トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー   作:ウホホ・ウホホイ

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Chapter.32 銀か金か

「メモリーの奴は帰ったか?」

 

「えぇ、さっき荷物を持って美浦寮の方へ帰って行ったわよ」

 

「よし、それじゃァトレーナーのお仕事に取り掛かりますかァ」

 

シロガネトレーナーは最新のノートパソコンをプロジェクターに繋げ、シルバーメモリーの選抜レースの映像を流し始めた。まずは芝1200m、シルバーメモリーが序盤から中盤にかけて先行2番手をキープし、最終コーナーで先頭に立ちそのままゴールしたレースである。

 

「どうだ?引退仕立てほやほやのレジェンドウマ娘様から見て」

 

「...何回見ても鳥肌が立つわね...この走りを成立させることが出来るなら、あの子はあらゆる逃げに対して後出しの形で潰しにいけてしまうわ」

 

「そうだな、通常逃げに対する回答は先にハナを奪うか、差し切れる距離感を適切に保ちながらレースを進めるかだが...これは逃げを後ろからコントロールする異次元の走りだ」

 

逃げウマ娘の背後にこれでもかという程接近し、風除けとして最大限利用した上で足音を消し去り、距離感を惑わせるという常識破りの逃げに対するアンチ走法なのだ。

 

「ジャイアントキリングを狙って破れかぶれの大逃げをしても、メモリーちゃんが出走していたら後出しジャンケンで風除けとして利用されてしまう...あの子がゲートにいるだけで他の子の戦略の幅が狭まるわ」

 

「あぁ、それこそ大逃げも大逃げ...序盤からフルスロットルでぶっ飛ばす超大逃げをする以外に躱す方法がねェんだ」

 

出走登録するだけで...ゲートにいるだけで他のウマ娘を縛り上げてしまう徹底的な逃げ殺し...マルゼンスキーは映像で改めて確認したにもかかわらず、一筋の汗が彼女の頬を伝っていた。

 

シロガネトレーナーは続いて芝1600mの映像をプロジェクターで投影した。

 

「スプリントは先行前目でレースを進めたが、マイルでは一転した後方待機...前評判が一番高かったマイラーの名家出身のウマ娘をピンポイントで潰しやがった」

 

「正直私はマークの技術に詳しくないのだけれど...そんな私でも、接触ギリギリのワンマークをポジショニングしながら成立させる難しさは理解できる」

 

「ワンマークの技術も凄まじいが、このレース展開の肝はそこじゃねェ...アイツは最初から姫カットのお嬢ちゃんを放っておいてはいけない事を察した上で、マークのために後方待機したとしても先行位置のウマ娘は差し切れる判断をしているところだな」

 

レースの難しいところは有力なウマ娘に対してマークを厳しくしたところで、必ずしも勝利することはできない点にある。同時に2人のウマ娘をマークすることは不可能だからだ。マークを成立させ、自分が勝つために最適の動きをしなければならないと言うと、その難易度の高さは伝わるだろうか。

 

「しかも斜行や妨害を取られないように絶妙にスパートの出掛かりを潰してやがる...レースに誇りを持つウマ娘は大体正々堂々戦うことに美学を感じるもんなんだが、アイツは見かけに寄らずダーティプレイもお手の物ってワケだ」

 

「これがレースの駆け引き...なのよね」

 

「カカッ!お前の場合はマークも斜行も妨害も関係なかったからなァ、この手の戦略についてはかなり疎いだろうな」

 

シロガネトレーナーの煽りに、マルゼンスキーは少し頬をプクーと膨らませて軽く拗ねる。

 

「いいもーん、どうせ私は新人のサブトレーナーですよーだ」

 

彼女の雑な不貞腐れは目に留めず、シロガネトレーナーは芝2000mのレース映像に切り替えた。

 

「このレースは私も現地で直接見たわ。ストップウォッチで正確に測ったわけじゃないけど、恐らくあの子は...」

 

「流石マルゼン、お前ぐらいになると直視で理解っちまうもんなんだな。俺ァ、レース映像でラップタイムを見るまで違和感を覚えなかったが、アイツは1F毎にラップタイムを僅かに早めることで後続のウマ娘のスタミナを削るというファンタジー走法をご披露したんだ」

 

「ラップタイムを上げ続けるなんてそんな無茶な...」

 

「当然、いつも通りの序盤の走りをしたら絶対にスタミナは枯渇するが...始め4Fのペースは中等部3年にしてはとんでもなく遅かった。恐らくそのあたりもアイツがコントロールしてたんだろうな、どうやったか見当もつかないが」

 

シルバーメモリーは出走前のウマ娘の様子を観察した結果、超スローペースでレースを進めても雰囲気に呑まれているウマ娘が大半だったことから、ばれることは無いと踏んで実行したのだが、そんなことは流石のシロガネもマルゼンスキーも知る由は無い。

 

「それにこのレースの最終直線...スタミナを使い果たしたのはあの子も例外じゃないのに、どうして脚が落ちないのかしら...」

 

「あぁ、言い忘れていたが、アイツ坂路を一日10本こなせるんだよ」

 

「えっ...流石のシロちゃんでもそんな冗談はよし子ちゃんよ?」

 

