宵の明星   作:安代圭

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かみかくし

 これは入隊初年度のことだったと思う。

 子供が立て続けに失踪したという報告を受け、私は某村へと向かった。隠からの話では、その村と隣村で合わせて三人の子供がいなくなっているとのことだった。丁度、私が赴いた二日前に、三人目の男の子が行方不明になったので、鬼殺隊を呼ぶことになったらしい。

 到着してすぐ、まずは村の中を軽く歩き回ってみたが、どこにも鬼の痕跡は見られなかった。だから、鬼は村の間にある山に潜んでいるだろうとあたりをつけたんだ。

 あの時の私はまだ跡追いができなかったから、村人への聞き込みで手がかりを探すことにした。たしか、三、四人に話を聞いた後だったと思う。後ろから、「お兄ちゃん」と、少年に声をかけられたんだ。振り返ると、見たところ、十より少し幼いぐらいの少年が立っていた。

「あかねちゃんがいなくなっちゃったの」

 屈んで話を聞こうとしたら、少年は私の手首を掴んで、

「こっち。ついてきて」と言った。

 ようやく得られた手掛かりだったし、今しがた失踪したならば緊急性が高いと考えたので、その時は連れられるままに向かった。案の定、少年は山へと向かった。そして、山の中へ入り、視界が木々に覆われて民家が完全に見えなくなったあたりで、私の手首を離してずんずんと先を行った。

 私はそのとき、少年を止めようとしたんだ。方角だけ聞いて、私一人で向かおうとした。鬼のいる場所に少年を連れていくのは危ないからな。そうでなくとも、山は危険が多い。

 だが、その少年は、いくら私が呼びかけても足を止めなかった。

 それどころか、奇妙なことに、私はその少年に追いつけなかった。呼吸術を使う私がただの子供を捕まえられないのは、尋常なことじゃない。その少年は、私が追いつけず、しかし見失わないような絶妙な速さで、まるで猿のような身軽さで山の斜面を駆けあがっていた。

 いよいよこれはおかしいぞと思い始めたとき、山の中から他の子どもの声が聞こえたんだ。

 とっさに、いなくなったという「あかねちゃん」の声だと思った。

 でも、その声は一人じゃなくて、複数の声だった。その上、話している内容が妙だった。

「またごんたが間違えた」

「今度は鬼の子を連れてきた」

「ぼんくらごんた」

「あしたは狸の子を連れてくるぞ」

 少年もその声を聞いたのか、いきなり足を止めた。そして、ぐるりとこちらを向いたんだ。

 頭だけ。

 体は前を向いたまま、頭だけがぐるりと半回転して私の方を向いた。そして、

「おまえ、ひとのこじゃないのか」

「じゃあ、いらない」

 言い終えた瞬間、少年の姿は霞のようにかき消えた。すぐに少年を探して山を駆けまわったが、痕跡一つ見つからなかった。仕方なく山を降りてもう一度村人に話を聞けば、「そんな年頃の男の子はいないよ」と。「あかね」という名前の子供もいないらしい。

 一応、その村で三日三晩をかけて鬼を探したが、やはり鬼も少年も、影も形も見つからなかった。

 仕方なく、そこで捜索はひとまず終えて、あったことをそのまま報告書に書いて提出した。あの後、村で何があったのか、他に失踪事件が起こったのかは知らない。

 これで、この話は終わりだ。

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