ストライクウィッチーズ-真夜中の魔女- 作:バイオレンスチビ
夜。私に夜間攻撃の注文をするのは多くの場合が扶桑軍人である。彼等の所属する扶桑皇国は史実西暦世界における大日本帝国に類似した国家であり、夜戦を得意としている。…ついでにいうと、扶桑の言葉がわかる人間がウィッチには少ないので日本語のわかる私が対応させられがちなのだ。
「了解、B-b2地点に急行します。」
虎の子である250㎏爆弾を装備して高さ三十メートルを越える高射砲塔から飛び立つ。爆弾には肩掛け鞄のような紐と取っ手があり、これを使うことで通常時は機関銃を使えるようになっている。
これが並みの戦闘脚なら飛ぶだけで一生懸命になっていただろう。しかし、99式は違う。99式は最初から爆撃のために開発されたストライカーユニットであり、おまけとして戦闘脚並の格闘性能を持つ機体なのである。一部のカールスラント軍人からは『足が遅い上にシールドの発生装置が貧弱なコレで急降下爆撃とか正気の沙汰じゃない』などと色々と酷評されることもあるが、私個人としては自分の手足のように動いてくれる99式は優れた飛行脚である。
夜のウィーンは不気味なほどに静かだった。透き通った空気は音をよく伝える。昼間のけたたましい戦争協奏曲が嘘のように静まり返る。住民の大半が避難してしまったウィーンは首都でありながら死都であった。外へと繋がる橋は落とされ、大通りには土嚢が積まれ、機関銃を担いだ兵隊が浅く眠っている。
遠くからサイレンの音が聞こえる。Ju87“スツーカ”だ。スツーカもまた急降下爆撃を行う爆撃脚である。高い信頼性と頑丈な機体が特徴でカールスラント空軍を代表的するストライカーユニットとして知られている。その攻撃を知らせる特徴的なサイレンの音は現場の兵隊からは“ジェリコのラッパ”と呼ばれている。
優秀な性能と扱いやすさからオストマルク軍でも採用が決まり、アヴィア社やローナー社によるライセンス生産やカールスラント帝国からの輸入によって数が揃えられつつあると聞くが、末端の私は与えられたもので戦うだけである。
目標を視認。
「B-b2地点に攻撃を実行します。」
攻撃の前に警告する。250㎏爆弾は加害半径の広い爆弾であり、巻き込まれたら冗談抜きでミンチになりかねないからだ。目標であるネウロイと一緒に味方まで吹っ飛ばしたら大問題である。
高度を少しあげる。急降下するのには高度が必要なのだ。ここを間違えると地面とキスすることになる。さすがの私も蜘蛛の上に戦車の主砲を搭載したような異形の怪物と爆弾を抱えて心中するほど物好きではない。
空中で身体を捻り、急降下。
視界の端には陣地の中でシールドを展開し、背後にいる兵隊を守ろうとする幾人かの陸戦ウィッチの姿が写る。
複数のネウロイが気づいて私に向けて砲撃を開始する。
…だが、もう遅い。
取っ手につけられたボタンを押し込むと、爆弾が切り離される。
投下
轟音と共に発生した衝撃波が大きく身体を揺らした。少し地面に近づきすぎたようだ。自分の爆弾に巻き込まれるなんて、間抜けが過ぎる。それに何も聞こえなくなってしまった。爆発で耳が麻痺したのだ。
≪・・・・ッ!・・・・・・ッ!?≫
無線からの音も拾えない。困ったことになった。私は主に“耳”を頼りに夜間飛行を行ってきた。これが麻痺するとなると、目隠し飛行と同じになる。
…落ち着け。落ち着け。大丈夫。まだ大丈夫だ。
高度を取れば良い。夜間飛行を行うネウロイは少ない。耳が回復するまで上空を旋回すれば良いのだ。幸いなことに今夜は機体の燃料が満タンだ。それで、ある程度回復したら拠点に戻る。
衝撃
瓦礫とネウロイの残骸の中から一際大きなネウロイが身を起こしていた。陸戦ウィッチからの攻撃もガスマスクの兵隊からの砲撃も跳ね返しながら前進している。…偶然か必然か判別はつかぬものの、仲間が肉の壁として機能したのだろうか。
左側のストライカーユニットが火を吹いている。
…サイレンの音が聞こえた