ストライクウィッチーズ-真夜中の魔女-   作:バイオレンスチビ

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それは徹底した遅滞戦術であった。第一段階は一秒でも長くウィーンを守るために周辺都市に攻撃を分散させること。第二段階は空となったウィーンに攻撃を集中させることで避難民を一人でも多く国外へ脱出させること。
山で平野で海で空で都市でオストマルク軍人は最期まで抵抗をやめなかった。それを覚えておいてほしい。

前傾書 127頁より


06.オストマルク撤退

“上”の狙い通りネウロイはウィーンに殺到した。ネウロイは数週間に渡ってウィーンに釘付けとなり、多くの流血を引き換えに人類は時間を創出することができた。つまるところ、我々の敢闘は数万の市民を救ったらしい。

 

「…ダメだ。全然わからない。」

 

1939年。秋。私は地中海にいた。正確に表現するならば私は海軍所属の病院船“マーリア”の病室にいた。

ちなみに我らがオストマルク海軍の活動範囲は基本的にアドリア海に限定されることが多く、欧州各国と世界を結ぶ地中海を支配しているのは七つの海を征服したブリタニア海軍(ロイヤルネイビー)様である。彼等は地中海の入り口であるスエズ運河と出口であるジブラルタルを押さえており、名実ともに覇権国家として君臨しているのである。

 

「わからなくても大丈夫よ。貴女は良くやったわ。」

 

一度だけ見舞いに来てくれた教官はそういいながら頭を撫でてくれたが、あの地獄から抜け出したという実感もわかない。正直なところ、目が覚めたら勲章の授与と少尉への昇進が行われていた。それだけのことである。

 

 

私は爆撃の際に地面に近づきすぎて自分の爆弾の加害半径から逃れきれず、体勢を崩したところに被弾。そして、ウィーナー・ノイシュタットから酷使されてきたストライカーユニットが遂に故障。私はそのまま地面に叩きつけられたという。

 

…私は左足のストライカーユニットから火が出たところまでしか覚えていないので、聞いた話でしかない。それ故に死にかけた実感も湧かない。しかし、ギブスでガチガチに固定された左足を見たら納得できた。

そして、医療ウィッチから伝えられたのは私にとって驚くことばかりだった。ウィッチでなければ死んでいたこと。近くを飛行していたウィッチによって医務室に担ぎ込まれたことで脚と命を失わずにすんだこと。地面に激突した際に折れた肋骨が内臓を傷つけていたこと。…どうやら私は相当に危ない橋を渡っていたらしい。

 

 

 

 

 

どうでも良い回想をしながらも徒然なるままに今回の失敗やら何やらを手帳に書き込んでいく。横になった状態で書いているために文字は歪み文法も無茶苦茶だ。けど、それで良い。自分がわかれば良いのだ。こうして誰に伝える必要もないのにメモを残すのは、昔から書かないと覚えないからだ。

 

それに何かしていないと、おかしくなりそうだった。内臓の損傷など緊急性の高いものは治癒魔法で処置してくれたようだが、いまだ死なない程度には重傷であるので安静にしていろと命令されている。しかし、1日中ベッドの上にいるが非常に落ち着かない。

 

…客室を改装したのであろう病室。ここでは呻き声が途絶えることがない。ただ、私がウィッチということで病室にいれてもらえたのだろう。限界までベッドが敷き詰められた病室は、まるで野戦病院のような様相を呈している。カーテンもないから隣の人の胸が上下しているのが見える。全身を包帯に巻かれた隣人。顔も知らぬ隣人が苦痛に呻きながらも必死に生きようとしていた。

 

こんな中で誰が落ち着けるだろう。人の呻き声を子守唄に眠れるような外道か他者を気にかける余裕もない重傷者の二択だ。

 

それに何だか申し訳なくなってくる。溢れんばかりの傷病者で満たされた船舶で身を粉にして働く医療ウィッチやナース。必死に生きようとしている人。

 

私は。私は、ウィーンで何人救えた?何人殺した?

 

…こんな汚れた私が生きてて良いのだろうか。

 

 

 

 

動いていないと、余計なことを考えてしまう。

 

…夜はまだ明けない。

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