てきましたから...」

 

そうなんだ...理事長秘書という多忙なポシジョンに就いているのに、私なんかの練習姿を見てくれていたんだ。

 

「それに...シルバーメモリーさんのレースを見て胸がとても熱くなりました...!こんな走りがあるんだ...って私の中のレースの常識が覆されましたよ...!」

 

私の中...ね

 

「水を差すようで申し訳ないのですが、そんな革新的なことをした記憶はありません。逃げの後ろに付く、有力ウマ娘をマークする、シンプルに逃げる...結構普通だったと思うんですが」

 

「あっ...ふふふっ、そうでしたね。今日のシルバーメモリーさんのレースは王道、テンプレート、...至極普通でしたねっ」

 

こちらを一瞬で察することが出来るたづなさんは、本当に一体何者なのだろうか。

彼女が不意に漏らす言葉からは、圧倒的にレース知識に長けていることが伺える。

 

そして彼女の四肢の筋肉や骨格バランスを外側から見る限り、明らかに...

まぁ彼女がそのような立ち位置を望んでいるとしたら、これ以上の詮索は野暮というものだろう。

 

「んんっ...インタビュー前に呼び止めてしまい失礼しました。それではこちらが会場となっておりますので準備の方お願いいたします」

 

たづなさんと談笑していたら、いつの間にか会場の目の前まで来ていた。

 

ここの一室は、パーティ会場として利用できるキャパシティを誇るレベルの大きさをしている。

正直言って開きたくないな...と思っていると、たづなさんが口を開いた。

 

「シルバーメモリーさん...正直申し上げますと記者の皆様から頂くご質問の中には、シルバーメモリーさんが大切にされてる部分を傷つけるものが極稀にあります。ご存じだとは思いますが、このインタビューは全国のウマ娘ファンの方だけではなく、当然トレーナーさん達も注目されています。このようなことは伝えたくはありませんが、感情的な振る舞いはされないことをお勧めします。これはトレセン学園理事長秘書としての言葉です」

 

たづなさんの眼がいつになく真剣そのものだった。

 

「...私もスカウトに影響するような言動は控えたいと思ってましたので...ご助言ありがとうございます」

 

こうして、会場に足を踏み入れたのであった。

 

 

 

 

 

----

 

『それでは、ただいまよりシルバーメモリーさんのインタビューのお時間を設けさせて頂きますので、ご質問等々ありましたら挙手の方よろしくお願いいたします』

 

完全に想定外の出来事だった。いくら中距離勝利後のインタビューでもこのような規模で行うことは予想だにしなかった。記者の数は目視で100人以上、カメラの台数は50ほどだろうか。

 

おいおいおい、死んだわ私。

 

白いデスクの前に座らされ、ぎこちない手つきでマイクを握りしめている私は完全に出来の悪いおもちゃにしか見えないだろう。不思議と緊張はしていないのだが、不特定多数の知らない人間から視線を直接あびることに体が拒否反応を示している。

 

『それでは...前列から2番目の黒いネクタイの方お願いいたします』

 

たづなさんより開幕のベルを鳴らす指名が入った。

 

「日刊スポーティの高橋と申します。シルバーメモリーさんは本日、トレセン学園史上初めての選抜レース距離別制覇を成し遂げましたが率直な感想を頂けますか」

 

日刊スポーティはウマ娘関連のみならず、スポーツ全般を取り扱っている大手新聞社である。

どぎつい質問のために身構えていた私だったが、非常に答えやすいシンプルな質問で助かった気持ちだ。

 

「...そうですね。中等部に入ってからこれまで選抜レースで結果を残すことだけを考えて練習に取り組んできました。ですので、本日最高の結果を残すことが出来て本当に嬉しいです」

 

極めてシンプルなテンプレ回答だ。愛嬌の無さが相まってつまらなさ抜群である。

 

「ウィークリーの田島です。差し支えなければお聞かせください。本日様々な距離を走られましたが意図はありますか?また、将来どの路線に進むおつもりでしょうか」

 

「スプリント、マイル、ミドルに出走した理由としては自分の可能性に挑戦したかったからです。現状短距離でも中距離でも長距離でも計測されるタイムにそれほどクオリティの差がありませんので...。また将来どの路線に進むかについては特に決まっておりません」

 

なんて恐ろしくつまらない回答だ、私じゃなくても興醒めだね。

芝中距離以外進むつもりは毛頭ないが、そんなもの答える必要はない。

 

