綾小路......誰さんですか?   作:せーちゃん

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“よう実”お馴染みのバス回です。


ようこそ、夢のような学校生活へ

 四月───入学式。

 

 物語の舞台である“高度育成高等学校”へと向かう為、俺と有栖はバス停での待ち時間を他愛の無い話で埋めていた。

 

 否。他愛の無いなどと言ってはみたが、しかし俺のテンションはようやく始まる原作を目前にして極限まで高まっており、どうしても声のトーンは上ってしまう。心做しか隣に立つ彼女もロリっ娘らしく浮かれているようにも見え───うん。見えないね。親友がいつも通りな様で何よりですわ。

 

 なんか自分だけ変に盛り上がっていた事に気付き、途端に恥ずかしくなって顔を逸らす俺。しかし隣の白混じりな銀髪さんは下からSっ気の強い笑みを持って覗き込んで来る。

 

「ふふ、どうしたんですか? そんなに浮かれているなら、はしゃいでも良いんですよ?」

 

「....そーですか。ならお言葉に甘えてテンション上げて行きましょか」

 

 

 くっ....不甲斐ない! ....俺が二年も付いていながら、ロリ有栖ちゃんは原作通りのドSロリに育ってしまいました....ッ! ....うぅ、せっかく娘さんを任せてくれたのに....パパさんに申し訳が立ちませぬ....ッ!

 

 ─────『ドスッ』『ドスッ』『ドスッ』。

 無言で上下運動を続ける隣人の杖。その下には当然の如く俺の右足が。

 

 

「ジョークだっつの、地味に痛いから叩くなって」

 

 その杖、結構鋭いんだよ。

 

「何か失礼な事を考えていそうだったのでつい。申し訳ありません蓮夜くん」

 

 ─────『ドスッ』『ドスッ』

 

「うん、謝るなら叩くのやめてくんね? そろそろ足の甲穴開いちゃうから。いや、俺も悪かったって。仰る通り浮かれてたんだよ」

 

 

 なんて。この二年で随分と慣れた何時もの遣り取りをしている内に、俺達の前に一台のバスが到着する。

 

 ────しかし。

 

「これは....」

 

「あーマジか。結構早めのバスなんだが....」

 

 乗車入口に視線を移すと同時に、上っていたテンションが急速に下がって行く。

 どうやらバスの中はかなりの人数で溢れているらしく、満員とは言わずとも座れる席は一つも無い。

 

「あー。有栖、時間もあるし次待つぞ」

 

「いえ、乗りましょう」

 

 そう言って此方に手を伸ばしてくる白銀色の少女。

 だが、そういうわけにもいかない。

 知っての通り、彼女は身体が弱いのだ。

 この人数の中、長時間立ちっぱなしというのは、かなりキツかろう。

 

「この程度であれば問題ありません。早く乗らないと行ってしまいます」

 

 はぁ....もう少し乗車時間を早めるべきだったか。

 此方に伸ばしていた手を引っ込め、一人で乗り込もうとする有栖を静止し、彼女の身体に負荷がかからないようにエスコートする。

 

「ありがとうございます、蓮夜くん」

 

「あいあい、悪かったな。見通しが甘かった」

 

 車内を軽く見渡す。散見するは見覚え深い派手な制服。どうやらこのバスにはそれなりの数の高育生が乗っているらしい。

 

 ............仕方ない。

 入学前から変に目立つのは避けたかったが、誰かから席を譲って貰うか。有栖の持っている杖を見れば、大凡の事情は汲んでくれるだろう。

 

 そう考えた俺は、手近なスーツ服の女性に声をかけようとする。

 

 ────した。

 

「ね、ちょっといいかな? もしかして困ってる?」

 

 

 俺が声を出すタイミングと被せるように、見ていた向きとは反対の席から声がかかった。

 他者を慮る、小さめの声だ。その声色からでも慈愛に満ちた人間だと確信出来る。

 なにより、俺はそのカリスマ溢れる声音に心当たりが有った。

 初めて聞くはずの声。しかし俺は、その声を十六年も前から知っている。

 

「良かったら席くらい譲るよ? その娘、杖持ってるみたいだし」

 

 

 ─────一之瀬帆波。

 

 喉から漏れかけた彼女の名前を、俺は寸での所で抑えるのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「あー、マジ助かったわ。さんきゅーな」

 

「お礼なんて良いよ! 同じ学校の制服だったからね。実はこれを機に入学初日から新しい友達を作ろうと画策していたのだ!」

 

「へぇ、そうなのか。ん? ....って事は声をかけられなかった他の乗客はお前のお眼鏡には敵わなかったって事か?」

 

「にゃ!? ち、違うよ!」

 

「....じょーだんだよ。マジに助かった。お前は良い奴だな、巨乳ちゃん」

 

