綾小路......誰さんですか?   作:せーちゃん

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【Prologue】『こーる、“ゆあ、ねーむ”』

 どーも、全てに絶望した転生系オリ主です....。

 どこか懐かしい感じのする決して名乗りでは無い挨拶のような何かをしたところで、俺は机に顔を突っ伏した。

 

「なんか初っ端から出鼻を挫かれた気分だ....」

 

 俺が早く来すぎたのか、それともDクラスの奴らが時間にルーズな奴ばかりなのか。俺は一人、誰も居ない無人の教室で溜め息を零す。

 

「はぁ、ちょっと作戦練り直すか」

 

 俺は待ち時間を有効に消費する為、一度崩れたAクラスでの卒業プランを練り直す事にした。

 

 

 ────いや、Aクラスだとか魔法使いだとか、ぶっちゃけ今だけはどうでも良い....俺にはもっと考えなくてはいけないことがある....。

 

 

 机に顔を伏せたまま────深く、深く、意識を潜らせ、この先の事を思案する。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ────さて。

 

 初めに来た白髪の生徒が机に顔を突っ伏している間に、クラス内には続々と新たな生徒達が入って来ていた。

 遠くない未来にて不良品と蔑まれる彼らであっても流石に入学初日での遅刻欠席は無かったらしく、すべての生徒が教室内に揃った頃には始業を告げるチャイムが鳴っていた。それとほぼ時を同じくして、スーツを着た一人の女性が教室へと入って来る。

 見た目からの印象はしっかりとした、規律を大事にしそうな女教師。髪型はポニーテールで歳は三十無いくらいの、教師としては若い女性だった。

 

「えー新入生諸君。私はDクラスを担当する事になった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの三年間、私が担任としてお前達全員と学ぶ事になると思う。今から一時間後に入学式が体育館で行われるが、その前にこの学校の特殊なルールについて書かれた資料を配らせてもらう」

 

 

 そう言って列毎に回される資料の束。

 若干一名は未だ机に顔を突っ伏したままだった為、彼の分の資料はそのまま後頭部へと置かれ、残りは隣に座る女子生徒の手によって後ろの生徒へと回された。入学初日から迷惑な生徒も居たものである。

 

 

 

 さて────此処で、担任教師“茶柱佐枝”の言う、この学校での特殊なルールについて少し語ろう。

 それは、本校───“高度育成高等学校”に通う全ての生徒に敷地内にある寮での生活を義務付けると共に、在学中は一部の特例を除き、外部との連絡を一切禁止するというものである。当然ながら、敷地の外に出る事も外部との連絡同様固く禁じられており、入学者の私生活は三年間、学校という鳥籠の中で完結する事になる。

 と、言っても敷地内は約六十万平米という小さな街が形成出来る程度の面積と、学校施設であるにも関わらず、娯楽設備などが充実している事も相まって、そこに文句を出す生徒は殆ど存在しない。

 

 

 ─────そしてもう一つ。

 

「今から配る学生証カード。これで敷地内にある全ての施設を利用したり、売店などで商品を購入する事が出来るようになっている。クレジットカードのようなものだな。ただしポイントを消費する事になるので注意が必要だ。学校内においてこのポイントで買えないものはない。学校の施設内にあるものなら、何でも購入可能だ」

 

 

 つまるところ、この学校では学生証自体がサイフの代わりであり、学校側から支給される“ポイント”が、そのまま現金の代わりになるわけだ。

 

 

「施設では機械に学生証を通すか、提示する事で使用可能だ。使い方はシンプルだから迷う事はないだろう。それからポイントは毎月一日に自動的に振り込まれることになっている。お前達全員、平等に十万ポイントが既に支給されている筈だ。なお、一ポイントにつき一円の価値がある。それ以上の説明は不要だろう」

 

 担任の放ったその言葉に、一瞬、教室内がざわついた。

 

