トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー   作:ウホホ・ウホホイ

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トレーナーとして若造なのは百も承知だが、気まぐれで寄った小学校であんな傑物を見るとは思わなかった。走りの才能は無いかもしれない、でも確実に彼女は化け物側のウマ娘だ。


Chapter.2 2枠2番

「最後になりますが、理事長ならびに諸先生方、そして先輩方にはご指導とお導きのほどよろしくお願い申し上げます。私たち新入生一同は歴史と伝統ある学園の生徒としての誇りを持ち、その名に恥じぬよう実りある学生生活を送ることをここに誓います」

 

「うむ!見事!!!」

 

 

あの後、三日月の彼女と一緒にトレセン学園行きのバスを捕まえて一緒に入学式に向かったのだけれども

 

「新入生代表だったんだ」

 

三日月の彼女こと、シンボリルドルフは新入生代表として立派な挨拶を務めていた。

バスの車中である程度話してみた感じ流石シンボリ家の御令嬢だなぁって印象だったけど、まさか新入生代表とは思わなかったな。

 

トレセン学園の新入生代表挨拶というのは非常に名誉のある事だとされている。

入学試験トップに加え、品行方正でなければ新入生代表挨拶に抜擢されない。

 

抜擢される人材がいない年があるような言い方だが、実際にあるのだ。

 

その場合は新入生代表挨拶をすっ飛ばして、理事長の締めの挨拶に移るというなんともシュールな進行が見られる。

 

それはつまり「お前らの中に抜けている人材はいない、研鑽せよ」という発破になり

それはそれでウマ娘の闘志に火をつけるのでいい方向に向くらしい。

 

過去にはシンザン大先輩だったりマルゼンスキー先輩が挨拶を務めており、抜擢されると世代の顔、最注目株として周りに見られるようになる。

 

それもそのはず、トレセン学園の入学式は国民的行事として全国にTV・ネット中継されている。

故に、今現在シンボリルドルフが同世代において頂点に最も近いウマ娘であることが日本中に知れ渡っていることだろう。

 

明日の新聞とネットニュースの一面はシンボリルドルフで総なめは確実だ。

 

「閉幕!!新入生一同起立!!退場!!」

 

小さな理事長の溌剌とした声が体育館に響き渡り、新入生全員が退場する。

この後クラス分け発表らしい、三日月の彼女とは同じクラスになるのだろうか。

 

 

 

――――――――――――――――

 

「やぁ、シルバーメモリー。同じクラスというだけじゃなく隣の席になるとはね。合縁奇縁とはまさにこのことだ」

 

「代表挨拶お疲れ、様になってたよシンボリルドルフ」

 

何となく同じクラスになる予感はあったが、お隣さんになるとは。

 

人付き合いが苦手...ではないが愛嬌が無いということで近づき難い雰囲気があるらしく、小学生時代は滅多に話しかけられなかった。

 

私自身、レース以外に関心が無かったため自分から他人に話しかけることもあまりない。

 

なので気兼ねなく話しかけてくるシンボリルドルフは新鮮な感じがした。

名門出はレースだけではなくコミュニケーション能力も高いのだろうか。

 

「流石に代表挨拶ほどの大役となると緊張はするさ...おっとそろそろオリエンテーションが始まるみたいだ」

 

シンボリルドルフとそんな話をしていると、教員らしき人物が教室に入ってきた。

 

「入学式お疲れ様でした、そしてようこそトレセン学園へ!私はこのクラスの担当になりました松下と申します。よろしくお願いいたします!」

 

随分と快活な若い女性だ。教員というと髭を携えて竹刀を持っているオジサンのイメージがあったが、アップデートしないといけないな、竹刀だけに。

 

「ぷっ」

 

隣から噴き出す音が聞こえた気がするが気のせいだろう。

 

「入学式直後で疲れてるかもしれないけど、早速オリエンテーションを始めたいと思います!」

 

オリエンテーションの内容は基本的に学園の施設やレースに関することであった。

 

まず私の所属する中等部はジュニア期と呼ばれ、ここでウマ娘はレース基礎の学習や体づくりに努める。

 

そして本格化を迎え、心身ともに成長をしたウマ娘からメイクデビュー、未勝利戦の勝利を目指す。

 

メイクデビュー、未勝利戦を制してクラシック戦線に臨むものから順々に高等部に進学する。

この高等部1年目の期間をクラシック期間という。

皐月賞や日本ダービー、菊花賞など一生に一度しか走ることが許されないレースがこの時期に行われるため、ウマ娘にとっては非常に重要視される1年と言える。

 

