ストライクウィッチーズ-真夜中の魔女- 作:バイオレンスチビ
1939年9月、ウィーンは陥落した。
ネウロイは大気汚染を引き起こす。その毒性は非常に強く、魔法力のない人間の臓腑を腐らせるとまで表現される。つまり、市街に突入された時点で詰みなのだ。
一応、間一髪で政府機関および皇室はウィーンを離れることに成功。各国の手助けもあり、多くの民衆が脱出したという。ここから先、死兵と化したオストマルク軍は残された民衆のための血路を切り開くことになる。
「ウィーナー・ノイシュタットを放棄し、我々はウィーンへ向かいます。ウィーンは陥落しましたが、多くのウィッチが抵抗を続けています。」
これまで散々人を送り出してきた下水道を通ってウィーナー・ノイシュタットを脱出。そのままウィーン市街戦に突入する。
「ウィーンには武器や弾薬が豊富に残されています。先輩方は優しいですね。我々は必要なものだけもって駆けつけるだけで良い。」
…無茶だ。ウィーンは確かに防衛に適した都市だ。西暦世界においてもオスマン帝国によるウィーン包囲は二度に渡り失敗している。しかし、それは諸外国による援軍が到着したからに他ならない。援軍なしの籠城戦は愚策でしかない。それは歴史が証明している。
「質問よろしいでしょうか。」
この状況で貴重なウィッチを消耗する理由として思い当たるのは、【囮】。市外へ脱出した避難民の列を攻撃されないようにするためのエサ。
…もしくは、主要機関の国外脱出にともない軍全体が機能不全を起こしている。
「我々はそこへ向かい、何をすれば良いのでしょうか。」
前者なら良いが、後者なら最悪だ。ただでさえ他国よりも少ないウィッチを浪費することになる。下手を打てば、オストマルクは終わる。
「…残された避難民の救助および護衛。繰り上げ卒業したばかりの新米ウィッチを矢面に立たせるわけにもいかないらしいわ。」
…さんざん囮として使われたことに文句も言わない教官はプロですわ。ひきつった顔をしているけど口に出さないだけすごいですよ。
それにしても前者なのか後者なのか。どっちだろうか。なんともいえないな。
「我々は、ウィーンからの撤退の支援に当たる必要があります。疲れているとは思います。この穴蔵で過ごした時間は長く厳しいものでした。しかし、我々はオストマルク軍人です。【最期まで忠実であること。それこそが名誉であり、義務である。】私達は入校の際、誰一人として例外なく誓いました。無論、かつての私も誓いました。故に私は死にます。路傍の屍となり、土となり、きっと皆さんの命を守ります。」
ウィッチ養成学校において、教官は頼れる姉であり上司であり先生である。文字通りに寝食を共にし、一緒に泣いて笑ってくれる特別な存在であった。
「怖くなったのなら、逃げても構いません。私が書く始末書が一枚増えるだけです。」
…だからだろうか。
「Indivisibiliter ac inseparabiliter」
(分割できず、別れがたい)
小さな声で誰かが呟いた。
「Indivisibiliter ac inseparabiliter」
誰かが繰り返す。
「Indivisibiliter ac inseparabiliter」
暗い地下室で囁くように。
「Indivisibiliter ac inseparabiliter」
それは神聖な儀式のように。あるいは狂ったように何度も何度も繰り返された。私もそれに加わる。
ここに残されたのは24人の航空ウィッチ。半壊した新米の集団だ。…しかし、どうしてか誰にも負ける気がしなかった。