トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー 作:ウホホ・ウホホイ
余計なお世話かもしれないけど、ルドルフが私みたいになっちゃうかもって心配だったのよ?
でも見た感じ問題ナッシ~ング☆ね!ビビビッとくるチョベリグな子がいたんだから!
「大外から末脚炸裂!!一閃!!これが世代最注目のウマ娘、シンボリルドルフだああああ!!」
大外からの末脚…?ありえない…?
だってそのコースは…そのコースは…!
息ができない。思考が回らない。
もはや体を支える力も残っておらず遂に両膝をターフの上につく。
視界から入ってくる情報をうまく処理できずにいた。
しかし掲示板にハナ差2着の文字が点灯された瞬間、見たくなかった現実が襲ってきた。
(また負けたんだ…ッ!私は……ッ!)
生まれてはじめてのハナ差での負け。
人生で最も勝利に近い敗北を喫した。
敗北感に脳が焼かれる感覚がする中、思わず天を仰ぐ。
普段より長い距離を全力で駆け抜けたからだろうか...
血管が膨張し嘔吐神経が圧迫され、猛烈な吐き気がする。
髪の毛からは搾れるほどの汗が流れ落ち、周辺のターフを湿らせていた。
視線を落とすと、1着でターフを駆け抜けた三日月の彼女の背が見えた。
私の勝利のプランという名の積み木を暴力で制した豪脚が見えた。
息が一切乱れていないその立ち姿からは、彼女にとってこのレースはただの「確認」だったように思えた。
(くそっ...!)
何がダメだったのだろうかと、いつもの敗因を思考するルーティーンに入る。
少なくともレース前の準備は完璧だった。
調子は万全、闘志は十全。
メンタルも普段通り安定していたはずだ。
そしてレースプランは完璧だった。
後続7人のウマ娘をコントロールし
私が勝てる展開に間違いなく持ち込むことができた。
人生最高の会心の手ごたえだった。
『負けに不思議の負けなし』
私が尊敬してやまない指導者の言葉
敗因は絶対に見つけることが出来る、そう信じてきた。
思考を重ね、実践し、その後また思考する。
そうやって誰よりもレースについて研究し反省をしてきた。
でも...わからない...なんで...なぜハナ差で負けた...?
三日月の彼女は間違いなくあの湿った不良バ場から加速をし始めた。
最終コーナー途中で後ろを確認した時は、スズフェスティバルちゃんとクイーンハイセイコーちゃんと横並びになっていた。
そこから私を大外からの末脚で差し切っている以上、100%湿ったターフゾーンに突入している。
最終コーナーから最終直線までのプロセスに違和感はない。
ただ一つ気になったのは、レース中盤の他のウマ娘達のあの"かかり"
なんの脈絡もないあの"かかり"の原因は一体何なのか。
(かかった子たち...トウカイマロンちゃん...ヒガシノライデンちゃん...キョウワファイアちゃん...)
(全員シンボリルドルフの前でポジションキープした子たちだ...)
まさか、そういうことなのか、そんなことがありえるのか
こんなことはあまりにも残酷で全力で否定したい。
でも敗因の究明能力に長けている私の脳は一つの答えしか導き出さない。
『威圧し、進行ルートを拓き、類稀なるスピードとパワーで駆け抜けた』
"""才能""" それに圧敗したのだ。
不揃いの石を積み木のようになんとか積み上げても
こんなにもあっけなく暴風一つで消し飛んでいくのか。
才能のあるウマ娘は小学校にも当然いた。
しかし、届かないと思ったことはない。
トレーニングを積み、知略を積み、やれることをやっていけば
勝てると信じることが出来た。
しかしシンボリルドルフの才はそもそも質が違う
私はこれから""これ""に勝たないといけないのか
""これ""と同世代という意味がどういうことであるか、他の子たちは理解っているのか
そんなことを考えながら周りを見渡してみて驚愕する。
周りの子たちの顔は絶望そのものだった。
特に三日月の彼女周辺でレースをしていた子たちの顔は真っ青になっておりひどいもんだ。
彼女の才能、威圧感、格、それを浴び続けただろうウマ娘達の心は完全に折れてしまっている。
私より圧倒的格上で才能もある子たち...そして私と違って正々堂々トレセン学園に入学できるほどのエリート集団...
そうか...あなたたちは...
これまで純粋な競走能力で負けたことなどなかったのだろう
敗北を積み重ねたことなどないのだろう
中には人生初敗北という子もいるかもしれない。
みんな才があるばかりに
泥水を啜ることをしらないで純白で無縫なレースをしてきてしまったんだ。
だったら...なおさら私は立ち上がらないといけない。
絶望なんて絶対してはいけない。
この場にいる誰よりも負け慣れている私が
敗北者代表として、三日月の彼女に言わないといけないことがある。
今迄の敗北の積み重ね、敗因を研究し続けてきた意味を無駄にしてはいけない。
(立て....!!立て....!!!!!立ち上がれ....!!!!!!!!!)
