トロフィーを獲得しました ー銀色の景色ー   作:ウホホ・ウホホイ

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Chapter.8 学園生活

私のトレセン学園での生活は早朝AM5:00から始まる。

 

AM4:55に跳ね起き、三日月の彼女を起こさないように

静かにベッドを整理する。

 

腿裏まで伸びた髪の毛は何故か寝癖が付かないため

雑にヘアゴムでまとめてポニーテールにする。

 

そして顔を冷水で洗い、口内を消毒し、トレセン学園のジャージに着替える。

 

ここまで3分、現在AM4:58。

 

BCAAとシルバージム御用達のプロテイン、そして炭水化物を雑に胃に入れる。

 

最後にウマホでシンボリルドルフの寝顔を撮る。

 

現在時刻AM5:00、準備完了だ。

 

「いってきます」

 

―――――――――――――――

 

(はっ...!はっ...!)

 

トレセン学園のトレーニング施設は日本一器具が充実している。

 

ウマ娘専用のダンベルやエクステンション系の機械

300kgの重りにも耐えられるバーなど非常に品が揃っている。

 

(498...!!499...!!!500...!!!!)

 

私の早朝トレーニングは基本的に柔軟と初動負荷トレーニングがメインである。

 

体が起きていない朝方にベンチプレスやデッドリフト、スクワットなど

高負荷の運動を行う事は個人的にあり得ないと考えている。

 

なので、朝は1日の始まりをスムーズにするために

関節の運動とストレッチを中心に行う。

 

そもそも高負荷マシンの重りに関しては

中等部の期間は先生の許可を貰わないと使えないのだが。

 

ちなみに初動負荷トレーニングとは

B.M.L.T.カムマシンという専用のマシンで関節を細かく動かして

可動域を広げるトレーニングである。

 

これにより神経と筋肉の協調性や相互作用を高めることが可能で

練習を積むことで、しなやかで精緻な動作を実行することが出来る。

つまるところ神経伝達から筋出力のクオリティを高めることが出来るのだ。

 

また、身体への余分な負担が少ないため

早朝でも安心してトレーニングすることが可能で小学生の頃から愛用している。

 

当初はトレセン学園にマシンがあるかどうか心配だったが杞憂であった。

 

 

初動負荷トレーニングは両腕両足の関節を稼働させるため

調子が悪かったり体調が悪かったりすると

如実に運動のパフォーマンスに現れる。

 

そのため自身の「調子」を把握しやすい。

 

トレーニング自体がケガし難い体を作り上げるが

自身の状態も確認できるため、ケガのリスク軽減に非常に役立つ側面を持つ。

 

(のび~る、のび~る...ストレッチ!)

 

次に柔軟運動を行う。

 

ストレッチは筋肉を伸ばすイメージではなく

関節を曲げるイメージで行う。

 

筋肉を意識して体を伸ばすと

必要以上に筋肉を傷めてしまうからだ。

 

肩甲骨や股関節を入念に解す。

 

(ストレッチパワーは筋肉繊維じゃなく関節に溜めないとね)

 

――――――――――――――――

 

 

現在時刻はAM6:30

 

次にグラウンドへ向かう

 

まずは30分程、軽くランニングをして体を温める。

 

このぐらいになると、他の生徒もちらほらグラウンドに出てくる。

 

当然、三日月の彼女も例外ではない。

 

 

「やぁ、おはようシルバーメモリー。今日も精が出るな」

 

「おはようルドルフ、メモリーちゃん、今日もよろしくね!」

 

 

当然?シルクハットの彼女も練習場に現れる。

 

 

「どうかな?今日は軽く並走しない?」

 

「私は勿論構わないぞ、シービー」

 

「...朝ですので1ハロン14秒ぐらいのペースでいいなら」

 

「おっけー!」

 

 

彼女の名前はミスターシービー、同じ美浦寮に所属するウマ娘。

 

学年は私より1個上の先輩である。

 

 

「そういえばシンボリルドルフとミスターシービー先輩って以前からお知り合いだったんですか?」

 

 

慣れてはしまったが、シンボリルドルフがミスターシービー先輩の事を呼び捨てしているのは少し気になっていた。

 

 

「あ、それ気になっちゃう?そうだよね~ルドルフもミスターシービー"先輩"って呼ぶべきだよね!」

 

「...勘弁してくれ」

 

「まぁ小さい頃ルドルフのお家にお邪魔したことがあってさ、それ以来知り合いと言えば知り合いかな」

 

 

そうなんだ

 

 

「...彼女の天真爛漫でお転婆なところを小さい頃から見続けてきたせいかな

 とてもじゃないがシービー"先輩"とは呼べないさ」

 

「なにを~!メモリーちゃんルドルフったら酷いね~、もし虐められたら直ぐにお姉さんに言うんだよ!」

 

 

三日月の彼女が言う事が分かった気がする。

 

今からあなた達2人にいじめられるのは誰かご存じなのかな?

