ストライクウィッチーズ-真夜中の魔女-   作:バイオレンスチビ

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1-05.穴吹智子の不満

これまで互いに競いあい高めあってきた加藤武子と一緒に前線であるカールスラントに送られると思えば、私だけスオムスなんて田舎の後方に送り出された。

 

…それだけでも不満だったのに。同僚となるのが各国トップレベルの落ちこぼれ“いらん子”となれば、非常に不愉快であった。

 

私だって彼等が“扶桑海の隼”と称した加藤武子と同じく扶桑海事変で活躍したエースだ。それを僻地に吹っ飛ばすのは、何だか私の実力を正当に評価されていないように感じる。

 

卓越した技量を持つウィッチがストライカーユニットを適切に運用してネウロイを叩き落とす。ストライカーユニットは達人が運用してこそいきるのだ。

扶桑で新型機(隼)の試験を行った際、模擬空戦の相手をしていた武子は、いずれ格闘戦は“おまけ”になるだとか、今後は集団戦術が主流になるだとか悲観的なことをいっていたが、私はそうは思わない。

 

凡庸な量産型のウィッチをいくら投入したってネウロイには勝てない。確かな技能を持つウィッチこそが勝利を手繰り寄せる鍵となるのだ。

 

「なんなのよ、まったくっ…!」

 

思わず虚空へ向けて悪態を吐く。あの日から何もかもが上手くいかない。あの日。スオムス派遣が決まった日だ。武子はそれを知っていた。

 

『貴女のやり方はカールスラントじゃ通用しない。』

『本当のエースになって帰ってきて。私、待ってるから。』

 

意味がわからなかった。私はエースだ。扶桑海で沢山のネウロイを叩き落とした。そして“扶桑海の閃光”あるいは“扶桑海の巴御前”などと称され、映画の主役にすらなった。この私が力不足…?武子と同等にできるはずの私が“いらん子”?ありえない。そんなわけがない。

 

『あんた、裏で糸引いたでしょ!私がカールスラントにいけなくなるように!どうして、どうしてそんなことをするのよっ…!』

『あのね、私たちは軍人なのよ。命令は絶対なの。』

『…あんた、嫉妬したのね!私の方が撃墜数が多くて、注目されたから!』

『今の貴女に私の言葉は届かないわ…』

『なによ、上から目線に偉そうにっ…!あんたなんて友達じゃないわ!』

 

最後の会話を思い出す。私たちは友達だったはずだ。何時だって一緒だった。戦友だった。親友だった。それがずっと続くと思っていた。

…バカみたいだ。

武子たちカールスラント派遣組は新品の空母で大々的に送り出された。私はオンボロ巡洋艦でオマケのような扱い。基地についた当日に歓迎会こそ開いてくれたが、基地は倉庫を改装したボロ小屋。与えられた部屋も上等とはいえない。それに加え隊員のやる気もない。何だこれはあんまりじゃないか。

…でも、腐ってばかりもいられない。

私は証明しなくちゃならない。そして認めさせるのだ。スオムス空軍の正規軍の連中に。本国の上層部に。そして武子に。私が穴吹智子がどれだけ優れているかを。どれだけの力を秘めているかを。その為にも戦果を出さなきゃいけない。そして、こんな場所なんてすぐにでも抜け出してやるのだ。

「待ってなさいよ、武子…!」

 

 

 

 

 

「智子少尉、起きていらっしゃいますか?」

 

気が立って眠れないところにハルカの声。

 

「何よ。一人じゃ寝られないの?」

 

仕方がない。ハルカは14歳の新米ウィッチだ。座学の成績が素晴らしく優秀でブリタニア語が堪能とはいえ、ここは彼女にとって文字通りの異国であり戦地であるのだから不安定になるのも仕方がないことなのだ。

 

「…はい、なので隣に入れてもらってもよろしいですか?」

 

ハルカは私よりも小柄だ。そんなに狭くはならないだろう。枕を手に立っていることから目的も明らかだ。仕方がない。

 

「ハイハイ、好きにしなさい。」

 

海軍ではウィッチ同士の仲がよく、親しい間柄では先輩後輩の関係にも関わらず、階級をつけず名字で呼び合う風習があるらしい。そんな海軍所属のハルカからすれば今の状況は酷く寂しく感じるのだろう。

 

「有難うございます、少尉!」

 

布団に入りやすいように少し端に避けてやる。

 

「しつれいします。」

 

もぞもぞ、がさごそ、明かりのない部屋だからか手間取っているようだ。

 

「ほら、こっちよ。まったく、要領が悪いんだから。」

 

少し身を起こして布団に入れてあげる。

 

「ありがとうございます。少尉の布団は暖かいですね。」

 

「…あの、智子少尉。もしよろしければ、私を食べてください。好きにしてくださって構いません。」

 

そう言われて胸元に手を持っていかれる。心臓の拍動が手を伝って伝わってくるような感覚。冷えきった手に熱が伝わってくる。ただ、肌が触れているだけ。それなのに恥ずかしそうに目を背けるハルカのせいで変な気分になる。…いや、私はノーマルだ。昼間の大尉の衝撃が強すぎてハルカも私も気が動転しているのかもしれない。

 

「さっさと寝るわよ。明日も早いんだから。」

 

明日は朝練だ。もう二度と“いらん子中隊”なんて呼ばせないように徹底的に強化するのだ。私が変えてやるのだ。そのためにも今日は早く眠ってしまおう。

 

 

 

 

子供体温のハルカは良い湯たんぽであった。

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