宵の明星   作:安代圭

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ざしきわらし

 これは任務である街に行った時の話だ。

 その街で立て続けに、食い荒らされた遺体が発見された。まず鬼の仕業と見て間違いないだろうということで、私が派遣されることになった。

 その日は予定よりも早めに目的地についたので、余った時間で聞き込みを行った。隠からの情報以上のものは得られなかったが、代わりに妙な噂話を聞くことができた。曰く、ある旅館に泊まると「いるはずのない女児の声」がするのだと。

 せっかくなので、その日はくだんの旅館に泊まることにした。どうせ夜は街中を捜索することになるが、怪しい物件があるなら調べない理由はないからな。

 その旅館には小太りの主人と、背の高い女将さん、後は若い仲居さんや料理人やらがいたが、全員人間だった。一応、昼間の間はそれとなく旅館の全域を歩き回ってみはしたが、鬼の従業員どころか、鬼の残した痕跡一つ見つからなかった。

 その時は、これは外れで、よくある怪談話に引っかかっただけだと思った。そもそも、噂話も、「声がする」という話だけで、最近の殺人事件とは明確に結びついていなかった。その上、どうにも、旅館の怪談話は殺人事件よりも前からあったらしかった。それでも念のため、夜まではその旅館にいることにして、任務に備えて仮眠も取った。

 日が沈んで一刻経ったか経たないかあたりだったかな。旅館に鬼が入ってくる気配があった。

 あからさまなほどの気配だった。物音から姿まで、隠すつもりが微塵もない類の、ね。君達も知っているだろうけど、自分を狩るものがいるなんて想像すらしていないような──鬼になったばかりの鬼に特有の振る舞い方だ。

 だから、鬼の気配を感じたときには、私の頭から噂の話はとうに消え失せていた。

 けれども、襖に手をかけた瞬間、部屋の中から確かに声が聞こえたんだ。

「いかないで」って。

 子供の声だった。

 血気術にしては鬼の気配がなかったし、空耳と考えるにはあまりにはっきり聞こえた。しばし、驚きはしたけど、任務を中断するわけにはいかない。そのまま鬼の気配の元へ向かった。

 それでも、まあ、あの声の事が気にはなったから、いつも以上に慎重に討伐をすることにした。

 私が鬼を見つけたのは、丁度、鬼が旅館の主人を殺そうとしていた直前だった。

 幸いなことに、私の刀はぎりぎりで間に合った。主人は腕を怪我してしまったが、命に別状のあるような傷ではなかった。

 ここまでならまあ、単に変な話ってだけだったんだがな。私の刀が鬼の首を斬った時、はっきりと耳元で聞いたんだ。恨みがましい声で、

「よけいなことを」

って。

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