折れ曲がって震えている両膝に活を入れ、生まれたての小鹿のように立ち上がる。
我ながらなんて無様で格好悪い姿だろうか。
思わず笑えてくる。
それでも、そんな姿を晒したとしても、レース後に勝者に言わないといけないことがあるのだ。
「シ...シンボリルドルフ...!」
なんとかふり絞った声で三日月の彼女に話しかける。
すると驚いたことに彼女はまるで待ってたかのように、すぐさま振り向き私を視界に捉える。
「...なんだい、シルバーメモリー」
三日月の彼女は何とも言えない顔をしていた。
まるで何かを心配している面持ちで私のことを見ていた。
なんだその顔は。
それが勝者の顔なのか。レースに勝つとそんな面になってしまうのか。
ふざけんなよ。
彼女の表情を見た瞬間、落ち着きかけた全身の熱血が爆発し声を荒げ言い放った。
「次は...!!私が...!!!勝つッッッ!!!!!!!!」
勝者を讃え、私の闘志に火をつける魔法の言葉。
人生で何度も口にしたこの魔法の言葉をシンボリルドルフに叩きつける。
「...!!」
すると三日月の彼女の表情は一変した。
「誰よりもトレーニングをして追いつくから...!!誰よりも研究して追い抜くから...ッ!!!」
最後に全力で敗北者の捨て台詞を吐く。
「あ、あぁ...!!私も全身全霊をもって研鑽を積みリベンジを待っているぞ...!」
そう言うと彼女は耳を立て尻尾を振りながら、何故かとてもうれしそうに笑った。
こうして入学式レースは幕を引いた。
結果は ハナ差圧敗
人生で最も勝利に近く、勝利が遠く感じた敗北
敗因は才能...?埋めがたい先天的なもの...?
まだまだ未熟な私にはわからない...
一生届かない領域の話かもしれない...
でも
やはり
それでも
闘志は漲る
戦う意志は鉄のように固いままだった
――――――――――――――――――
「えぇと、なんだ、まさか寮の部屋も一緒になるとはな...はははっ...」
「...」
入学式レースが終わり、クールダウンをした後に教室に戻ると寮の部屋割りが発表され
入寮するウマ娘は全員寮に移動した。
トレセン学園には栗東寮と美浦寮の2つがある。
私が割り当てられたのは後者の美浦寮。
ここは最近新設したばかりで設備がとてもきれいなところだ。
当然割り当てられるのは新設の部屋なのでワクワクする展開だが
正直今はそんなことどうでもよかった。
「...」
「...」
気まずすぎる!!!!
同じクラス、しかも席は隣ということで嫌な予感は若干あったが
案の定、寮も同室になってしまった。
レース場のど真ん中で、あんな啖呵を切った直後に同じ部屋に閉じ込められるって何の拷問!?
ゲートがあったら入りたい!!間違えた!穴があったら入りたい!!!!
「ほ、ほらシルバーメモリー、ベッドなんてふかふかだぞ」
「う、うん...」
ふかふかてあなた
あまりにも気まずいので、この場を離れる口実としてトレーニング施設に行って
日課をこなそうとしたら、先生が寮の前で仁王立ちしており
『レース直後にトレーニング!?
何言ってるんですか!?ダメです!!!認めません!!!』と一蹴された
まことに教育者の鑑である。流石トレセン学園。
ということでこのような罰ゲームが続いているというわけだ。
正直何を切り口に話し始めればいいか皆目見当もつかない。
というか何で同世代で同室!?そこのところは配慮すべきでは!?
持ち前の冷静さはどこへやら、完全にお目目グルグル状態になっていると
三日月の彼女、シンボリルドルフが空気を切り裂くように口を開いた。
「なぁ、シルバーメモリー」
「...なに」
「私は中等部に上がる前にも多くの公式・模擬レースを走ってきたが
共に覇を競った相手の中に、今日の君のようにレース後に啖呵をきってきたものはいなかった」
思い出させないでよ
「私とレースを共にした者は尽く絶望した顔つきになった」
「...」
「そして私はそれを見てなぜ悔しがらない、なぜ立ち上がってこない、ウマ娘の闘争本能はどこへいったと毎回思っていた。
しかし、君だけは違った。レース後に魂を震わせ殺意に近い闘志をぶつけてきたのは君が初めてだ」
なんて傲慢だろう
「自分でも傲慢なのは自覚している。勝者が抱くべき感想では決してないさ。
それでもレースで戦い、凌ぎを削った相手が膝から崩れていく姿を見るのは何ともクるものがある。
だからと言って手を抜くことは絶対にしなかった。
それこそ最大の侮辱であることを辛うじて私は知っている」
油断しない才能の塊、暴力、それがシンボリルドルフ
「だから...その、なんだ...君が啖呵を切ってくれたことが本当に嬉しかったんだ」
三日月の彼女は頬を赤らめ、目線を天井に向け、そう話す。
「....えっ」
そしてまた気まずい空気が辺り一面にひろがる。
「へ、変な意味じゃないぞ!なんと言うか...ほらっ!聡明な君なら分かるだろ...っ!?」
「もうやめて...こっちまで恥ずかしくなる...」
恥ずかしすぎてこっちまで赤面してしまう。
なんか拍子抜けた。
玉石混交の玉側のウマ娘
百戦錬磨のシンボリルドルフにも悩みはあったらしい。
贅沢な悩みだ。
「私だって折れそうになったけどね、完璧なレースをしたつもりが最後の数mのところで差し切られるんだから」
「正直最終直線に差し掛かった時は焦ったさ、思ったより君との距離はあったし、色々と状況が悪かったからね」
色々ね...やはり不良バ場を突っ切ってきたんだ...すごすぎるよ...
