トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー   作:ウホホ・ウホホイ

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Chapter.28 スカウト③

選抜レースの全行程が終了し、現在は大目玉イベントであるトレーナーのスカウティングが始まっている。夕暮れ時に差し掛かり、気温も落ち着いた中で幾多のウマ娘とトレーナー達が話し合っている様子が伺える。

 

ウマ娘の総数に対してトレーナーの数は圧倒的に少ないため、残念ながらスカウトを受けることなくこの場を去ってしまうウマ娘もいる。そのため、中には自分から売り込みをかけてトレーナーに自身の強みをアピールするウマ娘が多くいる。

 

仮にこの場でスカウトを受けることが出来なくとも、ここで特定のトレーナーに印象付けを済ませておけば以降の選抜レースで有利なため、心の何処かで本日の被スカウトを諦めているウマ娘は猛アピールをしている。

 

話は変わるが、トレーナーには格差がある。

当然だが、自身の担当したウマ娘が重賞を制することがあれば、トレーナー自体も同様に相応の評価を受ける。

 

実績を積みあげていくとチームを持つことが許可され、専用のチームルームやトレーニング施設が優遇される。トレーナーの格はブロンズトレーナーから始まり、結果を残していくとシルバー、ゴールドとステップアップしていく。そして更に実績を積み上げていくと"プラチナトレーナー"に昇格する。

 

プラチナトレーナーになることは容易ではない。G1で勝ち続ければなれるものではなく、担当ウマ娘のケガが続出したり、ウマ娘に常日頃から精神的圧力をかけたり、メディアの前での振る舞いが悪かったりするとゴールドトレーナー止まりになるのだ。

 

勝利至上主義の業界ながら、それと矛盾するように様々なマネジメント能力がトレーナーには求められる。そのため、チームを持つトレーナーというのは選ばれし天才であり、それこそウマ娘と同じくらい苛烈な競争社会を勝ち抜いてきた者のみ務めることが可能なのだ。

 

...このスカウトの場の雰囲気はどこか歪んでいる。

 

選抜レースに勝利し、囲まれるようにスカウトを受けるウマ娘がいる。

方や、メイクデビュー戦を出来るだけ早く出走したいがために、誰でもいいからスカウトを受けようとするウマ娘もいる。

スカウトされる希望を失ったからか、所謂色目を使って不健全なアピールをする子もいる。

 

トレーナーも例外ではない。

チームトレーナーはウマ娘に一声かければ、基本的にスカウトは成功する。

一方で、サブトレーナーを卒業し、今年から新人トレーナーとしてデビューした人達は、喉から手が出るほど即戦力のウマ娘を求めているのだが中々スカウトが成功しない。そして彼らのスカウトは一早く結果を出さなければ...という焦りが見え、色んなウマ娘に声をかけ収拾がついていない。

 

中等部3年が新人トレーナーのスカウトを受ける...一見フレッシュに見えるのだが実のところ全くそうではない。

各々の雑念が渦を巻く名状しがたい泥のような雰囲気を感じるのだ。

 

そして私は現在どうなっているかと言うと...

 

若い女性トレーナーが叫ぶ。

「シルバーメモリーさん!ぜひ私とトゥインクルシリーズを駆け抜けましょう!あなたのようなスタートと前目の技術を持つウマ娘なら、絶対に最強のスプリンターになれます!」

 

中堅の男性トレーナーがそれを遮る。

「いやいや、シルバーメモリーさん。あなたの当たり負けしないパワーはマイルでこそ本領を発揮します。私は去年マイルの重賞を2つ取っております...是非私の担当になっていただきたい」

 

白髪が交じったトレーナーが呆れて声を漏らす。

「何を言っているんだね二人とも、彼女の中距離のレースを見たかね?あのレースを圧勝できる実力なら、この子はトリプルティアラを目指せるだろう。ゴールドトレーナーの私が断言するんだ、間違いない。どうかね、私と一緒に挑戦しないか?」

 

金髪の如何にも軽そうな男性トレーナーが騒ぐ。

「いやまじありえないでしょ。この子なら全距離いけますって!どうかな?俺とG1全距離制覇目指そうぜ!」

 

トレーナー達に囲まれ四面楚歌状態であった。

あのインタビューを運よく事なきを得たことが功を奏したのか、30人を超える人達にスカウトされている。

 

私は人混みが得意でないため、精神的にとてもストレスを感じている。

更に彼らの口説き文句が私に精神的苦痛を与えていた。

 

 

 

どうして...だれも...

