トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー   作:ウホホ・ウホホイ

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Chapter.35 変化

突然だが諸君らは"力"について考えたことがあるか。

 

辞書を開いてみると「物事が変化する原因となるもの。またはその象徴を指す。」と書かれてあるが、諸君らは"力"と言われてどのような原因、象徴をイメージするだろうか。

 

現代の力の象徴と言えば、シンプルなところで言うと"権力"だろうか。財政の世界で頂点に近い人物であれば、まず間違いなく権力争いを勝ってきた猛者であろう。

 

その他にあげるとしたら"影響力"であろうか。現代における影響力...分かりやすい例としてSNSのフォロワー数、ウマチューブ等の動画サイトでのサブスク数をあげてみる。

 

自分の一挙手一投足が社会に影響を与えるのだ。間違いなく"力"の一種である。頭がキレる人物であれば、自身を好む者だけではなく憎む者さえも電子の世界を介してコントロールしてしまう。時には気に入らない者を潰すことも出来てしまうだろう。

 

このように現代における"力"というのは、文明が栄える前とは微妙に違う概念に変化してしまっている。

 

原始時代から変化していない"力"と言えば、純粋な筋力ぐらいなものだろう。文明がいくら発展しようが、人間あるいはウマ娘の姿は変化をしていない。多少の進化はあるかもしれないが、電子機械と経済の発展に比べれば、とても些細なことだろう。

 

何故このような小難しいことを考えているか...気になる人、ウマ娘もいることだろう。

 

それは直に...いや3秒後に発覚するだろうから少し待って欲しい。

 

 

 

バキッ

 

 

 

 

「どうしようトレーナーッ...!力が...力が抑えられない...ッ!!!」

 

「真昼間から何やってんだお前ェ」

 

私シルバーメモリーはめでたいことに、先日本格化を完全に迎えた。本格化を迎えたウマ娘は身長、骨格が大きく変化し筋量も増加するのだが...私の場合はその筋量の増え方が著しいタイプの本格化だったのだ。

 

目覚ましのアラームを止めれば、目覚まし時計を完全に粉砕。

 

部屋のドアを開ければ、ドアノブを木っ端微塵に玉砕。

 

トレーニングルームの予約をするために書類に名前を書こうとすれば、ボールペンを真っ二つに大喝采...いや爆砕。

 

とにかく、私の物理的な一挙手一投足が、まわりに多大な影響を与えるような"力"を手に入れてしまったのだ。

 

今ならサンドバッグにパンチで穴をあけることが出来る気がする......

 

「頼むからチームルームの備品は壊さないでくれよ?中には俺の懐で買った貴重品もあンだからな」

 

「珍しいわよねぇ、元々メモリーちゃんは身長の高い子だったからあんまり背は伸びなかったけれど...力を抑えられないぐらい筋肉ちゃんが成長するなんて」

 

「しかも何故か以前より銀色部分が増えたしなァ...何食ったら眉や睫毛まで銀毛になるんだよ」

 

元々髪の毛や尻尾は銀色だったが、本格化を終えると以前より光沢が若干増えただけではなく、白っぽかった眉毛や睫毛までもがシルバーチックになってしまった。別に銀色になったから不便になることは一切ないのだが、自身の毛という毛が光沢を帯びはじめるとなると若干気になるものだ。

 

その他の変化と言えば、少しだけ眼力が強くなったことだろうか。

 

今朝、ミスターシービー先輩と廊下ですれ違ったとき「メモリーちゃん何その眼こわっ!」と言われた。その後、鏡で自分の眼を確認したら、眼力が増したというより単純に以前より眼そのものが若干大きくなっていたのだ。

 

そんなこともあり、現在の私の状況は、眼力を迸しながら物を壊さないように慎重に右往左往する不審者ウマ娘であった。

そんな風にチームルームを右旋回でくるくるうろついていると、トレーナーがこちらに向かって何かを投げてきた。

 

「メモリー、これを握りながら力の加減に慣れていけ」

 

そう言ってトレーナーは、私にテニスボールほどのボールを放ってきた。

 

「なにこれ...」

 

「最近流行りのウマ娘用の握力トレーニングボールだ。どれぐらい頑強かは知らんが、よっぽどのことが無い限りはぶっ壊れることは無ェからそれで力の出力に慣れて...」

 

パンッ

 

「あっ」

 

リンゴを握りつぶすぐらいの勢いで握ったら、トレーニングボールは跡形も無く消し飛んでしまった。

 

「...お前は今日からシルバーメモリーからシルバーバックに改名だ。力の加減に慣れるまでゴリ娘として生きていけ。ゴリ娘はレースに登録できねェからな?」

 

私が触るもの全てが片っ端から壊れていく...これが力...か。

 

余談だが力の出力に慣れるまで、このやり取りから3日程かかった。無事ゴリ娘からウマ娘に返り咲くことはできたのだが、その3日間の間に壊したものは多かった。参考に以下にリストアップしておく。

 

・シンボリルドルフの目覚まし時計(2個め)

・自分の部屋のドアノブ×2

・ボールペン、シャーペン×3

・食堂のトング

・ミスターシービー先輩のストップウォッチ(ボタン陥没)

・チームルームの机の引き出し

 

本格化を迎えたウマ娘には是非参考にして欲しい。

 

 

 

 

 

―――――――

 

