運命に噛みついたウマ娘。 作:うまだっちシステム。
前世は競走馬だ。土を戦場に大舞台で駆け抜けた。
ビッグ・レッド等と持て囃された同業者を競り潰し、薔薇の花輪を首に掛けた。
気に入らないものは蹴散らし、噛みつき、そうやって生きて来た。
そんな俺様が、なんの因果か別世界へと旅立って、三女神と呼ばれる存在と邂逅した。
競走馬の血筋には、三大始祖と呼ばれる源流があるらしい。しかし近年、三女神が擁する源流の力が弱まり、神性を落としつつあるようだ。
その為、三女神は新たな神格を求めた。そこで選ばれたのが俺様という訳だ。
そんなこと知ったこっちゃねえ。
俺様は俺様のやりたいようにやる。この世界ではウマ娘っていうのか?
……まあ、関係ねえな。ウマだろうが馬だろうが姿形が変わっただけで俺様は何も変わっちゃいない。
できる事が増えたのは良い事だが、それくらいなものだ。
妙に偉そうな三女神の頼みを蹴飛ばして、神域からの離脱。悠々自適に街中を歩き回った。
こんな事は前世では出来なかった事だ。肩で風を切りながら歩道の真ん中を歩いてやると向かい側から人畜生が歩いて来やがった。道を譲る気もなければ、紐を引っ張る人間も居ない。真っ黒なコートに手を突っ込んで、大股開いて歩いてやれば、真正面から来るに人畜生と衝突することなくすれ違った。……いや、これはすり抜けた?
なんとなしに側にあった電柱に手を触れる。触れる事はできる。先程、すり抜けた男を追い掛けて、その間の抜けてそうな頭を軽く殴ってやった。
「あいたっ!」
殴る事はできた。しかし、
「ああ!? って、あれ? なんなんだよ、もう……!」
男は真正面に立つ俺様の事なんて、無視するように振る舞ってみせた。
そう、まるで見ていないかのようにだ。手を開いて、閉じる。感覚はある。ちゃんと自分が存在している実感はある。
その後も確認するように、色んな事を試してみた。
しかし、誰も俺様の存在に気付いてくれなかった。
ぶるり、と身を震わせる。
同じ場所に居るはずなのに、俺様は存在していなかった。
街の喧騒が、やけに遠く感じられた。
この身体は、不思議な事に空腹を感じなかった。
トボトボと適当な場所を歩き続ける事、数時間。公園にあるベンチに腰を下ろす。
ふと、遠くから野球ボールが飛んで来た。
しかし俺様には触れず、すり抜ける。
「何やってんだよ、もー!」
遠くから男の子が駆け寄ってくる。
足元に転がったボール。なんだか無性にむしゃくしゃしたので奥にいる少年の方に目掛けて、思いっきり投げてやった。分かったのは、自分から触れようと思った時は触れられるという事。しかし、自分から干渉する気がない時は通り抜ける。ボールは、駆け寄って来た頭上を超えて、更に向かい側に居る少年すらも悠々に超えて、公園の向かい側まで飛んで行った。
ポカンとした顔を浮かべる少年二人を前に、ハッハッハッ! と高笑いをしてみせる。
しかし、直ぐ虚しくなって溜息を零す。クソつまんねぇ、と。誰かに噛み付いてやりたかった。
「何をしているんですか」
ポカッと後頭部を叩かれる。不思議に思うよりも「あぁん?」と先に苛立ちから後ろを振り返った。
「……虐めはいけないことです」
真っ黒な髪をしたウマ娘の金色の瞳が、しっかりと俺様を捉えていた。その見開いた眼には、戸惑いの色が浮かんでいる。
「……俺様が、見えるのか?」
「? 見えます。しっかりと見ていました。貴女が子供達を虐めているところを」
「そうか! 俺様が見えるのか! そうか、そうか!」
アッハッハッハッ! と彼女の背中をバシバシ叩いてやれば「やめてください」と心底嫌そうな顔をされる。
「そんな事よりも……えっと……貴女と私は…………」