クラシック期間を終え、高等部2年目以降になるとシニア期間と呼ばれるようになる。

他の呼び方では古バ戦線と言われており、ウマ娘の肉体が全盛を迎えるのは勿論、レース経験や実績が積み重なっていくためレースレベルが数段跳ね上がる。

 

シニア期間を過ごしたウマ娘を待っているのは、現役を続けるか否かという選択である。肉体や闘争本能が続く限りシニア級の第一線で戦い続けるのも良し、第一線を退き家庭を築いたり就職したりするウマ娘も多くいる。

 

また、シニア級で結果を残したウマ娘は、トゥインクルシリーズで好成績を残したウマ娘にのみ所属が許されるドリームリーグに進むかどうかの意思を問われる。

ドリームリーグは夏開催のサマードリームトロフィーリーグと冬開催のウィンタードリームトロフィーリーグの2種類があり、そこでレースを走るというものだ。

 

年2回のレースのため体の負担はシニアより段違いに少ないので、肉体の全盛は過ぎてしまったがウマ娘としてのレースに対する本能が消えない人達が所属している。

こちらはトゥインクルシリーズに比べ興行的な側面が強く、どちらかというとあの時見たかった夢のエキシビションマッチという感じだ。

ちなみにドリームリーグに入るとトゥインクルシリーズには戻れない。

 

ジュニア級からクラシック級、そこで活躍してシニア級へ、そこでも結果を出しドリームトロフィーへ。

 

これがウマ娘全員が一度は思い描く将来設計。

 

でもここにいるウマ娘は全員知っている。

 

そもそもクラシック級に進める時点で上澄みであるという事を。

 

クラシック級に進むためには中等部最終年の初戦レースである"メイクデビュー"で勝利するか、メイクデビューで一着をとれなかった子が参加する"未勝利戦"に勝利しなければならない。

 

その未勝利は同年9月まで開催されているが、それ以降は行われない。

 

つまりそこまでに結果が出なければ...

 

噂では中等部最終年の時点で入学したウマ娘の半分近くは"自主退学"する。

 

(クラシックが終わるころにはその3割...シニア級初年でその半分...)

 

それほどまでに苛烈な競争社会であるということを、この場にいる全員が知っている。

知らないとしたらよっぽどの田舎から出てきたか、天才肌の化け物だろう。

 

「そして本格化を迎えた子たちは模擬レースに参加してトレーナーにアピールしましょう!」

 

なんてポジティブな言い回しだろうか。

 

先生の言う通り、中等部で本格化を迎えたウマ娘は模擬レースに参加する。

そこで結果を残すとトレーナー、即ちチームにスカウトされる。

 

そもそもトゥインクルシリーズはトレーナーが付いていないウマ娘は参加が叶わない。

ウマ娘の余りある身体的能力や闘争本能を管理するトレーナーがいないと、色々と危険だからという理由だ。

 

実際私もレース中やトレーニング中にハイになって周りが見えなくなってしまう事がある。

私もしばしばトレーニングハイになってしまうので、その度に先生に止めてもらっていた。

 

そういう危険な状態を管理するものが必要だという事だ。

 

故にトレーナーが付かないウマ娘に未来はない。事実上の退学勧告である。

 

(模擬レースで選別され...トレーナーのスカウト、デビュー戦で選別され...クラシック級で選別され...)

 

才能がない私にとっては一日一日が迫りくる壁のように思えるだろう。

 

でも、それでも

 

何故か胸の底で燃え滾る何かを感じていた。

 

 

――――――――――――――――

 

 

というわけでターフの上にいる。

 

オリエンテーションが終わり、何が始まるかと思えば先生が

 

「はい、それでは皆さん!机の上にある体操着に着替えて自己紹介代わりのレースをしましょう!」

 

といったのが発端である。

 

確かに新入生同士顔を合わせているのに自己紹介が無いなぁとは思ったけど...