「東京ウマ娘新聞の中原です。単刀直入にお聞きします。この後間違いなくチームよりスカウトを受けると思いますが、所属を希望するチームはありますか?」

 

「まったくありません。トレセン学園のチームは総じて素晴らしいと思ってますので、仮にチームにスカウトされることになったらどのチームでも精一杯取り組むつもりです」

 

「...それでは別の質問よろしいでしょうか。負けたくない同級生...ライバル視しているウマ娘がいましたらお聞かせください」

 

「日々競い合いの中で生活しているので、私以外全てがライバルだと思っています。特別このウマ娘だけには絶対負けたくないということは無いです」

 

あまりにも当たり障りのないことを言い続けているせいか、会場の熱が冷えていくのを感じる。

そう、それでいい...何事もなく終わることが私にとって最高の結果だ。

 

『それでは...次は最前列の女性の方お願いいたします』

 

「あっはい!ニホンレースの森田です!!」

 

この人は...1200mと1600mの勝利インタビューを担当していた方だ...。

なんだろう、とても嫌な予感がする。

 

「本日はお疲れさまでした!本日の3連勝を受けて日本中のSNSでシルバーメモリーさんのお名前がトレンド1位を独占してます!率直な感想をどうぞ!」

 

森田ァ!率直な感想をどうぞ、じゃない!

なんだその女子中学生のような質問は!

 

「...SNSは詳しくないのでよくわかりませんが、多くの皆さんにレースを見ていただけて光栄です」

 

「なるほど!ありがとうございます!一方で3連続出走について一部では疑問の声があがってますが、それについては何かありますか!」

 

森田ァ!一部ってどこだぁ!?具体的に伝えるべきところだろ!

まさかお得意のSNSじゃないよな!?

 

「一部、というのがどこを指しているか分かりませんが...本日の連続出走は過去の練習から問題ないと判断しました。教官をはじめトレセン学園には了承を得ております」

 

「分かりました!ありがとうございます!それでは次の質問を...」

 

森田ァ!周りを見ろォ!あなた以外にも沢山の記者が質疑待ちしてるから!

 

『申し訳ございません。他の方もいらっしゃいますので打ち切らせていただきます。それでは次の...』

 

たづなさんは本当に素敵な方である。

 

「うぃっす...月刊ターフの佐々木です。噂では、84年世代は続々とシンボリルドルフさんを避けて中距離以外の別路線に進路を変更していると聞いてます。シルバーメモリーさんは本日中距離で大変見事な走りを見せてくれましたが、当然シンボリルドルフさんを避けることはしませんよねぇ?」

 

月刊ターフ...ある事ない事をトバシで書くことで有名な評判の悪い週刊誌だ。

PVを稼げて面白ければ基本的に何でもするイメージが強い。

突拍子もない質問に私の耳がピクっと動く。

 

「避ける...というと?」

 

「いやぁ、シルバーメモリーさんレースの前にミスターシービーさんとシンボリルドルフさんと仲睦まじい感じで話されてたじゃないですかぁ。雰囲気からしてライバルっぽかったんでぇ...()()()()()()()()()トリプルティアラ路線等は無いんじゃないかなぁと思っての質問です」

 

「あ?」 

 

は?逃げる?誰が?

思わず声が出る。

 

「今のトゥインクルシリーズはっきり言って見応えが無いんすよ。うん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今年のミスターシービーさんも世代で圧倒的に抜けていますしぃ...こう...純粋なライバル的なストーリーがないんすよ。その点シルバーメモリーさんが王道路線に進んでくれるなら、熱いレースを見られると思いましてぇ」

 

は?

 

「しかもシルバーメモリーさんは容姿も申し分ない、それどころか世間は放っておかないレベルすよ。()()()()()()()()()ですけど、世にも珍しい銀毛はシルバーメモリーさんを見る限り違いそうですし」

 

こいつ...