 

クラシックに挑ませようとしない...あの三日月の流星を堕とそうとしない...!

 

今すぐ実績が欲しいトレーナー...経験がある程度つき、どう走れば結果が伴い易いかを知っているトレーナー...そして全距離適性にのみ価値を見出しているトレーナー。

 

この場には私の夢を支えてくれるトレーナーは誰一人としていなかったのであった。

熱く高ぶっていた私の感情は、完全に閉ざされてしまった。

 

この濁りきった泥が渦めく場所には、これ以上立っていたくはない。

一旦仕切り直そう...そう気持ちを切り替えたとき、人混みをかき分けて男性トレーナーが数人やってきた。

 

「はいはい、失礼失礼...どいたどいた!」

 

「すいまっせん~。その銀髪の子を貸してもらえないっすかぁ?」

 

「申し訳ございません。シルバーメモリーさんをお借りします」

 

あの人達は...チームスピカの沖野トレーナー、チームシリウスの七市トレーナー、そしてチームカノープスの南坂トレーナーだ。

 

あまりの急展開に周りにいたトレーナー達は驚愕の表情を見せ、プラチナバッジを胸に着けているトレーナー達に恐れ慄いたのか、波が割れるように道を開けた。

 

結果として私は3人のチームトレーナーに手を引っ張られる形でこの場を去ることが出来たのであった。

 

 

 

 

 

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そのまま彼らに引き連れられ、チームスピカのトレーナー室に来てしまった。

 

「ふぅ...一先ずありがとうございます。助かりました」

 

「そう思ってくれたのなら良かった。迷惑だったらどうしようかと思っていたんだが、遠くからお前さんの顔を見ていたら、居ても立ってもいられなくなっちまってな」

 

ウマ娘の様子から自分が何をすべきか一瞬で判断できるあたり、だからこそこの人達はトレーナーの頂点に君臨しているのだなと改めて感じる。

 

「それで、シルバーメモリーちゃん。誰のスカウトを受けるか決まったっすか」

 

「いえ...正直決まってません。御三方には面談で話しましたが、私の目標は芝中長距離で()()()と戦うことにあります...。幸いにも数多くのお声掛けを頂きましたが、希望と合致するトレーナーはいませんでした」

 

自身の心境をそのまま伝えると、彼らは何処か納得している様子だった。

 

「それは残念です...しかしシルバーメモリーさんの走りを見てしまうと、そのようなスカウトになってしまうのは仕方ないのかもしれません...」

 

「トレーナー業も競争ですからねぇ。僕の眼からしても現状ティアラとヴィクトリアマイルが一番勝てそうな()()ですし、しょうがないっすよ」

 

南坂トレーナーと七市トレーナーが苦々しい顔をしながら口にする。

 

彼らが私の走りを評価しているようで気持ちが跳ねそうになったが、プラチナトレーナーがこうして3人揃うことは中々ないので、私は心の隅で思っていることを聞いてみた。

 

「身の程知らずは承知でお伺いしますが、皆さんは私をどう思っているのでしょうか」

 

要はスカウトする気があるのかないのかを問うてみる。

 

「...すまんな。お前さんの走りは個人的に中等部で一番評価してる。でも、シルバーメモリーの夢を万全な状態で支えることはスピカには難しいんだ。ウチはG1の勝利数こそは恵まれているが、それは基本的な育成方針に"長所"を極限まで高めるというものがあるからだ。様々な方向性の長所を持つ可能性の塊のお前さんを育てるノウハウが現状無い。一人のトレーナー、一人のシルバーメモリーファンとして夢を全力で支えてやれないんだ」

 