「よし、名前を教えろ! 偉大なる俺様の名前は知りたくないか!?」
「それは……ちょっと気になりますね。私はマンハッタンカフェ、……貴女は?」
俺様は自らの胸に手を添えて、ギザギザ歯のドヤ顔で答えてやる。
「俺様の名前は、サンデーサイレンス! 静寂なる日曜日という意味で付けられたらしいな!」
「……静寂? ……日曜日?」
「何処ぞの夫婦が付けた名前だと聞いた事はあるな。本来はミサの事を云うらしいぞ? 俺様は神なんて信じないがな! ちなみに、この名前が付けられた理由のひとつは名前の響きが素晴らしかった為、もうひとつは名曲のタイトルらしいな! 何度か聴かされた覚えがある!」
名曲だぜ、とウインクしながらマンハッタンカフェと名乗ったウマ娘の胸を人差し指で突いてやった。
ふんふふん♪ と、鼻歌を口遊むと先程の少年二人が俺様達の事を見ている事に気付いた。
その顔は青褪めており、震えた声で問い掛ける。
「……ウ、ウマ娘のお姉ちゃん……何と話してるの?」
ゾッとした顔で俺様を見るマンハッタンカフェに、俺様は肩を竦めて苦笑する他になかった。
その夜、俺様はマンハッタンカフェの家に泊まる事になった。
というのも俺様には他に行く宛もなかったし、マンハッタンカフェも俺様が周りから見えない事を知った事で抵抗がなくなっていた。彼女が云うには、俺様は幽霊で既に死んでいるのではないか? との事だ。それは正しい、俺様は前の世界で死んだ覚えがある。しかし、その時は人の姿をしていなかった。四足歩行の競走馬だった、牧場で一緒だった芦毛の親友に会いてえな。俺様が死んでこっちに来たんだし、どっかに居ねえかな?
ちなみに鏡に俺様の姿は映らなかった。でも、写ろうと思ったら写ることが出来た。
その姿は、マンハッタンカフェと瓜二つであった。
「なっ! おい、カフェ! お前、俺様の偽物だったのか!?」
「……知りません。貴女の方が私の偽物ではありませんか?」
「いや、まあ、俺様だしな。分からんでもない。それにめっちゃ種付けした記憶があるからな。子供の顔も覚えきれんし、そもそも見てすらいない。もしかしたら俺様の子孫なのかも知れんな!」
「えぇ〜……いや、貴女は種付けされる側では? というか、貴女の子孫って、なんというか、凄く嫌です……」
もう寝ます、と不服そうな顔をして部屋の電気を落とす。
俺様も直ぐに眠くなって、そのまま彼女のベッドの上で寝転がった。
これが俺様とマンハッタンカフェの出会いだ。
なんとなしに三女神と出会った時の事を思い出す。
必要なのは、貴方の魂の血脈を活躍させる事。その為に必要な事は、女神の一人として加護を与える事だ。この世界では、まだ貴方の産駒に連なる者は活躍していないが、最優秀ウマ娘のタイトルを取るウマ娘の一人でも出れば、姿を見せる事も出来るようになるかも知れない。貴方が、この世界を堪能したいというのであれば、先ずは責務を果たす事だ。
そんな事を言われた覚えがある。
だが、気に食わなかった。
その上から目線の物言いと自分よりも格上であるという自惚れが癪だった。三女神だとか、ウマ娘だとか。使命だとか、なんだとか、俺様には関係ねえ。俺様は何も変わらねえ。
俺様が黒と言えば黒だし、白と言えば白になる。
俺様にとって気に食わねえ事ならば、その相手が例え神であったとしても噛みついでやる。
偉大な俺様は、サンデーサイレンス。静寂なる日曜日。
運命にだって噛みついてやった馬の名だ。
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温泉旅行に行って、うまだっちして、うまぴょいして、うまぴょい伝説します。
桐生院葵が。ハッピーミークもそう言ってました。
オナシャス。