「ポイントの支給額が多い事に驚いたか? この学校は実力で生徒を測る。入学を果たしたお前達には、それだけの価値と可能性がある。その事に対する評価みたいなものだ。遠慮することなく使え。ただし、このポイントは卒業後には全て学校側が回収することになっている。現金化したりなんてことは出来ないから、ポイントを貯めても得は無いぞ。振り込まれた後、ポイントをどう使おうがお前達の自由だ、好きに使ってくれ。仮にポイントを使う必要がないと思った者は誰かに譲渡しても構わない。だが、無理矢理カツアゲをするような真似だけはするなよ? 学校はいじめ問題にだけは敏感だからな」

 

 波のような情報量と十万円という支給額の多さに戸惑いの広がる中、茶柱佐枝は最後に一言だけ残して教室を後にした。

 

「質問は無いようだな。では良い学生ライフを送ってくれたまえ」

 

 担任教師が消えた事で、再び教室内に喧騒が戻ってくる。ある者は降って湧いた大金をどう使おうかと頬を緩ませ、ある者は新たな友人作りにやっきになる。そして、あまりに都合の良い話に何らかの意図が有るのではないかと訝しむ者が数人。未だに机に顔を突っ伏す不良品が一個。

 

 そんな混沌に満ち溢れた教室で、手を挙げる生徒が一人。

 

「皆、少し話を聞いて貰っていいかな?」

 

 声を上げたのは、如何にもモテそうな、顔の整った優しげな生徒だった。

 

「僕らは今日から同じクラスで過ごす事になる。だから今から自発的に自己紹介を行って、一日も早く皆が友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間もあるし、どうかな?」

 

 その提案は教室内の大多数の生徒にとって渡りに舟であったらしく、一人の賛成を口火に次々と支持を集めていく。

 

「皆、ありがとう。僕の名前は平田洋介。中学では普通に洋介って呼ばれる事が多かったから、気軽に下の名前で呼んで欲しい。趣味はスポーツ全般だけど、特にサッカーが好きで、この学校でもサッカーをするつもりなんだ。よろしく(ニコッ」

 

 発案者であった好青年の、まるで見本のような自己紹介。サッカーというリア充鉄板の得意スポーツと、爽やかフェイスも相まって、教室内の生徒達───特に女子生徒からの支持を大きく集める事になる。早くもクラスカーストが定まりかけていた。

 

「じゃあ、もし良ければ、端から自己紹介を始めて貰いたいんだけど....いいかな?」

 

 その言葉に、端に座る女子生徒は一瞬躊躇いを見せつつも、ゆっくりと話し出す。

 以降、その流れが定着し始め、一人、また一人と自らの売り込みを終えていく。

 

 しかし、そんな流れもある生徒を堺に堰き止められる。

 

「俺らはガキかよ。自己紹介なんて必要ねぇ。やりたい奴だけでやれ」

 

 

 ──後のDクラスが三バカ代表、“須藤健”だ。

 

 

 彼の和を乱すような発言に、平田の顔が一瞬だけ悲痛に歪む。

 

「そう、だね....僕が君に何かを強制する事は出来ない。でも、クラスで仲良くしていこうとすることは悪い事じゃないと思うんだ。不快な思いをさせたなら謝りたい」

 

 如何にも不良といった風貌の赤髪に対して頭を下げるイケメン。その様子を見た数人の女子生徒から赤髪に対して野次が飛ぶが....。

 

 

「うっせぇ! こっちは別に、仲良しごっこする為に此処に入ったんじゃねぇんだよ!」

 

 そう吐き捨てた須藤が荒々しく教室を後にしたのを皮切りに、馴れ合いを好まない生徒が数人ほど立って教室を出て行く。

 

 そんな多少微妙な空気感を残しつつも、次の池という生徒のウケ狙いの自己紹介で先程までの流れが戻って来る。

 

 そのままクラスの雰囲気は順調に明るさを取り戻していき、自称御曹司のユニーク過ぎる自己紹介が挟まれ、順番は一人の女子生徒へと回って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、次の人────そこの君、お願い出来るかな?」