「...そうだったんだ。あ、ついでに一つ聞いていい?」
「ん?なんだい?」
ずっと疑問に思っていたあることを思い出す。
敗因究明するうえで無視できない重要なポイントがあのレースにはあった。
普段から光沢のある銀色の眼を更に光らせ口を開く。
「600mを通過する数秒前だから...530mぐらいのところかな
その地点でトウカイマロンちゃん、ヒガシノライデンちゃんが
突然不自然に"かかって"いたんだよね。
そのあと同じように
シンボリルドルフの周りにいたスズフェスティバルちゃん、クイーンハイセイコーちゃんも
同じようにペースがあがったんだけど...
正直"かかる"ようなタイミングじゃないと思うし
"アクシデント"があったのかなって思ったけど
心当たりない?」
「....!!」
三日月の彼女の瞳孔が開き、少し揺れる。
「その展開が結構きつくてさ、予定していたより少し"スタミナを使う"はめになったんだよね」
「...いや思い当たらないな。初レース且つ1000mという馴染みのない距離だ。
緊張や経験不足という事でペース配分を誤ってしまったのだろう。
私はたまたま実家で1000mの距離を数度試走しているから経験が生きたのだと思う」
「...そう、ありがとう、少し気になってたんだ」
確信した。
あのレースを支配していたのはシンボリルドルフだったんだ。
どういう原理か知らないけど、完璧な逃げ展開を防ぐために意図的に前方のウマ娘達を"かからせ"
私にプレッシャーを与えて消耗させたんだ。
あのハナ差はとてつもないほどの圧敗だったんだと再度痛感する。
「ふぅ...ちょっと外の風あたってくるね」
「あぁ...いってらっしゃい」
私は三日月の彼女から貴重な情報を得たので、これまでの情報を整理し本日のレースの反省をするために外にでた。
バタン
新品の綺麗な扉が閉まった。
「・・・ふふっ」
部屋にただ一人残ったシンボリルドルフは静かに笑っていた。
「いるじゃないか...!理事長もたづなさんもシンボリ家の教育係も...!全員が口をそろえて、私が世代で抜けていると言っていたが...とんでもない...!」
「傑物...!異類異形...!それでいて才気煥発...!」
「あぁ、1日でも早く彼女とG1の舞台で...!」
三日月の流星を揺らしながら笑っていた。
――――――――――――――――――
「...ふぅ、美浦寮は少し寂しいね。栗東に比べてウマ娘が少ないからかな」
新設された美浦寮に比べて、栗東の方が入寮しているウマ娘が多めである。
なので活気という面ではどうしても美浦側は物寂しい。
「私は人見知りだからこれはこれで落ち着くけど...」
そんなことを言っていると背後から急に声をかけられた
「ん~シルバぁ~...メモリ~ちゃ~~ん!!!」
艶やかな声で呼ばれ、そして後ろから抱き着かれた
「ひ、ひゃぁ!ど、どなたですかぁ!?」
ウ、ウマ娘いたぁ!?
「あはは!いいリアクション!っていうか本当に君かわいいねぇ~!」
なんだなんだ状況が呑み込めない...!
「ルドルフとのレースおしかったね!あの子をあそこまで追い詰めた同世代の子初めて見たよ!」
ルドルフ...?
シンボリ家の関係者か?
ん?まて、この人...どこかで見たことある...
「もうちょっとスタミナがあったらわかんなかったかもね!ってそれは新入生には酷か、あははっ!」
この特徴的なシルクハット型の耳飾り...外はねのロングヘアで...私とあまり変わらない身長...
「あなたはもしかして...」
「あれ?アタシのことわかるの?」
「えぇ...去年の新入生代表挨拶を担当されてましたよね...?」
「あぁなるほど~、やっぱり勤勉だねぇ。レースは体を表すってコトかな?」
何か勝手に納得してる
「正解!去年新入生代表挨拶を務めました!
アタシの名前は...」
83年 菊花賞
そのウマ娘はタブーを冒した。
最後方から、上りで一気に先頭に出る。
そうか。タブーは人が作るものにすぎない。
そのウマ娘の名は
ミスターシービー
才能はいつも非常識だ。
「アタシの名前はミスターシービー、同じ美浦寮の先輩だよ!よろしくね!」
2つ目の才能の暴風が吹き荒れる
偉大な三冠バにサンドイッチされる銀髪の子かわいそう
次回クッション回を挟みます。
次々回以降本格的な能力あげトレーニングが始まります。
ご感想やご意見をいただけたら幸いです。
よろしくお願いいたします。