坂路練習は時間効率が良い練習として知られているが、同時にウマ娘が泣き出すほど負荷の大きいトレーニングであることも有名だ。シニア級でも精々3~4本こなせば脚の筋肉が限界を迎える。1日10本という数字はそれほどまでに異常な数なのだ。ちなみにシルバーメモリーの1日に走った最高記録は11本である。

 

「まァ俺というトレーナーが付いたからには、もうそんなイカれた本数なんぞ絶対に走らせねェが...とにかくアイツの勝負根性は間違いなく最強だ。体力が尽きた後のパフォーマンスの落ちなさに関しては意味不明なほどな」

 

シロガネトレーナーはノートパソコンを閉じ、プロジェクターの電源を切る。そして一緒にレースを視聴していたマルゼンスキーの眼を見る。

 

「さて、アイツの競走能力については大方共有できただろう...そこで最近までドリームトロフィーで走っていたマルゼンに聞きてェことがある。シルバーメモリー、アイツにとって致命的に足りてねェものはもう理解っているか?」

 

「スピード、ね」

 

マルゼンスキーは迷うことなく即答する。

 

「スタミナもパワーも闘争心も戦略を組み立てる頭脳と実現させる技術力、同世代では間違いなく抜きん出ていると思うわ。それこそルドルフも凌駕するほど...ね。でも、レースにおいて最も必要なのは最高速度...加速力やポジショニングにいくら優れていようと、スピードが無ければ勝利することはできないわ」

 

「ご名答、女神様が意地悪なのか...それとも運命に見放されているかは知らんが、スピードという一点においてはメモリーは良くて並程度の実力しか無ェ」

 

芝2000mを滅茶苦茶なペースで問題なく走り切れるスタミナ、接触した相手を吹き飛ばすほどのパワー、体力が尽きても走り続けられる卓越した根性、そして並外れたレースIQとレース技術...それらは間違いなくシニア級に食らいつけるほどであろう。しかし肝心のスピードに関しては、とても勝てるウマ娘とは言えないレベルなのだ。

 

「幸いアイツはまだ完全に本格化は終わってねェ、もしかしたら夏明けに急にスピードが上がるかもしれんが...望みは薄いと考えていいな」

 

スピードは後天的に身に着けることは非常に難しい。レースの世界ではスピード=才能と言われるように、先天的な要素があまりにも多いのだ。

 

「ねぇ...一つ気になったことがあるのだけれどいいかしら。昼過ぎメモリーちゃんと並走したとき、正直に言うと最後の方は私も熱が入っちゃって結構本気で走っちゃったのよ。私が言うのもなんだけど、並走どころか常に前を取られ続けるなんてウマ娘にとってはかなりクるものだと思うのだけれど、メモリーちゃんの闘志は消えるどころか、むしろアゲアゲだったわ。それは単純に練習に対してモチベーションが高いってだけなのかしら」

 

「......これを見てみろ」

 

シロガネトレーナーはそう言って、A4サイズで纏められた資料と学園のポータルサイトが開いてあるタブレットを差し出してきた。そこに書いてあるのは、「小学生時代:40戦0勝、連対率8割、入着率10割」というレース結果と、「シンボリルドルフとミスターシービーに並走で200連敗以上」を喫した練習結果であった。

 

「ねぇ...!これって...!」

 

「あァ、あいつは選抜レースでは前代未聞の3連勝を果たしたウマ娘ではあるが、本質は根っからのシルバーコレクターなんだよ。スピードという才が無いだけで、今迄レースで勝利を手にすることが出来なかった。お前の本気の走りにも潰されなかったのはそういうわけだ、あいつ以上に負けに対して向き合ったウマ娘はこの世のどこにもいねェのさ」

 

「そんな...」

 

マルゼンスキーにとってシルバーメモリーは入学式レースでシンボリルドルフに次いで2着の好走を見せ、選抜レースで3連勝を成し遂げた完全にエリート街道まっしぐらのウマ娘であった。しかし実のところシルバーメモリーは負け続けのレース人生を送ってきたウマ娘であり、先日の選抜レースが初勝利であったということに驚愕を隠せない。

 

「そしてこれも覚えておけ、アイツの夢は『誰よりも多くのレースに出走し...誰よりも勝利を重ね、誰も見たことのない景色を見る』だ。トゥインクルシリーズで長期間走る事がどういうことか、お前は誰よりも理解ってるだろ?」

 

「誰よりも長く...誰よりも勝利を...でもあの子はトリプルティアラは目指さないはずじゃ...!」

 

「だからお前も腹をくくれ、軽い気持ちでサブトレーナーに就職したとは微塵も思ってはいないが、トレーナーとしてアイツの夢を叶えるためには命を懸けろ」

 

普通のウマ娘であれば2~3年で引退を余儀なくされるトゥインクルシリーズで長期間走り続けること...その難しさをマルゼンスキーは誰よりも知っている。大きなケガは当然論外、そして重賞クラスで勝てなくなれば問答無用で引退を宣告されるのだ。

 

走りたくても走れなかった...そして全勝ではあるが、ケガが原因で8戦という短いレース人生の一幕を下ろしたマルゼンスキーにとって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の夢を持つウマ娘ということにここで気付いたのであった。

 

真っ赤なスーパーカーに紅焔が灯る。

 




多くの感想・高評価・お気に入り誠にありがとうございます。
誤字報告も感謝いたします。本当に助かっております。

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続々とコメント投稿して頂き誠に感謝いたします。参考にさせて頂きます。
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