「私も同じ考えです。チームカノープスはケガをしないことをモットーに掲げて練習に取り組んでおりますが、悪く言えば安定を取ってしまうチームでもあります。シルバーメモリーさんの夢の先には、恐らくケガを度外視し無茶をしなければならない場面がきっと来ることでしょう...。しかし、その時が来たらきっと僕はあなたを止めてしまう、夢の邪魔をしてしまう」

 

「そ、そうですか...」

 

中央のトップチームから見ても、私は相当手にあまるウマ娘らしい。

 

「シリウスは少々特殊なウマ娘達が在籍しているので、シルバーメモリーちゃんはチームに違和感なく溶け込めると思いますし、僕は喉から手が出るほどスカウトしたいっす。でも、僕なら絶対にクラシック期はトリプルティアラに加えてエリザベス女王杯、シニア期はヴィクトリアマイル、安田記念からのスプリンターズステークス、そして高松宮記念のローテを組んじゃうと思います。心のどこかでそれが最適解であると思っちゃっているんですよねぇ」

 

シリウスのトレーナーが本気の顔、本気の目つきで私を見ている。

 

「夢を全力で応援できないトレーナーは、シルバーメモリーさんに相応しくないっす。なので僕は君をスカウトする資格が1mmもない。力不足で申し訳ないっす」

 

「い、いえいえ...こちらも思い上がった事を聞いてしまって失礼いたしました...」

 

結果として、私の夢を応援してくれるトレーナーはトレセン学園にはいないということが理解ってしまった。

 

頭が真っ白になり何も考えられない。私のレース人生はここで終わってしまうのか。

 

そんな絶望の淵に沈みかけていた時、沖野トレーナーが目の前に来て1枚の紙を渡してきた。

 

「これは...?」

 

「今日とあるチームがトレセン学園に設立されたんだ。チーム名は()()()()()()()()

 

「チーム...ポルックス...」

 

「まぁ、細かい事は言えないんだが...一回ここに顔を出してみな。きっと素敵な出会いが待ってるぞ」

 

チームポルックス、当然聞いたことのないチームだ。

しかし、このチーム名を見たとき強烈な既視感が私を襲った。

 

「よくわかりませんが、ありがとうございます。一回ポルックスのチームルームに顔を出してみようと思います」

 

「おう、そうしろ!そうしろ!善とウマ娘は急げって言うしな!」

 

最後に3人にお礼を言って、駆け足でこの場を去る。

 

ポルックスのチームルームはここから...レース場の裏か....。

 

 

 

 

 

 

 

その後、スピカのトレーナー室では

 

「...あぁ~~~!!シルバーメモリー、死ぬほどスカウトしたかったわ~~~!!今迄出会ってきたウマ娘で最高のトモをしていたんだがなぁ~~!!」

 

「わかります...わかりますよ!!!!彼女は誰も見たことのない境地に行ける可能性を秘めているのに...あぁ、実力不足の自分が憎い!!!!!!!」

 

「あぁ~~、2人に格好つけさせて抜け駆けでスカウトするつもりだったのになぁ~~~!!カァー!!理事長の職権乱用が無ければなぁー-!!!」

 

プラチナトレーナー達の嘆きが響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

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「ここが"チームポルックス"...」

 

チームポルックスのチームルームの前に来たのだが、まず最初にその大きさに驚愕した。

本日新設された新進気鋭のチームのハズなのに、リギル並みの規模を誇っていた。

 

通常チームは一室の小部屋から始まり、結果を残していくことで設備や建物が増築していくのだが...

そんな風に驚いていると後ろから声をかけられた。

 

「よう、久々だな銀髪っ子。元気にしてたか?」

 

後ろを振り返ると、背丈は180cm程で非常に骨格がしっかりとしているグレーのスーツ姿の男性が存在感を放っていた。片手をポケットに突っ込み、白髪のポニーテールを風に靡かせながら年季が入ったようなニヘラ顔をしていた。

 

「あ、あなたは...!」

 

私はこの男を知っている。忘れるはずがない。

 

「カカカッ、プールや将棋、そして瓦割...お前には物足りなすぎるトレーニングだが、いざやってみると景色が変わるだろ?」

 

半年前、私が坂路練習に躍起になっていた時止めてくれた"元"トレーナーだ

そして彼は現役時代、かのシンザンのライバルであったユメノチカラを担当していたのだ。

 

