ストライクウィッチーズ-真夜中の魔女- 作:バイオレンスチビ
エルマ中尉に誘われてサウナへと連れられて来た。特に意識することもない。10年弱もの間、女性として扱われ女性として毎日を過ごしていると、案外と自然に受け入れられるものである。…これも一種の変質かのかもしれない。そう思うと自分という存在が内側から歪められているようで憂鬱な気分になる。
「汗かきついでにサウナとはいったけど、サウナって何だかわかる?」
ボンヤリしていたのを心配されたのか、先に脱衣場で着替えを終えてタオルを巻いたエルマ中尉が振り返る。
「蒸し風呂の一種だと聞いたことがあります。西ウクライナ地方から来たウィッチが『ここには、美味しいケーキやワインはあるのにサウナどころウォッカもないのか』なんてぼやいていたのを覚えています。」
必死に覚えたという辿々しいカールスラント語が特徴だった。ウィッチの飲酒について当時の世間は冷たかったのだが、本人は常に懐にスキットルを入れているほどの酒好きだった。抜き打ちの持ち物検査で『消毒液です!』と叫んだのは同期の中で伝説になっている。
「そっか。やっぱりオストマルクって広いんだね。」
多くの国と地域からなる広大な国土。そこに住まう人々の文化。それがオストマルクの魅力であり力であり欠点でもあると思う。
「いい国ですよ。ええ、奴等に渡すには惜しい国で…。いえ、まだ負けてませんでしたね。すみません。変なことを言いました。」
まだトランシルバニアは落ちてない。まだ人類は負けていない。私の故郷は日本だけどオストマルクに愛着がないかと言われれば嘘になる。
「いつか遊びに来てください。できれば観光ビザで。」
その頃には私はいないかもしれないけれど。どんな結末を迎えているかわからないけれど。それでも国はそこにあるだろう。人々の営みが絶えることはないだろう。化け物はいつか人間に倒される。それは子供だって知っている物語の王道。今はその時でなくても。屍が山をなし河が血で染まっても。人々はいつかそれを打倒する。
「…はい、いつかきっと遊びにいきます!そのときは一緒に遊んでくれますか?」
いつになるかわからない。果たせるかもわからない。それは子供染みた無責任な約束だった。
「もちろんです。美味しいケーキを出すお店を知っているんです。」
…でも、たまにはそんな約束もいいと思った。
「…それにしても立派なサウナですね。実物を見るのは初めてなので標準ってものがわかりませんが。」
私が小さいのかサウナが大きいのか。あるいはスオムスの人は背が高いから天井が高く設計されているのかもしれない。
「そうかな。スオムスだと普通の家にもサウナがあったりするから規模としては普通か少し小さいくらいかも。」