 

 

「さて口も温まったってことでいきますか!1ハロン13秒ペースね!」

 

 

「14秒です」

 

 

こうして毎朝彼女たちと並走を始めとしたトレーニングを行う。

 

勿論実力差は歴然、到底かなう事はない。

 

 

(これが1学年上...しかもトップクラスの走り...!!)

 

 

彼女の走りはそれはそれは見事なものである。

 

力感の無い滑らかなフォームからは考えられない力強い走りを見せる。

 

足の裏全体で芝を捉え繰り出す末脚は一種の芸術のように思えた。

 

 

(それに食らいつくシンボリルドルフ...!)

 

 

三日月の彼女はミスターシービー先輩に負けじと食らいつく。

 

現在は1ハロン14秒...いやどうみても13.5秒ペースだろう。

 

毎回のことだが闘争本能のせいかペースがあがってしまう。

 

とは言っても私もウマ娘

 

 

(負け...られるか!!!!)

 

 

並走の構図はいつも逃げの私、少し後ろにシンボリルドルフ、その隣にミスターシービー先輩という形になる。

 

後ろから感じる痛烈なプレッシャーに圧されそうになるが、精神力で弾き飛ばす。

 

プレッシャーでかかってしまっては勝負にならない。

 

意地でも1ハロン13.5秒ペースは維持し続ける。

 

「わぉ」「流石だな」

 

賞賛の声と感嘆が聞こえたが、微塵も嬉しくない。

 

常勝者の余裕にしか聞こえないからだ。

 

結果は何事もなくミスターシービー先輩が1着、2着が三日月の彼女だった。

 

 

「あははっ!メモリーちゃん今日も惜しかったね!」

 

「1ミリも思ってないこと言わないでください」

 

「ごめんごめん、じゃぁお詫びに次のトレーニングも付き合うからさ!」

 

「...じゃぁ是非ゲート君の中で

私と仲睦まじく朝ごはんを一緒に食べてください」

 

 

そう言うと、ミスターシービー先輩は完全にフリーズした。

 

 

漫画でも中々見ない固まりっぷりである。

 

 

「オモイダシタ!午前中の授業の課題しないといけないんダッタ!ゴメンネ!」

 

 

そう言ってミスターシービー先輩は1ハロン13秒のペースで何処かへ消えていった。

 

 

「ふふっ...これでシービーとは1勝1敗の引き分けだな」

 

 

まるで高みの見物を決め込んでいる三日月の彼女

 

何を暢気に...シンボリルドルフ、私はあなたにも負けてるんだよ。

 

 

「残念だったなぁ...しょうがない、あなたと一緒にゲートでご飯食べよっか」

 

 

そう言うとこれまた見事なフリーズっぷりである。

 

 

「すまない、シルバーメモリー。

 私も用事を思い出した、蹄鉄の手入れをしないといけなくてな」

 

 

そう言って三日月の彼女も1ハロン13秒のペースで消えていった。

 

これで本日の早朝トレーニングは2勝2敗、見事な引き分けである。

 

2敗は喫したが見事に勝利を2つ収めた。

 

 

「これが勝利の景色...!」

 

 

絶対に違うと思った。

 

 

――――――――――――――――

 

早朝トレーニングが終わり授業が始まる。

 

トレセン学園の授業は、午前中9:00-12:00

午後1:00-3:00と一般的な学校に比べて早めに終了する。

 

ウマ娘の本分はレースであるため、1日の多くの時間を練習に費やすからだ。

 

とは言っても府中トレセン学園のモットーは文武両道。

 

全国のウマ娘の見本にならないといけないので学業を疎かにしてはいけない。

 

自分で言うのもなんだけど、私は勉強はかなりできるほうだ。

 

小学生の頃から調べ物をしたり文献を読んだりしていたおかげで

レースやウマ娘に関する教科のテストはほぼ満点、優等生である。

 

レース論や、ウマ娘の人体力学、栄養学などは常に学年1位だ。

 

しかし、私がどうしても苦手を克服できない教科があった。

 

 

「国語...48点...!?」

 

嘘でしょ...