 

「だから名門出のウマ娘から逃げて欲しくないんですよねぇ。トゥインクルシリーズを()()()()()()()に王道路線に進んでくださいよ」

 

そろそろ我慢の限界が近い、どれだけウマ娘を愚弄すれば気が済むんだ。

 

「それにシルバーメモリーさん、地方の一般家庭出身ですよね?いいじゃないですかぁ、地方の寒門が名門出身を倒すサクセスストーリー。シンザン時代の盛り上がりが返ってきますって」

 

パキッ...と

私の中の何かがはじけた。

 

私のことはいくらでも挑発したり貶してもいい。

しかし過去のトゥインクルシリーズを支え、その舞台で魂を削り合う死闘を繰り広げた歴戦のウマ娘を貶めることは決して許さない。

 

そして、シンボリルドルフから逃げるという同世代の勇敢な苦渋の決意を、あなたのようなレースのレの字も理解らない男がバ鹿にするな。

 

正直、この時の私は理性は普通に残っていた。しかし冷静に、このまま愛想笑いをするか...又はこの男に少々お灸を据えてやるかを天秤にかけた結果...後者の方に傾いた...ただそれだけだ。

 

あなたに()()()()()()()()()()()()マルゼンスキーさんの気持ちを理解らせてやる。

テレビがなんだ、SNSがなんだ、新聞がなんだ、この場においてそんなもの今はどうでもいい。

 

この男の胸倉をつかみに行こうと席を立とうとした時...

 

 

 

 

会場の片隅から爆発音がした。

 

 

 

 

 

 

『す、素晴らしいです!!!!!!!!!』

 

『その眼!!!!その闘志!!!!』

 

『その顔つきから察するに、トリプルティアラどころか!!!クラシック3冠、いえ、マイルチャンピオンも達成なさると!!!!本日全距離走ったのはその証明!!!!』

 

『そして秋春古バ戦線に殴り込みをかけつつ、高松宮記念とスプリンターズステークスにも挑戦する!!!!そういうことなんですね!!!!!!あぁ、全くもって素晴らしいです!!!』

 

『あっ申し遅れました!月刊『トゥインクル』の乙名史と申します!』

 

 

 

な、なんだこいつ~!?

 

先程まで、失礼畜生の月刊ターフの記者の言動によってザワついていた会場が一気に静寂に包まれた。あまりにも突発的事象且つ、理解しがたい劇物を目にしてしまったので私の感情は完全に冷えてしまった。

 

本来このような化け物を止める役割を担っているたづなさんも、唖然とした表情のまま固まってしまっている。

 

『いえいえ、大丈夫です!!その眼から伝わってきますよ!!私をスカウトするのであれば、そのレースを全て走らせる覚悟を持っているトレーナーだけ来い...ということですよね!!!!!』

 

蹄鉄型のペンダントと肩に提げているショルダーバッグが特徴の女性記者が、マシンガンのように延々と喋り続けている。

 

月刊トゥインクルと言えば、数年前にミスターシービー先輩とシンボリルドルフと一緒に表紙を飾らせてもらった雑誌だったハズだ。その取材の時は、かなりしっかりしている会社なんだろうなと漠然と思っていたが、前言撤回しよう...とんでもない雑誌だったらしい。

 

『そしてゆくゆくは全距離G1制覇!!!!!!日本一...いや世界一のウマ娘というのがシルバーメモリーさんの目標ですね!!!!!!!』

 

「えー、違います」

 

人間...いやウマ娘というのはどれだけ怒り猛っていても、想定外のとんでもないことが起こってしまうと怒りがどこかに行ってしまうものなのだな...と痛感した。

 

そのような感想をしみじみ思っていると、突如廊下の方からドドドと非常に大きい走る音が聞こえてきた。

 

そして次の瞬間、バタンと会場の出入り口が急に開き、黒ずくめでサングラスをかけているウマ娘が10人ほど駆けつけ、乙名史記者と月刊ターフの男性記者を連行していった。

 

『...お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ございませんでした。それではインタビューの方を再開させていただきます。その他ご質問ある方はいらっしゃいますでしょうか』

 

 

 

...

 

こうして、私は無事?放送事故を全国に晒すことを運よく免れたわけだが、これはこれでSNSのトレンドを3日ほど独占する伝説のインタビューになったらしい。

 

結果的に乙名史記者に助けられたのだが、どうにも納得がいかない。どこかモヤモヤする気持ちを抱えながら、その後の質問には愛嬌無く淡々と答えていく。

 

...明日、月刊トゥインクル買ってあげようかな...3冊ぐらい。

 

 




佐々木ィ!乙名史ィ!お前らはプロットの新たな光だぁ!!

多くの感想・高評価・お気に入り誠にありがとうございます。
また誤字報告も感謝いたします。
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