トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー   作:ウホホ・ウホホイ

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Chapter.30 始動

『さぁ、4番手集団にミスターシービー!!ミスターシービーが上がってきた!!』

 

『メジロバルシーは後方集団から内を狙って最終コーナーを回る!!』

 

『マキシマムファイアが先頭をキープしているが、グングングングンとミスターシービーが上がってくる!!!』

 

『ミスターシービーが凄まじい追い込みをかけて...今先頭に立った!!!バ場の中央を抜けてきた!!』

 

『セカンドタカフジが2番手に上がる...しかしミスターシービーが後続を引き離す!!』

 

『カツラギ!!カツラギエースも負けじと追走!!!』

 

『しかしミスターシービーが抜けてきた!!ミスターシービーが抜けてきた!!2バ身!!3バ身!!圧倒的だ!!』

 

『ミスターシービーが先頭でゴールイン!!!』

 

『ミスターシービー、物凄いレースを魅せてくれました!!』

 

『1コーナーを一番最後で回って、ジリジリジリジリと追い込む何と派手な逆転劇!!!』

 

『ミスターシービーからミスターウマ娘へ!!』

 

『第50代、日本ダービー制覇ウマ娘です!!!』

 

 

 

----

 

 

「んじゃ、チームポルックスの最初のチームミーティングを始めようじゃねェの」

 

そう言ってチームポルックス統括トレーナーである白金トレーナーは、日本ダービーを放送していたテレビの電源を落とした。

 

83年日本ダービーを制覇したウマ娘は、チームリギル所属ミスターシービー先輩であった。第1コーナーを最後方でカーブしたにもかかわらず、気付いた時には既に先頭を捉える位置まで徐々に上がってきて、最終コーナーを回った瞬間には彼女のウイニングショットであるラストスパートの態勢が整っていた。結果は2着に4バ身差の圧勝、シンザン以来の無敵の称号であるクラシック3冠に王手をかけた。瞬く間に2つの冠を手中に収めてしまった...なんというウマ娘なのだろう。

 

私は現在、ポルックスのチームルームにいる。

私以外に所属ウマ娘はいないため、だだっ広い部屋に声が響き渡り物寂しさを若干感じる。

 

「...それでトレーナー、大体見当はついてますけど...何のミーティングをするおつもりですか」

 

チームに所属して最初の打ち合わせと言えば、十中八九今後のレースと練習方針の擦り合わせだろう...と内心思ってはいたが形式めいた質問をしてみる。

 

「あー、まず敬語禁止な」

 

返ってきたのは質問に対する回答ではなかった。

 

「ウマ娘とトレーナーは対等な関係がベストだ。勿論敬語が自然体のウマ娘も中にはいるが...シルバーメモリー、お前の素はそんな優等生じゃねェだろ?」

 

「...まぁそうですが」

 

「俺の持論ではあるが...謙遜、遠慮、敬語、この3つはウマ娘とトレーナー間に溝だったり認識の齟齬を生むと考えてる。日本語は素晴らしく美しい言語ではあるが、そいつの本性を隠すことに長けた言語でもある」

 

「...」

 

「お前は競技者で俺はトレーナー。互いの関係は持ちつ持たれつ...まずは言葉遣いから対等になろうじゃねェの」

 

このやり取りだけで、白金という男を少し理解できたような気がする。伊達にチームカストルという名チームの統括をしていたわけじゃない。

 

「...わかった。あなたがそう言うのであれば、敬語は使わないようにする」

 

「是非そうしてくれ。俺もお前みたいな容姿抜群のウマ娘に敬語使われると、体が痒くなっちまう。それと謙遜と遠慮も極力禁止な、メディアの前では必要な立ち振る舞いではあるが、俺の前でこの2つを見せるのはやめてくれ。レースに勝つウマ娘っていうのは、どいつもこいつも我儘で傲慢で自分勝手で夢見がちなやつだ」

 

男の言葉からは幾多の名ウマ娘を育て上げ、幾多の名レースを生んできた経験の重みを感じる。

 

「あー...そう言えばシルバーメモリー、お前普段他のウマ娘からなんて呼ばれてんだ?」

 

「なんでそんなことを聞くの」

 

「"シルバーメモリー"、っていちいち呼ぶのには長ェと思ってな。お前の知ってるユメノチカラは周りから"ユメ"って愛称で呼ばれていたしよ」

 

...シンボリルドルフが"シルバーメモリー"、ミスターシービー先輩は"メモリーちゃん"、他の子からは...

 

「銀髪の子とか、銀毛の変な子って呼ばれてるかな」

 

「すまん、これ笑いどころであってるか?」

 

トレーナーからの質問を受けてみて、改めて私の交友関係の狭さを確認した気がする。

思い返してみると、三日月の彼女とシルクハットの彼女以外にまともに会話したことないのでは...。

 

「親御さんはお前のことをなんて呼んでいるんだ?」

 

「...お父さんもお母さんも、私のことは"メモリー"って呼んでいた」

 

「んじゃァ、俺も"メモリー"と呼ばせて貰おうかね。あと俺のことはシロガネでもトレーナーでもおっさんでも好きなように呼んでいいからな」

 

「...トレーナーでいい」

 

「よし、じゃぁお互いの呼び方も決まったところだし本題に入るか」

 

そう言ってトレーナーは巨大なホワイトボードを部屋の隅から引っ張ってきた。そして新品のボードに新品のペンで何かを書きなぐっていく。

 

「まぁ本題つっても、メモリーの出走レースを決めるだけだがな。出走するレースを決め、ライバルになり得るウマ娘を見極め、そいつに勝てるようにトレーニングメニューを組むのが俺のやり方だ。まずは出走するレースを選ばないと話が進まねェ。」

 