 

「........? ......ん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もはや進行役となっている平田少年。そんな彼に指名された女子生徒は、如何にも話を聞いてませんでした、という風に首を傾げる。

 

 彼女────床に付きそうなくらい長い茶髪と幼さの残る非常に整った容姿を持つ少女。その出で立ち故、登校から今までの間、一際教室内で目立っていた存在。

 

 そんな異彩を放つ少女の自己紹介にクラスの大半が息を飲む中。マイペースに一度周りを見回してから彼女はようやく事態を把握したのか、ゆっくりと立ち上がる。

 

 ────そして。

 

 

「....えっと、“綾小路清隆”....です。.........得意なことは特にありません........が、皆と仲良くなれるよう頑張ります........ので...........よろしくおねがいします」

 

 

 一瞬、シーンと静まる教室内。

 その優れた容姿に似合わない、反応に困る微妙な自己紹介に、周囲からは落胆や無関心、果ては安堵の感情が教室内を流れ始め──『ガタンッ!』──唐突にその雰囲気は断ち切られる事になる。

 

 その原因は一人の男子生徒であった。

 

 

 今までずっと眠っていたのだろうか。担任の話す学校説明の間もずっと机に顔を伏せていたままだった白髪の男子生徒が、突如頭に置かれた学内パンフレットを跳ね飛ばして勢い良く立ち上がったのだ。

 

 

「あ、起きたんだね。おはよう。えっと、丁度良いし、次は君にお願いしようかな」

 

「................。」

 

「....? えっと...自己紹介、いいかな?」

 

 

「ぇあ......? え?」

 

 その言葉にようやく眠気が飛んだのか、再起動を果たす白髪の美青年。先程の茶髪の少女同様、あまりに整ったその容姿に、女子を中心に期待の視線が飛び交い始める。

 

 ──────そして。

 

「あ、ああ、自己紹介....俺の番ね。うん、りょーかい。....えっと、名前は菊白 蓮夜(きくしろ れんや)

 

 

 

 

 

 

 

 ....将来の夢は“悪い魔法使い”だ。みんなよろしく」

 

 

 

 

 

 

 ─────しーん。

 一つ前の自己紹介に続き、非常に反応に困る一言に、またもクラスは静寂に包まれた。

 

 ....こうして、一年Dクラスの自己紹介は、一名のコミュ症少女と、何故か唐突に放心して余計な事まで口走った二人の戦犯によって微妙な形で終わったのだった。

 

 

 

 ────────ちゃんちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────で、終わるはずがないだろう。

 

 

 

 

 俺は自己紹介が終わると同時に、その後の入学式を完全に無視して、渡り廊下へと“茶髪の少女”を呼び出していた。

 

 

 

 ────どういう事だ?

 ──────一体何故、彼女がこの場に?

 

 

 なんて、この期に及んで巫山戯た事は一つも言わない。だが、意に反して喉は干上がり、代わりの言葉はすぐには出て来てくれなかった。

 

 

「あー、えっと....その、だな」

 

 

 数秒を向かい合って過ごす頃。俺が何か意味のある言葉を発する前に、目の前の少女が口を開いた。

 

 

「....ひさしぶり」

 

「──────── ─ッ!」

 

 

 

 “茶髪ちゃん”───否。....そうじゃないだろ。

 既の所まで出かかった“現実逃避”の愛称を、俺は腹へと押し込んだ。

 ....分かってはいたのだ、始めから。

 それこそ彼女と出会った日である十四年前からずっと。

 

 

 ─────俺は天才系オリ主だぞ。 

 ─────運が良くて、顔が良くて、おまけに頭まで良い。

 ─────そんな俺が、分からない筈が、ないだろうが。

 

 

 故に、先程の────まるで原作の“彼”と辻褄を合せるかのような“彼女”の杜撰な自己紹介に、俺の心は全くと言っていいほど揺らいではいなかった。

 

