トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー 作:ウホホ・ウホホイ
シルバーメモリーに本格化の兆候が見られた。
全身の関節にピリピリするような痛みを感じる。筋肉がいつもより熱を帯びている。これはウマ娘の本格化の前兆としてメジャーなもので、これより1週間ほどかけて骨格や筋肉が急速に成長する。
本格化によってウマ娘の姿は大きく変わる。身長が伸びる子、肩幅が大きくなる子、やけに女性的な体つきになる子など多種多様である。130cmほどの身長のウマ娘が10日ほどで、170cmを超える長身になる例も珍しくなく、まるで竹の成長を想起させる。
筋肉や関節が大きく変化するため、当然であるが本格化中のトレーニングは絶対にしてはならない。
ここで聡明な諸君は気付くかもしれないが、私ことシルバーメモリーは現在絶賛休暇中である。レースの世界に身を置いてから、世間一般に言う休日はほとんどトレーニングに充てていたため、このように長期間練習をしないというのは初体験なのである。
また、極力体に負荷を与えないために移動は車椅子を使用したり、臓器への負担を減らすために薄味低脂肪の食事を摂ったりと、まるで病人が如き生活をしている。
今は学園からチームに支給されたタブレットでウマチューブを開き、だらだらとレースの動画を見ているところだ。ちなみに今見ているのは70年天皇賞秋だ。葦毛のメジロアサマがアカネセイリュウを撫で切り勝利を収めたレースである。
「葦毛のウマ娘は走らない...何を見て言っているんだか」
メジロアサマを筆頭にメジロリターンなど葦毛で結果を残しているウマ娘なんぞ幾らでも挙げられる。そのような言説が世に出回ったのは、単純に葦毛のウマ娘の絶対数が少ないことを見落としているからだ。黒鹿毛や栗毛に対して葦毛は少ない傾向がある。どういう理屈でウマ娘の毛色が決まるかについては解明できていない分野ではあるのだが、葦毛や白毛は珍しい部類に属することは間違いない。
そもそも、それだったら私のような銀毛や金毛はどうなんだ。噂ではアメリカやフランスには金毛のウマ娘がいるらしいのだが、レースの世界に身を置いてはいないとのことだ。
......あまりネガティブなことは考えないようにしよう、ただでさえ練習が出来なくてイライラしているのだ。レースの動画からウイニングライブの動画に切り替える。
『ウイニングライブ』、それはトゥインクルシリーズのレースに参加したウマ娘達が、応援してくれたファンへ感謝の気持ちを表すライブである。レース上位入賞者はよりセンターに近いポジションでステージを行うことになる。
レース場に訪れるお客さんは、レースも勿論だがウイニングライブを見たくて現地に来る人が大半である。そのためライブはレース場にて入場料に加え、グッズや食事にお金を落としてくれることに対するお礼のような意味合いを持つ。
ウイニングライブが無ければ、URAは金銭面で存続できないと言われている。レース場に人を呼びこむことが出来るライブ要素は必要不可欠なのだ。
しかし、正直私はこのウイニングライブがとても嫌いだ。生理的に受け付けない何かを感じる。
勿論1~3着の振り付けは覚えているし、バックダンサーの踊りも押さえている。今ここで歌えと言われたのなら、メイクデビュー用の歌と踊りを披露できるぐらいには練習はしている。
だが、1着以外が今すぐに帰りたいと心の奥底で思っているだろうに、経済的な理由から強制的に笑顔にさせられ、偽りの仮面を着けながらライブをする様子が見ていて受け付けない。
以前ミスターシービー先輩から、見てくれる人がいるからこそウマ娘がレースで走ることが出来るということを教えてもらったので、ウイニングライブは存在すべきということは理解はできるのだが...。
「はぁ...やめよう...いくら嫌悪感を覚えても正しくないのは私の方だ。みんなそんなことは受け入れてレースを走っているのにね」
精神的ストレスを感じているためか、考えることすべてが負の方向に行ってしまう。
「あっ...ウイニングライブで思い出した、ウマッターとウマスタのアカウント作らないといけないんだっけ」
話は変わるが、実は先日、トレーナーから休暇の間にSNSのアカウントを開設しろというミッションが課せられた。トレーナー曰く、
