トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー   作:ウホホ・ウホホイ

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Chapter.31 紅焔ギア

マルゼンスキー。

 

彼女の伝説を語ろう。

 

それは76年、そろそろ夏が始まる頃の話だ。後に"スーパーカー"と評されることになるマルゼンスキーは中央トレセンの門をくぐるのだが...元々中央で走ることを夢見ていたわけではないという。地元の友人から中央で走る姿を期待されたから入学した...そんな動機で中央に入学した。

 

中等部1~2年の頃は体の成長が競走能力に追いついておらず、負荷の大きいトレーニングを基本的にこなすことはなかった。周りより強度の低いトレーニングを積んでいたせいか、当初はクラスの中でも真ん中ぐらいの実力だった。しかし、彼女の圧倒的ポテンシャルを見極めた当時のチームリギルのトレーナーは、頭を下げてチームへの早期所属を直談判したという。

 

ポテンシャルの塊の彼女に、学園最高育成能力を持つチームリギルの環境を与えたらどうなるか...。それは中等部3年のメイクデビューで世間に知れ渡ることになる。

 

中等部3年の秋。チームリギルに早期所属を果たした実績もあり、当日は1番人気の支持を受ける。このレースでは、マルゼンスキーと同学年同クラスの超名門出身のとあるウマ娘も出走していた。そのウマ娘は幼少期から周囲に絶大な期待をされており、人気はマルゼンスキーだが前評判自体はそのウマ娘の方が評されていた。

 

しかし、ここで事件が起こる。

 

マルゼンスキーはスタートと同時に秒でハナを奪う。そのまま先頭に躍り出てそのまま後続に10バ身を超える大差をつける。流れのままにゴール板を通過していき、2着とのタイムを2秒差をつけて初戦勝利を挙げたのだ。

 

ゴール後のマルゼンスキーは息一つ乱れることなく、名門のウマ娘に対して「今のレースは本当に楽しかったわ!また走りましょうね!」と言い放った。本人は健闘を称えた合ったつもりだろうが、10バ身をつけられた彼女が何を思い何を感じたかは説明する必要は無いだろう。

 

メイクデビューを圧倒的なレースでデビューを果たしたマルゼンスキーだったが、彼女の勢いは留まることを知らなかった。続く1勝クラスも2着にバ身差をつけて勝利、レース内容もただスタート直後に誰よりも早く先頭を奪い、誰よりも早いラップタイムを刻みそのままゴールをするという暴力的なものだった。

 

同年の11月、府中で行われたレースでは彼女は何を思ったのか、いつものロケットスタートを切らず先頭を奪うことはしなかった。それどころか中盤をキープし、最中直線まで動きなしという彼女らしくない展開だった。最終直線になって焦りだしたのか、最後の200mでようやくスピードを上げたのだが結果は写真判定。結果はマルゼンスキーがハナ差先着していたのだが、勝利した彼女の表情は全く晴れてはいなかった。

 

マルゼンスキーはこのレースの事は10年近く経った今でも語ることは無いのだが、ファンの間では『強すぎるが故に手を抜いた』だとか、『大差で勝つことを嫌って敢えて差しで勝負した』だとか囁かれている。真実はマルゼンスキー以外誰も知らない。

 

そして12月、中等部最強を決めるレースの一つである朝日杯が来た。

 

前走で見せた謎の差しはここでは見ることは無く、レース最序盤から全力フルスロットル。後日談では出走前にチームリギルのトレーナーが彼女に「とにかく全力で走れ、全ては私が責任を持つ」と熱い言葉を残したとのことだ。

 

マルゼンスキーは彼女らしいロケットスタートから先頭を一気に奪うと、前走にて最終直線で競り合ったウマ娘を完全に突き放す。エンジン音の幻聴が聞こえてくる程の爆発的スピードで突き放し、最後は驚異の13バ身...2.2秒という異次元のタイム差をつけて勝利を掴んだ。

 