 ....いや、別の意味で揺らいではいた、のか。

 二年ぶりだったし....Aクラスだと思ってたからいきなり顔合わす準備もしてなかったし。

 おかげで原作スタートのタイミングで、ずっと顔伏せっぱなしだよ....。

 

 

 ....なんて。つまるところ────俺は、彼女が今日この日、此処に来る事を知っていたのだ。

 

 

 だから最初から────彼女が何者なのかを、俺は当然把握していた。

 ....だが、あの真っ白な部屋で過ごしていた頃の俺に、“この事実”を認める事など到底出来る筈がなかった。

 ホワイトルームという閉鎖空間に閉じ込められていた当時の俺にとって、“綾小路清隆”が生まれた時から女だなんて、そんな事があっていいはずがなかったのだから。

 

 ───あっていいはずがない....?

 

 ....ああそうだ。....そうだよ。あっていいはずがない。....この世界が原作通りに進まないなんて、あっていいことじゃなかった。

 

 ────だってそうだろ....?

 

 此処は『ようこそ実力至上主義の教室へ』という名を頂く創作の世界なんだ。

 ......だからこそ、俺は原作開始の一年前に起こる“ホワイトルームの稼働停止”という“確定した未来”を希望に、二年前までの十四年をなんとか生きて来たんだから。

 

 だから......もし、もし俺以外の....俺の知っている未来を根底から覆すような要素が一つでもあったとしたら....確約された未来が、不透明なナニカに変わってしまっていたとしたら......二度と外に出る事は叶わないのだと......俺は今世でも何も成す事が出来ないのだと......希望が虚像に過ぎないのだと自覚してしまったら........俺は一体、その後の人生、何を理由に生きて行けば良いと言うんだ....。

 

 ....特に......“原作主人公の性別が違う”などという、当初の物語そのものを否定するような事など............あってはならない.....。

 

 

 

 

 

 

 

 いや──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────“ならなかった”、が正しい。

 

 

 ....過去形だ。

 既に十五年後の不確定だった未来は、俺にとって二年前までの過去でしかなくなっていた。

 

 ────今の俺はあの頃とは全てが違う。

 空虚な籠から外へと飛び出し、“坂柳有栖”と強固な友人関係を築き、この世界で生きる為の基盤を整える事に成功している今の俺にとって、その未来は昔々の事でしかない。

 

 ─────つまり。

 

 

 

 俺は此処に来て、十四年も時間をかけて....ようやくつまらない意地を捨てる準備が出来たのだった。

 

 

「───── ─」

 

 

 呼吸を一つ────一歩、前へ。初めて自分から距離を詰める。

 

 求め続けた“彼”への執着を消し、俺は“彼女”へと目を向けた。

 

 

 

 

「ああ、久し振りだな─────清隆」

 

 

 

 

 ───名前を呼ぶ。“茶髪ちゃん”なんていう巫山戯た仮称ではなく“彼女の名”で。

 

 ....まったく....こんな事を十年以上も引っ張るだなんて、心の底から馬鹿馬鹿しく、自分の女々しさに苦笑が溢れる。

 しかし俺にとって“その名”を“彼女”と認識するのは、十四年間縋り続けた未来の破棄でもあったのだ。

 

 

 

 

 生まれて初めて口にする彼女の名前は───

 ─────今、プロローグへと置き換わった。

 

 

 

 

 

 

             ──────Fin

 

 

 

 

 













いや、finじゃないですが。
なんかオリ主が勝手に終わらそうとしましたが、普通にこの後も続きます。まだ物語開始どころか、入学初日ですしね。
具体的に言うと原作一巻の45ページまでです。

取り敢えずオリ主が清隆ちゃんと再開出来たので、硬めの雰囲気は今回までにして次回からはギャグパート多めの明るめの雰囲気に戻ります。....代わりに彼にはこれからいっぱい修羅場って貰いますが。


また、今回の話を読んだ上で、今作をもう一度最初から読み直してみるとまた違った印象を受けるかもですので、時間のある方は良ければ試してみていただければな、と(宣伝厨)

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