ストライクウィッチーズ-真夜中の魔女-   作:バイオレンスチビ

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07.真夜中の回想

昔から私は特別じゃなかった。どちらかといえば凡人であり人並みにことをこなせない愚者である。いつだって要領が悪くて、周りの子供達と同じことをするのに二倍も三倍も時間を必要とした。それは大きくなってからも変わらなかった。

 

そんな私に【英雄になれ】とソレは言った。

 

この狂った世界から現世へと復帰するには【偉業】を成した【英雄】にならなくちゃいけない。

 

私は絶望した。私は主役になれない。私は特別じゃない。それに私は“普通”になりたかったのだ。人並みにできるようになりたかっただけなのだ。他者に埋もれることになろうとも、せめて恥じることがない程度にはできるようになりたかった。

 

私は自己主張が苦手だった。誰かに判断を任せることはとても楽であったし、自分で判断するよりも間違いがなかったから。

 

…そんな私だからバチが当たったのだろうか。

 

ある日の夜。床についた私は金縛りにあった。そして、気づけば真っ白な空間にいた。そこでは神を名乗る存在の声が聞こえ、大変立腹しているようだった。話を聞くと、どうやらソレにとって私のような主体性のない愚かしい存在を許せないらしい。

 

ある意味、テンプレのような神様転生だ。ネット小説、アニメ、ライトノベル…。様々な物語のお約束のような展開。…しかし、その存在の重圧はすさまじかった。私は恐怖やら緊張やらで気が狂いそうになった。

 

 

 

そして、この世界に来て、改めてわかったことがある。私は普通ではなかった。両親に愛されて、友人に恵まれて、毎日を幸せに生きていた。愚かで劣った人間ではあったけれど、不相応なくらいに幸せだった。

 

…どうしても戻りたかった。何をしても前の記憶が泣きたくなるくらいに鮮明に思い出された。

 

 

 

 

 

この世界の父母は私を愛していただろうか。この世界で私は父母を愛せただろうか。わからない。愚かな私にはわからない。

 

「サトゥルヌスまでには戻るから」

 

泣きながら止める幼い私を置き去りにして、ヒスパニア戦役へと向かった父母は戻らなかった。父はネウロイのビームによって文字通り爪すら残さず蒸発し、母は行方不明になったという。それを聞いた私は気が狂いそうになった。泣いて嫌がる私を軍の施設に預けて、行かなくても良い戦争に参加して、最後は行方不明だなんて…。

 

もし、私の愛が足りていたら。父母は私を置き去りになんてしなかっただろう。見ず知らずの人々の涙と私を天秤に掛けられることすらなかっただろう。

もし、父母が私を愛していたなら。私を置き去りにする決断を是とするだろうか。

 

じゃあ、今こうして溢れる涙は嘘なのだろうか。

 

私にはわからない。いつだって自分のことで精一杯で誰かを思うことなんてできなかった。いつも頭の中にあるのは理屈ばかりで、機械のようなルールの中でしか動けなかった。

 

溢れる涙に安堵する自分に嫌悪を抱いた。

 

私は愛していたのだと、これだけ泣くことができるなら、私は間違いなく愛していたのだ。どこかで見つめる自分が冷静に判決を下していた。

 

…あぁ、やはりヒトデナシだ。

 

こんな醜い生き物があって良いはずがない。この嫌悪と憎悪。どうしたら良いのだろうか。

 

空っぽの棺が埋められていく。式典用の軍服を着用した参列者が私に憐れむような目を向けた。子供用の喪服を着せられた私は可能な限り立派な人間に見えるように振る舞った。それは父母への別れの儀式であったし、私の無様は父母の名誉を汚す恐れがあったから。

 

…やはり、私は気持ち悪い子供だったのだろう。何せ中身は学生だ。肉体に引っ張られて幼くもなっているが、私は自分でしかない。誰かを演じ続けることができるほど、私は器用ではない。

 

父母との不仲もあったというが、結論として葬式に顔を出した祖父母は私を引き取らなかった。もう随分と会っていないから顔も覚えていない。しかし、とにかく執拗にウィッチになることを求めていたことは覚えている。

 

…でも、それはきっかけにはなり得なかった。私は私の意思で志願を決めたのだから。

 

ただ、今となっては志願した本当の理由は忘れてしまった。それは遠回しな自殺を目的としたものであったかもしれないし、不況に喘ぐ世の中を見据えた合理的な理由だったかもしれない。

 

…私はメアリー・スーにはなれない。私には才能も魅力も微塵も存在しちゃいない。

 

ただ、これ以上の喪失に耐えられる気がしなかった。もはや正気ではいられないと思った。

一刻も早く、あの退屈で素晴らしい現世に戻るために私は【英雄】にならねばならない。

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