 

 

国の語と書いて国語。

私は純日本のウマ娘だが、その国語で50点以上取ったことが無い。

 

文章は隅々まで確認できているし、メモを取りながら解答していたりと基本的なことは問題ない。

 

しかし私は致命的にまで"○○の気持ちを答えよ"系の記述問題を間違える。

 

 

問3(12点)

 

 

ウマ子は今迄真摯にお付き合いをしていた彼氏に唐突な別れを告げられました。

 

彼氏はウマ子に「君以上に好きなウマ娘ができたんだ、ごめん」と言い放ちました。

 

翌日からウマ子の様相は一変し、泣きながらトレーニングをするようになりました。

 

この時のウマ子の気持ちを答えよ。

 

 

【解答】

 

彼氏がいなくなって物理的に自分だけの時間が増えたので

練習時間を以前より確保できるようになり

あまりの嬉しさに泣きながらトレーニングに励むようになった。

 

(2点)

      

 

こんな調子で真面目に回答しているのに、尽く大きく減点されてしまうのだ。

 

 

(おかしいな...何度考えてもそれ以外の解答にならないんだけど)

 

 

首を傾げながら返却された解答用紙を眺めていると

 

隣から妖怪を見るような視線で三日月の彼女が私を見ていた。

 

――――――――――――――――

 

PM3:00より門限まで、ウマ娘はトレーニングに勤しむ。

 

中等部1~2年は教官と呼ばれるトレーナー免許を持っている人達と一緒に

多対一形式でトレーニングをする。

 

 

「はい、それでは本日の練習は終わりです。クールダウンを決して忘れないように」

 

 

本日は鬼教官と名高いタケダ教官のご指導だった。

なんとあのシンザン大先輩をマンツーマンで指導したことがあるそうな。

 

トレーニング内容が非常に濃いので

タケダ教官が指導してくれる日は朝からテンションがあがる。

 

 

(はぁ...っ!はぁ...っ!)

 

 

流石は中央、トレーニングの密度も質も非常に高い。

 

練習体力には自信があるほうだったが、まだまだという事を痛感する日々である。

 

そんな風に少し黄昏ていると、後方から大きな声が聞こえてきた。

 

 

「きょ、教官!ビゼンイッシキちゃんがグロッキーに!!」

 

「酸素スプレーをぶち込んでおやりなさい」

 

「おらぁ!!」プシュー

 

「教官~!スズソニックちゃんもヤバイです!!」

 

 

こんな風に練習後は屍が辺り一面に広がる。

 

悲しいかな、この死屍累々を見ると練習が終わったと実感する。

 

現在時刻は19:00

 

 

「さて、シンボリルドルフ。今日はどうする?あそこ行く?」

 

「.......」

 

 

動いているけど、ただの屍のようだ。

流石の三日月の彼女もこのトレーニング量には応えるらしい。

 

若干顔を青白くして、ひたすら無言でクールダウンをしている。

 

 

「了解、私はあそこに行くから寮長に言伝よろしくね」

 

「......ワカッタ」

 

 

三日月の彼女はオーバーワークギリギリの所を攻め

非常に質の高いトレーニングをこなすのだが

タケダ教官の指導日はその生真面目さが裏目に出る。

 

今日は一段とションボリとしていた。

 

――――――――――――――――

 

現在時刻はPM8:00

 

私は"角バ場"で最後の追い込みをしていた。

 

角バ場とは普通のコースの内側に作られた小さな砂バ場であり

 

周囲や走路を柵で囲った1周200~600mほどのコースのことを指す。

 

中等部に入って間もないウマ娘の最初の練習や

軽い追い運動に使われることが多い。

 

私はダートより芝を好むが、砂の上を走ることでパワーを鍛えることが出来るので

よく利用させて頂いている。

 

また、角バ場の隣に"坂路"と呼ばれる傾斜がつけられたコースがある。

 

バ場材にはトレセン学園特製のウッドチップを使用されており

普段走っている平坦なコースより運動負荷をかけることができる。

 

そして走行スピードが上がらないため

脚にかかる負担を減らすことができる。

 

坂路コースでの反復調教を繰り返すことで、心肺機能や脚の鍛錬になるのだが

残念ながら中等部1年の間は使用できない。

 

中等部2年且つ本格化を迎え、高負荷の練習に耐えられるようになったら

使用が許可される。

 

中等部2年になったら毎日坂路の練習をしたいものだ。

 

 

(ラスト一本...!)