トレーナーが書いていたのは、今年の年末から来年のクラシック期までの期間で、出走可能な全ての芝の重賞レースであった。

 

「メイクデビューは夏明け一発目の週を現状考えてるんだが...正直これだけは俺の言う通りにして欲しい。だがそれ以外は全てメモリー、お前自身が決めろ」

 

「私の能力、適性を見極めてそれを決めるのがトレーナーの仕事じゃないの」

 

「...それが出来るトレーナーはお前にクラシック3冠路線なんて絶対走らせないがな」

 

「...」

 

ぐうの音が出ないほどのカウンターパンチを喰らった気分になった。

 

「お前の意志でお前が決めろ。覚悟ってのはこういうところから育っていくんだよ」

 

トレーナーからホワイトボード用のマジックを受け取り、彼の書いたレース名に丸を付け始める。

 

「お前のレースに対する造詣の深さは知っているし、レースIQの高さも同世代じゃぶち抜いてる。でもよ、こういうのは合理性とか理屈とかじゃねェんだ。お前が真に走りたいレースを俺に教えてくれ」

 

キュッキュと丸を書き連ねる。

 

中距離2000m...OP芙蓉ステークス、中距離2000m...G1ホープフルステークス

中距離2000m...G2弥生賞、中距離2000m...G1皐月賞

中距離2400m...G1日本ダービー東京優駿、中距離2200m...G2セントライト記念

長距離3000m...G1菊花賞、中距離2400m...ジャパンカップ

長距離2500m...G1有記念

 

私はジュニアからクラシックまでの、芝中距離王道路線に分類される全てレースに丸を付けた。

 

「ほぉ...てっきりNHKマイルとか気になっていると思ってたんだがなァ、中長距離一直線で感心したぜ」

 

「そんな寄り道をしている暇なんてないでしょ」

 

「全くもってその通りだ。あの怪物たちを倒すためには中距離一本に絞らなきゃ話にならねェ、しかも菊花が終わればシニア級の化け共とも相まみえることになるしな。他の距離のトレーニングメニューなんぞこなす時間は1秒たりとも無い」

 

正直に言ってしまえば、スプリントもマイルも出走したい気持ちはある。しかし、そのような甘えた考えは間違いなく悪い方向に転ぶことを確信している。シンボリルドルフとミスターシービー、それ以外のウマ娘達の大半が私より競走能力に長けているのだ。

 

生半可な小細工を仕掛けても、基礎能力だけで潰されてしまうだろう。私自身の基礎能力の底上げのためにも中距離レースのみに絞り、重点的に鍛える必要がある。

 

「そう言えばメイクデビューは夏明けって言っていたけど、何か理由はあるの?5月時点でスカウトされたウマ娘は基本的に夏前にはデビューするのが定石って聞いてるけど」

 

「本当に勤勉だなァ。そうだな、一発目の選抜レースでチームないしは専属トレーナーがついたウマ娘は、その流れのままメイクデビューするケースが多い。いいイメージのままレースに臨めるからな」

 

「じゃぁなんで」

 

「これ見てみろ」

 

そう言ってトレーナーはウマホと新聞を渡してきた。ウマホのディスプレイには先日の選抜レースのレース動画が映っており、新聞の表紙には私の全身がデカデカと載っていた。

 

「お前はトレセン学園から外には滅多に足を運ばない上に、ネットに明るくないだろうから把握できてないと思うが、今や世間は結構なお祭り騒ぎになっているんだよ。日夜シンボリルドルフとシルバーメモリーを神輿の上に掲げて、一般層を煽ってやがる。今レースを走ってみろ、先日のインタビューみたいな面倒なことが沢山起きるぞ」

 

芝2000mのレース動画は150万再生を優に超しており、インタビュー動画に至っては300万再生を突破している。私もウマチューブでレース動画は腐るほど見るので、この再生数がどういうことなのか、その意味はしっかりと認識できた。

 

「こういう熱は燃え上がるときは燃え上がるが、ちょっと時間が経てば一瞬で冷めるもんだ。だからメイクデビューは夏明けの少し涼しい時期に照準を絞りてェ...それに」

 

「それに...?」

 

ブゥン...ブォンブォンブォン!!ブゥン...ブォンブォンブォン!!

 

なんだこの異音は。

 

シロガネトレーナーが話している途中、外から凄まじいエンジン音が鳴り響いてきた。

明らかに公道を走る普通乗用車のエンジン音ではない。ましてや工事現場の車両のような重厚感のある音でもない。

 

「お、ナイスタイミング。流石の体内時計と言ったところだなァ、全く錆びついていねェ」

 

暫くするとチームルームが揺れるほどの爆音は止まった。そして部屋のドアが静かに開き、とあるウマ娘が姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

そのひと走りひと走りに、偉大なる才能の片鱗をターフに散りばめたウマ娘がいた

 

 

八戦全勝という無敗の成績

 

卓越した瞬発力、比類なきスピード

 

英国三冠バに輝く偉大なる血脈、その真の後継者の証明

 

いつまでも語り継ごう おまえの強さを

 

そのウマ娘の名は...

 

 

 

 

 

 

マルゼンスキー

 

 

 

 

「はぁい!シルバーメモリーちゃん初めまして!これから私とモーレツに熱い夏を過ごしましょうね!!」

 

 

紅焔のスーパーカー、伝説として語り継がれるウマ娘がそこにはいた。

 




やったね!銀髪の子!(二つ名スーパーウマ娘の)友達が増えるよ!!

多くの感想・高評価・お気に入り誠にありがとうございます。
誤字報告も感謝いたします。本当に助かっております。

【ポルックスに入れたいウマ娘を募集中】
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=286193&uid=348179

・84年~98年世代が対象
・3人ほど採用させて頂く予定です。

参考にさせて頂きます。

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