 

本日の天候は晴れ、バ場状態は良好、流石トレセン学園のターフ、小学校とは比べ物にならないほど美しく整備されている。

 

距離は1000mの5ハロンの右回りで8人出走、いつも走っているコースより1ハロン長い。

 

勿論これぐらい走れるだろ?という圧を感じるが、ここ1か月、練習密度を以前よりあげたおかげか5ハロンは全力を出せるぐらいまでスタミナが付いた。

 

問題なく走りきれるだろう。

 

(良バ場だけど最終コーナー付近の芝、結構水分を含んでいた...あそこがポイントになるかもしれない)

 

もはやルーティーンになっているレース場の状況確認をしていると声をかけられた。

 

「シルバーメモリー、君も第2コースだったか。君とは常に一緒な気がするな、よろしく頼む」

 

「シンボリルドルフ...しかも枠番もあなたが1番で私が2番、ここでもお隣さんだったよ」

 

「おっと、それは僥倖だな。内枠は個人的に好ましい」

 

「そうなの?私はてっきり真ん中らへんが得意だと思ったけど」

 

「...どうしてそう思うんだい?君の前で走ったことはないはずだが」

 

「...なんとなくかな」

 

「そうか...なんとなく、か」

 

不思議そうな顔をしている三日月の彼女と話していると、先生の声が聞こえた。

 

「出走される生徒の皆さんはゲート前まで移動お願いしまーす!」

 

トレセン学園に入って初めてのレースが今始まる。

 

「さてシルバーメモリー、当然君とは初めてのレースだ。善戦健闘、お互い悔いのない走りをしよう」

 

「...そうだね、よろしく。全力で勝ちに行くよ」

 

「ふふっ...望むところだ」

 

 

 

――――――――――――――――――

 

「さぁ、本日はトレセン学園入学式!全国から集まった優駿が初めてトレセン学園のターフを踏みしめております!今年より入学式当日にレースを開くということで僭越ながら実況させて頂きます〇〇です!

 

さて、今から実況しますのは恐らく注目度ナンバーワン!シンボリ家の御令嬢で新入生代表挨拶も務めました"シンボリルドルフ"さんが出走される第2レースになります!」

 

準備運動を入念に済ませてゲート前まで進み出走するウマ娘を確認する。

 

1枠 1番 シンボリルドルフ

2枠 2番 シルバーメモリー

3枠 3番 トウカイマロン

4枠 4番 ダイアナガロン

5枠 5番 キョウワファイア

6枠 6番 スズフェスティバル

7枠 7番 ヒガシノライデン

8枠 8番 クイーンハイセイコー

 

(今日会ったばかりのウマ娘しかいないのは当然だけど、それでもやれることはやっておこう)

 

ゲートイン前に最後の準備運動をしているウマ娘たちを確認する。

 

(3番トウカイマロンちゃん...筋肉の付き方からして先行を好むのは間違いない、4番ダイアナガロンちゃん、彼女は確実に集中力が続かないタイプだ、緊張しているわけじゃなさそうなのにさっきから落ち着かない。末脚勝負に全てかけるウマ娘特有の様子)

 

ゲートイン前のウマ娘の様子や準備運動でどこの部位を重点的に動かすかなどを見れば、だいたいの戦法の傾向や調子はつかめる。ウマチューブで超大量の動画を細部まで見続けた賜物だ。また、動画の他にウマ娘のコンディションに関する文献も読み漁ってるため、かなり実践的な机上の論をレース前に立てることが出来るようになった。

 

(シンボリルドルフ...彼女は...)

 

最後にシンボリルドルフを視界に入れたがゲート前で目を瞑っている。

本番直前に瞑想をするアスリートは別に珍しくもなんともないが違和感を覚えた。

 

(あまりにも静か...レース前のウマ娘にはとても思えない)

 

シンボリルドルフは目を瞑りながら深呼吸を繰り返しており、非常に落ち着いている様子だ。

本来ウマ娘というのはターフに立ちゲートインに近づけば近づくほど闘争本能が呼び覚まされ、熱を帯びるような雰囲気に変貌するものだ。しかし三日月の彼女はまるで寝てしまうんじゃないかというぐらい雰囲気が冷めている。

 

(でも周りの空気は震えているような...今朝のバスターミナルの時みたい)

 

やはりこのレースの最大の相手は三日月の彼女、シンボリルドルフに間違いないと確信した。

 

その瞬間、冷めているシンボリルドルフと対称的に私の体中の血が燃えるかのように熱くなっていく。

 

心臓から大量の熱血が全身に巡り始める。

 

深く呼吸をし、細部にまで酸素を送り込み闘争本能という名の焔を灯す。

 

同時にレースプランをイメージトレーニングをするように繰り返し想起する。

 

準備は万全、出来ることはした。

 

スカウトされてから今日までトレーニングは欠かさなかった。

 

闘志は十全、体調は完璧、状況は最高。

 

絶対に勝つ、今度こそ勝つ、誰よりも早くゴール板を走り抜ける、今度こそ...

 

(今度こそ、私が勝つ)

 

「それではゲートインよろしくお願いしまーーーす!」

 

レースが始まる。




銀髪の子かわいそう
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