宵の明星   作:安代圭

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ある隊士が聞いた怪異の目撃情報


けんき

 僕は、所謂()()()人、らしいんですよね。自殺の名所とか、事故が起きた場所とかあるでしょう。そう言う曰く付きの場所だと、ぼんやりと黒い影を見たりだとか、そういうことがあるんですよね。半年前に泊まった旅館でも()()しまって、翌朝女将さんにそれとなく聞いてみたら、やっぱり何かが居るらしい部屋だった、ってことがあったり。

 見えるだけで、祓ったりとかはできないんですけどね。それができたら良かったんですけど。見えるだけじゃ役に立ちませんし、嫌なものばかり見えてしまって損ですよ。ああいうのは見られていることに気がつくと、寄ってくることがありますから。

 ……ああ、はい。本題に戻ります。

 去年ね、ちょっと歌舞伎を見に行ったんですよ。上京してからやっと仕事が落ち着いてきて、お金も溜まってきたから、ちょっとぐらい贅沢をしようと思って。その帰りに寄った蕎麦屋で、見たんです。

 今まで見た中で、あれは一番凄かったですね。

 こう、通路を挟んで隣の席だったんですよ。その人のね、全身がもうぼやけて見えるほどに真っ黒くなってて。何体もの霊が全身に泥のようにまとわりついてて、なんで平然としてるのか、僕からすれば不思議なくらいでした。顔なんて黒く塗りつぶされたみたいになってて、前見えてるのかな、ってなるほど。

 しかも、声まで聞こえるんですよ。ぶつぶつぶつぶつ、何人もの声が。ちょっと怖いもの見たさ、いや「聞きたさ」かな、で、聞き耳立ててみると、「お前のせいで死んだ」「なんでお前だけ生きている」「よくも殺したな」って。あそこまではっきり霊の声が聞こえたのは初めてですよ。多分、あれが殺したのかな。すごく怨まれてましたね。その時は軍人か殺人鬼か、どっちか悩みました。人を殺してそうなのって、それぐらいしかないでしょう。御様御用(おためしごよう)なんてだいぶ前になくなりましたし。

 あまりにも凄かったので、まじまじと見てしまってたみたいで。……それが悪かったんですね。それに気づかれてしまったみたいで、そいつがこっちを振り向いたんです。それで僕を見て、「何かご用ですか」って。その時、やっとその人の目が見えたんですけど、……いやあ、たまげましたね。目がね、こう、猫みたいに縦に裂けてたんですよ。こう、ざっくりとした切れ込みみたいな瞳孔が、縦に。

 あれは絶対に人間じゃない、ってわかりました。色だって、血みたいな赤でした。その上、髪は老人のように白くて。

 僕はもう、びくびくしながら、「いいえ、すみませんでした」って謝ってね。食べかけだったのに、お代だけ席に置いて逃げるように出ちゃいました。蕎麦屋を出てから、全力で走って。幸い、それが追ってくることはなかったんですけど。

 後にも先にも、あれほど怖い思いをしたことはありませんでした。あの時に一生分の運を使い切っちゃったかもしれません。

 多分あれは、人食いの妖か何かだったんだと思います。じゃなきゃ、あんな大量の死霊に怨まれるはずがないでしょうから。

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