「まァ開設するだけでいい。中央トレセンの方針で、ウマ娘と一般人の距離感を近づけるための一種の施策みたいなもんだ。競技者にとってSNSなんぞ毒も毒、有益なことは一個も無ェから作るだけ作って放置でいいぞ。投稿するにしても写真だけにしておけ、変に自分の言葉を残すと面倒なことになる」とのことだ。
夏明けまで大人しくするとは一体何だったのか、マルゼンさんの影響でトレーナー達は連日取材に追われており毎日多忙が極まっている。
どういう脈絡があったかは知らないが、どうせ世間が燃え上がっているなら利用するぞの精神で、やけくそ気味にチームポルックスのチームアカウントも開設した。私はよくわからないが大盛況とのことだ。
SNSは詳しくはないが、競技者にとって毒でしかないということは概ね同意だ。不特定多数の人達からの攻撃の窓口を態々用意するだけではなく、貴重な練習時間を削り投稿するのだから本当に意味不明だ。みんなは何故こんなものに躍起になるのだろうか。
気分は乗らないが、トレセン学園の方針である以上逆らわない方が良さそうだ。それにSNSは相手からの反応を完全にシャットアウトする機能があるらしい。その機能を使ったうえで写真だけ投稿するスタイルにすれば、無駄な時間を使わなくて済むだろう。
それに、私は中等部1年から毎日シンボリルドルフの寝顔を撮ってから朝練に向かっているため、現在シンボリルドルフの寝顔写真を600枚以上所持している。
これを毎日投稿すれば、向こう2年は何を投稿すればいいのか考えなくて済むのでは......自分の天才ぶりが恐ろしい。
とはいえ自身のプロモーションも兼ねているわけだし、最初ぐらいは自分の写真を投稿しようかな。その後はシンボリルドルフの写真だけ投稿し続ければいいでしょ。
「着替えるの面倒くさいし、このまま撮ろうかな」
現在のシルバーメモリーの格好は、白の半袖+白のショートパンツスタイルである。彼女が服のサイズ感をあまり気にしない性分なので、鍛え上げたトモと美しい腹筋が大きくチラリズムしてしまっている。そして手足の関節部分にサポーター代わりの包帯を軽く巻いているため、それらが彼女の生まれながらの白い肌と組み合わさり、可憐な病弱少女のような絵面になってしまっているのだが、そんなこと彼女が気にすることは無い。
「ま、いっか。別にどんな反応されようが、一切見るつもりはないし」
そう言ってウマホのカメラモードをONしようとしたその時、シルバーメモリーに電流が走る。
以前ミスターシービー先輩から、とあるレクチャーを受けたことを思い出した。愛嬌が無く笑顔が致命的な下手くそな私のために、ミスターシービー先輩が笑わなくて済む世間受けのよい顔の作り方を考えてくれたのだ。
それは片目から顎のラインを髪の毛で隠して露出する面積を減らすという戦略である。これを使えば間違いない、とミスターシービー先輩が力説するのだから信じざるを得ない。
言われた通りに前髪で片側の眼を隠し、表情を完全に無にしシャッターボタンを押す。
「よくわかんないけど、これでいいや」
写真を撮り終えたので、次にウマッター、ウマスタのアカウントを学園配布のメールアドレスを使用し開設する。このトレセン学園側が発行するアドレスを使うと本人認証マークがアカウントに設定され、成りすまし防止ができるらしい。
開設と同時に先程撮った自撮り写真を投稿する。これでミッションは完了......レース動画を漁る作業に戻ろうか。
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「おいマルゼンよォ、近眼のせいかよく見えねェんだがアイツのウマッターの投稿がどえらいことになってねェか」
「これ、シロちゃんが仕込んだんじゃないの?メモリーちゃん、こんな
シルバーメモリーが投稿した自撮りは、数分で3万リウマートを超え10万以上のいいねがつく事態となった。近い未来、彼女のように全身白コーデで統一し、髪の毛を銀色に染めるスタイルが一部界隈で爆発的に流行するのだがそれはまた別のお話。
ただただ、トレーナーとマルゼンスキーはこの事態に対応する仕事が増えたのであった。
#毎日ルドルフ #寝顔 #同室 #寝返り
多くの感想・高評価・お気に入り誠にありがとうございます。
誤字報告も感謝いたします。本当に助かっております。
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続々とコメント投稿して頂き誠に感謝いたします。
参考にさせて頂きます。