中等部3年を4戦4勝のパーフェクト...当然最優秀中等部に選出された。そして高等部に進学しても彼女の怪物じみた走りは続いていくのだが、ここで彼女を語る上で避けることのできないエピソードが生まれる。

 

77年のきさらぎ賞のために調整も兼ねてレースを一つ出走登録したのだが、マルゼンスキーが出走するという話が伝わると、続々と他のウマ娘が出走を取りやめる事態になった。しかも一人や二人ではなく、レース成立のための最低出走数を下回るほどだった。

 

当初は不成立になる予定だったのだが、トレセン学園側が何とかレースを成立させようと呼びかけをし何とかウマ娘を揃えることが出来た。

 

結果はマルゼンスキーの2バ身差勝利、レースを成立させるために集ってくれたウマ娘に対する配慮なのか、マルゼンスキーはいつもの走りをすることは無かった。明らかに手を抜いている様子が全国に中継され、誰も幸せにならない地獄の様相を呈していた。

 

マルゼンスキーはこのあと足を負傷し、3カ月の休養を経て5月に復帰する。復帰明けのレースではブランクを感じさせない走りで2着に7バ身差を付けて勝利するが、彼女の出自の関係で日本ダービーへの出走権を手に入れることが出来なかった。

 

当時のチームリギルのトレーナーはこの裁定に猛反発し、URAの上層部に対して

 

「マルゼンスキーを日本ダービーに出させてほしい。枠順は大外でいい。他のウマ娘の邪魔は一切しない。賞金もいらない。マルゼンスキーが日本ダービーの栄光を知らないなんてあってはならない」と訴えたことはあまりに有名だ。

 

結局日本ダービーに出走することは叶わず、77年6月、マルゼンスキーは日本短波賞に出走する。

 

日本ダービーに出走出来なかった事件の話題性もあり、当日は真の最強ウマ娘であるマルゼンスキーを見ようと中山レース場には10万人近い観衆が集まった。

 

スタートが切られるとマルゼンスキーはいつも通り一瞬で先頭を奪い、最初のコーナーの時点で2番手に6~7バ身の差を付けるという一見大逃げと勘違いするほどの怒涛の勢いで駆け上がっていった。

 

このまま前代未聞の圧勝劇を繰り広げるかと思いきや、第3コーナーから最終コーナーにかけて突然失速し、2番手からスパートをかけたウマ娘に並ばれる。

 

この様子に観衆は大きくどよめいたが、一息呼吸を入れると、最終直線では独走状態となって2着に7バ身差を付けて勝利した。2段ロケットのような再加速をするという、誰も見たことのないレースをしたということで、マルゼンスキーは日本最強ウマ娘という評価を確固たるものにした。

 

記念のファン投票では、後年「TTG」と並び称されるウマ娘達に次ぐ4番人気であったのだが不幸なことに屈腱炎が発症する。

 

TTGらとの対戦に期待が寄せられていたが出走を回避させることになった。

 

そして最終的にマルゼンスキーが走ることのできるレースは有記念と宝塚記念のグランプリのみとなる事態になった。マルゼンスキーは走る目的を失いトゥインクルシリーズを引退、ウィンタードリームトロフィーに転向し活躍の場を変えた。

 

こうしてトゥインクルシリーズを無敗で駆け抜け、結果として出走ルール改定の立役者となったマルゼンスキーは生ける伝説となったのだ。

 

 

 

 

 

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「はぁ...はぁ...くッ!!」

 

「ほらほら、そんな走りじゃいつまで経っても追いつけないわよ!」

 

去年()()()()()()()()()()()()()()()()()()()退()()()そんなマルゼンスキーさんと、今現在何故か並走をしている。並走しているはずなのだが、彼女は常に私の前に居続け一向に距離は縮まらない。

 

いつまでもいつまでもいつまでも、スタミナ度外視の破れかぶれのラップを刻んでも1mmも追いつけないのだ。前を走る彼女は時々後ろを確認するが、その顔には汗一つかいている様子はなく、笑顔のままとんでもないスピードで爆走している。

 

