ストライクウィッチーズ-真夜中の魔女- 作:バイオレンスチビ
「教科書通りじゃうまくいかないこともあるのよ。でも心配してくれてありがとう。」
ダメだった。穴吹少尉がエースであることを私は知っている。彼女がそれを誇りに思っていることも知っている。実戦でも素晴らしい働きをしていた。しかし、あれではいけない。ウィーナー・ノイシュタット。あそこでは、成績上位の人から死んだのだ。誰も彼もが勇敢で優秀だとされた魔女たちだった。でも死んだ。死んでしまったのだ。
そんな私の思いは届いたのか。はたまた子供の戯れ言ととられたのか。たぶんダメだったのだろう。今にも歌い出しそうなほどに上機嫌な穴吹少尉は私の頭を撫で回してから私室に帰っていった。
完全に子供扱いである。
「そうじゃないんだけどなぁ。」
去り行く後ろ姿を見ながら思わず小さく言葉を溢す。そもそも、最初から上手にできる人が上手にやって見せてもダメなのだ。ダメな人が上手にできる人と一緒になって戦えるぐらい上達した成功例を提示することに意味があるのだ。
これはダイエットを取り扱った番組と同じ感覚だ。大事なのは“私にもできるかも…!”という希望を抱かせることなのだ。ここで“オラにゃ真似できね。”となってしまったら逆効果なのだ。
そんなことを考えたところでくしゃみが出た。
「冷えてきたかなぁ。」
今日は色んな汗をかいた。それが冷えてきたのだろう。おまけに慣れない飛びかたをしたためか疲労も感じる。
そもそも、エルマ中尉がBf109のE型。つまりは最新型の機体に乗り換えたことで私の99式との性能差は絶望的になってしまっていたのだ。その性能は初日に見たG.50なんかとは比較にならないほどだった。
そんな試運転の最中にネウロイの襲来が伝えられた。義勇独立飛行中隊は穴吹少尉を臨時のトップとして出撃。我々は基地に戻らず、そのまま中隊に合流するように命じられた。私は全力で魔力をエンジンに注ぎ込んだけど、エルマ中尉には置いていかれる一方だった。最終的にはエルマ中尉に抱えられるような形で空を飛んだ。
空域に到着した頃には既に空戦は始まっていて、穴吹少尉が暴れまわっていた。隙を見て誰か一人が援護射撃を突っ込むけど、他の多くは何をしたらいいのかわからないのか、銃を構えたり下ろしたりしているようだった。おそらくは下手に発砲して味方撃ちになるのを警戒しているのだ。
そう思った。
『こちら、エルマ中尉とマルグレーテ少尉。加勢します!』
誤射を避けるために宣言。太陽の中からの一撃離脱をと仕掛ける。『先にいってください!』そういわれた通りに飛び込んだ。そして、エルマ中尉があとから飛び込んでくる。
二人の7.7ミリ機銃が火を吹く。ラロスの翼端を鉛玉が穿つ。外した。少し遠かったのだ。
離脱して再び上昇。
…そこで戦闘は終了した。
抜き身の軍刀と機銃を携えた穴吹少尉の姿があった。あれでネウロイを叩き落としたというのだろうか。あり得ない話ではない。私たちだって機銃や小銃に銃剣をつけることがある。先を尖らせたスコップで地上型のネウロイを撃破した例がある。
しかし、近すぎれば怪我をする。少し前にはネウロイの破片で失明する事故があったらしい。そして忘れがちだが、私たちは時速にして数百キロのスピードで飛び交っているのだ。魔法力で強化されているとはいえ、下手をすれば、ぶつかっただけで空飛ぶ生ハンバーグになる。
そんな中で刀剣を振るえるだけの距離に安全に近づき、足場のない空中で相手を切り捨てる。どれだけの技量があっただろう。
「ダメだなぁ、私。」
対して私は今日の出撃で何ができただろう。おそらくは、エルマ中尉の足手まといにしかならなかった。エルマ中尉は優しいからなにも言わないけど。わかっている。わかっているとも。才能も実力も。私には何もかもが足りていない。もっと早く飛べたなら。もっと上手く飛べたなら。でも、そうはできなかった。
メンバー同士の距離を縮めるという目標も果たせていない。大丈夫。まだ一度目だ。奴等が無尽蔵に湧き出る物量を武器にしていて、止まることのない進撃を行うことはわかっている。そして、良くも悪くも襲来は終わらないだろう。
「…大丈夫、私はまだ飛べる。」
この仕事に就いてから独り言が増えた気がする。