ストライクウィッチーズ-真夜中の魔女- 作:バイオレンスチビ
スオムスは雪国だ。雪には音を遮り吸収する性質があるとされている。例えば、史実西暦世界における桜田門外の変で水戸浪士の初手がピストルであったのにも関わらず、護衛による対応が遅れ、大老井伊直弼は討たれた。これについて、当日が雪であり銃声が響かなかったからだとする説は余りにも有名だ。これが晴れの日だったなら結末はまた変わっていたかもしれない。つまるところ歴史を変える程度には雪の存在は音の伝搬において影響があるのだ。
実際、私が初日に地面との距離感を掴み損ねたのも地面からの反響が小さすぎたことが一因であると思う。石畳の道。舗装された道路に高い建物。これまで戦っていたオストマルクに比べて反響が小さかったのだ。また、一面が銀世界で目印が少なすぎたのも挙げられるかもしれない。まぁ、訓練なのにムキになってしまったのも悪いのだが。
今日の朝練において私の目標は何か。それは第一に高度と感覚の擦り合わせ。第二に中隊のストライカーユニットの音を覚えること。この二つである。
「エルマ中尉にハルカ、それにマルグレーテ少尉。…あの三人はどうしたのよ!?」
あの三人とはビューイング少尉、キャサリン少尉、ウルスラの三人組のことだろう。
「…あの、おそらくですが穴吹少尉が昨日の終わり際に“もう好きにしなさい”等といったからではないでしょうか。」
「もう期待しないともいってましたね。」
その二つから『じゃ、好きにさせてもらいます』という結論に至ったのだろうか。うん、とてもあり得る話だ。だって、中学の部活で顧問の先生がそれをいったなら部員の過半数が帰ったからね。席を外してから部室に戻ってきた先生ビックリしてたけど。
「だからって、本当に好きにするやつがあるかっ!まったく、嘗めた真似をしてくれるじゃないっ…!」
一見すると少女たちによる平和でバカらしいやり取りだが、これで線引きがより明白になってしまったと思うと笑うどころか泣きたくなってくる。
「怒っても仕方がありません。ここは前向きに考えましょう。私たちが彼女たちの目の前で活躍すれば掌を返して教えを乞うはずです。」
「…それもそうね。」
ストライカーユニットに火をいれる。耳と尻尾が発現し、出力の上昇と共に意識が研ぎ澄まされていく。
そして、集合をかけられている高度まで円を描くようにしてゆっくりと上っていく。まるで湖畔を飛ぶトビのように規則的に円を描いて緩やかに高度を上げていくのだ。こうして真っ直ぐ飛ばないのは高度計と聞こえ方のすり合わせを行うためだ。まぁ、最終的には慣れが重要になってくるので、この朝練を通して身体に覚え込ませることになるだろうが。
「高度計とにらめっこしながら飛ぶなんて素人のやることだわ」
私は魔導針を使えないから基本的に聴覚を中心とした感覚を頼る他ない。ここで言う魔導針は魔法力を利用したレーダーのようなもので、地平線まで探査できる優れものである。一方で私は空飛ぶ聴音機である。天候を含む状況に左右されやすく、いずれ不要になる存在だ。
「星明かりのない夜にそんなこと言えますか?正しい感覚を身に付けておかないと夜の空は危ないんです。下手をすると高度を下げすぎて建物に突っ込みますよ。」
ついムッとして穴吹少尉に反論する。こんな私でもそれなりに飛んだつもりだ。活動期間は少ないけれど、昼夜を飛んだので同期の二倍は働いているかもしれない。それを素人扱いとは失敬な話だ。
高度計とて万能ではない。壊れることだってあるし、確認する間もないこともある。何らかの原因でずれることも考えられる。だから高度計と感覚の擦り合わせが必要になるのだ。
「なるほど、ナイトウィッチだから少し感覚が違うのね。」
わかっていただけたなら幸いです、
「ちなみに穴吹少尉はどうやって地面との距離を把握しているんですか?」
「そんなのは感覚よ。感覚。自分がどのくらいの早さでどう飛んでいるのかなんて慣れてくれば感覚でわかるわ。まぁ、飛ぶ高度を指定された時だったり着陸の時なんかは一瞬だけ確認するかもだけど。」
…この天才め。天は彼女に贔屓して二物も三物も与えたに違いない。まったく、これだから天才はズルいのだ。
「ついでに皆さんの音も聞きに来ました。あまり聞きなれないストライカーユニットだったので誤射すると怖いな、と思って…。」
そこで距離を取るのはやめてください。傷つきます。