「巨乳ちゃん!?」

 

 

 さて、有栖に席を譲って貰ったお礼に、俺は一之瀬に対して忠告混じりの冗談を言ってみる。

 

 ────忠告。

 

 障害者に席を譲るという彼女の行動は、紛れも無く善意百パーセントのものだった。

 そして、彼女はそれを一切誇示しなかった。

 美しい。まるで聖人だ。自身の手柄を自慢するどころか、無償の善意に『入学初期から話せる相手を作りたかった』という自分本位な別の理由をこじつける事で、席を譲られた相手が気を使わないようにしようとまでしている。

 

 素直に凄いと思う。誰にでも出来る事じゃない。彼女はきっと本当に聖人なのだろう。

 “一之瀬帆波”は善意と徳で出来ているのだ。しかし、それは時に欠点にもなるという事を忘れてはいけない。

 自らの行いを自慢出来ないというのは、間違いなく欠点だ。例えば、もし席を譲ったのが一之瀬ではなくDクラスの“山内春樹”だったならば、奴は席を譲ったという行為を大声で車内に喧伝し、その上で有栖に電話番号とメールアドレスを要求するくらいはしてみせただろう。

 いや、改めてシュミレーションしてみてもクズすぎるだろ山内ェ....。

 

 ────じゃ、なくて。

 俺が言いたいのは手に入れたチャンスを棒に振るい、相手の事のみを考えていると後悔するという事であって、それを彼女に知って貰いたかったわけだ。

 

 まぁ、問題の一之瀬は俺の言葉に不快さを覚えるどころか、他の乗客を低く見なすような自身の発言の方に罪悪感を抱いているようだが。

 

 ....はぁ。

 

 

 

 

「あー、マジで冗談だから気にすんな。それに巨乳ちゃんが俺等の事を気遣ってくれたのも分かってるから。あんがとな」

 

「....にゃはは、そんなにお礼を言われると照れるんだけどな....って、お礼を言うならまずその“巨乳ちゃん”って言うのやめてくれる!?」

 

「....おぉ、巨乳ちゃんにも相手に対価を求めるという事が出来たのか。....意外だ」

 

「これ対価じゃなくて、当然のお願いなんだけど!?」

 

 こんな時でも周りの乗客の迷惑にならないように小声で叫ぶ彼女は本当に出来た人間だ。

 

「あいあいゴメンナサイ。それじゃあ君の名前を教えていただけますかな? おじょーさん」

 

「....一之瀬。一之瀬帆波だよ。....それで? 私もそっちの杖の娘とイケメン君の名前を教えて貰いたいかな」

 

 イケメンくん、だと....?

 

「ん、確かに俺は世界一カッコいいけどその呼び方は恥ずかしいから今すぐやめろください」

 

「え....? 自分で言っちゃう? それに世界一カッコいいを自称するのに、言われるのは駄目なの?」

 

「だめ。他人に評価されんのは嫌なんだよ。それに俺がカッコいいのは事実だろうが。見ろよこの真っ白な肌と白雪のような髪色を、まるで絵本に出てくる王子様だ。事実、俺は俺より顔の造形が整った人類をテレビでも見たことが無「恥ずかしいので黙って下さい、蓮夜くん」....だから叩くなよ有栖」

 

 痛い。そろそろ卸したての靴に穴が空き始める頃だぞ。

 

 

「あはは、仲良いんだね二人とも」

 

「ええまぁ、悪くはありません。....さて、お礼が遅れて申し訳ありません。....一之瀬さん、でよろしいですか?」

 

「うん、一之瀬で有ってるよ。何なら呼び捨てで帆波でも全然良いよ」

 

「ありがとうございます、“一之瀬さん”。私は“坂柳有栖”といいます。それで、こっちの残念な感じの白いのが“菊白蓮夜”くんです」

 

「どうも、ご紹介に預かりました“残念な感じの白いの”です、よろしく」

 

「あ、あはは....うん、なんか変わったコンビだね。よろしくね。坂柳さん、菊白くん」

 

 そんな間の抜けた自己紹介を通しながらも、俺達三人は学校へと着くまでの間、談笑に勤しむ。

 

 

 さて、一之瀬帆波に対する恩は一応これで返した形になる。彼女は善人であり聖人だ。

 ....しかし、これから向かう学校のルールに則って考えるのであれば、彼女は俺にとって潜在的な敵でもあるのだ。

 

「....。」

 

 ─────初めて顔を合わせた彼女の目には、俺はしっかりと道化として映っていただろうか。

 

 

 

 




有栖ちゃんを気遣って早めに出たオリ主には原作主人公とは違うバスに乗って頂きました。
脳内シュミレーションしたら櫛田と一之瀬の行動の差が顕著だった....。

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