 

 

角バ場で最後の追い込みをこなし、浴場でお風呂を済ます。

 

 

お風呂は好きだ、1日の疲れを吹き飛ばしてくれる。

 

 

こうして私の1日が終わり...

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

PM9:00 食堂

 

ではない。

 

 

最後に待ち受けるは最も辛いトレーニング、"食事"である。

 

 

「いつも遅くに申し訳ございません。今日もよろしくお願いします。」

 

「シルバーメモリーさん...覚悟は宜しくて?」

 

「もちろんです」

 

 

そうして私の目の前に出されたのは鶏の胸肉とブロッコリー

タマゴをふんだんに使った料理の数々。

 

超高蛋白質の食事は体を作り、疲労を回復させるために

非常に有用である。

 

私は高蛋白質の食事を好むため

食堂ではいつもそのような料理を頼む。

 

好きなものを好きなだけ食べられるのだから

辛くないのでは?と思うかもしれない。

 

しかし、違うのだ。私が恐れているのは別の食べ物

 

 

料理長が大きなプレートを運んできて、高らかに宣言する。

 

 

「"特製人参ハンバーグ"めしあがれえええええええ!!!」

 

 

ドンッ!!!!!

 

私はウマ娘だが、ニンジンが嫌いである。

厳密には"ウマ娘用の糖度が非常に高いニンジン"が嫌いである。

 

しかし食べなければならない...ウマ娘栄養学満点の頭脳がそう告げる。

 

 

(豊富な食物繊維...!超良質な糖分...!そのほかの栄養素...!)

 

 

トレセン学園で扱っているニンジンは日本一の栄養素を誇り

レースに勝つための体づくりにおいては絶対に食べなければいけないのだ。

 

食べないという選択肢はありえない...!!

 

 

(いざ...!尋常に勝負...!)

 

 

パクッ

 

 

覚悟を決めて口に運ぶ

 

 

そして

 

 

(ぐおおおお...!!あましゅぎりゅうううううう...!!おえっ...!!!)

 

 

普段からお菓子等の甘いものを口にしないせいで、この甘みは暴力と化すのだ。

 

 

「りょ、料理長...!いつものことだけど、俺見てられねぇよ!!」

 

「目を逸らすな池田ァ!!

 苦手なものの大皿を根性で食べているんだ!!見届けろォ!!」

 

 

くるじいいい!!!喉を通らないいいい!!!

 

 

「りょ、料理長!!私見てられません!

 今すぐ糖度10%カットのものを出してあげましょう!!」

 

「山田ァ!!駄目だ!!彼女の覚悟を無駄にする気かぁ!!!」

 

たしゅけてえええええ!!!!な、涙がちょちょぎれりゅううう!!!!

 

「お、俺長い事ここで勤めてきたけど...

 こんなウマ娘初めて見るぜ...胸が熱くなってきた...」

 

 

あぁ~~脳に糖分が沁み込む!!おかしくなりゅうううう!!!

 

 

「...ばれ...がんばれ!!」

「もう少しよ!!シルバーメモリーさん!!」

「根性見せろ!!!」

「ラスト追い込めえええ!!」

 

 

皆が応援してくれる...背中を押してくれる...

 

うおおおおおおおおおおお

 

 

「いけ...!シルバーメモリー!!」

 

 

料理長の激を受け

 

パクッ

 

 

「ご、ごちそうさまでした...今日も美味しかったです...」

 

 

最後の一口を胃の中に収めた。

 

 

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

アイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!

 

シルバーメモリー、お前がナンバーワンだ...!!

 

 

食堂に料理人達の喝采が響き渡る。

 

クソあまったるいニンジンステークスに勝利した私は

 

右手を高らかに掲げ、勝利を宣言する。

 

 

「なにをしているんだシルバーメモリー...」

 

「あははっ!また変なことしてる!」

 

 

遠目で三日月の彼女とシルクハットの彼女が見ていたような気がした。

 

 

 

こうして私の1日が終わる。

 

 

 

また明日も戦いに来るからな...日本一のニンジン達よ...

 

 

 




雑なギャグパートにぶち込まれる銀髪の子かわいそう
ジュニア期3年目まではこのような雰囲気になると思います。

また多くの評価、感想ありがとうございます。
厚くお礼申し上げます。

もしよろしかったらご意見ご感想を頂けましたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
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