そしてそのまま2時間程走り続けた結果、私の体から体力という概念は消え失せターフにぶっ倒れる。リビングレジェンドの背中を追うことはあまりにも精神を削られるのだ。

 

「ふぅ...流石ねメモリーちゃん。噂通りの本当に凄い子ね...久しぶりにテンアゲで走れて嬉しかったわぁ」

 

「...よく分かりません...が、それは...よかった...です」

 

この人は本当に引退したのか?ドリームトロフィーを引退するということは、肉体的にもレースに対する闘争本能も衰えたことを示す。にもかかわらず、私の前を走っていた姿はまさしく伝説。G1出走を控えたウマ娘と言われても違和感は全くないほどだ。

 

「そっちこそ流石だなマルゼンよォ。完全に引退したってのに全盛期そのものじゃねェか。どうだ、ポルックスでトゥインクルシリーズ復帰しようぜ」

 

「ふふっ、あなたも冗談が上手いのはあの時と変わらないわね。シロちゃんのお誘いだったら少しは考えちゃうかもしれないけどね」

 

どうやら二人は旧知の仲らしい。トレーナーはシンザンの時代からTTG世代の前まで活躍した経歴を持つ。その事からマルゼンスキーさんと顔見知りということも納得が出来る。

 

「あなたには借りがあることだしね。いつか返そうと思っていたのに、忽然とトレセン学園から姿を消すなんて誰が予想できると思う?ずっと借りっぱなしでモヤモヤしていたのよ?」

 

「別に大したことはしてねェよ。ドリームトロフィーに行ったのもお前の意志、違うか?」

 

「それでもあの時背中を押してくれたのは、他の誰でもないあなたよ。走る目的を完全に失っていた私に走る意味を与えてくれた...本当に戻ってきてくれて嬉しいわ」

 

「あの、私の知らないところでラブロマンスを繰り広げるのやめてくれますか」

 

旧知の仲ということは理解した。トレーナーが過去にマルゼンスキーさんに手を差し伸べたこともある程度察した。だが、今は形はどうであれトレーニング中である。浮いた話を聞いている時間は1秒もないのだ。

 

「あはっ!ラブロマンスですって!メモリーちゃんはチョベリグ新人類のセンスがあるわねっ」

 

チョベリグ新人類ってなんだ。めちゃくちゃ強そう。

 

「俺とマルゼンはチームは違ったが結構仲良くてな、まァ色々あったンだわ。今日はそんな仲良しマルゼンにお前を扱いて貰うように頭を下げたわけだ」

 

まさかチーム所属1日目に、生ける伝説とトレーニングをすることになるとは予想できるわけがない。嬉しいことは嬉しいのだが、まだ実力も何もついていない状態で、このようなトップオブトップのウマ娘と練習することは逆に勿体ない気がしてならない。

 

「マルゼンは今チームリギルに籍を置いていないからな、トレーニング補助のボランティアとして扱き使えるって寸法よ」

 

「シロちゃんの人遣いの荒さも相変わらずねぇ...まぁそんなところが可愛いのだけれど」

 

「完全に引退したんだしいいじゃねェか、就職先にお困りだったらチームポルックスのサブトレーナーはどうだ?今ならドでかいチームルームも独り占め、なんなら将来有望の銀髪銀毛のウマ娘もついてくるぞ」

 

「おい」

 

仮にもトレーナーなら自分の担当を餌にするな。やはりこの2人は過去に何かあったらしい...正直何があったか聞きたいほど気になっているわけではないが。

 

「えぇ、いいわよ。元からそのつもりでここに来てるわけだし」

 

「...まァそうだよな、流石に生きる伝説がサブトレなんて......ってまじか?」

 

「当たり前田のクラッカーよ!ぶっちゃけるとドリームトロフィーを引退して何をして生きていこうか途方に暮れていたのよ~。そんな時あなたがトレーナーに復職するって言うじゃない。それを小耳にはさんで居ても立っても居られず、こっそりサブトレーナーのライセンスを取っていたんだから!」

 

