宵の明星   作:安代圭

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ひがん

 あれは春の彼岸のことだった。情報収集を一通り終えて、休憩を兼ねて食事処に入ったんだ。

 その時は一人だったのに、何故か受付で「二名様ですね。奥の席へどうぞ」と言われた。その場で「一人です」と訂正すると、その人は目をぱちくりとさせて、「え? ……ああ、そうですね。失礼しました」と言った。後ろに他の客がいたわけでもなかったから、その時は、妙な見間違いをするものだなあと思ったよ。

 席に座って注文を考えていると、他の店員さんがやってきて、湯呑みを置いてくれたんだ。

 それがなぜか、二つ。

 二杯目の湯呑みにお茶を注ぎ始めたものだから、また「一人ですよ」と言った。やっぱりその店員さんは首を傾げながら、「失礼しました」って湯呑みを下げた。その後も、箸が二膳置かれたりだとか、向かいの席に料理が置かれたりだとかが続いて、これは血鬼術か何かかと疑ったよ。鬼殺隊の人間なら、妙なことが起きた時はまず血鬼術を疑うものだろう。でも、血鬼術にしては心当たりがなくてな。最後に討伐したのは数日前だったし、その日の情報収集でも鬼らしき話は出てこなかった。その食事処にも、もちろん鬼の気配はなかった。

 念の為、食事が終わってから、それとなく店員の一人に話を聞いてみた。湯呑みを二つ用意しようとした店員だったかな。やはり彼女も鬼につながるような情報を持ってはいなかったが、この現象に心当たりがある様子だった。

「ほら、今日ってお彼岸じゃないですか。たまにいるんですよ、そういうお客さん。だからあんまり、気にしなくて大丈夫ですよ」

 だからつい、「何が見えたんですか」と聞いたんだ。そうすると、彼女はこう答えた。

「女の方でした。凛とした感じの。優しそうにお客さんのことを見ていましたよ。血縁ではなさそうでしたけど、深いご縁があった方なんでしょうね」

 聞いてすぐ、養母のことだ、と思った。ちょうど、一ヶ月前に亡くなったばかりだったから。

 その時は、ああ、私のところにも来てくれたんだなって、嬉しかったな。もしかしたらあの人も、私のことを疎んでいたかもしれないと思っていたから。……あんなに大事にされてたのに、罰当たりなことだけどね。私は多くの隊士に嫌われていた厄介者だったから。

 それでな、この話はまだ続きがあるんだ。

 その次の年の春分、また春の彼岸に、偶然同じ店を訪れたんだ。また、「二名様ですね」と言われてから、同じ店に入ったことに気がついた。まだ同じ店員さんが勤めていて、「一人です」って答えた時に、思い出してくれたようで、

「ああ、お客さん、去年の彼岸にも来てませんでした?」

 って言われた。続けて、

「また、あの女の人がいらっしゃってましたよ。お客さんと同じくらい……いや、ちょっと年上ですかね。同じ服を着てらっしゃって、菜の花みたいな目が印象的な……」

 聞いた瞬間に、小夜だ、とわかった。小夜と言うのは、鬼殺隊の隊士で、私の一番の友人だった人だ。髪の色も背丈も確認したが、やはり全てが彼女の情報と合致していた。

「お客さんと同じ、黒い詰襟の女性ですよ」

「珍しい格好だったので覚えています。去年も、その方がお客さんと一緒にいらっしゃっていました」

 とのことだった。

 母だったにしても、小夜だったにしても、親しくしてくれていた人が彼岸に私の元を訪れてくれるのは嬉しい。

 一つだけ気になるのは、二度目がともかく、一度目が小夜が殉職する前の話だったってことかな。

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