「よし、じゃァチームポルックス待望の合宿の話でもするかァ」

 

「あら、今年合宿行くつもりだったの?新生チームが初年度合宿行くなんて聞いたことないわね」

 

「中央トレセンから離れる意味ある?施設の充実さで言ったら、ここより揃っているところなんて無い気がするけど」

 

トレセン学園のチームは主要レースが無い夏シーズンになると、合宿と銘打って遠征するところが多い。その目的は多岐にわたるが、基本的には練習場所を変えることによる気分のリフレッシュだったり、チーム全体の士気をあげることが主だったりする。

 

しかしチームポルックスは新生も新生、出来立てのチームである上に所属ウマ娘が私しかいないため合宿を組むメリットがあまり思い当たらない。

 

「メイクデビューが夏明け一発目の週の予定なのは変わらねェからな。トレセン学園に籠ってどうぞ練習を見てくださいってスタンスでトレーニングを積むわけにもいかねェんだわ。それに、チームポルックスは一切結果を出してないのに世間の注目を浴びまくってることだしよ。マルゼン...メモリー、心当たりはあるか~」

 

「その節はご迷惑をお掛けしーまーしーたー」

 

先日とある自撮りをウマッターとウマスタにあげたのだが、詳しいことは知らないがなんかとんでもない事になったらしい。アップした翌日、ミスターシービー先輩とシンボリルドルフに今後写真を投稿する際は確認させてほしいというお願いをされた。やけに迫力のあるお願いであったのだが、一体何故か...未だに理解らない。

 

「もう、メモリーちゃんに意地悪しちゃだめよ。流石にあの量の取材依頼が来るとは思わなかったけど、サブトレとして貴重な経験させて貰ったことだしね。それにポルックスのチームアカウントも良い感じにフォロワー付いてよかったじゃない。ちょっと変なコメントがちらほら来ちゃってるけど」

 

「その変なのが面倒くせェんだよなァ...まァ過ぎたことは仕方無ェ...その辺はこっちで上手くやるからよ」

 

「うん...私もこれからは何か投稿する前に、ミスターシービー先輩かシンボリルドルフに確認してもらうから」

 

「シービーはちと不安だが...是非そうしてくれ。マルゼンもメディア関係の知人は多いだろうから気を付けてくれよ。老害のオールドスタイル的な考えかもしれないが、こいつが話題になるのはレースの結果だけで十分だ」

 

「まっかせなさい!サブトレーナーになったからにはその辺りのコンプライアンスはガッチガチにしておくわ!」

 

原始時代から今日まで不変の力である筋肉によるパワーと、SNSでの影響力という別の形の力...その二つを痛感した1週間であった。過ぎた力は身を滅ぼすとはよく言ったものだ、ちょっと間違えたらとんでもない事になっていたかもしれない。

 

例えば目覚まし時計ではなく、シンボリルドルフの寝顔にスパンキングをかましていたら...本当に粉砕したのが目覚まし時計で良かった。センキュー目覚まし時計、フォーエバー目覚まし時計。

 

「っと...話は逸れたがポルックスは今年の夏は合宿に行くぞ。目的は2つ...メイクデビューに向けて世間から雲隠れすることと、敵にトレーニング姿を見せないことだ。メモリーは百も承知だろうが、練習している姿は思っている以上に相手に情報を与えちまう」

 

この点は私も同感だ。レース直前の練習姿だけで、筋肉の仕上がり、ボディバランス、調子や作戦が浮き彫りになる。意図的に走り方を崩せば、相手に情報を与えることを防ぐことはできるだろうが、そんなことをすればレース当日どのような仕上がりになるかは火を見るよりも明らかである。

 

「それで何処に行くつもりなの?」

 

「よくぞ聞いてくれた、と言ってもそんな大したところじゃないけどな。昔のツテでレース場とトレーニング施設を貸してくれるヤツがいてよ、そいつにおんぶにだっこってスタイルの合宿だ。学園から合宿費なんぞ初年度チームに出るわけないからな」

 

「先方にメリットが無い気がするけれど、よく了承してもらったわね」

 

「あぁ、シルバーメモリーを連れていくつったら二つ返事でOK貰ったぜ。ここで世間の過大評価が生きてくるわけだ、今やシルバーメモリーの市場価値は鰻登りだからな」

 

「おい」

 

トレーナーは私の事を、交渉の道具か何かと勘違いしているんじゃなかろうか。

 

「で、どこのレース場を貸してもらえるの?結構興味ある」

 

「お、流石に天下のウマ娘研究家のシルバーメモリーさんも興味津々ってワケか。今回の合宿場所は岐阜だ...夏に行くには少し暑いところだが、まぁそこまでじゃない」

 

岐阜...岐阜のレース場と言えば...

 

「来週から夏明けまで俺たちは"笠松レース場"で合宿を行う。メモリーの本格化後一発目はダートでの地獄の特訓だ」

 

 




北海道ではなく笠松?...妙だな...

多くの感想・高評価・お気に入り誠にありがとうございます。
誤字報告も感謝いたします。本当に助かっております。

【ポルックスに入れたいウマ娘を募集中】
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=286193&uid=348179

・84年~98年世代が対象
・3人ほど採用させて頂く予定です。
・未実装組もあり

続々とコメント投稿して頂き誠に感謝いたします。
参考にさせて頂きます。
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