そう言ってマルゼンスキーさんは懐からサブトレーナーのライセンス証を出して見せつけてきた。行動力の化身過ぎる...サブトレーナーのライセンスはトレーナーライセンスと違い実務経験が不要で試験に合格すればだれでも取得できるのだが、難易度はやはり国家試験レベルを誇るのだ。

 

それをトレーナーが復職すると聞いてからクリアしてしまうのだからとんでもない事である。マルゼンスキー伝説に新たな1ページが追加された瞬間を目撃したような気がする。

 

「おいおいおい、じゃぁメモリーと練習するのは夏までっつーのは」

 

「ふふっ驚いてくれた?少しは冗談が上手くなったと思わない?」

 

そう言ってマルゼンスキーさんは小悪魔のような微笑みを浮かべる。チームポルックスにまさかのマルゼンスキーさんがサブトレーナーとして所属する...もう頭が追い付かない...意味不明すぎる。

 

「お前がサブに就いてくれるなら百人力...いや千人力だ。時期的に正式採用は6月1日付になるだろうが、よろしく頼む」

 

「えぇ、こちらこそよろしくね。私も出来ることは何でもするつもりで全力で取り組むわ!大抵のことはお姉さんにお任せなさい!それからメモリーちゃん、一緒に走ってみて感じたわ。あなたは本当に凄いウマ娘よ...間違いなくシービーやルドルフと同じ域に立てる...これは確信に近いわ」

 

そう言ってマルゼンスキーさんは握手を求めてくる。

 

「マルゼンスキーさん程のウマ娘にお墨付きをもらえるなんて本当に嬉しいです。しかもサブトレーナーとしてご教示頂けるなんて至極光栄です」

 

「そんな畏まっちゃノンノン!あのおじさんとお話しするように接してもらえたら嬉しいわ!」

 

それはあまりにも恐ろしすぎる。マルゼンスキーさんに敬語無しで話しかけることのできるウマ娘がこの世にいるのだろうか...いやいない。そんな風に慄いているとトレーナーが口をはさんできた。

 

「メモリー、遠慮・謙遜・敬語は?」

 

「...極力禁止」

 

「そうだ、別にマルゼンスキーだからって遠慮することはねェ。むしろチームに所属したら一端のトレーナーの一人だ。無駄な謙遜や遠慮はむしろ障害や壁になるぞ」

 

「そうね、私もトレーナーとしてはピッカピカの1年生なんだから遠慮なんてしなくていいのよ?むしろメモリーちゃんに色々教えてもらう側なんだから!」

 

そう言われたのであれば、もう何も言えない。私はマルゼンスキーさんの握手に応えるように右手を差し出した。

 

「...それではこちらこそよろしく、いつかマルゼンさんの背中を捉えるから」

 

「ふふっ、いつでもバッチコイよ!」

 

熱い握手を交わす。

マルゼンさんの掌からは強者の熱気と共に、全てを達観したような優しさが伝わってくる。

 

何はともあれマルゼンさんがサブトレーナーとして就いてくれるのであれば、相当効果的なトレーニングが出来ることだろう。トレーニング効率が上がる見込みが立ったことに少しだけテンションが上がったのだが、ここにきて今朝のチームミーティングの内容を思い出した。

 

「そう言えばトレーナー、今朝のミーティングで次回出走は世間の熱が冷めた後にするって言っていたけど、マルゼンさんのサブトレーナー就任を発表したらむしろ燃え上がるんじゃないの」

 

「......あっやべェわ」

 

チームポルックス、記念の第一回チームミーティングは思わぬ形でおじゃんになってしまった。

 

ガビーン。

 




こいつはくせえッー!厨チームのにおいがプンプンするぜッーーーーッ!!

多くの感想・高評価・お気に入り誠にありがとうございます。
誤字報告も感謝いたします。本当に助かっております。

【ポルックスに入れたいウマ娘を募集中】
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=286193&uid=348179

・84年~98年世代が対象
・3人ほど採用させて頂く予定です。

続々とコメント投稿して頂き誠に感謝いたします。参考にさせて頂きます。
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