ストライクウィッチーズ-真夜中の魔女- 作:バイオレンスチビ
マルグレーテ・ホールンマルクが帰還した。硝煙の臭いを纏った彼女は敬礼する。
「マルグレーテ・ホールンマルク准尉、ただいま戻りました。」
瓦礫と血肉によって彩られた市街の中で唯一拠点となり得るのが、女子修道院を改装したウィッチ養成学校の本校舎だった。年代物の石造りの校舎は頑強であり、広い地下室があった。元より非常時には城塞として機能するように作られており、籠城にはうってつけだったのだ。
「ご苦労、今日は昼間に大事な発表があります。寝過ごすことのないように。」
【ウィーンに殺到するであろう敵を分散させる囮になること】上層部の出した命令を端的に示せばそうなる。
そのために私は満足に空も飛べない雛鳥を繰り上げ卒業させ、地獄のような戦争を行った。100名いたウィッチは日に日に数を減らしていった。あるものは卒業の通達と共に任官を拒否。あるものは軍服を脱ぎ捨てて、避難民の列に加わった。戦闘が始まれば、心身に外傷を受けて自殺するものが出た。更迭を狙って互いの足を撃ち合うものもあった。
避難民は下水道を使って外へと逃がした。もはや市街に浸透したネウロイを叩き出すことはできず、陽動と遅滞戦が私たちの役目だった。
魔法力を持たぬ人間はネウロイによる大気汚染に耐えられない。教員も兵隊も日に日に身を蝕まれ、遂には物言わぬ屍になった。
「はい、わかりました。」
そんな中で9歳の少女が銃を持つ。ストライカーユニットを装着して空を飛ぶ。次の春が来れば10歳になる。そんな彼女は、花冠をゆう指でトリガーを引き、ぬいぐるみの代わりに爆弾を抱えて飛ぶのだ。
「…グレーテル、ゆっくり休みなさい。」
親を失い、軍の施設にいたという彼女にウィッチ以外の選択はできなかった。なんて惨いことだろう。彼女は理知的で才能に溢れ、銃なんて持たずに十分にやっていけただろうに。
…しかし、私はもうシールドも展開できない出涸らしウィッチ。彼女の代わりに銃をとるには遅すぎた。いや、格好つけることでもない。私は軍の図書館を目当てに志願した不届き者だから、座学は得意でも鉄砲は苦手だった。だからこそ、教官なんて役目をいただいている。そんな私が彼女の代わりに空を飛んでも三日も持たないだろう。
「ちょっと、誰かグレーテルをベッドまで連行するの手伝ってください!」
消耗しきった彼女は学級委員長の号令と共に幾人かの生徒によって半ば引き摺られるような形で連行される。初等教育を受けるような幼女を抱き上げる力すら残されていないのだ。
ここにいる誰一人として、万全な状態ではない。手足には乱雑に包帯が巻かれ、それでも余程の怪我でないと下がれない。
ここで流した血が帝都ウィーンを守ると信じて、苦痛と恐怖に耐え、死に怯えながらも必死に戦ってきた。
そんな彼女たちに私は伝えるのだ。【ウィーンの陥落】を。