その後、彼からの一通の手紙を通して、中等部3年に進級するまで坂路練習は控えるよう指令が入ったのであった。

 

「な、なぜ、あなたがこんなところに...!」

 

「そりァあれだ、俺はチームポルックスの統括トレーナーだからな。トレーナーがチームルームにいるのは不思議じゃねェだろ?」

 

ガハハと豪快に笑う老練な男性がそこにはいた。

 

「トレーナーライセンスは失効しているはずじゃ...」

 

「引退してから十数年たっちまってるし失効はしてたさ。でもまァ...だったら取り直せばいいってワケだ」

 

彼はぽいっと、小さい金属のようなものとカード状の何かを放り投げた。

私はそれを反射的につかみ確認する。

 

「中央トレセンの社員証...それに...」

 

プラチナに輝くトレーナーバッジが手の中で煌めきを放っていた。

 

「驚いたぜ、最近の中央の試験結構難しくなってるんだな。難易度をあげればあげるほど、トレーナー総数が少なくなるんだがなァ...まぁそんなことはどうでもいいか」

 

彼は、私の目の前に来てじっと銀色の眼を見つめる。

 

「...銀髪っ子、お前トレーナーついちまったか?」

 

「いえ、まだどのスカウトも受けてない...です」

 

正直にそう伝えると、彼は手を叩いて笑い出した。

 

「ハッハッハ!!あぁ、そりゃァ安心した!!そうだよな、そうだよな!!()()()()()()()よなぁ!!」

 

「そんなに面白いですか」

 

「いやァ、悪い悪い。若いもんの芽を摘まないよう出しゃばらない様にしてたんだが...まだスカウトを受けてねェみたいで本当に良かった」

 

くしゃくしゃの笑顔と共に、彼の白いポニーテールが揺れる。

そして、一拍間を置いた後に、その男は力強く眼を開き言葉を続ける。

 

「お前の夢は、誰よりも多くのレースに出走し...誰よりも勝利を重ね、誰も見たことのない景色を見る...だったな?」

 

「...ッ!!」

 

「そして、G1でシンボリ家の最高傑作と我儘なお嬢様をぶっ潰すことだよなァ?」

 

彼の言葉に私の胸がドクンと跳ねる。

 

「俺はお前のクラシックは3冠路線しか考えてねェし、他の路線なんて眼中にねェ」

 

あぁ...あなたが...

 

「そしていつまでも走り続けさせてやる、お前が走ることに飽きるまでなァ」

 

あなたこそが...

 

「チームポルックス...この名前は俺が以前持っていた"チームカストル"の兄弟みてェなもんだ。やよいちゃ...理事長に頼み込んで、チームルームは出来る限り当時を再現してもらった。G1勝利数こそはシンザン率いるチームがトップを走っていたが、なんと獲得賞金数はチームカストルがナンバーワンだったんだぜ?そのおかげで練習環境は学園内で一番整っていたんだ」

 

チームカストル...そうだ、彼は...

 

「ポルックスとカストルはふたご座の一等星と二等星でよォ...カストルの方が僅かに光が弱いんだ。だがポルックスはリギルやスピカ、シリウスにも引けを取らない輝きをしている。俺はチームポルックスをそんなチームにしてェんだ」

 

 

 

「シルバーメモリー、俺と一緒にトゥインクルシリーズで戦ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

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こうして私の選抜レース、そしてスカウトは無事幕を閉じた。

 

私はこれから夢に向かって走り続ける。

 

自身の夢のため...そして...

 

チームポルックス...このチームを輝く一等星にするために...。

 

 

 

 

 

 

 

 




【祝】銀髪の子、チーム入り決定
チームポルックス...お前はトレセン学園の柱になれ

ようやく物語が始まります。よろしくお願いいたします。

白髪のおっさん、作中時間どころかリアルタイムで半年ぶりに出てきたので、新キャラに見えた方はお時間がありましたら16話を見返していただければ幸いです。

また、多くの感想・高評価・お気に入り誠にありがとうございます。
誤字報告も感謝いたします。本当に助かっております。
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