ストライクウィッチーズ-真夜中の魔女- 作:バイオレンスチビ
お仕事があることはいいことだ。ないよりは余程いい。忙しければ余計なことを考えずにすむし、自分がここにいることを肯定されているような気分になる。
半分寝ているような状態で半ば無理矢理に揺り起こされても、ストライカーユニットに足を通せば目が勝手に冴えてくる。心拍が上がり血が巡り“生きている”という実感が得られる。そうして、一日が始まるのだ。
「…エルマ隊長、お手伝いしますよ?」
そんなことを言いながら廊下に散乱した書類を拾い上げていく。誰かに必要とされている。存在を許されている。それだけで何かが満たされるような気がする。
「あ、ありがとうございます。」
残念ながらスオムス語はわからないので、何が書いてあるかはわからないけれど、拒否されないということは私が見てしまっても大丈夫なものだということでしょう。
「あらあら、相変わらずなのね。」
声が降ってきた。…これはアホネン大尉だ。唐突に背中から声をかけられたから変な声が出たわ。心臓に悪い。
「お姉さっ…あ。」
なるほど、たしかにエルマ隊長は第一中隊の一員だったらしい。ついでに顔が真っ赤になってますけど大丈夫ですか?
「まったく、それは今度の会議に使う資料でしょ?最後には会議の参加者に配るのだから一部一部をクリップか何かで綴っておけばいいものを。そんな可愛らしい姿を見せつけて、いいのかしら。」
「すみません、すみませんっ…!」
…とりあえず空気になってやり過ごしましょうか。
「そういえば、エルマさん。チビッ子ウィッチを落としたらしいじゃない。」
落とした?チビッ子ウィッチ?それは誰のことですか?
「お、おおとしたって何のことです?」
…ウルスラのことでしょうか。それともハルカのこと?落とすって何ですか?撃墜ですか?ブリタニア語はスラングが多くて難しく聞こえます。
「惚けなくてもいいのよ。だって、同じ部屋で寝起きしているんでしょ?心配しなくても大丈夫。私は貴女のお姉さまだから。」
同じ部屋で一緒に寝起き。これ、もしや私のことでは?エルマ隊長は夜間待機の日に話し相手になってくださいます。大抵は私より先に寝てしまいますが。
ちなみに私は朝が弱いので隊長の方が早く起きます。そして、そこから穴吹少尉とエルマ隊長の二人掛かりで揺り起こされます。
先日、食堂で他のメンバーにも質問されましたが私たちは
「き、記憶にございませんっ…!」
「あらあら、冷たいわね。私と二人であんなにアツい時間を過ごした仲なのに。」
少し茶化すようにアホネン大尉が言う。
「それはサウナです。誤解を招く言い方をしないでください…!」
「いくつも眠れない夜を過ごしたわ。」
「あれは、ただの残業じゃないですか。」
初対面の印象はあまりよくなかったけれど、そんなに悪い人ではなさそうな気がする。まぁ、そもそも部下にあれだけ慕われているのだからいい人なのだろう。誰だって悪い人には着いていきたくない。そういうものだ。
「ねぇ、可愛らしいグレーテル。私の妹にならない?」
目の前の会話を楽しく聞いていたら、話がこちらに飛び火してきた。…いや、もしかしたら私に聞かせるために母語であるスオムス語ではなく、外来語であるブリタニア語を使っていたのかもしれませんが。
「せっかくのお誘いですが、辞退します。私のお姉さまはエルマ中尉なので。すみません。」
そして、さりげなく愛称を使ってくるコミュ力の高さ。凄いなこの人。まともに会話するのはじめてなのよ?
「…可愛いことを言うのね。ねぇ、やっぱりウチにくれない?」
「あ、あげませんっ…!」
「あらあら、フラれちゃったわ。…でも、いつでも待っているからね。」
そんなことを言いながら飴玉を渡して彼女は去っていった。